アイオワの片隅で、バーのウウェイトレスとして働いていたアリ(クリスティーナ・アギレラ)は、いつか輝く大都会で煌びやかなステージに立ちたい!という夢を胸に秘めていた。
ある日、バーの主人とのふとしたいざこざから遂に決心したアリは、片道切符を握り締めてロサンゼルスへと旅立った。
バーやショークラブでの仕事を探したアリは、サンセット大通りにある「バーレスク・ラウンジ」にたどり着く。
妖しく輝くネオンに誘われるように店内へ入っていったアリは、そこで繰り広げられるただのバーともストリップ・クラブとも違った大人のためのステージ・パフォーマンスに惹きこまれる。
中でも、ラウンジの支配人であり伝説のスターであるテス(シェール)が歌う「Welcome to Burlesque」に魅入られたアリは、勝手に客の注文を取って立ち回るという実力行使に出て、ウェイトレスとして強引に店に入り込んだ。
アリは、舞台に立つチャンスを狙って常にテスに売り込みをかけ、テス以外は全員口パクのパフォーマンスを改めて実際に歌うショーを必死で提案する。
田舎から出てきた“小娘”とアリを見下していたテスだったが、故郷を離れて大都会に乗り込んできた孤独に耐えながらガッツを見せる彼女に、かつての自分を見る思いがし、目をかけるようになっていった。
そんなある日、アリは妊娠したダンサーの代わりに、バックダンサーとして舞台に立つことに!
ようやくステージに立つ夢がかなったアリは、片時もダンスのことを忘れず、懸命の努力を重ねた。
そしてついに、チャンスはやって来る。
看板スターでありながらも、あまりに遅刻が多く、アルコール漬けのニッキ(クリスティン・ベル)の代役として、他のダンサーたちと共にアリは舞台に上がる。
ところがニッキは、腹いせにアンプからコードを引き抜き、音をとめてしまう。
あわやショーは中止…!というピンチにアリは、アカペラで迫力ある歌声をクラブ中に響かせた!
大喝采を浴びるアリの歌唱力に驚いたテスは、さっそくアリ中心のステージ・プランを練り直した。
アリを中心にすえた初舞台は大成功!
一気に「バーレスク・ラウンジ」の新しいスターとなったアリに、敏腕デベロッパーのマーカス(エリック・デイン)が近づいた。
メジャー・デビューも視野に入れてアリを支援するマーカスだったが、この事態に皆は困惑する。
「バーレスク・ラウンジ」の実情は破産寸前で、銀行から期日までの借金返済を求められており、マーカスはこの機会に店を買い取ろうとしていたのである。
尊敬するテスが「バーレスク・ラウンジ」を手放さざるを得なくなる期日が刻々と迫る中、スターダムへと登り始めたアリがとった行動は…
【バーレスク】
17、8世紀、英国を中心に流行した風刺的喜歌劇。
19世紀以後は、大衆向きのこっけい寸劇・物真似(ものまね)芸などとなり、多くはショーの間に挿入して上演される。
米国では、寸劇などをまじえたストリップショーをいう。
(『デジタル大辞泉』より)
「バーレスク」という言葉に何となくいかがわしさを感じるのはストリップを連想させるからだが、それは本来の意味では無かったことを知った。
20世紀はじめのアメリカでバーレスクがストリップショーと関連付けられるようになったそうだが、そもそもは歌あり・踊りあり・物語あり・パロディーありのコメディーショーで、きわどさの中に笑いのある大衆文化であり、大衆のための娯楽だったのである。
「バーレスク・ラウンジ」は、その“本来のバーレスク”を見事に再現し、大掛かりでフレンドリーでセクシーで楽しいお祭り騒ぎが毎夜繰り広げられ、店に集う人々をを別世界へといざなう。
「バーレスク・ラウンジ」にそこはかとなく漂う退廃的な空気感に見事にマッチした、大胆かつセクシーなコスチュームを身にまとったダンサー達の、妖しくもキレのあるダンスは見応え十分。
ことにその中でも、主役であるクリスティーナ・アギレラとシェールの二人は群を抜いている。
まず、“伝説のスター”であり「バーレスク・ラウンジ」の支配人であるテスを演じるシェールは絶品!
迫力ある歌声が腹の底へと響き、脳幹に強烈な刺激を与え、心の琴線をかき鳴らす。
カッコいいにも程があるほど、とにもかくにもカッコいい!
1965年のショウビズ界デビュー以来、アカデミー賞、グラミー賞、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞、カンヌ国際映画祭女優賞などなど、各界における最高峰の賞を総ナメにし、今なおトップに君臨している彼女は“伝説のスター”テスそのものであり、正にハマリ役である。
一方のクリスティーナ・アギレラも素晴らしい!
ある種“ドスの効いた”テスに対して、セクシーな中にも瑞々しさが光るアリのステージは、若いエネルギーが凄まじい勢いでほとばしる。
貫禄のパフォーマンスでアギレラは、堂々とシェールと渡りあう。
さすが、ローリング・ストーン誌による音楽史上トップ100人のアーティストに、30歳以下で選ばれた唯一のアーティストだけのことはある。
全世界で三千万枚を超えるアルバム・セールスは、やはり伊達ではない。
自らチャンスをつかむための行動を起こし、ワンチャンスを全力で勝ち取り、成功へと駆け上っていくアリの姿。
金策に奔走して疲れ果てながらも、「絶対に諦めない!絶対に這い上がってみせる!」という覚悟を胸にテスが歌う「You haven't Seen the Last of Me」。
心がちょっとくじけそうな時、少し自信を失いかけている時、彼女達の姿は必ずや心に響くはず。
そして涙を誘われたなら我慢せずに大いに泣き、心の底に溜まった澱をキレイさっぱり流し出して、新たなエネルギーを充填すればいい。
イマドキな言い方をすれば、主演の二人から「勇気と元気をもらえる」映画だ。
アギレラとシェール、新旧二人のディーヴァによる素晴らしい競演を、大きなスクリーンの劇場でじっくり堪能するのが正しい鑑賞法。
なお、観終わったときに気づいたが、登場人物が皆善人なのもイイ。
“あと口が爽やか”な、鑑賞後には心が温まって前向きになれる逸品!
「
バーレスク」
2010年/アメリカ 監督:スティーブ・アンティン
出演:クリスティーナ・アギレラ、シェール、クリスティン・ベル、カム・ジガンデー、スタンリー・トゥッチ