面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ちょき」

2017年01月26日 | 映画
美容室「HATANO」を一人できりもりしている直人(吉沢悠)のもとに、一本の電話がかかってきた。
「ちょきさん?」
懐かしい呼び名に直人は、電話の相手がサキ(増田璃子)だと悟る。
五年前に亡くなった妻の京子(広澤草)が、かつて美容室の二階で書道教室を開いていたとき、生徒として通っていたのがサキだった。母親からDVを受けていたサキは、優しい京子によく懐いていた。子供がいなかった京子もまた、サキのことを自分の娘のように可愛がっていたが、いつしかサキは教室に顔を見せなくなっていたのだった。

サキは友人と一緒に、久しぶりに店にやって来た。サキが直人の前から姿を消して、10年余りの年月が経っている。その間に、サキはDVがもとで視力を失い、直人は最愛の妻を亡くしていた。
久しぶりの邂逅を機に、サキは直人にねだって色んな場所に連れて行ってもらうようになる。京子との思い出の場所や、京子が好きだったという場所、そして京子が行きたい場所へと出かけていく二人。

そんな二人の周囲に、“さざ波”が立ち始める…


直人は、毎朝大好きなコーヒーを淹れてはマグボトルに入れると同時に、京子の遺影を飾った仏壇に供えることを忘れない。
美容室ではゆっくりとレコードを聴くのが楽しみのひとつで、京子との思い出がこもったプレイヤーを、故障しても部品を取り寄せながら修理して使い続けている。
洗濯したタオルなどを干すのに使っている、かつて京子が開いていた書道教室だった美容室の2階には、京子の書が飾ってある。
亡くなって5年が経つが、直人は京子の面影から離れられず、喪失感に心を閉ざされていた。

サキは、書道教室に通っていた頃に母親からDVを受けていた。エスカレートした暴力に視力を奪われ、書道教室にも通えなくなってしまい、可愛がってくれた京子先生とも会えなくなってしまう。その後、事件を起こして刑務所に入った母親と離れ、盲学校の寮で平穏に暮らしていた。
そんなある日、小学校の頃に通った書道教室のあった美容室「HATANO」に電話し、直人と再会する。その帰り道、直人に車で寮まで送ってもらったことが胸がときめくほど楽しく、引きこもりがちだったサキの心を動かした。

直人に頼んで、京子との思い出が詰まった場所や京子が好きだった場所へと出かけていくサキ。直人は、あまり一緒に出かけられなかった妻に対する穴埋めの意味も込めて、大好きだった京子先生の面影を追うサキを、あちらこちらへと連れて行く。
お互いが抱える寂しさを補い合うように、いつしか二人で過ごす時間が増えていった。

そんな二人の姿が、商店街の人々の口の端に上り始める。
大都会に比べて近隣の付き合いも深い小さな田舎の街では、二人の噂は瞬く間に広まる。
その噂を耳にし、直人が少しサキと距離を置こうとしたとき“事件”は起こり、直人は自分と対峙することになる。


直人とサキが、互いに相手を救うように、互いを思いやる心が育まれていく様子を、ふんわり真綿で包み込むような温かさと優しさに満ちたタッチで、丁寧にピュアに可愛らしく描いた、穏やかで静かなラブストーリー。

「会いたいのに会えないのと、会えるのに会いたくないのとでは、どっちが辛いんだろう。」
サキが直人に質問したとき、サキの心には“何か”が芽生えていたのかもしれない、なんて振り返るのもまた楽しい佳作♪


ちょき
2016年/日本 監督:金井純一
出演:増田璃子、吉沢悠、芳本美代子、小松政夫、藤井武美、広澤草、円城寺あや、橋本真実、大竹浩一、本谷紗己


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