面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」

2012年04月23日 | 映画
ヨーロッパ各地で爆破事件が相次いだ。
天才的な頭脳を持つ名探偵シャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニーJr.)は調査を進める中で、結婚式を翌日に控えた相棒のワトソン(ジュード・ロウ)を連れてとあるクラブを訪れる。
そこでホームズは、捜査のヒントを求めてジプシーの占い師シム(ノオミ・ラパス)のもとを訪ねるが、そこには暗殺者の影が潜んでいた。

翌日挙式を上げたワトソンは、新妻と共に出発した新婚旅行の列車で何者かに襲われる。
敵の攻撃を想定していたホームズによって助けられたワトソンは、モリアーティ教授(ジャレッド・ハリス)が自分達夫妻の命も狙っていることを知り、ホームズ、シムと共に教授の陰謀に立ち向かう……


ガイ・リッチー監督、ロバート・ダウニーJr.主演の「シャーロック・ホームズ」シリーズ第二弾。
前作をスケールアップし、全ヨーロッパを巻き込んでの壮大な陰謀に、相棒のワトソンと共に立ち向かうホームズの姿を描く。
これまた前作よりも激しさを増したド派手なアクションが展開するだけでなく、原作でおなじみのホームズの永遠のライバルであるモリアーティ教授が登場し、ホームズに負けず劣らずの鮮やかなスタントを見せる。
もはや原作の探偵小説の面影はどこへやら、ドキドキワクワクの冒険小説に生まれ変わっている。
しかしながら、シャーロック・ホームズというキャラクターだけを借りて好き放題作りました!というだけではない。
オマージュとして原作のセリフをそのまま使っている部分もあるところは、小説のファンには注目してほしいポイントである。

本作ではもう一点、配役にも注目。
ハリウッドリメイクが評判となっている「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」で主人公のリスベットを演じたノオミ・ラパスが、エキゾチックなジプシーの占い師役で登場しているところ。
「ミレニアム」とはうってかわってジプシーの中心人物として、大声を張りあげながらの大活躍がカッコイイ!
ミラ・ジョヴォビッチの向こうを張るアクション女優として、更なる活躍を期待したい。


とは言いながらも、今回のホームズの“変装”場面は、あまりにも原作のキャラからかけ離れ過ぎてはいまいか!?
どちらかといえば、いしいひさいちの描くホームズのキャラに近く、映画で言えば「ピンク・パンサー」オリジナル・シリーズにおけるクルーゾー警部の“弟子”ケイトーが独り立ちしたような…ま、オモロイねんけどね(笑)

アイアンマンと双璧をなすキャラクターとしてシャーロック・ホームズを得たロバート・ダウニーJr.。
正に、勧進帳の弁慶と石川五右衛門を当たり役とする歌舞伎役者の如き充実ぶり(…ヘタな例えやな)を見せる彼の、八面六臂の大活躍が楽しい、痛快娯楽活劇の王道を行くアトラクション・ムービー。


シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム
2011年/アメリカ  監督:ガイ・リッチー
出演:ロバート・ダウニーJr.、ジュード・ロウ、ノオミ・ラパス、ジャレッド・ハリス、エディ・マーサン、レイチェル・マクアダムス、スティーヴン・フライ、ジェラルディン・ジェイムズ、ケリー・ライリー、ファティマ・アドウム、ジル・ルルーシュ

「トロール・ハンター」

2012年04月20日 | 映画
ノルウェーのヴォルダ大学の学生3人組が、とある地方で問題になっている熊の密猟についての取材中に、密猟者の疑いを持たれている不審な男・ハンスと出会う。
周囲の話によると、男は昼間は行動せずにキャンピングカーで過ごし、夜になるとどこへともなく出かけて行っては明け方まで帰ってこないという。
学生たちは直撃インタビューを試みるも頑なに拒否されたため、夜を待って尾行することにした。

