面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ある精肉店のはなし」

2013年12月20日 | 映画
自分達で育てた牛を自分達で食肉加工して店舗で販売する。
今ではすっかり珍しくなった、牛肉の生産直販を代々生業としてきた一家の、ある1年を追ったドキュメンタリー。

当代で七代目となる精肉店「北出精肉店」。
大阪の貝塚にあり、江戸時代末頃から代々続いてきた老舗である。
店舗と自宅と牛舎が同じ敷地内で併設されており、牛舎で約2年かけて育てた牛を、近くにある貝塚市立の屠畜場で解体し、家族総出で食肉加工する。
肉の塊(「枝肉」)を屠畜場から店の作業場へと運び、「部分肉」として捌いて商品にしてショウケースに並べる。
作品を観る前には、屠畜場の場面では目を覆うことになるかと思ったが、逆に目を奪われてしまった。
食肉センターなどの大規模な加工場での分業処理が当たり前となっている今、飼育から屠畜までの一連の流れが映像に収められていることそれ自体も貴重な映像である。

「北出精肉店」は現在、先代の長男である新司さん夫妻、次男の昭さん夫妻、そして長女の澄子さんを中心に切り盛りされている。
皆、小さい頃から父親を手伝い、精肉の技術を身に付けてきたのだが、思い出話の中に、かつて家族が置かれていた厳しい環境が垣間見える。
家族が暮らす地域は、江戸時代から激しい差別を受けてきた。
被差別の歴史は昭和の時代になっても残り続け、それがために父親の静男さんは義務教育さえ満足に受けられないまま家業を継ぎ、苦労を重ねてきた。
その姿を見て育った兄弟は解放運動に取り組み、自分達と地域の暮らしを改善していったという。
語られる話の中で、泉州地方の象徴ともなっている「だんじり」に関する件には胸がつぶれた。
戦後まもなく、貧しい生活の中から皆で少しずつ持ち出して作っただんじりを、宮入りの際に他の町から「そんな汚いもんを入れるな!」と言われたのだとか。
その悔しさを胸に、どこの町よりも立派なだんじりを作ろうと、地域の人々は歯を食いしばって頑張ったという。
神事において、同じ地域の住民は皆、神の前に平等であるはず。
ハレの日であるだんじり祭で受けた屈辱に対する悔しさはいかばかりであっただろうか。
被差別の実態として象徴的で、あまりの不条理に涙がこみあげた。
自分達の仕事は、学校で先生が勉強を教えるのと同じように、自分達の仕事は何も特別なものではなく、ごく当たり前の「仕事」であるという新司さんの言葉が重い。

近年は北出家しか利用していなかった市立屠畜場は、2012年3月をもって閉鎖されることになった。
102年の歴史に幕を下ろすこととなった最期の日。
僧侶を招いて祈りを捧げる北出家の人々を代表して、新司さんは“お別れの言葉”を述べる。
「この世に生を受けながら、天寿を全うすべきところを人間の都合で命を捧げていただいた、多くの家畜達の冥福を祈るとともに、心から感謝します。」
本業の精肉以外に、解体した牛から取れる皮を利用して、太鼓作りを“新規事業”として取り組む次男の昭さん。
地域の小学校で太鼓作り教室にも取り組んでいるが、
「いろんな生き物に支えられて生きている人間の命の尊さを、子供達に分かってもらいたい」
という思いがある。
生き物の命を奪うことで自分達の生活が成り立っていたからこそ、命の尊さを誰よりも深く理解し、家畜達に対する尊崇の念は篤い。
「命」を大切にする人々の尊厳を踏みにじり、その命をないがしろにする差別の醜さに、やり場のない怒りを覚えた。

しかしながら本作は、被差別の歴史を熱く語り、声高に差別を批難・糾弾して、差別からの解放を訴えるアジテーションを描くものではない。
家族仲良く平和に暮らす様子や、屠畜の際には一家総出で当たる様を、ごく自然な姿としてカメラに収めているに過ぎない。
被差別の歴史も北出家の日常も“あるがまま”に映し出すことで、観る者に“その先”を考える機会を提供する、秀逸なドキュメンタリー。


ある精肉店のはなし
2013年/日本  監督 纐纈あや

THE MANZAI

2013年12月16日 | ニュースから
ウーマンラッシュアワー、THE MANZAI王者に!「見返したい気持ちがあった」(クランクイン!) - goo ニュース


今日、「THE MANZAI 2013」だったのをすっかり忘れていた。
というより実は、全く放送日を認識していなかったのだが、たまたま帰宅してテレビを点けたらやっていたので、そのまま見ていた。
最近、漫才コンビがちゃんと漫才やってるところを見ることがめっきり減っている。
自分が演芸番組をほとんど見なくなっていることも一因かとは思うが、漫才やコントをネタとして“ちゃんと見せる”番組自体が減ってるように思うのは気のせいだろうか。

それはともかく、千鳥にせよノンスタイルにせよ、テレビで姿を見てもレポーターだったりMCだったりで、漫才やってるのを見たのは、それこそ去年の「THE MANZAI」以来のような気がする。
ウーマンラッシュアワーも、村本をサンジャポで見るくらいで、最近はコンビで見ることさえほとんどなかった。

