面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」

2013年01月26日 | 映画
大島でペンションを営む松生春二(阿部寛)。
最愛の妻である艶が病に侵され、昏睡状態に陥っていた。
艶の自由奔放な不貞に悩まされ続けてきた春二は、死ぬ間際となった妻に対して包丁を振り上げるが、やはり振り下ろすことはできない。
艶を失うことに耐えられない彼がとった行動は、かつて艶と関係を持った男達に彼女の危篤を伝えることだった。

艶にとって“いわく付き”の従兄弟である作家の石田行彦(羽場裕一)、艶の愛人だったかもしれない男、艶の最初の夫(岸谷五朗)。
“艶と関係のあった男”のうち、愛人だったかもしれない男は自殺していたが、その他の男たちは同じ大島に住む艶がストーカーをしていた男である優(永山絢斗)も含めて誰も見舞いに来ない。
しかし連絡を受けたそれぞれの男の妻や恋人たちは、いきなり現れた艶という女性の存在にとまどい、動きだす。
行彦の妻・環希(小泉今日子)、艶の愛人だったかもしれない男の妻・橋川サキ子(風吹ジュン)、そして艶の最初の夫の愛人・橋本湊(野波麻帆)は動揺する。
艶がストーカーをしていた男の恋人・百々子(真木よう子)は、一途に艶を愛し続けて後を追う春二の姿に、艶を羨ましく思いながら、自分の相手に対する愛情が揺らぎだす。
艶のために父親に捨てられた娘・山田麻千子(忽那汐里)と、春二の前妻であり麻千子の母親である山田早千子(大竹しのぶ)は、春二が住む大島へとやってくる。
春二の行動に反応して動き出すのは、艶と関係を持った男達ではなく、その男達の関係者である女性たち。
それぞれが、自身の抱く愛について見つめ直していく。


奔放に生きた艶は、自分に関係した男とその周囲の人間を、嵐のように振り回していく。
中でも、最も振り回されたのは春二だったが、彼だけが最後まで彼女から離れることはなかった。
ストーカーとなって男の後を追う艶を見守りながら追いかける姿に、真っ直ぐに艶に向けられた一途な思いの激しさが伝わってくる。
大きく波打った褶曲の崖の前を、鬼気迫る表情で自転車で疾走する春二の姿が印象的。
あの地層を風景にした時点で、本作の八割は完成したのではなかろうか。

艶という奔放な愛の中で生きた女性が、昏睡状態に陥ってなお、愛の渦に周囲の人間を巻き込んでいく。
しかし、本当に愛に振り回されるのは男ばかりで、女性の愛はどっしりと大地に根を張った大木のように強い。
大学生の娘も、そんな強い愛情に目覚めていく。
「愛」というものに対して強さを発揮する女性と対等にわたりあえる男はそうそういない。
唯一人春二のみが強靭な愛を持つ存在であり、ギラギラ光る眼がその強さを湛えている。


激しい愛情が様々に交錯する、愛の嵐を描いた大人のラブ・ストーリー。


つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語
2012年/日本  監督:行定勲
出演:阿部寛、小泉今日子、野波麻帆、風吹ジュン、真木よう子、忽那汐里、大竹しのぶ、羽場裕一、荻野目慶子、岸谷五朗、渡辺いっけい、永山絢斗、奥田瑛二、田畑智子

驚きのトレードではあるものの。

2013年01月24日 | 野球
日本ハムナイン動揺 糸井トレードに武田勝絶句(スポニチ) - goo ニュース


このトレードは本当に驚いた。
しかし、よく考えると、日本ハムのチーム作りに対する真摯な姿勢が見て取れるのではないだろうか。

契約交渉の過程から糸井に対する球団の不信感はあっただろうが(昔から糸井は“宇宙人的発言”で何を考えてるか分からないようなインタビューもあったが)、ポスティングの希望まで出た時点でファイターズは彼に見切りを付けたことだろう。
以前からファイターズはオリックスの大引には目を付けていたらしいし、オリックスの幹部候補生とまで言われた人材でもあり、ベテラン金子の後釜としてうってつけの存在と言えよう。
また木佐貫は右の先発投手としてローテーションを守れる存在であり、吉川、武田と左の先発投手は充実しているファイターズにとって、左の八木を出しての獲得は理にかなっている。
赤田はぶっちゃけた話、糸井が抜けた後の外野手のストックとしては有用な選手である。
それよりも糸井を放出することで、その後釜に大谷を外野手としてしっかり育てていこうという育成目標が定められることができたのではないだろうか。