その夜、動き出したハンスを追って森の奥深くへと侵入した学生たちは、不気味な音と謎の閃光を目撃する。
何が起きているのか分からないまま、木々の間にぽっかりと広がった広場にいた彼らの元に突如ハンスが現れて叫んだ。
「トロール!」
なんとハンスが夜な夜な追っていたのは、古来よりノルウェーの森に住むと言われている妖精・トロールだったのだ!
そして彼を追って、身の丈3mはあろうかという頭が3つもある巨大なトロールが、暗闇から姿を現す。
ハンスはトロールをおびき寄せると、彼の車に据え付けられた大きなライトを点灯し、強烈な光を浴びせかけた。
一瞬にして石となって固まったトロール。

おとぎ話でしかないと思っていた伝説の生物を目の当たりにして、興奮する学生たち。
実はハンスは熊の密猟者などではなく、ノルウェー王国の政府機関であるトロール保安機関(TSS)に雇われたトロール・ハンターだったのである。
彼の任務は、テリトリーから抜けだして民家に近づくトロールを抹殺し、トロールの存在を世間から隠し続ける事だった。
しかしトロール・ハンターの仕事は、命を落とす可能性と常に隣り合わせの危険を伴うにも関わらず、深夜手当はもちろん特殊な勤務についての手当もなく、世間に隠れて任務を遂行する孤独な業務。
現状に嫌気がさしていたハンスは、学生たちのドキュメンタリー製作に協力し、ついにトロールの実態がカメラに収められることになった…


熊の密猟事件を取材に来た大学生たちが、偶然トロール・ハンターに遭遇し、トロールの撮影に成功したドキュメンタリー。
トロールはムーミンのモデルであり、ジブリアニメの超人気キャラクターであるトトロのモデルでもあると聞いていたので、何となく愛らしい妖精というイメージがあった。
しかし本作に登場する醜悪な姿に、そのイメージは完全に覆されてしまった。
北欧のおとぎ話に登場し、民芸品のキャラクターとしても人々に親しまれているトロールが、凶暴で知能も低い巨大なモンスターだとは知らなかった。

迫力あるトロールの姿を捉えた驚愕の映像だけでなく、その存在を隠そうとする政府関係者の不審な行動に何やら陰謀めいたニオイが漂い、興味を惹かれる。
大学生たちの取材チームの姿は、かつて日本で一世を風靡した故・川口浩氏の冒険を彷彿とさせる。
そう書くとまるで本作はフェイクのように思われるかもしれないが、真実は、ご自身の目で確かめていただくのがよろしいかと……


トロール・ハンター
2010年/ノルウェー  監督:アンドレ・オブレダル
出演:オットー・イェスペルセン、グレン・エルランド・トスタード、ヨハンナ・モールク

「バトルシップ」

2012年04月16日 | 映画
宇宙から未知の物体が地球へと迫っていた。
一直線に地球を目指して飛来したかと思うと、大気圏突入前に分散、そのうちのひとつが人工衛星に激突して大破し、大気中で燃え尽きることなく香港に落下して、街を破壊した。
他の物体は、ハワイの真珠湾南方240kmの地点に落下、海中へと沈んでいった。

ハワイのオアフ島沖。
世界14ヶ国から、“海の精鋭”2万人が集結していた。
アメリカ海軍主催の環太平洋合同演習(RIMPAC)に参加する、各国海軍と日本の海上自衛隊における、選りすぐりのメンバーである。
いよいよ演習が始まるその時、はるか沖合の海上に、得体の知れない巨大な物体が出現した。
現場に近いアメリカ海軍のサンプソン、ジョン・ポール・ジョーンズ、そして海上自衛隊のみょうこうの3隻の艦船に対して、演習の総司令官を務めるシェーン提督(リーアム・ニーソン)は調査を命じる。

その頃、アメリカ国防総省では、宇宙から飛来した謎の物体を解明するための緊急会議が招集されていた。
そこで明らかにされたのは、地球から遥か宇宙の彼方にあるグリース太陽系の惑星に向けて、友好を図るために発した電波信号に対する反応として飛来したものだということだった。
しかし、飛来した物体が何なのか、また何を目的としているのかは不明だった。

ハワイ沖に出現した謎の物体を調べるべく、ジョン・ポール・ジョーンズに乗船していた戦略行動士官のアレックス・ホッパー(テイラー・キッチュ)は部下と共にボートに乗り込み、接近を試みていた。
海中からそびえる謎の物体に飛び乗ったアレックスが、更に詳しく調べようと手を触れたと同時に、突如海中から巨大な宇宙船が出現する。
そして強力なエネルギー波を放射して広大なバリアを作り上げ、3隻はその中に閉じ込められてしまった。
バリアの外と連絡が取れなくなった3隻。
謎の宇宙船は3隻の艦船のみならず、ハワイ本土の基地や街への攻撃を開始する。

他の艦船や戦闘機の援護も一切望めない孤立無援状態の中、人類の存亡を賭けた死闘が始まった!


