面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ゾンビ大陸 アフリカン」

2012年03月26日 | 映画
ゾンビが出現して数週間が経過したアフリカ大陸。
駐留アメリカ軍が次々と撤退する中、エンジニアのブライアン・マーフィー中尉(ロブ・フリーマン)も故郷アメリカを目指して機上にいた。
ところが乗客がゾンビ化して機内は大混乱、飛行機はアフリカを離れることなく墜落してしまう。

アフリカのある村をゾンビの群れが襲った。
村出身の西アフリカ軍の兵士・デンベレ(プリンス・デビッド・オセイア)が不在の中での襲撃に、彼の家族や親戚、知人が次々ゾンビの餌食となるが、彼の息子は奇跡的に生き残り、かけつけた軍のジープに救われた。

墜落した撤退機から生き残ったブライアンは、愛する家族のもとへ帰るために米軍基地を目指した。
ゾンビに襲われて無人となった村で車を手に入れたブライアンは、一路基地を目指して走り出す。
途中、息子を捜すデンベレと出会った彼は、二人で協力してゾンビが溢れるアフリカ大陸からの脱出を試みることに。
アメリカ軍基地を目指す二人だったが、行く手にはサハラ砂漠が広がり、険峻な山並みが連なっていた。
立ち止まれば瞬く間にゾンビに囲まれる地獄の中、過酷な旅が始まった…


ゾンビのルーツは、西アフリカに起源をもつというブードゥー教に由来するとされることから、アフリカ大陸はいわばゾンビにとっての“聖地”とも言える場所であるが、アフリカを舞台にしたゾンビ映画は過去に無かった。
そんなアフリカ大陸に遂にゾンビが登場。
しかも増殖の勢いは尋常ではなく、瞬く間に数を増やして大陸を席巻していく。

凄まじいスピードで数を増やすゾンビだが、緩慢な動きで彷徨うその姿はゾンビの原点を忠実になぞっている。
一匹(一人?)のゾンビが生きている人間に食らいつくと、次々にゾンビが群がり、肉を貪り食らう描写はゾンビ映画の王道を行く。
そして「ショッピングセンター」のような限られた空間ではなく、広大なアフリカ大陸を覆い尽くすのだから、“映画の世界”とは言いながらも妙に絶望的な気分に襲われる。
また、本作のゾンビの大きな特徴は新機軸の「眼」。
黒目が小さく、真っ白な部分が大きな作りは、黒い肌の色と相まって恐怖感を増大させる。
ただウツロで視線が定まらない「眼」よりも斬新で不気味だ。


ゆらゆらとうごめくゾンビの影は、雄大なアフリカの大自然の中に溶け込み、一枚の風景画を描きだす。
人間も自然の一部であるように、ゾンビもまた自然の一部であるのだ(そんなワケはない)。

ゾンビの聖地で描かれた正統派ゾンビ映画。


ゾンビ大陸 アフリカン
2010年/イギリス  監督:ハワード・J・フォード、ジョン・フォード
出演:ロブ・フリーマン、プリンス・デヴィッド・オシーア、デヴィッド・ドントー

「ゾンビ処刑人」

2012年03月22日 | 映画
イラクに出征していたバート(デヴィッド・アンダース)は、敵対勢力の奇襲を受けて戦死した。
無言の帰還を遂げた親友の葬儀に参列したジョーイ(クリス・ワイルド)は、悲しみに打ちひしがれて落ち込んでいた。
そんな彼の部屋の戸を、深夜誰かがノックした。
ドアを開くと、なんとそこにはバートが立っているではないか!
あり得ない展開に混乱し、バットで殴りかかるジョーイだったが、それは紛れもなく亡くなったはずの友だった。
棺に納められたバートは、ゾンビとなって自らの墓場から這い出して来たのだ。

ともかく親友の“生還”に喜んだジョーイだったが、何せ彼は死体。
腐りつつある体からは悪臭が漂い、見た目もグロテスク。
人に見せられるものではなく、街中をウロウロさせるわけにもいかないため、とりあえず居候させることにするが、いろいろと問題が発生する。
食事を与えても、真っ黒なゲロを吐いて受け付けない。
どんどん体が腐っていき、徐々に弱っていくバートは、どうやら人間の血液を飲まないと、ゾンビとして生きていくことができないらしい。
背に腹は代えられぬと病院を襲撃し、輸血パックを強奪すると、バートはイッキに飲み干す。
すると瞬く間に元気になり、二人で夜の街へと繰り出した♪

二人がとあるコンビニに立ち寄ると、そこに強盗が押し入ってくる。
バートは襲われて銃で撃たれるが、ゾンビの彼は死ぬことはない。
逆に強盗を撃退して殺してしまうが、そこで二人は“名案”を思いつく。
ここは名うての犯罪都市ロサンゼルス。
街中にはびこる悪人を倒してその血を飲めば、街は平和になり、バートも元気になって一石二鳥だ!