一方のオリックスも、このオフの補強作戦の集大成になったのではないだろうか。
タイガースから平野を“カムバック”させ、ホークスから馬原を獲得してと矢継ぎ早に“準大物”クラスを獲得し、最後に主軸を打てる糸井と左腕の先発投手・八木を入団させて完了。
Bクラス脱出に向けては、なかなか充実した補強ができている。

ただ、中長期的な補強ができたと言えるファイターズに比べて、オリックスはいかにも「とにかく最下位から脱出!」を目指した短期的な補強の感が否めない。
糸井はポスティング希望で今季のオフにモメるのは必至であるし、馬原は故障からどの程度回復できるか未知数。
獲得した選手たちの年齢も、八木が29歳でかろうじて20代である以外は皆30代。

“カラー”が見事に出ている両チームの補強。
どちらも自チームにとってはベストな補強ができたことは確かか。

「地球、最後の男」

2013年01月23日 | 映画
宇宙ステーションに派遣されたリー・ミラー(ガンナー・ライト)は、地球との交信がパッタリと途絶えてからというもの、たった一人で宇宙船の中に残されたまま、地球の周りを回り続けている。
6年以上の時が経ち、生命維持システムが消耗していく中、ただ生きているだけという極限状態を強いられている彼は、正気を保つための“孤独な戦い”続けてきた。
ある日突然、巨大な宇宙ステーションが現れる。
接触を試みたリーが、ステーションの中へと入ってみると……


地上からの通信が途絶えてしまい、宇宙ステーションにたった一人残されることになった宇宙飛行士。
どうやら地球で何かが起こり、人類は滅んでしまったようだ。
宇宙空間にいたことから、人類で唯一、難を逃れることができたリー。
しかし、「生き残った」ということが逆に不幸にさえ思えてしまうシチュエーション。


最新鋭の映像技術を駆使した映像美と音楽とで、哲学的な問題にアプローチする空想科学叙事詩。
2011年に制作された「2001年宇宙の旅」。


「地球、最後の男」
2011年/アメリカ  監督:ウィリアム・ユーバンク
出演:ガンナー・ライト

「ムカデ人間2」

2013年01月21日 | 映画
地下駐車場の警備員として働く、背が低く、醜く太った中年男マーティン(ローレンス・R・ハーヴェイ)。
勤務中の警備室で、「ムカデ人間」のDVDをパソコンで観ては、異様に興奮して妄想にふける毎日を送っている。
彼は、「ムカデ人間」を何度も何度も繰り返し観ているだけでは飽き足らず、映画の場面写真やメディアの記事を切り抜いてファイルにしたスクラップ・ブックを作っていて、暇さえあればそれをながめて悦に入っていた。
そんな毎日を送るうちにマーティンは、心に湧き上がってくる邪悪な欲望を我慢することができなくなってくる。
その欲望とは、自分自身の手で人間を繋ぎ、「ムカデ人間」を作ること。
そして異常な欲望は暴発し、12人を数珠つなぎにした、映画をしのぐ「ムカデ人間」を作りあげていく…


2012年に自分が観た作品のランキングにおいて、外国映画・日本映画を合わせた中で最下位の作品。
前作の「ムカデ人間」も、その内容があまりにショッキングなために世界各国で上映禁止になっていたが、本作は更にそれを凌ぐ“R指定ぶり”を誇る。

特に、「ムカデ人間」を作っていくクライマックスシーンは凄惨を極める。
主人公のマーティンは、一介の駐車場警備員に過ぎず、医学的な知識やスキルは無い。
にもかかわらず、彼は人間の肛門と口とを繋いで消化器官を一体化させた「ムカデ人間」を作ろうとする。
映画「ムカデ人間」においては、曲がりなりにも医学的知識と技術を持つマッド・サイエンティストが外科的に施術して人間を繋いだ。
医学的なバックボーンが何もないマーティンが、「ムカデ人間」を作るならばどうするのか?
手っ取り早く人間を繋ぐために彼が選んだ手段は、デカいホッチキスで留めてしまうことだったのだ。
書いてるだけでも痛みを感じて耐えられないシーンが、スクリーンに展開するのだから、まともに目を開けていられない。