ハワイ沖に出現したエイリアンの侵略部隊と“世界連合艦隊”との壮絶なバトルを、ド迫力のスケールで描く本作は、数々のヒット作を映画史に刻んできたユニバーサル映画が、100周年を記念して送り出すアニバーサリー大作。
近年、エイリアンの侵略に対して死闘を繰り広げる米軍、という作品が増えているが、全て陸上での闘いだった。
本作ではその舞台を海上へと移し更に米軍のみならず日本の自衛隊も加わるという、これまでに無い斬新なシチュエーションが新鮮だ。


圧倒的な武力の前に人類は為すすべが無い…というわけではなく、艦砲射撃でも対抗できるところがミソ。
そのあたりは「世界侵略:ロサンゼルス決戦」と同様であるが、地上に降り立ったエイリアンとの白兵戦がメインとなった「世界侵略…」と異なり、互いの“シップ”同士による砲撃戦が中心。
轟音と間断なく飛び交う砲弾、そして全速力で航行する艦船が、スクリーン上に迫力満点の激しい動きとスピード感を作り出し、クライマックスから息つく間もなくラストまでイッキに連れて行かれるテンポは圧巻!

何より、少年時代に海軍マニアの父親に連れられて「海軍博物館」に通いつめたというピーター・バーグ監督が、全身全霊を込めて創り上げたという海上での戦闘シーンは秀逸!
特に海軍マニアとしての真髄を発揮するのが、戦艦ミズーリの描き方。
3隻の駆逐艦、イージス艦だけでは歯が立たず、博物館として係留されている老艦船を引っ張り出してくるクライマックスは絶品!
かつて「ウォーターライン・シリーズ」で戦艦や空母のプラモデルに熱中した自分は、思わず「くぅ~っ」と川平慈英になってしまった。
見事な手腕で老艦を操る老兵たちが、内田裕也も真っ青になる正に本場のロック魂で「ロケンロール」と叫びながら生き生きと戦艦を操る姿を通して、「これが本当の『バトルシップ』だ」とイケイケで叫ぶ監督の声が聞こえてくるようだ。


しかし本作は、ただハイテンションなだけではない。
日米が力を合わせて敵に反撃を挑む舞台となるのは、かつて日本がアメリカに対して宣戦布告の火蓋を切った真珠湾。
米海軍の栄光の象徴ともいえる戦艦ミズーリに海上自衛隊の隊員たちが乗り込み、米軍兵士たちと共に闘いを挑んでいく場面は感慨深い。

家族愛、青年の成長、絆の大切さ・力強さを描くストレートなヒューマンドラマに、高齢社会を象徴する老いて益々盛んな老兵の大活躍を織り込みながら、イッキにラストまで観客を引っ張っていくアトラクション・ムービー。
ミリタリー・マニアも納得の海上戦闘シーンの迫力は、劇場の大スクリーンでこそ、その醍醐味が味わえるというもの。

ハリウッドの名門ならではの、アップテンポでノリノリな、アトラクションムービーの王道を行く娯楽スペクタクル巨編。

バトルシップ
2012年/アメリカ  監督:ピーター・バーグ
出演:テイラー・キッチュ、ブルックリン・デッカー、アレキサンダー・スカルスガルド、リアーナ、浅野忠信、リーアム・ニーソン

マクギー逝去

2012年04月12日 | よもやま
まる子の祖父・友蔵や神様の声、青野武さん死去(読売新聞) - goo ニュース


高校の頃、テレビでやっていた「超人ハルク」で、主人公の秘密を追いかけるいやらしい~新聞記者・マクギーの声で強烈な印象を持ったのが最初に彼を認識したときだった。
その後、気付けばいろんな作品に出演していることを知ったのだが、どうしてもマクギーのいやらしい声の印象が強く残り続けていた。