見始めたときにはトーナメントも進んでいたが、さすが決勝トーナメントだけあって皆面白い。
A、B、C各組から勝ち残った、ノンスタ、千鳥、ウーマンの中では、ノンスタのネタの構成が一番よくできていると思ったので、データ放送の優勝予想でもノンスタに入れたのに、ウーマンが優勝をさらったのは意外だった。
ウーマンのネタは村本の“マシンガンしゃべり”であれよあれよという間に中川を貶めるのが特徴だが、村本の気合の入り方も半端ではない熱を感じたし、立て板に水の如き激しいストロークで鮮やかにたたみかけることができたのが、何よりも最大の勝因か。
オール巨人は決勝でもノンスタに票を入れるのではないかと思ったが、ウーマンに入れていたところで己の未熟さを痛感した。
ま、「笑い」の感じ方には個人差があるからね。

その他では個人的には、初めて見た流れ星がツボにはまった。
“肘の神様”はよくできてると思ったが、あまりにもネタとしては飛躍し過ぎな感もあり、観客全員を惹きつけるにはしんどいか。
あのぶっ飛び方が面白いと思ったのだが、彼らと同じ事務所のキャイーン天野が、もっとアホなところを出してほしかったと言っていたのが気になった。
もっとアホ炸裂なネタが見てみたいものだが、それには東京の漫才のライブを見に行かないかんだろう。
東上した際は寄席小屋だけでなく、たまには漫才のライブ会場にも足を運んでみよう。

「利休にたずねよ」

2013年12月07日 | 映画
織田信長、豊臣秀吉に「茶頭(さどう)」として仕え、饗応としての茶の湯を芸術の域にまで高めた千利休。
現代に続く茶道の名門である三千家の礎を築いた彼の生涯を、秀吉から切腹を命じられ、正に自害せんとする場面から、過去を回想して時代をさかのぼりながら描いていく。


「美は私が決めること。」
天下統一を目前にし、名だたる武将がひれ伏した信長を相手にしても豪語する利休は、「美」を徹底的に追求していた。
それは単に物の形としての「美」だけではなく、風情や佇まいとしての「美」や、人としての「美」も追い求めるものであり、その圧倒的な美意識によって人々を魅了していく。

信長も一目を置き、「茶頭」として引き立てられた利休。
彼は、信長の目指す「天下布武」の一翼を担うこととなり、政治的な力を持ち始める。
戦線離脱という軍律違反によって、信長の勘気に触れて居城に蟄居していた秀吉が訪ねてきた際に利休は、茶席に雑穀による粥を用意。
稗や粟を食べて暮らした貧しい昔を思い起こし、涙を流しながら粥を頬張る秀吉に、利休はそっと信長への口添えを約束する。
織田家家臣となって“出世街道”をひた走ってきた秀吉もまた、彼に魅せられた一人だった。

明智光秀の謀反に信長が倒れ、後継者としてのし上がっていった秀吉は、あこがれていた利休を自分の「茶頭」として引き立てる。
「美」に裏打ちされた文化的な側面から、陰日向に秀吉を支える利休は、政治的な影響力を強めていった。
天下統一を果たし、全てを手に入れた秀吉だったが、「己が額ずくのは『美しいもの』だけ」という利休の存在は、次第に疎ましいものとなっていく。
そして秀吉は、己の意のままにならない利休に対して切腹を命じることになるが、なぜそこまで利休が、ただ「美」を追い求め続ける生き方を貫いたのか。
その理由は、若き日に経験した、身を焦がすような恋にあったという…。

裕福な魚問屋の倅として、若い頃は色街に入り浸る遊び人だった利休。
ある日、ひとりの“囚われの美女”を見染めることとなってしまった彼は、その道ならぬ恋において、人間として恥ずべきこと、男として最も格好悪いことをしでかしてしまう。
「男のプライド」は粉々に砕け散り、打ちひしがれ、己の不甲斐なさに慟哭する利休。
元々美意識の高かった彼が、その後の人生において己のアイデンティティーを確立し、「あるべき姿」で生きていくためには、徹底的に「美」というものを追求していく以外になかったに違いない。
男として再びカッコよく生きていくためには、そうするしか道はない。
徹底的に「美」を追い求める生き方の動機として、これほど大いに納得も得心もし、大いに腑に落ちた!


一般的には、「詫び寂」のイメージと共にどこか“枯れた”人物としてとらえられる利休が、そんな人物像からは想像できない、燃え上がらんばかりの情熱を持った「パッションの人」として描かれる。
そんな新たな“利休像”に、大阪的なうがった見方で言うと「ええカッコしい」な感じの市川海老蔵はハマり過ぎるほど適任。
歌舞伎を通して磨かれてきた身のこなしが所作に活かされていて、つま先から頭のてっぺんまで行き届いた姿形の美しさが見事。
1年をかけて「利休」になるべく研鑽を積み、自腹を切って利休の茶道具まで購入したという彼の熱意が、ひしひしと画面から伝わってくる佳作。


利休にたずねよ
2013年/日本  監督:田中光敏  脚本:小松江里子
出演:十一代目市川海老蔵、中谷美紀、伊勢谷友介、大森南朋、成海璃子、福士誠治、袴田吉彦、黒谷友香、十二代目市川團十郎、檀れい、大谷直子、柄本明、伊武雅刀、中村嘉葎雄、クララ、川野直輝