面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「へんげ」

2012年05月18日 | 映画
東京の片隅に暮らすある門田夫妻には、大きな悩みがあった。
それは、夫の吉明(相澤一成)が時折激しい発作に見舞われ、不気味な叫び声をあげながら体を弓なりに反らしてのたうちまわること。
妻の恵子(森田亜紀)は、そんな夫の発作になすすべくもなく、不安な毎日を送っていた。

吉明は、医大の後輩である医師の坂下(信國輝彦)から最新の催眠治療を施され、カウンセリングを受けるものの、「たくさんの虫に意識を乗っ取られるような感覚」を訴えて、一向に快方に向かう様子が無い。
そんなある夜、眠っている最中にふいに発作に襲われた吉明は、恵子の前でいつも以上に激しい動きを見せたかと思うと、“身体的な変化”を見せた!
それは、ついに吉明の身に、とてつもない「へんげ」が訪れた瞬間だった……


少し前、WOWWOWで「ウルトラQ」の一挙放映があり、全て録画していた。
その中からかいつまんでいくつか見ていたのだが、その中でたまたま見ていた「変身」という話を思いだした。
こちらは、幻の蝶を探して山奥へと分け入った若き研究者が、その蝶の毒にやられて巨人に変身し、凶暴化・野生化して山中で隠れ住む…という話で、「へんげ」とは全くテイストは異なる。
しかし、本作全編に渡って漂う雰囲気は、54分という尺の長さと相まって濃厚な「ウルトラQ」テイスト。
(ちなみに「ウルトラQ」は30分番組だったが)
吉明の“へんげ”も昔懐かしい円谷プロ的な造形で、これが90分から120分程度の長さになれば、イッキに東宝特撮シリーズのニオイがして、「マタンゴ」を彷彿としていたかもしれない。

なんともとりとめのない話になったが(苦笑)、最初はサイコサスペンスかと思って観ていると心霊ホラーの展開になってきたと思いきや、正視できないほどではないソフトタッチなスプラッタームービーへと移行しつつ、ノスタルジー漂うメタモルフォーゼのクライマックスへと次々に映画が“へんげ”していく。
特に、吉明が肉体的な変化を示すあたりからからの急激な作品の変化は、はじめは緩やかに水面を漂うボートが、わくわく感を徐々に高まらせながら進んでいき、クライマックスで急流をイッキに駆け下りていく遊園地の「急流すべり」のよう。
あれよあれよと思っているうちにどんどん変化を続けながら、驚愕のラストへとイッキに連れて行かれて度肝を抜かれ、一瞬茫然となった後で余韻に浸る…。
娯楽を追求する大畑監督の狙いに、何の迷いもなく素直にどっぷりハマりこんで楽しむのが、本作の正しい鑑賞法である。

我々「円谷プロ」特撮シリーズで育った世代には堪えられない、「緊急指令10・4・10・10」風味の「ウルトラQ」テイストが心地よい上質の娯楽特撮作品♪


へんげ
2011年/日本  監督:大畑創
出演:森田亜紀、相澤一成、信國輝彦

「ルート・アイリッシュ」

2012年05月17日 | 映画
リバプールの教会で、イラクで戦死した兵士フランキー(ジョン・ビショップ)の葬儀が行われた。
ファーガス(マーク・ウォーマック)は、無二の親友の死に、やりきれない思いで参列していた。
「大事な話がある。今夜でないとだめだ。電話がほしい。」
フランキーが戦死したその日、ファーガスは彼から携帯の留守番電話にメッセージを受けていた。
ところが、酒の上でのいざこざが原因で留置所に入れられていたため応答できず、後悔の念に苛まれていたのである。

葬儀の場でファーガスは、知人の女性マリソル(ナイワ・ニムリ)から、フランキーの残した手紙と携帯電話を受け取る。
その携帯電話に保存されていた画像の中の言葉の翻訳を、イラク出身のミュージシャン、ハリム(タリブ・ラソール)に依頼した。
そこに映っていたのは、幸せそうな家族の映像に続いて、銃声と共に二人の少年が射殺された様子だった。
銃を撃ったのは、イラクにいる兵士ネルソン(トレヴァー・ウィリアムズ)で、その場にいたフランキーは激怒していた。
何ら罪の無い民間人が殺害される瞬間の映像が残されていたのである。
それを見たファーガスは、フランキーの死に対して不信を抱いた。