もう75歳だったとは。
昔からよく知っている名優たる声優さんも次々に亡くなっていく今日この頃。
残念ではあるがいたしかたなく…

合掌

「311」

2012年04月11日 | 映画
東日本大震災発生から15日後の2011年3月26日。
映画監督・作家の森達也、映像ジャーナリスト・綿井健陽、映画監督・松林要樹、映画プロデューサー・安岡卓治の4人が、放射線検知器を搭載した車で被災地へと向かう。

福島第一原発から150km地点で線量計のスイッチを入れると、あっという間に東京の数十倍の値を記録。
50km圏の三春町に宿を取った4人は、旅館で会った双葉郡出身の25歳男性に話を聞く。
彼は、津波と地震だけなら既に復興は始まっていると言い、原発事故の影響を語る一方で、東京電力のお陰で町は発展したと語った。

翌日、一行は浪江町方面へと向かい、屋内退避勧告の出ている20~30km圏内の町で見つけた集会所の様子を窺うが、人の気配はない。
集会所から車に引き返す際、放射能防護用衣類の着脱でパニック状態を起こし、また衣類を脱ぐ際にはドアを開け放したために車内の線量も急激に上昇して、車内は不安に包まれる。
曖昧な取材姿勢と不十分な装備を自覚した4人は、福島の取材を断念して津波の被災地へと向かう。

陸前高田市で消防隊員に行方不明者捜索について話を聞き、大船渡市、仙台市市街地と、余震の続く中を取材して回る4人。
石巻市の大川小学校では、自力で我が子の遺体を捜す母親たちの口から、被災者の現実が語られる。
更に取材を続けるうちに遺体発見の現場に立ち会うことになり、その模様を撮影していると、遺族の一人から角材を投げつけられた…


震災発生直後、現地へと向かう4人は妙にハイテンションで、物見遊山に出かけるような雰囲気さえ漂わせている。
車内の線量計の数値がみるみる上昇しても、はしゃいでいるようにしか見えない。
不謹慎とさえ言える4人の言動だが、福島における放射能汚染の厳しい現実を目の当たりにし、津波被害地の凄惨な状況を目撃するにつれ、表情は険しく硬くなっていく。
そして大川小学校の遺体捜索現場で、発見された遺体にカメラを向けた際に遺族と衝突するに至って、ようやく彼らは自分たちの行動に目的を見出し、伝えるべきことを得て、ドキュメンタリストとしての本分を取り戻したのではないだろうか。
被災者へのインタビューや、遺族との話し合いの際に見せる森達也のこわばった表情が、彼らの自省の念を物語っているように思えた。


4人の姿に、阪神淡路大震災の際に、会社の営業拠点に支援に行ったときの自分を思い出した。
確かに自宅も大きく揺れ、神戸方面のすさまじい映像を報道映像で目にしていたとはいえ、どこか他人ごと、
別世界のことのような感覚だったことは否めない。
そして震災翌日、鉄道は寸断されて使えないため、大阪港から船に乗り込んで現地に向かい、神戸ハーバーランドに降り立ったときに受けた衝撃は忘れられない。

本作における4人は、悲しいかな、これが人間の真の姿というもの。
我が身に降りかからなければ、本当の思いは分からない。
しかしそのことを冷静に認識することで、不必要な過剰な哀れみを排除して、被災した人々の心に寄り添うことができるのではないだろうか。
4人の姿を指差して不快に思うのではなく、冷静に自分に置き換えて観るべきである。


大川小学校で、我が子が津波に飲み込まれてしまった母親たちの言葉が胸に突き刺さる。
マスメディアは「悲しい」「辛い」などの言葉を求めてくるが、悲しいとか辛いなどというレベルはとっくに超えている、現実問題として重機が欲しいということを伝えてくれと頼んでも、「それはうまくお伝えできません」と言って取り上げてくれない。
マスコミの在り方に一石を投じる言葉であるが、そのマスコミに民衆は何を求めているのかを表しているのではないだろうか。
またこの言葉は、被災地と被災しなかった地域との温度差を、端的かつ先鋭的に言い表している。


