青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」 2022.4.13

2022-04-14 08:15:37 | コロナ、ウクライナ紛争、ギリシャの蝶




・・・・・・・・・・・・



Ⅰ 民主主義



【親ロシア野党指導者でプーチン氏友人のメドベチュク氏を拘束】



>ウクライナ当局は、親ロシアの野党「プラットホーム生活党」の指導者で、ロシアのプーチン大統領の友人とされるメドベチュク氏の拘束を明らかにした。ゼレンスキー大統領はSNSに手錠をされた迷彩服姿のメドベチュク氏の写真を投稿し「特殊作戦が実行された、よくやった!」とコメントした。



・・・・・・・・・・・・・



Ⅱ 学者



学者の方々は、知能も感性も優れているんだ、ということは、よくわかりました。



その人たちから見れば、僕なんか、まるで無知で、人間としての重要な感性が欠けているんでしょうね。



【東大入学式での映画監督の河瀨直美さんの祝辞が波紋を呼んでいる】



>例えば「ロシア」という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されて、ものの本質を見誤ってはいないだろうか?誤解を恐れずに言うと「悪」を存在させることで、私たちは安心していないだろうか?

こうした見方を紹介した上で「自分たちの国がどこかの国を侵攻する可能性があるということを自覚しておく必要がある」と新入生たちに訴えた。「自制心を持って」侵攻を拒否することを促していた。



その祝辞に対して、国際政治学者からの批判が相次いでいる。



国際政治学者・慶應義塾大学細谷雄一教授

>ロシア軍が殺戮している多くは妊婦や子供など罪のない一般市民。他方でウクライナ軍は、自国の国土を蹂躙して、市民を殺戮するロシアの侵略軍を撃退している。この違いを見分けられない人は、人間としての重要な感性の何かが欠けているか、ウクライナ戦争について無知か、そのどちらかでは。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「萌葱Books」新刊紹介


春の女神ギフチョウLuehdorfia japonicaの姉妹種、エーゲ海の春の女神モエギチョウ(旧名のシリアアゲハ/ニセアポロ/ムカシウスバから改称)Archon apollinus。両者は外観こそ著しく異なりますが、基本形質の比較や、DNAの解析によれば、姉妹集団であることが分かります。この両属(および両者を結びつける化石種)でギフチョウ族Luehdorfiiniを形成します。ユーラシア大陸の東西に遠く離れて生き続ける“姉妹たち”に会いに、エーゲ海の小島を訪ねました。そこで見た“実際の生きた姿”は、まさしくギフチョウそのもの。その観察記です。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





今日も、同じ場所に行きました。アテネ中央駅から30分のアフィドネスという小さな駅の周囲の草地。



昨日写し損ねたルリシジミ一本に絞ったのだけれど、また写し損ねてしまった。同じ時間帯に同じ場所に現れました。でも止まってくれない。



そういえば、去年の霞丘陵でも、ルリシジミの撮影には苦労しました(初日に出会ってから後、ほとんど見ることが出来なかった)。世界的普通種のはずですが、東京でもアテネでも、なぜか苦戦しています。まさか世界で一斉に勢力が急衰している、なんてことはないと思いますが、、、。



でも、彼らの末裔のオガサワラシジミも絶滅しちゃったことですし、



イラクのクルド地方のルリシジミの地域集団が、オガサワラシジミのアイデンティティを探るにあたってカギを握っている。クルド地方は、トルコの南縁で、ギリシャからもさほど遠い地ではありません。ということで、ギリシャのルリシジミも、この機会にチェックしておきたいのです。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



モンシロチョウは、別の独立項目で纏めて紹介する予定ですが、ちょっとだけお披露目。













モンシロチョウ

解説は、、、、始めだしたら終わらないと思うので、何も書きません。

●モンシロチョウ

●ミナミモンシロチョウ(モンシロチョウに酷似します、山際じゃないといないのかも)