5歳で出会ったファーガスとフランキーは、将来は世界に飛び出そうという夢を共有していた。
ファーガスは、イラク戦争に民間兵として赴けば莫大な報酬が得られると、妻のレイチェル(アンドレア・ロウ)への気がかりから渋るフランキーを強引に誘って連れ出したのだった。
皮肉にも戦争に参加することで子供の頃からの夢を果たした二人だったが、体力的にも精神的にもタフなファーガスに対して、気の優しいフランキーは、戦場での過酷な毎日から精神を崩壊させかかっていた。
そしてファーガスは先に帰国したが、イラクに残ったフランキーの神経は疲弊し、ネルソンが民間人を殺したことに大きな衝撃を受け、残された遺族に賠償しなければならないと訴えていたのだった。

ファーガスは、自身も戦場で負った心の傷を抱えつつ、レイチェルやイラク軍にいる知人の協力を得ながらフランキーの死の真相を追った。
死の直前にフランキーは、世界一危険なルートと呼ばれる、バグダッド空港と市内の米軍管理地域グリーンゾーンを結ぶ「ルート・アイリッシュ」での警護の任務に、何度も就いていたことが分かる。
軍事企業の秘密を暴こうとファーガスが更に調査を進める中、レイチェルの家に何者かが侵入し、ファーガスに翻訳家として協力を続けていたハリムが暴行を受けた……


「グリーン・ゾーン」や「ハート・ロッカー」、「告発のとき」など、イラク戦争を題材にした作品が数多く作られているが、本作で取り上げられている題材は、コントラクターと呼ばれる民間兵。
国家公務員たる軍人としての兵士ではなく、各国の要人警護などのために雇われた、民間企業の“社員”である。
アメリカでは、基地の建設や施設の管理、物資の搬送、兵士への給食に衣類の洗濯など、軍隊の後方支援に関わる部分だけでなく、戦場における警備といった、あらゆる業務が民間企業に業務委託されていた。
イラクに兵士を派遣していたイギリスも同じことで、本作ではイギリスの軍事企業に雇われた民間兵が主人公として描かれている。
イラク戦争の最大の特徴は、この「戦争の民営化」にあるということを本作で改めて認識した。

戦争には莫大な経費がかかる。
しかし世界的な不況の中、戦費をいかに抑えるかは国の財政にとって重要な課題である。
その課題を解決するために、軍の戦地における業務の一部を切り出して民間に委託される。
そしてその中には、戦場における警備という軍人の本業部分も委託されているのである。
軍人としての兵士が戦場で戦死すれば、国はその兵士を丁重に扱って手厚く葬り、遺族には年金を支給しなければならない。
国家予算から考えると、その手間暇経費はバカにならない。
戦争が激化し、長引けば戦死者も増え、それに伴って莫大なコストとなっていく。
ところが、民間企業に雇われた民間兵は国としては何ら関与する必要がない。
兵士の戦死は、あくまでも委託先の企業における労務上の問題であり、国として手厚く葬る必要もなければ遺族年金を支払う必要もない。
しかも国として戦死者数を発表する際には、実際に戦場で「兵士」として亡くなった人数のうち、民間兵はカウントされないために、実質的な過少報告が可能となる。
戦争を遂行するうえで、国にとってこんな都合のいいことはない。


戦争とは、国と国との争いである。
そこには、戦争当事者たる国の国民個人の意思など存在しない。
そして国民の意思・意向に関わらず、国として威信をかけて戦うために国民を徴収し、命を“消費”する。
国が無理やり個人の命を危険にさらすのであるから、国がそのことに対して補償し、賠償するのは当然であり、国という組織の責任であるはず。
軍務の業務委託とは、この国として果たすべき責任を放棄する、無責任極まりない行為だ。

軍事企業といえば、「アイアンマン」に描かれるような兵器メーカーを意味するというイメージが強いが、戦争における兵士が担うべき業務を請け負う企業もあるということに愕然となった。
国家予算における支出の節減として様々な業務が民間に移行されることはよくあるが、“戦争業務”までも民間に委託されるのはおかしい。
そうまでして戦争する意味がどこにあるか?

そう考えるうちに、いわゆる戦争というものの本質が変わってきた気がした。
かつては、国と国とが互いの威信をかけて踏み切るのが戦争であったが、近年においては、一部の企業が利益を得るために、言いかえれば一個人が富を得るために行われるものになったのではないか。
戦争があるから利益を得る人間が出るのではなく、利益を得る人間が稼ぐために戦争があるのだろう。
なんなんだ?これは!


イラク戦争の日本人にとって知られざる一面を描く社会派サスペンスであると同時に、人の命を消耗して富を得る極悪人に戦いを挑む復讐劇でもある、名匠ケン・ローチ監督ならではの秀作!