数ある東日本大震災に関するドキュメンタリーの中でも異彩を放つ一品。


311
2011年/日本  共同監督:森達也、綿井健陽、松林要樹、安岡卓治

「ポエトリー アグネスの詩」

2012年04月10日 | 映画
66歳になるミジャ(ユン・ジョンヒ)は、釜山で働く娘の代わりに、中学3年生の孫ジョンウク(イ・デヴィッド)を育てている。
決して裕福ではないが、常に身綺麗に着飾っている彼女は、近所でも「お洒落なおばあさん」として知られていた。
そんな彼女は、言動もどこか浮世離れしていて、いつまでも少女の面影を保っているように見えた。

ある日ミジャは右腕に不調を感じて病院で診察を受けたが、医師からは最近物忘れしやすくなったという方が心配だと、アルツハイマーの検査を受けるよう勧められる。
病院を出ると、救急車の前で人目も憚らずに泣き崩れる女性がいた。
中学生の娘が川に投身自殺をしたことにショックを受け、半狂乱状態になっていたのだった。

帰り道のバス停で詩作教室の生徒募集広告を目にしたミジャは、その広告を気に留めながら帰宅した。
毎日ダラダラと自堕落な生活態度をとっている孫のジョンウクに、自殺した女子中学生のことを尋ねるが、「よく知らない」と素っ気ない生返事を返すばかりだった。

小学生の時に教師から「将来詩人になるだろう」と言われたことを覚えていたミジャは、詩作教室に通うことにした。
講師から「見ることが大事」と聞かされたミジャは、折に触れ目にして感じたことを手帳に書き留めていく。
そんなある日、ミジャは孫の友人の父親から驚愕の事実を知らされる。
川に身を投げた少女に、孫とその友人たちのグループが、数ヶ月にわたって性的暴行を加えていたというのだ。
グループの父親たちは、総額3千万ウォンの慰謝料で少女の母親と示談にすることにし、ミジャにも一部負担するよう依頼する。
洗礼名をアグネスといった自殺した少女の慰霊ミサに出向いたミジャは、教会の入口に置かれていた少女の写真を持ち帰った。
ミジャは居間のテーブルの上に写真を置き、ジョンウクに詰問するが、孫は逃げるように自室で布団をかぶってしまう。

ミジャはアグネスに心を寄せ、彼女の“足跡”をたどり始めた…


人生の過酷さから目を逸らすように生きてきたミジャだったが、初老に差しかかった今、醜い現実が突きつけられる。
病院でアルツハイマーと診断され、孫が性犯罪に走り、訪問介護している老人男性から性行為を迫られる。
詩作教室で講師が語りかけた。
「詩は、見て書くものです。人生で一番大事なのは見ること。世界を見ることが大事です。」
詩作についての心構えとしてだけでなく、否応なしに厳しい現実にさらされることになるミジャに対するアドバイスのようだ。

アグネスの死という事実に触発されるように、ミジャは現実をありのまま見つめて、自分にできることは何かを探し求めて歩み始める。
そして目を逸らすことなく現実を直視して真摯にそれを受け入れ、自分が為すべきことと決したことを為し終えたミジャは、アグネスの心に寄り添いながら一篇の詩を紡ぎだした。

詩は難しくて書けないと嘆いていたミジャが詩を書きあげることができたのは、今あるがままの自分と現実を受け止め、しっかりと見定めた正にそのときだった。


社会の片隅に生きる人間を真摯に見つめる作風に定評のある、韓国の名匠イ・チャンドン監督の心に染みる良作。
観終わってから、じわりじわりと込み上げてくる情感が味わい深い…


ポエトリー アグネスの詩
2010年/韓国  監督:イ・チャンドン
出演:ユン・ジョンヒ、イ・デヴィッド、キム・ヒラ、アン・ネサン、パク・ミョンシン、キム・ヨンテク、ファン・ビョンスン

「ヒューゴの不思議な発明」

2012年04月09日 | 映画
1930年代のパリ。
父親(ジュード・ロウ)を火事で亡くしたヒューゴ(エイサ・バターフィールド)は、モンパルナス駅の時計台で、時計のネジを巻きながら一人で隠れ住んでいた。
彼の唯一の“友達”は、父が残した壊れた機械人形。
ヒューゴは、父の後を継いで人形を修理し、再び動かしたいと願っていた。