●イワバモンシロチョウ(やはりモンシロチョウに似ていますが、血縁的にはエゾスジグロチョウに近い)

●エゾスジグロチョウ(ギリシャ産も日本産同様に、複数種に分割する見解あり)

●クレペリモンシロチョウ

の各種がギリシャにいるはずですが、アテネ近郊で見ることができるのは、全てモンシロチョウのようです。







ほかに、上記各種より一回り大型のオオモンシロチョウがいます。世界的に見れば、こちらが本家“キャベジ・ホワイト”で、モンシロチョウのほうは“スモール・キャベジ・ホワイト”。世界のあちこちに拡散しているようですが、なぜか日本(本州)には侵入してきていません。ただし北海道には侵入帰化済みです(東アジア産はヨーロッパ産とは別系統?)。写真は交尾ペア。













チョウセンシロチョウ属は、モンシロチョウ属とは別のPontia属ですが、基本形質は両者の間に有意差はなく、属を統合する(Pierisに含める)見解があっても良いと思います。オオモンシロチョウ同様に、ユーラシア大陸に広く分布する(ヨーロッパ産と東アジア産は別種とする見解あり)のに、日本には分布していないという種の一つです。北海道に侵入帰化しているオオモンシロチョウと違って、本州や九州の日本海側で、稀に“北からの迷蝶”として記録されています。












Coenonympha pamphilus。今日、最も沢山いた蝶の一つです。非常に小さな蝶で、飛翔時には一見ベニシジミのようにも見えます。ヒメヒカゲ属は日本には2種、ヒメジャノメが本州のごく限られた山地草原に、シロオビヒメジャノメが北海道の一部地域に分布しています。一方。ヨーロッパには非常に多くの種が分布していて、その中で最もポピュラーなのが、この“Small heath/小さな荒地の蝶”です。日本のヒメヒカゲが(山地草原の激減に伴って)衰退の一途にあるのとは対照的に、いたるところで見られるようです。日本とは違って、どこにでも“草地・荒地”が残っているわけですから、ある意味当然なのかも知れません。









クモマツマキチョウの雌(3日前に撮影)。日本では「高山蝶」の一種として認識されていますが、中国大陸の一部やヨーロッパでは人里の蝶です。雄は“Orange tip”の名の通り前翅の上半分が鮮やかなオレンジ色、一方雌は白黒、先に紹介したモンシロチョウの仲間のチョウセンシロチョウとよく似ています。この写真は、全く偶然なのですが(あるいは必然?)、蝶の翅裏の色や模様が、周囲のトウダイグサの一種の色調に見事に溶け込んでいます。考えてみれば、とても不思議です。





アテネ中央駅。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」 2022.4.12

2022-04-13 08:21:36 | 里山、蝶、ギフチョウ




5日続けて、同じ場所に行ってきました。正確には4回目ですね、昨日は列車に乗り損ねて行けなかった。いつもは8番線から出るのに、昨日は7番線、2時間おきにしか運行していないので、行くのをやめたのです。行きは8時51分か10時51分、帰りは13時17分か15時17分、と決めています。今日は後者です。ゲストハウスからアテネ・ヴィクトリア駅まで10分、アフィドネスまでの所要時間30分(行きは2.5ユーロ、帰りは概ね無料)。



パソコンを開いたまま机に置いて出て行くので、あまり遅くに帰ってくるわけにはいきません。午後に帰ってきても、大抵僕一人ですが、夕方になると、誰かがやってきます。



さっきボストンのお婆ちゃんが僕の隣に座ってパソコン打ち始めました。しょっちゅう話しかけてくるので、落ち着いて作業ができません。悪のロシアの兄ちゃん、今夜は来るだろうか? 正義のお婆ちゃんに、また罵倒されそう。他人事ながら心配してます。



というわけで、(作業に集中出来ないので)今回のブログで書こうと思っていたモンシロチョウ(&キャベツ・ダイコン・菜の花)の話題は次回まわし。適当に今日の成果を報告しておきます。