ルート・アイリッシュ
2010年/イギリス=フランス=ベルギー=イタリア=スペイン
監督:ケン・ローチ
出演:マーク・ウォーマック、アンドレア・ロウ、ジョン・ビショップ、ジョフ・ベル、ジャック・フォーチュン、タリブ・ラソール、クレイグ・ランドバーグ、トレヴァ-・ウィリアムズ、ジェイミー・ミッチー、ナイワ・ニムリ、アンソニー・シューマッハー、スティーヴン・ロード

「キリング・フィールズ 失踪地帯」

2012年05月16日 | 映画
テキサス州のとある田舎町の殺人課刑事のマイク(サム・ワーシントン)は、血の気の多い性格から、しょっちゅう周囲とトラブルを起こしていた。
ニューヨークから異動してきたブライアン(ジェフリー・ディーン・モーガン)は、そんなマイクの相棒であり、唯一といっていい良き理解者でもあった。

二人は、住宅街で起きた少女の殺人事件を捜査していたが、手がかりさえつかめない。
そんな二人をあざ笑うかのように、次々と少女を狙った事件が発生した。
近隣ながら所轄外のエリアで発生した事件にもブライアンは関わっていくが、マイクは管轄外にまで手を出すのは間違いだと彼を抑えようとする。
しかしブライアンは、熱い正義感をたぎらせて捜査に没頭した。

ブライアンの地道な捜査から、ようやく有力な容疑者が浮上してきたとき、リトル・アン(クロエ・グレース・モレッツ)が失踪する。
彼女は複雑な事情のある家庭に育ち、心に傷を抱えていたため、同じ年頃の子供を持つブライアンが、いつも気をかけて面倒をみていた少女だったが、その日ブライアンが一緒にいながら、彼が目を離した隙に何者かに誘拐されてしまったのだ。
刑事としての勘が働いたブライアンは、アンが事件に巻き込まれたと直感した。
懸命にアンを捜索するブライアンに引っ張られ、マイクも次第に事件に深く入り込んでいく。

そして二人は、ついに「キリング・フィールド」と呼ばれて恐れられている犯罪多発地帯へと足を踏み入れる…


骨太のクライム・サスペンスを撮ることで知られるマイケル・マン監督が製作し、彼の娘であるアミ・カナーン・マンが初めてメガホンを取った作品。
テキサスに実在する「キリング・フィールド」と呼ばれる犯罪多発地帯で、1960年代から現在までに実際に起こった事件ファイルを徹底検証して作られたという実話ベースの脚本とも相まって、見応えのあるクライム・サスペンスに仕上がっている。
ここは製作指揮をとった父親のアドバイスの賜物か!?
しかし「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督の例を持ち出すまでもなく、骨太な作品の製作に監督の性別は関係しない。
父親譲りの天賦の才による次回作にも期待♪


自分の中では「キック・アス」の強烈なイメージが強いクロエ・グレース・モレッツが、「キック・アス」とはうって変わった静かな演技を見せている。
母親には養育放棄のような扱いを受けていて、心に深い傷を追っていて、少女らしい愛くるしい笑顔を見せることのない、押し殺した感情が出口を求めてにじみ出てくる目の表情は秀逸。
また、最近神の血を引いて“魔物退治”ばかりしているイメージの強いサム・ワーシントンが、優秀な殺人課の刑事だった父親の影に煩わされてもがきながら成長していく若い刑事を好演している。


スクリーンからヒリヒリとした緊張感が伝わってくる、上質のサスペンス映画。


キリング・フィールズ 失踪地帯
2011年/アメリカ  監督:アミ・カナーン・マン
出演:サム・ワーシントン、クロエ・グレース・モレッツ、ジェフリー・ディーン・モーガン、ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、アナベス・ギッシュ、シェリル・リー、スティーヴン・グレアム

「ツレがうつになりまして。」

2012年05月15日 | 映画
売れない漫画家ハルさん(高崎晴子/宮崎あおい)の家族は、夫のツレ(幹男/堺雅人)とイグアナのイグ。
自社商品であるコンピューター・ソフトのお客様相談窓口として、ほとんどクレームの電話対応に明け暮れるツレは、会社ではマジメにコツコツ、黙々と仕事をこなし、家では毎朝お弁当まで作るスーパーサラリーマン。
そんなツレがある朝、バターナイフを片手にハルさんの枕元へとやって来た。
そして真顔でつぶやいた。
「死にたい。」
驚いたハルさんは、渋るツレに無理やり休みを取らせて病院に行かせた。
診察の結果は、心因性うつ病。
仕事の激務とストレスが原因らしい。
結婚5年目にもなっていながら、ツレの変化に全く気付かなかったハルさんは、これまでの自分を反省。
うつで苦しむツレに理解を示す様子の無い会社から解放すべく、ツレに対して「会社を辞めないなら離婚する」と迫った。