また、人間を繋ぎ終えたマーティンは、消化器官が一本化されたことを実見するために、被害者達に下剤を注射していく。
その結果は、想像通りのおぞましいもので、書くに堪えないため省略するが、血まみれ汚物まみれの画面は正視に堪えない。
モノクロ画面で色彩が無いため、まだ耐えることができるのだが、これがカラーだったらとても見ていられない。


また主人公のマーティンの設定が凄まじい。
幼児期に父親から性的な虐待を受け、精神的な発達障害と喘息の持病を抱えているという点は同情に値するものの、背は低くでっぷりと肥え太った体型に、禿げあがった額とメガネの奥で異様な光を湛えた瞳をギョロギョロさせる不気味な顔つきで、差別的だとの誹りを受けたとしても、醜悪としか言いようのない“見た目”。
一目見ただけでトラウマになりそうなほど醜く、その存在感は、ただ単に作品の主役という位置付けに収まりきらない異彩を放っている。
こんな凄まじいキャラクターを演じるローレンス・R・ハーヴェイは、これが長編映画初出演とのことであるが、イギリスでは子供達に大人気だというから驚いた。
よくこんな役を引き受けたものだと思うが、しかし本作の成功は、ひとえにキャラクターにハマり過ぎるくらいハマっている彼の存在感無くしてありえない。
レナード・ニモイのミスター・スポック以上のハマり役だ。


己の欲求のままに人間を繋ぐマーティン。
観る側に確固たる正義感が必要で、マーティン同様に異常な嗜好を持つ人間が観たら危険だ。
観る人間が観たら、正にマーティンと同じ思考回路が働きだすのではないかと心配になる。
冷静に考えれば起こり得ない設定であり、「ムカデ人間2」と同じ状況を作り出すのは不可能だと安心できるのだが、「R18」だけではない指定が必要ではなかろうか!?

などと暗澹たる気持ちになっていると、同じ列の一番端の席にいた、一人で観に来ている様子の女性がクスクス笑う声に「はっ」と我に返った。
そう!この映画はスクリーンに繰り広げられる陰惨な情景を「んなアホな!」とツッコンで笑い飛ばすのが正しい鑑賞法だ。
目くじら立てて何をやってるのだろう?とハタと気づき、己の“青さ”に恥じ入った。
まだまだ映画鑑賞の修行が足りない!


あまりのモラル・ハザードぶりに己のモラルの正しさを再確認できる、悪夢のような画面が展開する超絶グロテスク・ナンセンス映画。
“ゲテモノ趣味”が大丈夫な方にしかお勧めできない怪作。


ムカデ人間2
2011年/オランダ=イギリス  監督:トム・シックス
出演:アシュリン・イェニー、ローレンス・R・ハーヴェイ、マディ・ブラック、ドミニク・ボレリ

「デッド寿司」

2013年01月20日 | 映画
伝説の寿司職人である父親(ジジ・ぶぅ)のもとで、後継者となるべく厳しい修行に励んでいたケイコ(武田梨奈)。
しかし父親から寿司職人としての致命的な弱点を指摘され、あまりのショックに家を飛び出してしまう。
放浪の末にたどりついた田舎の温泉旅館で、住み込みで仲居として働きはじめたが、他の仲居たちからいじめられ、女将(亜紗美)には叱られてばかり。
唯一、優しく気遣ってくれる雑用係の澤田(松崎しげる)だけが心の拠り所だった。

ある日、小松製薬の一行が、美味しいと評判をとっている旅館の寿司を味わいに、社員旅行でやって来る。
高飛車な態度の小松社長(手塚とおる)を相手に、所詮味など分からないと寿司職人の土田(津田寛治)は侮りつつ、名物の寿司を宴席で握ってみせる。
握り立ての寿司を「美味い」と満足の表情を浮かべる小松社長。
手を抜いた土田の“仕事”、またそんな寿司を美味いと食べてグルメを気取る小松社長の様子に我慢ならなくなったケイコは、二人の“茶番”をズバリと指摘!
激怒した土田と小松製薬の社員達に襲いかかられるが、厳しい寿司の修行で身に付けたカンフーを武器に受けて立つ。

大乱闘の場となった宴会場をよそに、小松製薬に恨みを持つ不気味な風貌の山田(島津健太郎)という男が現れる。
彼は元小松製薬社員で、死んだ細胞を生き返らせるという画期的な薬品を開発するが、生き返った生物が凶暴化するという副作用があり、これを闇に葬ろうとした会社から解雇されたうえに犯罪者にされ、刑務所にぶち込まれていたのである。
山田は、この恐怖の薬品を宴席の寿司に注入。
すると、トロ、エビ、イクラ、あぶりサーモンと次々に寿司が凶暴化し、人間を襲いはじめたのである!
人々は血まみれになって逃げ惑い、阿鼻叫喚の世界が繰り広げられる中、ケイコは襲い来る寿司に果敢に立ち向かう……!


