面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「落語娘」

2008年08月17日 | 落語
末期ガンでベッドから離れられない落語好きの叔父の、もう一度寄席に行きたいという願いを果たすべく、香須美(子役・藤本七海)が病室で落語を演じたのは12歳のときだった。
泣きながら喜んでくれた叔父に、「絶対、真打になる!」と落語に目覚めて以来、高校、大学と落研で“修行”を積んだ香須美(ミムラ)。
大学の落研では学生コンクールを総ナメにし、卒業と同時に憧れの噺家・三松家柿紅(益岡徹)に入門を請い、亡くなった叔父に披露した思い出の噺を演じてみせる。
ところが柿紅は、
「落語に個人的な思い入れは無用。結局、あなたは女性なのです。これは何を稽古したところで無駄。」
と言い放ち、香須美の入門を認めない。
ショックに呆然とする香須美だったが、
「噺家は男じゃなきゃいけねぇなんてストイックな考えはな、俗を知ろうとしねぇ独り善がりの思い込みよ。」
と助け舟を出してきた落語界の異端児、三々亭平佐(津川雅彦)に拾われる。

こうして、晴れて落語家の仲間入りを果たした香須美だったが、前座修行は芸や落語界の仕来りを学ぶ厳しさだけでなく、セクハラの嵐にも見舞われ、散々な日々を送っていた。
しかも師匠の平佐は、テレビ中継で次期首相候補の大物議員の首を締めるという暴挙に出て、テレビ出演はおろか寄席にも出入り禁止をくらっての謹慎中。
一度も稽古をつけてくれないばかりか、ソープランド代を香須美にたかる始末。

それでもめげずに頑張る香須美の元へ、久しぶりに落研の後輩・清水(森本亮治)がやって来る。
そして、マスコミに就職している清水から、平佐がTV局の企画に乗り、これまで演じた者が必ず命を落としてきた禁断の演目「緋扇長屋」に挑むという情報を得る。
むちゃくちゃなオッサンでも師匠は師匠。
心配する香須美だったが、平佐は“平気の平左”とばかり彼女を連れて、「緋扇長屋」の原稿を持つ最後の演者の未亡人・石田登志子(絵沢萌子)のもとを訪れた。
そこで登志子が経験した不思議な話を聞かされ、香須美は益々心配になるが、平佐は原稿を受け取る。
そしてその夜、登志子の家に泊めてもらった二人は、不気味な体験をすることに…

「緋扇長屋」とは、どんな噺なのか?
なぜ、演者が次々を怪死を遂げてしまうのか?
平佐はこの禁断の噺を、無事に演じきることができるのか?
そして香須美の将来は…?

「噺に対する個人的な思い入れは無用」という意見は、ある意味正しい。
個人的な思い入れは、えてして独り善がりな独善となり、それが無用の“演出”につながって、噺の本質を失わせることになる。
しかし、演じ手の思い入れが無い噺は、相手には伝わらない。
香須美の「景清」を、まんざらでもないと評した平佐と、「思い入れは無用」と切って捨てた柿紅とは、確かに“根本のところ”で違っている。
計算し尽した演出で、プロとしての“演技”(わざ)で、その噺が持つ本質を観客に伝えようとする柿紅。
“くだらないざれ言”に命を吹き込むのが噺家の役目という平佐は、噺の登場人物に息吹を与えることで、その噺が持つ面白さを観客に伝えようとする。
二人は、アプローチの方法は違えども、落語が愛しくて仕方がなく、噺の“心”をいかにお客の心に届けるかに腐心している点は共通している。
だからこそお互いを認め合い、若手のテイタラクに心を痛めているのだ。

最後に、これはごく個人的な、本作についての“思い入れ”であるが…。
香須美の携帯着メロは出囃子「たぬき」。
狸爺な師匠を持つ彼女にはふさわしいもので、思わずニヤリとしてしまった。
そして師匠の“狸ぶり”に開眼した香須美は、一皮向けて、独自の落語の世界を切り開いていく。

誰にも負けない落語に対する情熱を胸に、破天荒ながらも懐深く温かく師匠に見守られながら落語家として成長していく香須美。
封印された落語「緋扇長屋」に、落語家生命を賭けて挑む平佐。
大きな2つの主題をうまく融合させ、師弟の心の交流を描きながら、「禁断の落語」の謎が解き明かされていく展開に引き込まれ、物語の世界にドップリ浸ることができる傑作。
「12人の優しい日本人」や「櫻の園」など、登場人物の心の機微を描くことに長けた中原俊監督の手腕が冴えわたる。


落語娘
監督:中原俊
出演:ミムラ、津川雅彦、益岡徹、伊藤かずえ、森本亮治


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2 コメント

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落語娘の携帯着信音 (LEO)
2011-10-16 15:08:41
落語娘の中の携帯着信音の名前あるいはダウンロードのリンクを知りたいですが、教えていただきませんか。leolokis@gmail.com
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Unknown (たけとら)
2011-10-16 22:47:43
コメントありがとうございました。
すっかり忘れていたので改めて日記を見ましたが出囃子の「たぬき」のようですね。
上方では林家小染の出囃子だったはずです。
出囃子の着メロをダウンロードできるサイトがあるなら自分も利用したいところです。
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