会社を辞めたツレは、主夫として家事にいそしむことに。
家事が苦手なハルさんは、内心嬉しく思ったりしたものの、収入源が断たれたことから家計は苦しくなっていく。
仕事を得るために一度連載を打ち切られた雑誌の編集部に赴くものの、担当者からは相手にされない。
しかし夫に代わって収入を得なければならないハルさんは、必死に担当者に頼み込みながら思わず叫んだ。
「ツレがうつになりまして…仕事をください!」
驚いた編集者から、半分お情けのようにもらった仕事をきっかけに、ハルさんは懸命に漫画を描きはじめると、徐々に仕事は増えていった。

時には「バカ」が付くほどマジメなツレにイラッとすることもあるハルさんだが、かつての自分には考えられないほどポジティブになっていった。
元気になったかと思うと急に落ち込んで動けなくなったり、ツレの病状は一進一退。
それでも、そんなツレをゆっくりと見守りながら、急がず焦らず、また以前の元気なツレに会える日を待った…


原作は、夫がうつ病になったことをきっかけに、これまでの自分たちを見つめ直し、成長していく夫婦の姿を描いてベストセラーとなった、細川貂々の同名コミックエッセイ。
自身の周りでも知り合いがうつ病になって自ら命を絶った経験を持つ佐々部清監督が、原作と出会ってから4年がかりで映画化した。
「この原作は、うつ病で苦しんで闘っている人たちの手助けになるはずだ」と確信した佐々部監督は、なんとしても映画化にしたかったという。
しかしうつ病というデリケートな題材であるだけに、製作会社も映画会社も製作に二の足を踏む中、「何年かかってもいいので、この脚本で映画が観たい」という原作者の言葉を支えに、粘り強く企画を進めていったとか。


幹男は、あるユーザからのクレームに対応したことが発端となって、うつを発症してしまう。
会社のみんなに迷惑をかけられない。
ユーザの不満をしっかりと受け止め、自分で解決しなければならない。
とはいえ、自分だけの力では限界がある。
ところが上司に相談しても解決の糸口が見えない。
ユーザになんとか理解してもらおうともがくものの、ユーザは怒りを露わにして社長宛にクレームの手紙を送りつける始末。
その状況に上司は、更に自分を責める。
幹男が段々と精神的に追い詰められていく様子は、観ていていたたまれない。
そして自宅で療養に入ってからの幹男の姿も、またしかり。
かつて抑鬱を発症して自宅療養した体験がオーバーラップして、幹男が苦しむ度に涙を禁じえない。

幸いにして自分の場合は、理解ある上司と支援の整った環境に恵まれ、周囲の理解とサポートによって会社を辞めずに済んだ。
休職して療養に努めながら、家族の支えによって回復することができたが、その時の状況を本作で思い起こしていた。
会社を休んではじめの頃は、ひたすら休養に努めて寝てばかりいたが、段々と快方に向かいだした頃もまた苦しいもの。
すっかり良くなったと気分が晴れた数分後にはどーんと気分が落ち込む。
もう会社に戻れそうだと思って床についても、翌朝はとても仕事に出れそうにない気分で目が覚める。
気分の浮き沈みに振り回され、激しく揺れる感情の波に翻弄される苦しさは思い出すのも辛いものであるが、幹男を演じる堺雅人が見事にそれを表現している。

また、そんな幹男を見て苦しむ晴子を演じる宮崎あおいの演技も素晴らしい。
縫った傷口がふさがっていくような、具体的に治癒の様子が見てとれる病気ではないだけに、苦しむ患者をただ見守るしかない家族の苦しみはいかばかりか。
暗くふさぎ込む自分の様子に不安で仕方なかったであろう家族のことを思い、幹男に寄り添う晴子の姿に、試写室のシートで嗚咽を我慢しながら、溢れる涙を拭い続けた。


うつで苦しむ人々の手助けになりたいという佐々部監督の思いは、原作者が絶賛した脚本のみならず、堺雅人と宮崎あおいという二人の優れた俳優の名演によって見事に結実した。
うつを発症して途方に暮れる当事者にとっての道標として、また当事者ではなくともうつに対する理解を深めるためのバイブルとして、うつとの付き合い方を教えてくれる作品である。

全ての人に観てもらいたい、ホームドラマの逸品!