片腕をマシンガンに改造した少女が、殺された弟の復讐に立ち上がる「片腕マシンガール」、暗殺ロボットに改造された姉妹が、悪の陰謀に立ち向かう「ロボゲイシャ」など、戦う美少女と独創的なキャラクターが特徴の井口監督最新作。
海外にも多くの熱狂的ファンを持つ井口監督ならではの、日本文化をモチーフにした…否、パロディにした物語が展開されるが、今回題材に選ばれたのは、日本を代表する食文化である寿司。
その寿司が、あろうことか大挙して人間に襲いかかるという、オソロしくもオモシロい、パニック・ムービー。

ある日突然、“まさか”と思うものが人々を襲うという映画として思い出すのは、「アタック・オブ・ザ・キラートマト」(1978年アメリカ)。
理由も前触れもなく、いきなりトマトが人々を襲っているという状況から始まり、ワケのわからない恐怖と唖然とするばかりのバカバカしさが素晴らしい映画だった。
この「デッド寿司」は、襲いかかる寿司の中で唯一人間の味方になる「玉子ちゃん」の存在が「グレムリン」的な味わいを醸し出し、物語にふくらみを持たせていて、ただバカバカしい“まさか”だけではないところが、監督自ら手掛けた脚本の妙味。

とはいえ、「デッド寿司」はこれまでの井口作品を上回る、お色気とくだらなさ全開のギャグもまた大きな特徴。
寿司に襲われて息も絶え絶えになっている小松社長の秘書の前に出た男が、
「もうすぐ彼女は死んでしまう。それなら、彼女がまだ生きているうちに、胸を揉んでやろう」
などと心の中で呟く。
怪物に追われた男が大浴場に逃げ込み、湯の中で隠れていると、それを知らずに入ってきた女性客が、
「あ~、誰もいなくてサイコー♪」
などとご機嫌で体を洗っているところに怪物がやってきて、哀れ女性客は美乳を曝したまま首を飛ばされてしまう。
ここまでくだらないギャグが散りばめられたお色気が炸裂すれば天晴であり、どこか清々しささえ漂う♪


しかし、ただくだらないギャグ連発だけの映画ではない。
え!?まだ特徴があるのか?などと言うべからず。
黒帯の腕前を持つ空手を生かしてオーディションを勝ち抜き、「ハイキックガール!」で見事に映画初主演を果たした武田梨奈のカンフー・アクションは見事!
前後から男に挟み撃ちにされたケイコが、前の男の股間を蹴り上げ、返す足のかかとで後ろの男の股間を蹴り上げるアクションなどは秀逸!
息の根を止めた寿司をつないで作った「寿司ヌンチャク」を駆使した戦闘シーンや、怪物相手に魅せる切れ味鋭いアクロバティックなスタントなど、若き日の志保美悦子もかくやの、キレのある吹き替えなしのアクションは見応え十分♪

また、色気とハチャメチャギャグだけでなく、おなじみ西村喜廣監修による豪快に血しぶきが飛ぶスプラッター・シーンは本作も健在。
グラインドハウス映画の基本をしっかり押さえ、娯楽に徹したB級テイストは、正に井口作品の真骨頂である。


笑いあり、お色気あり、アクションあり、スプラッターあり、そして怪獣までもが登場してきて、もう何が何だか何でもかんでもアリでお腹いっぱいが楽し過ぎる、エンタメテンコ盛り傑作パーティ・ムービー!


