面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ローン・サバイバー」

2014年04月30日 | 映画
2005年6月。
アメリカ海軍特殊部隊ネイビー・シールズのメンバーによる「レッド・ウィング作戦」が決行された。
作戦の内容は、アフガニスタンの山岳地帯に潜入し、ウサマ・ビンラディンの側近でタリバンのリーダーのひとりであるアフマド・シャーを暗殺すること。
作戦に選ばれた4人のシールズ隊員、マーカス(マーク・ウォールバーグ)、マイケル(テイラー・キッチュ)、ダニー(エミール・ハーシュ)、マシュー(ベン・フォスター)は、夜陰に乗じてタリバン勢力が支配する地域の真っ只中へと送り込まれる。

基地を監視できる山の斜面に潜み、任務遂行の機会を待つ4人。
ところが、草むらに身を隠している彼らの前に、地元の山羊飼いがやってくる。
不意の遭遇に山羊飼いを勾留するが、民間人である彼らを殺せば、国際世論から非難を浴びて大問題となることは明らか。
しかし解放すればタリバンに通報される危険性は非常に高い。
電波状態が悪く、無線機器が使えずに本部の指示を得られない状況下で究極の決断を迫られた4人は激しい議論を戦わせた末に、彼らを解放する道を選ぶ。

その結果がもたらしたものは、最悪の予想の通り。
退却しようとする4人を、200人を超えるタリバン兵が襲撃する。
果敢に反撃する彼らだったが、多勢に無勢というにはあまりにも過酷な状況。
周囲を包囲されて激しい銃撃にさらされ、次々と被弾する。
そして険しい断崖へと追い詰められたメンバーは、身を躍らせて岩盤の上を転がり落ちていく。
銃弾以外にも全身に大きな傷を負いながら、我が身よりも仲間を守るために敵を迎撃し、決死の退却を続ける4人だが、一人、また一人と力尽きていく。
遂にマーカス・ラトレル一人だけが、辛うじて生きていた…


ネイビー・シールズ創設以来最大の悲劇と呼ばれる「レッド・ウィング作戦」。
タリバンのリーダーを撃つために遂行されたその作戦は、11人のシールズ隊員と8人の兵士が戦死する惨劇となった。
4人の作戦メンバーで唯一の生存者となったマーカス・ラトレル。
たった4人で200人を超える敵と対峙するという絶望的な状況をくぐり抜け、彼はどうやって生還することができたのか。
過酷な戦場を瀕死の傷を負いながらもなお、仲間を守るために戦い続ける4人にカメラは密着し、ドキュメンタリーを見ているかのような迫力と緊張感で、奇跡の実話が描かれる。

アメリカ海軍特殊部隊のネイビー・シールズは、アメリカの特殊部隊の中でも古い歴史を持ち、その名前は海(SEA)の「SE」、空(AIR)の「A」、陸(LAND)の「L」に由来する。
その名の通り、陸海空の極秘任務をこなす万能部隊として知られていて、隊員になれるのは2年半にも及ぶ過酷な訓練を耐え抜いたエリートのみ。
激しい筋力トレーニングのみならず、砂にまみれ、泥に埋もれながら平地を駆けずり回り、手足を縛られたまま海中に投げ込まれる。
映画の冒頭、カメラは凄まじいトレーニングの様子と、あまりの過酷さにヘルメットを置き、脱落の鐘を鳴らして去っていく者を映し出す。
そんな苛烈な訓練を終えた者のみが選ばれる「SEALS」は、世界最強の精鋭部隊である。

シールズのメンバーとはいえ、たった4人で200人を超える敵に囲まれるという状況は、死を意味するとしか言いようがない。
正真正銘絶体絶命の状況にありながらも、生き残るべく戦う彼ら。
しかしその戦いは、ただ自分の身を守るためだけのものではない。
仲間を守るために敵兵を狙撃し、身を呈して戦うのである。
チームの誰かが生き残ることができるなら、己の身に代えてでもメンバーを守るという強い思いが、スクリーンから鮮烈に伝わって胸を打つ。
単純に「友情」などという言葉で言い尽くせるものではない絆が、そこにはあった。


実話が元になっているのだが、まるで“その時”に傍で見ているかのような映像に、呼吸を忘れるほどのめり込んでしまう。
200人を超える敵に囲まれた彼らの身を守るものは、限られた武器と卓越した戦闘能力と、鍛え上げられた肉体。
圧巻は、そんな彼らが断崖に追い込まれたとき。
崖の上から身を躍らせて、むき出しの岩盤目がけて飛び降りるのだ!
激しく岩に身体を打ちつけ、肌は裂け、骨が折れる。
それでも立ち上がり、応戦しながら走る彼ら。
強靭な肉体と精神力と研ぎ澄まされた生存本能によって、ただひたすらサバイバルに向けて疾走する姿は、息苦しさを覚えるほど。
戦争をテーマにした数々の作品の中でも、この臨場感と緊迫感は群を抜く。


凄まじい緊張が息つく間もなく続いた後で訪れる感動に、溢れる涙を止めることができない。
これこそが戦争、これこそが戦場。
戦争とは、「ジジイがはじめ、オッサンが命令し、若者が死んでいく」もの。
キナ臭さが漂う昨今、「戦争やむなし」と漠然と考えている若者にこそ観てほしい作品。

そしてなぜ、マーカスは生き残ることができたのか?
明かされる奇跡の真実、あれこそが正義だ。


「戦争映画」というジャンルを超越する、サバイバル・ムービーの感動作!


ローン・サバイバー
2013年/アメリカ  監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ、ベン・フォスター、エリック・バナ