【参考】

「8人に1人が苦しんでいる!『うつ』にまつわる24の誤解」
http://diamond.jp/category/s-izumiya

「こころが元気になるもと」
http://health.goo.ne.jp/column/mentalcare/m002/index.html



ツレがうつになりまして。
2011年/日本  監督:佐々部清
出演:宮崎あおい、堺雅人、吹越満、津田寛治、犬塚弘

「ブラッドレイン 血塗られた第三帝国」

2012年05月14日 | 映画
1943年。
ヒトラー総統率いるドイツ第三帝国が、その勢力をヨーロッパ全土に拡大していた。
東欧のとある山間の土地に築かれた強制収容所では、捕らえたバンパイアの研究を進め、収容所に送り込まれるユダヤ人を使った人体実験が行われていた。
バンパイアと人間との間に生まれた「ハーフバンパイア」のレイン(ナターシャ・マルテ)は、レジスタンスと共に強制収容所を襲撃。
守備兵との戦闘の中で、敵の司令官はレインの血を手に入れることになり、日中でも活動できる強靭な力を持つバンパイア「デイウォーカー」に変身してしまう。
そして、バンパイア研究の第一人者である収容所の医師と共に、レインを捕まえて彼女の鮮血を手に入れてヒトラーに献上し、不死の総統を作りあげて第三帝国を不滅のものにしようと画策する……


第二次世界大戦のヨーロッパを舞台に、ハーフ・バンパイアのレインが、ナチス・ドイツと激しい死闘を繰り広げるアクション・ムービー。
全世界で人気を誇る同名のゲームソフトが原作の「ブラッドレイン」シリーズ第3弾。

美しい“ハーフ・バンパイア”のレインは、バンパイアの血を引くだけあって驚異的な身体能力を持ち、二刀流の見事な剣さばきで、バッタバッタとナチス兵を倒していく。
女剣劇・浅香光代もビックリの鮮やかな殺陣が小気味良い。
(外国映画でも「殺陣」と言うのだろうか)

ナチス・ドイツという巨悪に立ち向かうという分かりやすい勧善懲悪物語をベースに、アクションあり、お色気あり、美人バンパイアが大活躍するB級テイストたっぷりな、バイオレンス娯楽活劇!


「ブラッドレイン 血塗られた第三帝国」
2010年/カナダ=ドイツ  監督:ウーヴェ・ボル
出演:ナターシャ・マルテ、ブレンダン・フレッチャー、マイケル・パレ、ウィリアム・ベリ、アネット・カルプ、クリント・ハワード、シュテフェン・メネケス

「サウダーヂ」

2012年05月13日 | 映画
山梨県甲府市。
いわゆる「ドカタ」一筋に生きている精司(鷹野毅)の働く現場に、タイ帰りの保坂(伊藤仁)が加わってきた。
人懐こい保坂を、精司はお気に入りのホステス・ミャオ(ディーチャイ・パウイーナ)がいる行きつけのタイパブに連れていき、飲んでしゃべって意気投合する。

精司と保坂が働く現場に、派遣のドカタとして猛(田我流)がやってきた。
猛は、HIPHOPグループ「アーミービレッジ」のメンバーとして、地元の若者達の間ではちょっとした有名人だった。
しかし彼の両親は自己破産しながらもパチンコにのめり込んで家庭は崩壊し、弟は精神を病んでいた。
猛は精司に誘われ、保坂と共にタイパブへ連れて行かれるが、ミャオと楽しそうにしゃべる精司やタイ語を操って盛り上がる保坂のようには馴染めなかった。
街には、日系ブラジル人の他、タイをはじめとするアジア系外国人達が溢れていた。
そんな様子に苛立ちを覚えている猛には、タイパブは居心地が悪い。

不況の波は外国人労働者達に容赦なく襲いかかり、彼らの生活を困窮へと押し流していく。
大きな勢力を為している日系ブラジル人のコミュニティも大きな打撃を受け、ひとり、またひとりと、日本で育った彼らには“異国”の地でしかない遠い故国へと去っていく。
苦しい日常を忘れようとするように集い、酒を飲み、歌い踊る。
そんな外国人達の中に、かつて自分を慕っていた高校の後輩、まひる(尾崎愛)の姿を見つける猛。
高校を卒業して上京していた彼女は、別人のようにアカ抜けていて、東京での様々な人々との交流を通じて刺激的な生活を送っていたことを楽しそうに語った。
東京での自分のツテを活用すればHIPHOPで成功できると言うまひるの言葉に、猛の心は揺れる。

まひるは、甲府の外国人達の間で圧倒的な人気を誇る日系ブラジル人デニス(デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ)率いるHIPHOPグループ「スモールパーク」と、甲府随一の日本人HIPHOPクルー「アーミービレッジ」とがコラボレーションするパーティーを企画していた。
東京で培ったというイベント企画力で立てたこのパーティーは必ず成功すると、自信を漲らせるまひるの姿に、猛は自分達の実力を見せつける絶好の機会と企画に乗る。
そしていよいよ、日系ブラジル人と日本人とのHIPHOP対決が始まるが……