デッド寿司
2012年/日本  監督:井口昇
出演:武田梨奈、松崎しげる、須賀貴匡、仁科貴、亜紗美、村田唯、ジジ・ぶぅ、島津健太郎、手塚とおる、津田寛治

「テッド」

2013年01月18日 | 映画
1985年・ボストン郊外。
いじめられっこにも相手にされない独りぼっちの少年ジョンは、クリスマスに両親からプレゼントしてもらったテディベアに「テッド」と名前を付けて、何でも話せる“友達”として大切にしていた。
テッドの胸を押すと、
「I love you!」
としゃべるものの、会話ができるわけではなく、寂しいジョンは星に願いをかける。
「テッドが本当にしゃべってくれたらいいのに…」
翌朝ジョンが目覚めると、奇跡が起こった。
テッドがジョンに向かって話しかけてきたのだ!
「ボクをハグして♪」
大喜びのジョンはテッドをハグしておおはしゃぎ♪
喜び勇んで両親に紹介するとビックリ仰天して大騒ぎ!
ジョンはテッドの尋ねた。
「本当の友達になってくれるの?」
「ずっと君のベストフレンドだよ、ジョン。」
こうして本当の友情が生まれたジョンとテッドは、片時も離れずに仲良く一緒に暮らすこととなった。

奇跡から27年。
35歳になったジョン(マーク・ウォールバーグ)は、レンタカー・ショップの店員として働きながら、相変わらずテッド(声:セス・マクファーレン監督)と仲良く暮らしている。
子供のころから一緒に熱中してきた「フラッシュ・ゴードン」のDVDを観て大はしゃぎする瞬間は、いつまでも飽きない至福の時。
そんな冴えない中年オヤジとなっているジョンだが、仕事のできるナイスバディで美人のカノジョがいた。
4年越しの交際となる恋人のロリー(ミラ・クニス)は適齢期。
しびれを切らしたようにジョンに結婚を迫った。
大喜びのジョンは即座にOKだが、ロリーから結婚に向けて条件を出される。
「テッドに出て行ってもらって。」
酒は飲むわ、マリファナを吸うわ、コールガールを家に呼ぶわ、勤務中でもジョンを遊びに誘うわと、いつまでも子供の頃そのままのノリでやりたい放題のテッドと一緒にいる限り、ジョンはダメになるとロリーは考えているのだ(当たり前だ!)。
板ばさみになったジョンも、こんな素晴らしい彼女がいることの奇跡は認識しており、悩んだ末にテッドと話し合い、二人は別々に暮らすことにする。

テッドはスーパーの店員に就職して独立した。
カノジョまで作ってヨロシクやってるのだが、相変わらずジョンを誘うことは止まらない。
ジョンも、ついつい誘いに乗っては仕事をサボってテッドのもとへ駆けつける始末。
そしてある日、ロリーとデートの最中にも関わらず、テッドから“モウレツに魅力的なパーティー”の誘いを受けると、誘惑を抑えきれずに駆けつけてしまう。
時を忘れて乱痴気パーティーに興じた挙句、とうとうデートをすっぽかしてしまったジョンに、ロリーの堪忍袋の緒はついに断裂!
ショックのあまりにジョンは、テッドとも大乱闘の大喧嘩を繰り広げて関係断絶!
3人の行く末やいかに………!?


命が宿ったテディベアと、彼を親友として育ってきた大人になりきれない中年男が繰り広げる、ファンタジック・コメディ。

しゃべるテディベアとして一世を風靡したテッドは、やがて人々に飽きられて“表舞台”から姿を消すというシチュエーションは、子役として大当たりしたものの、その後は家庭崩壊に巻き込まれ、ドラッグに溺れてしまった元俳優のよう(誰とは言わないが)。
それでもテッドのことを覚えている人々からはサインを頼まれたり、握手を求められたりと声をかけられる様が、妙に生々しくて愉快♪
下ネタ連発で下品な会話で盛り上がるテッドとジョンの姿は、男なら誰でも、共感はともかく「そういうことはあるものだ」と理解できるだろう。
昔からの親友と一緒にいると、昔と変わらず実にくっだらない馬鹿話に興じてしまうというのは、洋の東西を問わず。
万国共通のことであるのだと再認識した。
得てして外国製のコメディは、本国ではバカ受けして劇場が爆笑の渦に包まれ、大評判を引っ提げて日本に上陸しても、さほど日本人にはウケなかったりするが、「テッド」には当てはまらない。

そもそも、モコモコで見た目のかわいいテディベアのぬいぐるみが、マリファナをキメながら下ネタ連発のエロオヤジ化している様を見るだけで笑えてしまう♪
そしてテッドとジョンの二人を追うストーリーは、普遍的な男の馬鹿さ加減を笑いにしているので、我々の心の中にもすんなり入ってきて素直に爆笑できるのである。