こうして二人は、街の悪党を成敗する“夜回りゾンビ”として活躍を始める。
やがてマスコミにも取り上げられた二人は、ヒーローとなって善良な市民から喝采を浴びるのだが…


「クサっちゃいるが、俺たちヒーロー!」
劇場のポスターにあった新鮮な響きのキャッチーなコピーに魅かれて公開を待っていた。
案に違わぬバカっぷりのB級全開ムービー♪
ところがこの映画、ただのバカ映画ではない…!


日本で言うところの「必殺仕事人」になって世直しを図るというゾンビ像が斬新。
銃を持ったコンビニ強盗と対峙しても“夜回りゾンビ”はひるまない。
そりゃそうだ。
撃たれても死なないのだから(というか、既に死んでいる…)、こんな無敵な話は無い。
次々と悪人を成敗する“夜回りゾンビ”は、マスコミに取り上げられると市民から喝采を浴び、ヒーローに祭り上げられる。

しかしそもそも“夜回りゾンビ”となった動機は、ゾンビとしての自分の命を維持するために人間の血を必要とするからというもの。
成敗した悪人の血を飲むのだから問題ないという考えの行きつく先は、血を得るための殺人の正当化に他ならない。
“夜回りゾンビ”が独善的に悪人と判断した人間を殺すことにつながっていくわけで、この発想の危険性は「デスノート」でも描かれるところの普遍的なテーマ。
根はマジメで正義感の強いバートは、やがてゾンビとなってしまった己の運命に苦悩する。
だがその後、思いもよらない展開が待っていることなど、観客の我々はもちろん、バートもまた知る由もなかった…。


「死者の生きざまを見届けろ!」
ゾンビがヒーローとなる斬新なアイデアだけにとどまらない異色のゾンビ映画。
しかし人間の血を吸って生き長らえ、夜明けとともに死ぬという生態は、「ゾンビ」ではなく「バンパイア」ではないのか…?
という疑問はともかく、ゾンビ映画史に新たな1ページを刻む怪作!


ゾンビ処刑人
2009年/アメリカ  監督:ケリー・プリオー
出演:デヴィッド・アンダース、クリス・ワイルド、ルイーズ・グリフィス、エミリアーノ・トーレス、ジェイシー・キング

「NINIFUNI」

2012年03月21日 | 映画
ある地方都市。
若い男の二人組が強盗を働いた。
犯人の一人・田中(宮崎将)は、盗んだ車でどこへ行くともなく彷徨い、やがて人気の無い浜辺へとたどり着く。
一人悶々と時間を過ごした田中は、おもむろに車の窓にガムテープを貼って目張りしていった…。

明るい日差しの下、田中の乗った車が停まっている浜辺に、プロモーションビデオの撮影のためにももいろクローバーがやって来た。
元気いっぱいに、跳ねて歌って踊る彼女達の後方に広がる草むらの中に、ひっそりと停まったままの車が見えている…


東京藝術大学修了作品として製作された長編デビュー作『イエローキッド』が、国内外で高く評価された真利子哲也監督がメガホンをとった本作は、経済産業省とNPO法人映像産業振興機構(VIPO)が主催する、次世代のクリエイター発掘を目的としたプロジェクト「コ・フェスタPAO」のうち、“movie PAO”のカテゴリで製作された42分の中編作品。
ある地方都市で実際に起こった事件から発想を得て作られたとのこと。

