面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「三池 -終わらない炭鉱(やま)の物語-」

2006年11月27日 | 映画
1997年3月30日、日本最大規模を誇る三池炭鉱が閉山した。
江戸時代から連綿と続いてきた鉱山の歴史。
それを「負の遺産」と言う人がいる。
囚人労働、朝鮮半島からの強制連行、三池争議、炭じん爆発事故。
「負の歴史」と言える出来事があったのは確かである。

しかし三池炭鉱には、そんな暗い事実をはるかに上回る、輝かしい歴史がある。
そして過酷な労働に従事し、誇り高く炭鉱(やま)に生きた、多くの人々の人生がある。
熊谷監督は、産業振興の原動力として「黒いダイヤ」と呼ばれた石炭の産地であり、戦後日本の復興に大きく貢献した三池に生きた人々の声を丹念に拾い集めて、7年がかりで本作を完成させた。
いたずらに三池を礼賛することなく、負の歴史にも真正面から向き合い、閉山された三池が決して過去の遺物として忘れ去られることのないよう、未来への思いが込められた、珠玉のドキュメンタリー映画。

自分がこれまで三池に関して知っていたことと言えば、「炭鉱節」と甲子園優勝校である三池工業、そして確か社会(政経?)で習った三池争議。
九州地方の皆さんには失礼ながら、三池市とか三池町というところがあると思っていて、大牟田市であるという意識は全くなかった。
だいたい、その程度であるから、三池炭鉱の正確な位置も知らなかったのである。

20あまりの坑口(坑内への入口)を持ち、その坑道は有明海の下に迷路のように延びていて、最も深い所では海面下600メートルにも及び、石炭を掘るトンネルの先端まで、坑内電車を乗り継ぎ(炭鉱内に電車が走っていたのも驚き!)1時間かかることもあったという規模、一時は全国の石炭の4分の1を掘り出していたという産出量、そして今なお莫大な量の石炭が埋蔵されているという、物理的な事実に、まず驚いた。

そしてそこに生きる人々の凄まじい話に息を呑んだ。
戦時中、三池の採掘に駆り出され、あまりに過酷な労働に耐え切れず、自傷して…それも自分で手足の骨を折ったり指を潰したりして逃れようとしたという元アメリカ兵捕虜の話は圧巻であった。
朝鮮半島や中国の農村から強制連行された人々がいたことは知っていたが、捕虜を酷使していたことは知らなかった。

もちろん、強制労働の話だけではない。
炭住(炭鉱労働者のための社宅)の人々の、活き活きとした明るい生活。
常に死と隣り合わせという過酷な状況に裏打ちされた豪快さ。
「根性の入り方」が違う世界だ。

今や日本国内では北海道の釧路だけとなった炭鉱。
その歴史を忘却の彼方に押しやってしまってはいけない。

三池-終わらない炭鉱の物語-
2005年/日本 監督:熊谷博子 ナレーター:中里雅子