面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「火花」

2017年12月13日 | 映画
今、日本中で「漫才師」は何組いるのだろう。
その中で、「漫才師」としての収入だけで生活できているグループは、果たして何%くらいの比率になるのだろうか。
圧倒的多数が「漫才師」だけではやっていけず、アルバイトで食いつないでいることは間違いない。それでも、「漫才師」として売れることを目指して芸能界に飛び込むグループは、途絶えることがない。


もちろん、中には人気を博して「漫才師」としてやっていけるグループもある。しかしやはりその数は、全体から見ればホンの一握りに過ぎない。殊にメディアによる“笑いの浪費”が常態化した昨今、チャンスを掴んで輝くことができても瞬く間に消耗し、忘れ去られて消えていくグループは引きも切らない。“売れた”と思ってもそれは一瞬の出来事に過ぎず、継続的に「漫才師」として売れて生き残るグループは、演芸の世界全体から見れば本当に少数だ。

しかし中には、「売れること」「人気者になること」が目的ではなく、オモロイことを探し続けて「漫才師」になる人間もいる。純粋に“笑い”が好きなケースもあれば、ひたすらオモロイことを追い求めるケースもある。
その姿は一見「笑いの求道者」のように見えるが、単に現実逃避に走る社会不適合者に過ぎない場合もある。その境目は極めて曖昧だが、本物の「笑いの求道者」は、ただひたすら“笑い”を欲しているものではある。


“笑い”の世界に居続けることは、いつまでも青春時代が続く甘美な錯覚に浸り続けることと同義でもある。“笑い”というものは、実はとてつもない麻薬なのかもしれない。
スターとして輝き続けられる人間はもちろん、大輪の花火として華やかに輝くことができる人間も極めて稀。小さく火花を散らし続けることしかできない「漫才師」の方がはるかに多い。
“芸人”板尾創路だからこそ撮れた、辛すぎず甘すぎない、冷静かつ温かい目線が胸に染みる。

メディアでいつも目にするような、華やかな「漫才師」ばかりなワケがない。演芸界の実態、「漫才師」の実情を目の当たりにする、“終わることの無い青春”を描く、痛く切ない物語。


火花
2017年/日本  監督:板尾創路
出演:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、川谷修士、三浦誠己、加藤諒、高橋努、日野陽仁、山崎樹範


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