面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「月に囚われた男」

2010年05月06日 | 映画
いまや地球に不可欠なエネルギー源となっているヘリウム3採取のため、月の裏側へと派遣されたサム・ベル(サム・ロックウェル)。
世界最大の燃料生産企業ルナ産業との契約により、3年間の“単身赴任”生活を送るサムの仕事は、自動採掘機が月面を削り取り、抽出・精製したヘリウム3を、ロケット推進式のポッドに格納して地球へと送ること。
あとは機械のメンテナンスが主な業務で、日々の生活は退屈なものだった。
唯一の楽しみだった、妻テス(ドミニク・マケリゴット)とのテレビ電話での交信も、通信衛星の故障により途絶えて久しい。

話し相手は人工知能のガーティ。
基地内の全てを制御・管理し、サムの業務や日常生活を支援するだけでなく、彼の生命そのものを守る存在だ。
何かとサムを気遣い、声をかけてくる頼りになる相棒ではあるが、会話によって寂しさが癒されるものではない。

そんな孤独な毎日も、いよいよあと2週間を切ったある日、サムは月面車の操縦を誤り、事故を起こしてしまう。
気がつくと、そこは基地内の医務室。
どうやらガーティが救出してくれたようだが、目覚めたサムが目にしたのは、ありえない光景だった…

たった一人の人間と人工知能の“ペア”によるストーリーは、「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせる。
任務期間の満了が近づいてきたサムの身に、これまでに無い奇妙な現象が起こるのだが、それに関与しているはずのガーティが、何かを隠しているかのような様子をみせるところなど、HAL9000の再来か!?と思える。

しかし、本作における人工知能ガーティは、確かにその応対は無機質なものではあるのだが、「サムを助ける」という任務を全うするために最善を尽くす姿は、非常に人間味が感じられる。
それは、「2001年宇宙の旅」が作られた頃には無かったような、コンピューターが日常生活に溶け込んでいる昨今の状況も、多分に影響しているのではないだろうか。
人工知能の発達も目覚しく、人間との“距離感”が近くなっていることの現われと言えよう。
SF作品も時代と共に進化するのである。

デヴィッド・ボウイの息子であるダンカン・ジョーンズが監督・脚本を務めたことも話題となったが、ナショナル・ボード・オブ・レビューで新人監督賞を受賞するなど、多くのアワードで絶賛されたのも納得。
月面基地という閉ざされた空間で繰り広げられるシチュエーション・スリラーの傑作。


月に囚われた男
2009年/イギリス  監督・脚本:ダンカン・ジョーンズ
出演:サム・ロックウェル、ドミニク・マケリゴット、カヤ・スコデラーリオ、ベネディクト・ウォン、マット・ベリー、マルコム・スチュワート


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