ある日彼は玩具店で、店主のジョルジュ(ベン・キングズレー)がうたた寝をしているスキにおもちゃを盗ろうとして見つかってしまう。
ヒューゴの洋服のポケットにあった手帳を取り上げたジョルジュは、その中身を見て驚く。
そこに書かれていたのは、不思議な機械人形の修理方法についての研究結果だったのだ。
しかし、なぜジョルジュは驚いたのか。

取り上げられた手帳を取り戻すため、ヒューゴはジョルジュの養女・イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)に協力を求めるのだが、彼女は何故か機械人形を動かすのに必要な「ハート型の鍵」を持っていた。
機械人形の秘密を探る子供たちの冒険が始まった。
それは、一人の老人の頑なに閉じた心の扉を再び開け放し、人々に夢と希望を与えるためのアドベンチャーだった…


巨匠マーチン・スコセッシが、1930年代のパリを舞台に、初の3D作品に挑戦した意欲作。
近年スコセッシは、古典映画の復元やリバイバル上映などに尽力しているが、そんな映画に対する彼の深い愛情が巧みにストーリーに織り込まれている。
劇中には『月世界旅行』や『ラ・ジオタ駅への列車到着』などの古典映画作品が登場し、彼の大先輩である映画創世記の映画監督への畏敬の念が描かれる。


子供たちの冒険を通じて、機械人形が修理され、その秘密が明らかになるにつれて、過去の夢を捨てて心を閉ざしたジョルジュを突き動かし、世の中に明るい光をもたらしていくファンタジー大作。

古典映画に再び脚光を当て、その保存の大切さを説くと共に、世界で最初の“職業映画監督”であるメリエスに贈る、スコセッシの最大級の讃辞。
物語の鍵を握る機械人形が、最初は東洋初のロボットと言われる「学天則」に見えたが、最後には「メトロポリス」のマリアのように思えてきた。


ヒューゴの不思議な発明
2011年/アメリカ  監督:マーティン・スコセッシ
出演:エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、サシャ・バロン・コーエン

「ひかりのおと」

2012年04月08日 | 映画
岡山で酪農に従事する雄介は、かつて音楽を志して東京で暮らしていた。
しかし、父親が怪我をしたのをきっかけに、家業を手伝うために故郷に戻ってきたのだが、音楽への思いは捨てきれず、また酪農を取り巻く厳しい現実の中、このまま酪農家として生きていく“覚悟”は定まらない。
恋人の陽子とも、何となくしっくりとこない。
彼女には、亡くなった夫・夏生との間に生まれた息子の亮太がいた。
夏生は、雄介の叔父である義行を慕い、酪農家としての成功を目指していたのだが、志半ばにして若くして亡くなったのだった。
また、夏生の母親は亮太を家の跡取りにと考えていて、息子と一緒に暮らすためには、陽子は夏生の実家から離れることはできなかった。
地域独特の人間関係による“しがらみ”が、時に雄介の心を煩わせ、迷いを抱かせる。

年末、妹の春子が東京から彼氏を連れて帰ってきた。
雄介の家では毎年初日の出を家族で見るのがならわしで、妹の彼氏もそこに加わる予定になっていた。
いつもとは少しだけ違う年明けを迎えようとしてた時、義行の牛舎で火事が起こった。
自分に酪農の手ほどきをしてくれた義行の窮地を目の当たりにし、雄介の心の中で何かが静かに動き出した…


産まれた土地でありながら、そこで生きていくことに迷いを抱えていた雄介。
自分は音楽で生きていこうと思っていたが、父親が怪我をしたことから漫然と家業を継いだに過ぎない。
そのまま酪農家として時が経つうち、かつて自分が暮らしてきた地域社会の中に再び溶け込んでいく中で恋人もでき、少しずつその土地に根を下ろしていくことになる。
しかし、苦しい状況が続く家業としての酪農の現実は、かつて志した音楽に対する未練を雄介に与え続ける。
音楽家として成功できなかった彼は酪農家として生きていくしかないはずだが、厳しく、煩わしい現実に直面して地に足がつかずにいた。
そんな彼に義行が言う。
「お前には家族がいるから、できるかもしれん。」
挫折の中から吐き出された言葉に、雄介は背中を押される。
家族で初日の出を見ることで、雄介の父親は家族の絆を確かめていたのかもしれない。
家族の絆こそが厳しい酪農経営を支えることになるということを、父は肌で感じていたのかもしれない。
そして、大切な人と初日の出を見る決心がついたとき、雄介の“足”はしっかりと“地”についたことだろう…