不況と空洞化が叫ばれて久しい地方都市。
山梨県の甲府市もご他聞に洩れず、中心地の商店街は“シャッター通り”と化し、長引く不況で地元の土木建築業は壊滅的な打撃を受け、真っ先に外国人労働者達は切られる。
息苦しくなるような閉塞感の中、もがくことさえなく、現実から目を逸らすようにして暮らす人々の姿。
幸いにも自分にとって縁遠い世界を垣間見ることができ、表現は悪いが興味津々でスクリーンに目が釘付けとなってしまった。

怪しげな商売に手を出し始めた妻の姿に嫌気がさし、ドカタ仕事が激減している甲府から逃げ出してタイ人ホステスと一緒にタイへ行こうとする精司。
自分達の生活が苦しいことを外国人労働者のせいにして敵視を強めていく猛。
胡散臭い“煙”を吸ってラリっている保坂。
請け負っていた仕事を投げ出して廃業してしまう土建屋の社長。
破産しながらもパチンコに走る猛の両親…
登場人物達はおしなべて現実逃避的だが、彼らをして「現実逃避する弱者」と単純に非難することはできない。
人間、誰も彼もがみな同じレベルの能力を持っていて、皆が同じような努力すれば、皆が同じように幸せになっていく、というものではない。
ある人にとっては5の努力で済むことも、別の人にとっては10も20も、場合によっては100の努力が必要なことがある。

経済成長を続けていた頃の日本では、その成長の流れに乗って、各自がそれぞれに頑張れば、それぞれがそれなりに生活を向上させることができた。
しかしバブルがはじけて経済成長に陰りが見え、長引く不況の後に来た“小泉改革”で決定的に格差社会が訪れてからというものは、各自がそれなりに頑張れば良くなるなどということはなくなってしまった。
賃金は低く抑えられて自転車操業のような生活を強いられる層が増え、更に安価な労働力として外国人労働者も流入。
“大金持ち”が低所得者を安くこき使う構図が出来上っているが、それでも仕事そのものが減ってしまって、使われる(雇用される)機会さえも得られず、這い上がろうにも這い上がれない状況が広がっている。
自分が今いる生活水準は決して高くはないのに、そのレベルにさえ遥かかなたにしか見えない人々が、特に若者の間にどんどん増えていることが、今の日本に蔓延する重い閉塞感につながっている。
ニュースやドキュメンタリー番組などで垣間見る、そんな閉塞した世界の一端をモキュメンタリーのように描いていて、まず自分が触れることのない世界に足を踏み入れる貴重な体験ができた!…ということはそんなに嬉しいものでもない。
横山源之助よろしく「日本の下層社会」というものを目の当たりにしても唸るしかなく、だからこそ観終わってからスカッと爽快感が得られるものではないのである。
ただ、心を鷲掴みにされて揺さぶられた感覚は残り、心地よくはないが生々しい“生命力”に触れて熱いものが込み上げるような余韻に浸って茫然となった。


ハリウッドが作る夢の娯楽大作も映画なら、現実を鋭く描くのも映画。
「アイアンマン」とは何もかもが真逆ながら、ベクトルの違う“熱さ”が魅力的で惹きこまれる、誰もに観てほしいが誰にでもお勧めはしない群像劇の大傑作!


サウダーヂ
2010年/日本  監督 富田克也
出演:鷹野毅、伊藤仁、田我流、ディーチャイ・パウイーナ、尾崎愛

「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」

2012年05月11日 | 映画
サイタマのフクヤでHIPHOPグループ「SHO-GUNG」のメンバーとして活動していたマイティ(奥野瑛太)は、イック(駒木根隆介)とトム(水澤紳吾)にいきなり別れを告げると東京へと向かう。
人気ユニット「極悪鳥」の付き人として下積み生活を送って2年。
あるラップのフリースタイル・バトルへの出場を決めたマイティは、優勝すれば「極悪鳥」のステージに上げてやると言われて気合いを入れてバトルに臨んだ。
しかし見事に決勝まで勝ち進んだとき、対戦相手が「極悪鳥」メンバーが世話になるHIPHOPクルーの一人だったため、わざと負けるよう指示される。
泣く泣く八百長で負けたマイティだったが、ステージに上がることを反故にされてブチ切れ。
大乱闘を起こして「極悪鳥」のメンバーをボコボコにして大怪我を負わせて逃亡した。

栃木に逃げ込んだマイティは、脱法行為で商売するグループの一員として働いていた。
ある日、グループのリーダーが金儲けのために音楽イベントを発案、かつて音楽をやっていたことを知られていたマイティは、イベントの仕切りを命じられ、若い連中を従えてイベントチケットを売りさばくことを課せられる。
そしてグループは、音楽を目指す素人を集めた、有料の出演者オーディションを開いた。
詐欺まがいの胡散臭いイベントにも関わらず、関東各地からHIPHOPを中心としたグループがオーディション会場へと集まったが、その中に今ではたった二人で活動を続けていた「SHO-GUNG」のイックとトムの姿があった…!