また、どうしようもなくだらしない二人を見守る才色兼備のロリーは、物語のスパイスとして絶妙の存在感を示す。
ジョンが大人になりきれずにいるのは、確かにテッドとの悪ふざけを続けているからではあるが、それはテッドとジョンを引き離すだけで解決する問題ではない。
ジョン自身が社会の現実と向き合い、自分自身と真正面から向き合って、己を理解して受け止めない限り脱皮できないのである。
一心同体だったテッドと無理やり距離を置こうとして、かえってアイデンティティを見失いそうになるだけだ。
ロリーが、そんな二人の関係性を理解できたことで新たな未来が開けていくクライマックスがgood!

カノジョが、カレシの中にいる「子供」を許せるようになり、カレシ自身も自分の中にいる「子供」を認識して制御できるようになったとき、そのカップルは盤石の絆に結ばれるのである(はず)。
テッドがしゃべり出したことと、ロリーという完ぺきな彼女ができたこと。

ジョンは二つの奇跡を獲得してきたが、そこに人生のパートナーとなるロリーが3つめの奇跡を生み出すラストシーンは味わい深い。
大笑いさせてホロリと泣かせて、最後にはシヤワセなキモチになって心が温まる“米国製松竹新喜劇”。
美女相手にハードに腰を振り、マリファナにむせてエロネタをしゃべりまくるテディベアは確かに「R15指定」やむなしだが、キチンと理解すれば大人への階段をキチンと登るためのヒントになる、青少年にもお勧めのファンタジー・コメディの快作!


テッド
2012年/アメリカ  監督:セス・マクファーレン
出演:マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス、セス・マクファーレン

「壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び」

2013年01月17日 | 映画
パレスチナの民衆抵抗運動の地、ビリン村に住むイマード・ブルナートは、四男の誕生を機にビデオカメラを購入。
子供の成長と家族の風景を収める…つもりだった。
しかし、村の中央をパレスチナとイスラエルとの国境となる“分離壁”が通り、大切な村人たちの耕作地は失われ、イスラエルの入植地が侵出してくる現状に、村民たちによる抵抗運動を記録していくことになった。
金曜日の礼拝後に穏やかなデモを始めた村人に対してイスラエル軍は、行進に向かって発砲するだけでなく、参加者を逮捕するなどの弾圧を加えていく。
抵抗運動とイスラエル軍との衝突が繰り返される中、イマードのカメラは何度も壊され、ついには5台目のカメラが戦いの日々を追うに至る…


時にはカメラが防弾の役割を担うこともあり、妻から撮影を止めるよう懇願されても、イマードはカメラを回し続ける。
本来の目的である四男ジブリールの成長もカメラは追うが、まだまだ幼いジブリールが“戦う姿勢”を身につけていく様子に、頼もしさを感じる半面、子供らしい無邪気さが薄れていくように見えるのは痛々しい。


中東におけるニュースは、日本のメディアにおいて大きく取り上げられることはめったになく、“パレスチナの今”についての情報が十分に報道されているとはお世辞にも言えない。
イマードが個人的に撮り始めたカメラではあるが、パレスチナの現状を生々しく捉え、人々のありのままの声を届ける貴重な映像となって日本にやってくることの意義は大きい。


分離壁があるものの、イスラエルの入植地はどんどんパレスチナに侵出し、パレスチナとイスラエルとの境界は曖昧になっていく。
家族という自身のプライベートを撮るためのイマードのカメラは、世界が注目するドキュメンタリー映像を収めることとなり、公私の区別は消え去った。
ビリンの子供たちが抗議デモを行い、イスラエル軍に逮捕される姿に、「子供だから」「大人だから」という線引きは無い。
スクリーンに映る様々な“境い目”がウヤムヤな中で、パレスチナとイスラエルとの間にある“溝”はどこまでも鮮烈で、対立が決して止むことはない。

四方を海に囲まれ、他国との“境い目”がハッキリしている日本人は、土地を接して激しく相手と対立するという関係性は苦手なのではないだろうか。
第二次大戦末期、満州を守るべき関東軍が、多くの民間人を残したまま雪崩をうって撤退していったというのも、その表れだったのかもしれない。
ビリン村の分離壁を見ながら、ふとそんなことを考えていた。


壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び
2011年/パレスチナ= イスラエル= フランス= オランダ  監督:イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ

Merry Christmas, Mr. Lawrence

2013年01月16日 | 映画
大島渚さん死去=映画監督、タブーに挑み続け―「戦場のメリークリスマス」など(時事通信) - goo ニュース


最近、めっきり表舞台から遠ざかっていた大島渚監督。
日本人は長寿になったとはいえ、かなりの高齢だったので何となく“覚悟”はしていたが、それでも訃報に触れるのは寂しく悲しい。

初めて人となりを知ったのは、ビートたけしのオールナイトニッポンだった。
「戦場のメリークリスマス」に出演したたけしが、大島監督の様々な話を紹介して、夜中にも関わらずしょっちゅう爆笑していたもの。
その他では、なぜか野坂昭如と壇上で殴り合いをしていたシーンがすぐに思いだされてしまう。

なんだかヘンなことばかりの記憶が強いが、作品としても一番記憶に残っているのは「戦場のメリークリスマス」だ。
デヴィッド・ボウイと坂本龍一のキス・シーンは衝撃的で、地面に埋められたデヴィッド・ボウイの首に白い蛾がとまるシーンは幻想的、そしてたけしの“ドアップ”で終わるラストシーンは圧倒された。
当時の“大阪の田舎”の高校生だった自分には、インパクトがあり過ぎた作品だった。

今年もまた、映画人の訃報を聞かなければならないんだろう……
なにはともあれ、冥福を祈るばかり。
合掌

「ミロクローゼ」

2013年01月15日 | 映画
少年のような容姿のオブレネリ ブレネリギャー(山田孝之)は“偉大なミロクローゼ”(マイコ)に恋をする。
彼女のために懸命に働き、家まで購入して彼女を迎え入れ、二人は幸せな生活を送っていた。
しかしある日、ミロクローゼは他の男に走ってしまった。
心にぽっかり大きな穴が開いたオブレネリ ブレネリギャーは、その穴を鍋蓋で塞いで、孤独に生きることに。

青春相談員の熊谷ベッソン(山田孝之)は、今日も秘書のオネーチャンを引き連れ、激しいダンスを踊りながら悩める青年たちの相談に答えていた。
そんなベッソンの乗った車が、片目の浪人・多聞(山田孝之)を跳ね飛ばしたが、気付かずに走り去ってしまうで。
多聞は、謎の盗賊団に連れ去られた恋人・ユリ(石橋杏奈)を探し求めているところだった。


「オー!マイキー」を初めてテレビで見たのは、いつだったろう?
マネキンが会話するキテレツな世界に引き込まれ、確か遅い時間だったのに、翌日の仕事のことも忘れて最後まで見入ってしまった。
ただし、どんな話だったかは全く覚えてないのだが(笑)
その「オー!マイキー」を手掛けた石橋義正監督が描く、ファッショナブルなラブ・ファンタジー。
山田孝之が一人三役で演じるオブレネリ ブレネリギャー、熊谷ベッソン、多聞の3人は、心の拠り所としての「愛」を我々に訴えかけてくる。
あの「オー!マイキー」のシュールな感覚を湛えつつ、愛に貫かれた物語がスクリーンに繰り広げられる。

オブレネリ ブレネリギャーは絵本のような世界の住人。
だが、愛するミロクローゼを追って場末の温泉旅館という、やけに地味で現実味の濃い世界に飛び込んでくる。
熊谷ベッソンは、白のタキシードに奇抜なヘアスタイルでキメているダンディな男。
青い相談に対して、最高峰の上から目線でエロネタ混じりに罵倒しながらもビシビシ解決していく彼は、“どストレート”で沸騰しそうな熱い愛を説いて悩める青少年を導く恋愛の伝道師。
多聞は、花屋で働くユリに惚れ、身長2mで暴力的な彼氏との死闘の末に彼女のハートを射止めながらも、謎の盗賊団に彼女をさらわれてしまう悲劇の青年。
最愛の人を取り戻すために時空を超え、あらゆる危険を乗り越えて、ユリの所在を突き止めていく。
三者三様の愛に生きる姿が、色鮮やかな映像とリズミカルなカットで小気味よく描かれる。


三者三様を演じる山田孝之の快演にして怪演の好演が映えるのだが、彼が老刺青師として出演している鈴木清順の頭をはたいたときは、思わず声を出して笑ってしまった。
鈴木清順はスゴイ!