自身もトマト農家として、岡山で農業を営む山崎樹一郎監督の、初の長編作品。
地元岡山県内で、51ヵ所・100回にものぼる上映を果たし、大阪・九条の「シネ・ヌーヴォ」にて4月7日より上映が始まった。
2011年の東京国際映画祭、2012年にロッテルダム国際映画祭にそれぞれ正式出品され、第7回アジアン映画祭でも上映された本作は、ドイツのフランクフルト日本映画祭での上映も控えている。

地元で生まれた作品を、地元にしっかりと根差すことによって、作品自体に更なる力強さを持たせることができるのではないだろうか。
そんなローカル性が作品をより魅力的にし、その力は万国に共通して認められるものになるに違いない。
厳しい現実に直面しながらも力強い一歩を踏み出そうとする主人公の姿は、そのまま映画の新しい可能性と方向性を示す本作のあり様を表している。


希望の「ひかりのおと」が聞こえて心に明かりが灯る、ハートウォーミングな佳作。


ひかりのおと
2011年/日本  監督:山崎樹一郎
出演:藤久善友、森衣里、真砂豪

粘り分け

2012年04月07日 | 野球
阪神、5点差追い付く=プロ野球・ヤクルト―阪神(時事通信) - goo ニュース


早めに帰宅できたので、久しぶりに早い回からナイター中継を見ることができた。
が!テレビに映るメッセンジャーはアップアップ。
ストライクは入らんわ、球のキレは悪いわで、アッという間に5対0とされてしまい、これで終わったと思ったもの。

しかし新井、ブラゼルのクリーンアップらしい一発攻勢で追い上げ、1点差として更に攻め立てて藤川俊介にスクイズをさせて同点となったのは見事!
タイガースがスクイズを決めたシーンなど何年ぶりだろう。
少なくとも前任の真弓監督時代に見た記憶は無いが、単に自分が見ていなかっただけだろうか。
しかしなおも続いたチャンスで、平野がクソボールを振って三振したのはあまりにももったいなかった。
あの場面で必要以上に気負ってとんでもない空振りをしてしまうところが、平野の限界か!?
二流選手だとは言わないが、本物の一流の域には入れない所以だ。

8回にやっとこさ追いついた試合なのだが、そもそも7回表に正に「ラッキーセブン」となるはずの攻撃をみせていて、本当なら逆転勝ちすべき試合だったのである。
ワンアウトから死球、四球、単打で作った一死満塁のチャンス!
たまらずヤクルトがピッチャーを増渕に代えてきたが、タイガースは柴田に代打を出さず、そのまま打席に送り込んだ。
なんでも、去年増渕に対して大当たりしているので、その相性の良さを買ってのことのようだったが、柴田にそんなデータが通用するとは全く思えなかった。
そして不安はものの見事に的中し、浅いセンターフライしか打てずにランナーを返せず“犬死”。
続く鳥谷は「三振前のバカ当たり」をかまして空振り三振。
この7回の無得点で、今日は終わったと思った。
しかしホームランで追い上げ、スクイズで追いつくあたりの粘りは見ごたえがあり、よくぞ追いついたとは言える。
「粘り勝ち」ならぬ見事な「粘り分け」だった。

去年から度々書いてきたが、守備の勘も悪く、打席でも自分の特徴や役割を意識しない漫然としたスイングしかできない低レベルの柴田を、なぜ首脳陣は使い続けるのか。
よほど“つけ届け”が上手いのか、練習で首脳陣をだますのがウマいのか、レギュラーを張っている理由が全く理解できない。
もしかすると、ここまで首脳陣は我慢してきたのか!?
開幕以来使ってきたが結果が伴わなかったことから、明日ファームへ落とされていれば納得である。

さて明日の先発は、去年の“給料泥棒”投手安藤。
オープン戦の好調がフロックかどうか、復活をかけたマウンドをとくと拝見したいもの。