この際、ギリシャの蝶、なかんづくcommon butterfliesを極めようと考えています。でも、ギリシャの、それも普通種の蝶などに興味のある人なんて存在するのでしょうか? 蝶マニアの人たちは見向きもしないでしょうね。あくまで普遍的な観点から、ヨーロッパ(ギリシャ)と東アジア(日本)の、身近な自然の比較(たまたま題材がチョウ)ということで。



モンシロチョウ&アブラナ科植物関連、モンキチョウ&マメ科植物関連の写真と記事は別の機会に纏めるので、ここではそれ以外の題材を紹介していきます。






駅のすぐそば、4日間通っています。















おじいちゃんが何かを探しながら歩いてきました。

僕:

こんにちは。何してるんですか?

おじいちゃん:

この草を摘んでんだよ。すごくおいしいんだよ。食べてみな!



いやもう、素晴らしく美味しい!!!

アスパラガスを100倍おいしくしたぐらい(オーバーじゃないです)。









ヨーロッパナラ、すなわち“オーク”です。日本で言えば分類上は(たぶん)ミズナラに近く、生態的地位はコナラに相当します。分布図をチェックしたら、ちょうどこの辺りが分布南限になっています。ほかのポピュラーな生物たちについても概ね同じことが言えますが、なんせ現代人類文明の発祥の地と言っても良いギリシャです。人類登場以前の背景から言っても、ヨーロッパ(地中海周縁)と中東(西アジア)のジャンクション。多くの身近な(人間生活に結びついた)生物たちが、この地における“ネイティブ(在来種)”であるかどうかを見極めるのは、非常に困難だと思います(もしかすると不可能かも*)。*“在来種”の定義に関与してくる。







ゲッケイジュ(クス科)。日本でもあちこちで植栽株が見られますが、本場での遭遇は、また格別です。





昨日も紹介した“ボロギセセリ”。なんか、我ながらこの和名(熱帯アジアのタテハチョウで“ハレギチョウ”なんてのもいる)の命名は気に入っています(笑)。よく見ると新鮮個体なんですね。でも「襤褸着」。ボロ着でも立派な衣装です。スーリンが買ってくれたジャケットは、ずっと着ています。前回ブログで説明したように、本種は「同族種」が日本に分布していない、数少ないヨーロッパ産の蝶のひとつ。それはそれでなかなか興味深いことと思います。











アトランタアカタテハVanessa ataranta。英名“Red Adomiral赤い海軍大将”。ヒメアカタテハCynthea cardui “Painted Ladyおめかしした貴婦人”とセットです。ペインテッド・レデイが(オーストラリアなど少数の地域を除き)世界中に広く分布しているのに対し、レッド・アドミラルはユーラシア大陸の西半部に分布、東半部ではインディアン・レッド・アドミラル(アカタテハVanessa indica)に置き代わります。ほかに、東南アジアの島嶼部にもう一つの近縁別種が分布、アカタテハとの間には非常に興味深い種間関係があり、僕はそれを再構築して日本鱗翅学会の総会で発表したことがあります。また、ハワイ固有種のカメハメハバタフライVanessa tamehamehaとアカタテハやアトランタアカタテハの関係も非常に興味深く、僕は「科学朝日」という雑誌で、その生態を詳しく紹介したことがあります。いずれも25年ほど前のことですが、今もって追従研究がなされていないのは、寂しく感じます(僕自身でやらねばなりませんね)。





クレオパトラヤマキチョウGoneptryx cleopatra雄。ヤマキチョウ属は日本に2種が分布しています。日本では2種とも山の蝶ですが、ポピュラーなのはスジボソヤマキチョウ。ヤマキチョウのほうは分布が極限され、多くの産地で絶滅の危機に面しています。しかし国外では必ずしもそうとは限りません。台湾や中国大陸からヨーロッパにかけても(一応別種とされてはいますが)ヤマキチョウ系統の種とスジボソヤマキチョウ系統の種が混在していて、中国大陸では、日本とは反対にスジボソヤマキチョウはかなり奥深い山間部のみに棲息、ヤマキチョウ(の近縁種)のほうが大都市近郊などにも普通に見られたりします。ヨーロッパに於いても似た状況にあるようで、ヤマキチョウの系統に属するクレオパトラヤマキチョウのほうが比較的普通に見られるようです。