劇場でライブを観る感覚でスクリーンと一体化するのが最も楽しい鑑賞法である、ポップでアートでセクシーなパーティ・ムービー♪


ミロクローゼ
2011年/日本  監督:石橋義正
出演:山田孝之、マイコ、石橋杏奈、原田美枝子、鈴木清順、佐藤めぐみ、岩佐真悠子、武藤敬司、奥田瑛二

「紅いコーリャン」

2013年01月14日 | 映画
1920年代の山東省。18歳の九児(コン・リー)は、親子ほども年の離れた造り酒屋の男のもとへ嫁いだ。
嫁いで3日目に実家に戻るという風習に則り、ラバに乗って故郷へと向かう途中、広大な自生のコーリャン畑で男に襲われる。
その男は、実は婚家へ九児を送る輿を担いでいた余占鰲(チアン・ウェン)だった。
婚儀当日、同じコーリャン畑で輿を強盗に襲われた際に自分を助けてくれた占鰲に淡い好意を抱いていた九児は、そのまま身を任せてしまう。
日を置かずして夫は何者かに殺され、造り酒屋を継ぐことにした九児は、占鰲と結婚した。
男の子も生まれ、商売も繁盛して平和な日々を送っていたが、日本軍が侵略してくる。
かつて酒屋の“番頭”として働いていた羅漢(トン・ルーチェン)が、抗日ゲリラとして日本軍に捕らえられ、見せしめとして衆人環視の中で惨殺されたことに報復するため、九児達は立ち上がる…


「初恋のきた道」「HERO」「単騎、千里を走る。」「サンザシの樹の下で」などを撮ってきた名匠チャン・イーモウの監督デビュー作だったので、かねてより観たいと思っていた。
大阪は九条の「シネ・ヌーヴォ」で、現在「中国映画の全貌 2012-3」という企画上映が開催されているが、その中で上映されていたので駆けつけた。

とにかく“映像の力”に圧倒された
「初恋のきた道」や「サンザシの樹の下で」が大好きな自分にとって、恋心を抱くヒロインを美しく、繊細に描くことに長けているというイメージを勝手に持っていたのだが(当たらずとも遠からずとは思うが)、チャン・イーモウ監督は映像監督出身だけあって、かくも力のある画面を作れる人なのだと感じ入った。

特に、全編で象徴的に使われる「赤」の鮮烈さは凄まじい。
これと対照的に描かれる、夜のシーンにおける「青」の静かさ、冷やかさ。
見事なコントラストを放っていて、澄み渡った蒼い夜空に浮かぶ冷たい月影が、日中の赤い躍動感や生命力を引き立てる。
後から振り返るほどに、“映像の力”というものが心の中に込み上げてくる。


タイトルにもなっている色である「赤(紅)」。
物語においてそれは、不安の色、情熱の色、生きる喜びの色、血の色、前進する生命力の色。
ただ前へ進む為に、心に燃えたぎらせる炎の色。
あらゆる心象風景を、さまざまな赤い色が描き出す。

そして、力強く大地に佇む親子を包む、真っ赤な太陽の光。
泥まみれの顔の中で鋭く光る眼を更に際立たせ、多くの血の上に立ち、それを乗り越えて生きていこうとするたくましい生命力が、圧倒的な迫力を伴って胸に迫ってくる。
映画の映像が持つ力というものを、再認識させられた。


映画を観終わって、真紅の中国国旗は、大地を踏みしめて前へ進む中国人民そのものを表しているのかと、今さらながら思いを巡らせた。
日本人には無い逞しさを、かの国の人々は持っている。
しかし日本には、かの国が及ばない繊細さがある。
お互いの持つ長所を互いに尊重し、「対立する国」としての各論的な視点ではなく、「共存するアジア人」として大局に立ち、それぞれの長所を活用し合えれば、また一歩、人類は進歩できるだろうに…

帰りがけ、劇場に戻る途中だった支配人の山崎さんが、自分に気づいて声をかけてくださった。
(山崎さんには、お忙しかったのに、わざわざありがとうございました!)
「今、上映する意味のある作品だと思うんです。」
その言葉の深さが胸に染みた。


「紅いコーリャン」
1987年/中国  監督:チャン・イーモウ
出演:コン・リー、チアン・ウェン、トン・ルーチェン、リウ・チー、チェン・ミン、チー・チェンホア