「NINIFUNI」とは、仏教用語で「二つであって二つではない」ということを意味する「而二不二」。
物事には「裏」と「表」、「光」と「影」というように「対(つい)」になるものがあり、更にその「対」になるものから何かの広がりが生まれるという監督の意図が織り込まれている。
中でも、世間から隔絶された空間の中で孤独に包まれている田中と、アイドルとして世間の注目を集めてまばゆいばかりに輝くももいろクローバーとの、互いの存在を対比させてとらえた絶妙のアングルに思わず唸った。
息を呑むほどのインパクトに心の琴線は轟音を立て、鑑賞後も余韻が込み上げてきて、そのシーンは脳裏に鮮明に焼きついた。


このご時世、ももクロの側に立つことは無くても、田中の側に転がり落ちることは、誰でも、今すぐにでもできる。
二つであって二つでない。
真逆のものが存在して一つの世界を築いている。
世の中の成り立ちについて思いを巡らせてみるのも、時には必要なことではないだろうか。

真利子監督の鬼才が光る“感じる映画”。


NINIFUNI
2011年/日本  監督:真利子哲也
出演:宮崎将、山中崇、百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏

「ロボジー」

2012年03月05日 | 映画
家電メーカー木村電器の社員である小林(濱田岳)、太田(川合正悟)、長井(川島潤哉)の3人は、いつも思い付きで業務命令を出すワンマンな木村社長(小野武彦)から、流行りの二足歩行ロボットの開発を命じられていた。
近く開催されるロボット博で、木村電器を大いに宣伝するのが社長の目的。

いよいよロボット博まであと1週間と迫ったある日。
完成に向けて徹夜続きの3人のもとへ、社長がハッパをかけに来る。
好き勝手に“吠えて”社長が出て行くと、究極の睡眠不足に苛まれていた3人のイライラが頂点に達したその時、制作途中のロボット「ニュー潮風」を不意に動かしてしまった。
見事な二足歩行を見せる「ニュー潮風」は制御不能に陥って研究室の窓から飛び出し、地面に落下!
木端微塵に大破してしまう。
窮地に追い込まれた3人は、とにかくロボット博を乗り切るため、「ニュー潮風」を着ぐるみにしてごまかす計画を立てた。
中身を空にした「ニュー潮風」に、ピッタリと収まる人間を探すために開いた架空のオーディションで、仕事をリタイアして侘しい一人暮らしを送る73歳の老人、鈴木重光(五十嵐信次郎)が選ばれる。

そして迎えたロボット博。
各社がロボットのパフォーマンスを披露する舞台で、なんとか持ち時間をこなした「ニュー潮風」。
ホッとした3人がそそくさと立ち去ろうとしたとき、何を思ったか鈴木重光は“単独行動”に出ると、あろうことか一人の女性が事故に巻き込まれそうになるところを助けてしまう。
二足歩行だけでなく、咄嗟の判断によって人助けをした「ニュー潮風」は絶賛を受けることに!

一躍世間の注目を集めた「ニュー潮風」に社長は大喜びしたのは言うまでもない。
大々的にマスコミに取り上げられてしまうという思いもよらぬ展開に、3人は顔面蒼白となる。
そして、ロボット博で「ニュー潮風」が助けた女子大生の葉子(吉高由里子)はロボットオタクで、自分を助けてくれた「ニュー潮風」に恋をしてしまったことから“追っかけ”を始めるようになり、事態は益々ややこしいことに…


「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」とヒット作を世に送り出してきた、日本で最も注目を集める映画監督の一人である矢口史靖監督の最新作。
どちらかと言えば、主人公を中心に若者の元気な姿を描くイメージがある矢口監督であるが、本作の主人公はそれとは真逆の老人。
老人とはいえヨボヨボというわけではなく、それどころかヘンに元気で頑固で我儘放題…まあ、エネルギーの“種類”は異なるものの、主人公が元気であるところは矢口作品の基本路線をしっかり踏襲している。
その元気な主人公の活躍に大いに笑い、ホロリとし、そして最後にニヤリとしながら物語はサラリと終わる。
いつもの溌剌さは控えめながら、軽妙洒脱な“矢口節”を、主人公を演じる五十嵐信次郎ことミッキー・カーチスが、年齢そのままに熟成した演技で見事に謳いきる。
エンディングテーマも含めて、彼なくして「ロボジー」は成り立たない。


ミッキー・カーチスのハマり具合が絶品のヒューマン・コメディの秀作。


ロボジー
2012年/日本  監督:矢口史靖
出演:五十嵐信次郎、吉高由里子、濱田岳、川合正悟、川島潤哉