面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「寝ずの番」

2006年05月13日 | 映画
このブログに何度か訪れていただいた映画好きな方なら、このネタが出ないはずがない、と思われていたのでは?

実はもちろん(!?)公開初日に観に行った。
梅田のガーデンシネマ、午前中に行って2時台の回の整理券をもらおうとしたら、既に79番て!
そして上映前に再度劇場に行くと、人人人…。
入口には立ち見の客が既に列を作っている。
前の回の観客が場内から吐き出されてくるのと入れ替わりに、整理券を持った観客が殺到し、フロアは人であふれかえっていた。
にしても、平均年齢がエライ高い。。

愛読していた『啓蒙かまぼこ新聞』の作者であり、カネテツのてっちゃんの産みの親である中島らもが原作。
まくらで「病院を抜け出してまいりました」というネタを振りつつ、振り絞るような声で『暫寄席』での最後の高座をつとめた姿が今も脳裏に焼き付いている笑福亭松鶴がモチーフの一人。
その松鶴の十八番と言われ、彼の持ちネタの中でもやはり好きな噺の一つである『らくだ』の中に出てくる死人のカンカン踊り。
この「死人(しびと)」が、落語の噺の中では「しぶと」と発音されるのだが、その語感に何となく惹かれる。
中島らも、笑福亭松鶴、“しぶとのかんかん踊り”。
この3つのキーワードが、心の琴線に触れるどころの騒ぎではなく、琴線を掻き鳴らす!

木村佳乃がパンツを脱ぐということで話題になった冒頭のシーンで息を引き取る、上方落語の大看板・笑満亭橋鶴の葬式。
その直後、一番弟子の橋次が突然ポックリ逝って葬式。
そして最後は、橋鶴の女房・志津子が亡くなって、また葬式。
葬式が3つも連なり、全編これ葬式シーン。
伊丹十三監督の『お葬式』を凌ぐ“葬式映画”である。
(そんなジャンルあるかよ!?)
葬式での故人を偲ぶシーンで語られる様々なエピソードは、かつて噺家の誰かから聞いたような話ばかりではあるが、アホ丸出しなストーリー展開の中に、“粋”が散りばめられている。
特に、志津子の葬式における春歌合戦は圧巻!
堺正章と中井貴一の、○○○と×××のシモネタ系放送禁止用語の連発には度肝を抜かれる。
更に共演の女優陣も三味線に合わせて、声高らかに“単語”を歌い上げるのには恐れ入る。

テレビで放送できるのだろうか?
地上波は絶対無理だろうが、WOWWOWなら大丈夫か、などと大きなお世話な心配をしてしまうこの作品。
若い頃から映画スターとして粋に遊びまくったであろう、津川雅彦改めマキノ雅彦監督の、“粋”に対する思いが込められている。
もちろん、粋は春歌にだけあるのではない。
志津子が橋鶴に惚れるキッカケとなった都都逸には、はんなりと華やかで粋なお茶屋遊びの残り香が漂う。
“粋”への温かい眼差しが感じられる佳作。

このユーモアとウィットを理解できる余裕、一心不乱の金銭欲を剥き出しにする我利我利亡者どもは、持ち合わせていないんだろうね。
お金になんないし。
そんな彼らは、もはや日本人ではない。
(あれ?なんか政治臭い!?)

寝ずの番
2006年/日本 監督:マキノ雅彦
出演:中井貴一、木村佳乃、堺 正章、長門裕之、富司純子、笹野高史、岸部一徳