青春ヒップホップ映画として人気を誇り、驚異的なロングラン上映を遂げた「SR サイタマノラッパー」の、シリーズ第3弾。
HIPHOPグループ「SHO-GUNG」を飛び出したマイティの、ほろ苦いというにはあまりにもビターな、そして焦燥と諦めと未練とがごった煮になった生きざまが、HIPHOPを通して熱く、しかし切なく描かれる。

音楽に詳しいワケではないが、かつて黒人奴隷の苦しい生活の間から生まれたのがブルースであるなら、決して解消されることのない人種差別の壁と貧困の中から湧き上がってきた咆哮がラップと言えるだろうか。
ありがたいことに貧困からは逃れることができている自分にとって、本作で描かれる世界は、正に“アンタッチャブル”な未知の世界。
登場人物たちは、悪にまみれて生きている。
盗んだ車を売り飛ばしたり、“ワケあり”で行き場の無い人間を集めて奴隷としてこき使って仕事させたり、女性に体を売らせたりして金を稼ぐ。
暴力と盗みが常態化し、およそ真っ当な人間としての生活とはかけ離れた日常を理解しようとしても、真に理解できるものではない。
いや、理解を拒否している…いやいや、理解する気も起きないと言った方が正しいか。
だからこそ、映画を観ている間中ザワザワと胸騒ぎがするような、何となく落ち着かない居心地の悪さを覚えていたのだろう。

自分を含めた“善良な市民”からすれば、彼らは努力することなく安易な道に走って逃げているだけに見える。
学生の頃は勉強から逃げ、世の中に出ては汗水たらして働くことから逃げた結果、“悪の道”で稼いでいるだけのこと、という風に考えたなら、登場人物に対して不快感しか抱かないのではないだろうか。
しかし違った見方をすれば、彼らは“そうせざるをえない”ということではないか。
世の中の人、全てが等しく“勉強ができる”ものではない。
例えば子供が同じ教材で3時間勉強したとして、教材全てを理解したうえでサブ教材までもこなしてしまう子供がいれば、教材の半分も理解できない子供もいる。
そこには、一生懸命に教材を読んだらできる、という単純なことでは埋められない能力の差というものが確実にある。
だからこそ、各個人間には生活レベルの差が生じ、貧富の差が生まれてしまうのはどうしようもない事実である。
弁護士あがりの話題の某市長発言に胡散臭さと拒絶感を抱くのは、自分は努力をしたから優秀な成績を修めることができ、弁護士になったのだから、お前らみんな努力しろよ!貧乏人は努力が足りんのや、バーカ!といったニオイを感じてしまうからだ。
…話がそれたが、フツウの人がフツウに理解し、できることが、フツウにはできない人間というのは必ずいるもの。
幸いにも自分はフツウに理解できてきたからこそ、今の比較的“善良な暮らし”ができているが、本作の登場人物たちは、そうできないがために、自分にとって縁遠い“世界”に生きているのだと考えると、その思考や言動を理解できないものの「そういう世界がある」ということは認識できる。


「何がフツウか?」という議論はさておき。
フツウのことができなくて、フツウの生活を送るための努力の仕方も努力する気も起きないが、HIPHOPで自分を表現することによって自らの存在を示すことができるマイティが、心の拠り所であるラッパーとしての存在を否定されたことから暴走が始まり、“悪の世界”へと転がり落ちる。
フツウの世界に生きる能力は低いが、ラッパーの世界で発揮できる能力は高いマイティ。
しかし、再びHIPHOPに触れるとどうしようもなくそれに惹かれ、同じ夢を追った仲間が放つHIPHOPのリズムに導かれ、封印したはずの自分の中のHIPHOPの血が沸々と煮えたぎりはじめるクライマックスは感動的に熱く、心を鷲づかみにされて激しくゆすぶられる。

フツウに暮らしていたら決して触れることのない、どうしようもなくやるせない青春と情熱が、圧倒的な迫力で胸に迫ってくる佳作。


SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者
2012年/日本  監督:入江悠
出演:奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純