クレオパトラヤマキチョウの産卵。





クレオパトラヤマキチョウの雄の翅表は、鮮やかなオレンジ色を呈しています。しかし(キチョウやモンキチョウなど他のキチョウ族の種同様に)静止時に翅を開くことがないので、飛翔時にしかそれ見ることができません。









静止後ちょうど一分間、同じ角度から25コマの写真を撮影しました。2秒ちょっとで一コマの計算です。これは最後のほうの3枚(20~22コマ目)。赤いダニの位置に注目してください。約5秒間。ほとんど瞬間移動です。





午後3時47分、アテネ中央駅に戻ってきました。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」 2022.4.11

2022-04-11 20:51:01 | 里山、蝶、ギフチョウ





ベニシジミLycaena philaeas











パロス島 2022.3.16

パロス島滞在40日間で、唯一撮影した蝶。オリーブ畑の下に咲き乱れるお花畑の中ではなく、その脇の土塊の上にとまっていた。







アテネ近郊アフィドネス 2022.4.9

線路の脇(昨日アップした写真と同じ)の草叢にいた。









アテネ近郊アフィドネス 2022.4.9

昨日と全く同じ場所に出現。





 
中国と東アジアの蝶 キンイロフチベニシジミ



ベニシジミの仲間の全体像については、↑「週刊中国の蝶1月1日号“キンイロフチベニシジミ”」を参照してください。



ベニシジミ族は世界に広く分布、南米、アフリカ、オセアニア(ニューギニア)には少数種が知られるのみだが、ヨーロッパ、中国大陸、北米大陸、熱帯アジアなどには、多数の種が繁栄している。ただし日本には1種(ベニシジミ)しか分布せず、台湾にも1種(ウラフチベニシジミHeliophorus epicles)のみが分布する。



いくつもの小グループ(属またはそれに準ずるタクサ)に分割され、狭義のベニシジミ群(亜属Lycaena)は、ヨーロッパからアジアを経て北米大陸に至る北半球温帯域に広域分布するベニシジミLycaena philaeasと、アフリカ東部のアビシニア高地に分布するヒイロベニシジミLycaena abbottiiの2種からなる。ヒイロベニシジミは外観がベニシジミとは著しく異なるが、雄交尾器の形状には全く差異がなく、従って種としてはベニシジミに含める見解もある。



最も狭義のベニシジミ群はベニシジミ一種のみから構成されるという見解がある一方、(ヒマラヤ地方産や中国西南部産を独立種と見做すなど)いくつかの種に分割される可能性もある。



日本では北海道北端から九州南端まで分布し、各地で普遍的に見られるが、屋久島以南には在来分布していない。ひとつの法則があるように思われ、ユーラシア大陸温帯域に広く分布する種は屋久島以南には分布せず原則九州本土止まり、周日本海分布様式の種の多くは屋久島まで至り、屋久島産は多少なりとも特化している。ベニシジミは前者の典型で、屋久島には分布していなかったが、著者は2006年に移入個体を確認、現在は定着しているようである。



中国大陸の状況は、日本列島とはかなり異なる。北部(中国東北地方など)では、日本同様に普遍的に見られるようだが、中~南部では必ずしも普遍的な種ではないように思われる。



おそらく異なる由来の集団が2極分布していて、東部、例えば上海の近郊では都市周辺を含む低地にも見られ、外観や生活様式も日本産に似ているよう思われるが、多くの同族種が棲息する中国西南部では、種ベニシジミは、どうやら高標高地に限られる希少種のようである。中国南西部高標高地産はおそらく年1化、春型のみが出現し、外観の印象は、日本産や中国北‐東部産よりもヨーロッパ産に似ているように思われる。



