面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「月夜釜合戦」

2018年01月05日 | 映画
大阪の釜ヶ崎を舞台に、ヤクザと日雇いと立ちんぼとグータラが織り成す浪花人情喜劇。

飛田遊郭を仕切る暴力団・釜足組が継承杯に使う、組の宝でもある代紋入りの釜が、二代目となるべき組長の息子タマオの帰還を祝う宴席に呼ばれた流浪の芸人・逸見に盗まれる。
これは一大事と、組員総出で釜を探しながらも、手当たり次第に釜を買い漁ったために釜が高騰。日雇いよりも稼ぎがイイとばかりに、釜ヶ崎の連中も釜を集める。
私娼連中が棲む娼館に用心棒として“飼われている”コソ泥・大洞も釜を盗み集めるが、一攫千金とばかりに、三角公園にある炊き出し用の大釜を狙う。
折しも三角公園は、街の浄化を謳い文句に金儲けを企む開発業者と結託した釜足組に乗っ取られる。労働者達を支援する活動家のゴンスケは、あろうことか大洞を革命家として担ぎ出し、労働者達の結束を図って、三角公園を取り戻そうと画策するが…


労働者の街として、猥雑な空気感が漂う釜ヶ崎周辺も、再開発の波に飲まれようとしている。新世界から「ジャンジャン横丁」にかけては、昔に比べれば格段にキレイになったし、確かリゾートホテルで有名な企業も進出が予定されていたはす。
そんな事象だけを見れば、政府発表のように景気が回復しているかに思えるが、あいりん地区の雇用状況がグングン良くなっている、という話は聞いた覚えがない。日本最大級と呼ばれるドヤ街に、バブル期とまでは言わないが、活気が溢れているとは到底思えない。
路上生活を余儀なくされているオッサン達(中にはオバハンも)の数は、増えこそすれ減っているとはとても考えられない。周辺をしょっちゅうウロウロしているワケではないが、時々仕事でこの辺りを車で通る身としてはそう思う。

にも関わらず、街の浄化と称した行政中心の再開発が進められ、路上生活者達の行き場が狭められているようだ。そんな釜ヶ崎の現状を追い続けてきた佐藤監督が、声高に政治批判を叫ぶことなく、人情喜劇の体裁をとって「反体制」を笑いに包んで世に問いかける異色作。
「月夜に釜を抜かれた」警察が、労働者とヤクザの両方から返り討ちに遭う場面には、1990年の暴動を思い出してニヤリ。

16mmフィルムでの撮影が、物語の猥雑な雰囲気を画面に醸し出していて、改めてデジタル画像の味気無さを思うところもあり。
釜ヶ崎の「釜」を起点とし、落語「釜泥」に着想を得て、「幕末太陽伝」よろしく物語を練り上げたドヤ街ムービー。


月夜釜合戦
2017年/日本  監督・脚本:佐藤零郎
出演:太田直里、川瀬陽太、門戸紡、渋川清彦、カズ、西山真来、デカルコ・マリィ、緒方晋、赤田周平、下田義弘、大宮義治、北野勇作、海道力也、角田あつし、大宮将司、日野慎也、柴哲平、得能洋平、福井大騎、足立正生


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