日本復帰

2012年05月10日 | 野球
井川、右足痛め降板=プロ野球・オリックス(時事通信) - goo ニュース


タイガースの元エース・井川が6年ぶりに日本のマウンドに立った。
1点は失ったものの、まずまずのピッチングだったようだが、太ももの裏側にピリッときたとかで敢えなく降板。
そもそも今季は所属チームが決まらないまま年が明け、ピッチングを始められたのがようやく4月になってからというのでは、あまりにも体の鍛え方が足りなさ過ぎるというもの。
ポスティング・システムでタイガースに多大な金銭的恩恵を残してアメリカへと旅立ったものの鳴かず飛ばず。
ヤンキースとの契約が終わってしまえばロクなオファーもないまま、結局日本へと舞い戻ってきたわけで、練習不足、体作りの不足は否めない。
それでも144km/h前後のストレートもあったようで、長いシーズンで何勝できるか見物ではある。

ドツキ合いの試合

2012年05月08日 | 野球
阪神の鳥谷が勝ち越し2ラン=プロ野球・広島―阪神(時事通信) - goo ニュース


何十年ぶりかで10試合連続2点以下という珍記録を打ち立てるほどに打てていなかった虎打線が、おそろしく久しぶりにバカバカ打ったようで。
久保が次々失点したのも珍しいが、それにへこたれず打ち返した虎打線は、最近では異様なほどに珍しい風景。
それをこないだのナゴヤで見せてくれや。

激しい殴り合いのような試合を制したタイガース。
このまま上向いてほしいもの。
そのためにも和田監督には、新井をラクな打順で打たせてやってもらいたい。
これから打ち始めたとしても、決して4番に戻すなどという過ちを犯してはならない。
虎仲間が「新井1番案」を提唱していたが、ヤツが当たってきたら4番よりも1番に据える方が面白そうだ。
足は遅いが、決して速くないマートンが1番を打っていたことを思えば、マートンよりも一発の怖さがある分、「足の遅い『真弓』」として存在感を示すかも知れない。

さあ、バカスカ打った後の明日の試合が肝心……

「ジョン・カーター」

2012年05月07日 | 映画
1881年、ニューヨークの大富豪ジョン・カーター(テイラー・キッチュ)が忽然と行方不明になる。
愛する妻と娘を失って以来、生きる意味を見失い、他人とのつき合いを絶ってきた彼だったが、甥のエドガー・ライス・バローズ(ダリル・サバラ)に、一冊の日記を残していた。
弁護士から手渡された日記をエドガーが開くと、そこには叔父の驚くべき体験が綴られていた…!

人並み外れた身体能力を持ち、南北戦争における騎兵隊の英雄だったジョン・カーター。
そんな彼が妻と娘を失い、愛する家族を守れなかったことから失意のあまり生きる意味を見失っていたが、アリゾナの洞窟で謎の男に襲われ、不思議な現象によって未知の惑星・バルスームへと瞬間移動してしまう。
たどり着いた惑星は地球とは重力が異なっていたため、もともと高かったジョン・カーターの身体能力は更にパワーアップすることとなり、彼の地では桁外れの能力となって、正に「スーパーマン」とも言うべき存在だった。
彼の地を彷徨ううちに、バルスームを支配し、全宇宙の征服を目論むマタイ・シャン(マーク・ストロング)によって滅亡の危機に瀕していた、彼の地の王国ヘリウムの王女デジャー・ソリス(リン・コリンズ)の窮地を救う。
そしてヘリウム王国の危機を救うべく、彼女と彼女に忠誠を尽くすカントス・カン(ジェームズ・ピュアフォイ)、異形の種族サーク族のタルス・タルカス(ウィレム・デフォー)など、バルスームの民たちと共に立ち上がり、マタイ・シャンの陰謀に立ち向かっていく。


エドガー・ライス・バローズのSF小説「火星のプリンセス」を、「ファインディング・ニモ」「ウォーリー」で2度のアカデミー賞長編アニメ賞に輝くアンドリュー・スタントン監督が、自身初の実写作品として映画化。
SFヒーローの原点ともいえるジョン・カーターの大冒険を描いたスペクタクル巨編。
地球では人生に絶望していた主人公が、他の惑星へと迷い込み、彼の地の平和を守るために再び生きる意味を見出して大活躍を繰り広げるという冒険活劇に、失っていた愛の感情を再び取り戻していくラブ・ロマンスを絡めたストーリー展開は痛快。

メルヘンチックなラストシーンがいかにもディズニー的な、ウォルト・ディズニー生誕110周年を飾るSFファンタジー・アドベンチャーの娯楽大作!


ジョン・カーター
2012年/アメリカ  監督:アンドリュー・スタントン、アニメーション監督:イーモン・バトラー
出演:テイラー・キッチュ、リン・コリンズ、サマンサ・モートン、マーク・ストロング、キアラン・ヘインズ、ドミニク・ウェスト、ジェームズ・ピュアフォイ、ウィレム・デフォー、ダリル・サバラ、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ポリー・ウォーカー