北米大陸産も興味深い。中国大陸同様に2極分布している可能性があり、東部(低標高地を含む)産はヨーロッパ産と関連が深く(人為移入ともされるが必ずしも絶対的な結論ではない)、中‐西部の高標高地に希少分布する集団は、 地史的な時間レベルでは比較的新しい時代まで東北アジア産と交流を持っていた集団であろうと考えられる。



日本でもギリシャでも普通種だが、興味深いテーマを数多く内包していて、今回出会うことが出来て嬉しかった蝶の

一つである。



・・・・・・・・・・



「萌葱Books」新刊紹介 
春の女神 日本のギフチョウの姉妹種ギリシャのモエギチョウ







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春の女神ギフチョウの姉妹集団としての“モエギチョウ萌葱蝶(旧名:シリアアゲハ、ニセアポロ、ムカシウスバ)Archon apollinus”について

2022-04-11 14:27:12 | 里山、蝶、ギフチョウ




春の女神ギフチョウの姉妹集団としての“モエギチョウ萌葱蝶(旧名:シリアアゲハ、ニセアポロ、ムカシウスバ)Archon apollinus”について

【新刊紹介】





「萌葱Books」新刊紹介








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」 2022.4.10

2022-04-11 08:29:22 | コロナ、差別問題と民主化運動、蝶








「萌葱Books」新刊紹介






・・・・・・・・・・・・・・・・



アテネのゲストハウスで、ロシアの若い男の子(外交官?実業家?)と仲良くなりました。アメリカのおじいちゃん(探検家)とも仲良くなりました。イランのおっちゃんとも、、、。



さっきから、そのおじいちゃん(沢山本出してます)がいろいろ話かけてきて応答に苦労しています。写真沢山見せてくれた。ぜひ北の国境地帯に行きなさい、と言われたのだけれど、旅費がないので、、、、と答えておきました(バス代は安いそうです)。



そろそろロシアの若者も戻ってくると思うので、ゆっくりしてられません。



ロシアと言えば、、、というか、今更ですが、、、。



「駐日ロシア大使がメディア代表者と会見」というニュース。



ちなみに、大使はノーマスク、メディアの人はマスク。なんか滑稽ですね。



ロシア側

>でっち上げだ、事実ではない。



日本メディア

>事実ではないと、どうして言える



ロシア

>じゃあ、どうして事実と言えるの?



メディア

>事実だから事実。



・・・・・・・・・・・



4年前の春、三世の「チエチエブログ」に、「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」を、しばらくの間、連載していました。

三世

>青山先生、ギリシャの蝶について書いてください。



>無理だよ。何の知識も、何の興味もないんで。

三世

>そこを何とか



>じゃあ「日本とギリシャの蝶相の比較」というテーマで、でっち上げましょう。



というわけで、自分で撮影した写真は一枚もありません(そもそもヨーロッパ行ったことがないし)。自分の写真は中国の蝶を使って、ギリシャの蝶の写真や知識はインターネットからの寄せ集めです。あくまで仮処置ということで、途中で終えるにあたって、「来年はギリシャを訪れて自分で撮った写真を使って再開します」みたいなコメントを付しておきました。



そのまま3年間ほったらかしにしていたのですが、やっとその(読者のみなさんとの)約束を実現するに至ったのです。



もっとも、今回まじめに取り上げたのは、チエチエブログ「ギリシャと日本で対応する興味深い数種の蝶について」第五回 (2019年2月12日~2月18日アゲハチョウ科・下)で“近々実際の調査行を予告”した「春の女神」の姉妹種シリアアゲハ(モエギチョウに改称)だけですが。



*興味のある方は冒頭に紹介した新刊をご購読頂ければ幸いです。



それ以外の蝶については、今回は片手間です。



2月11日から3月21日まで40日間滞在していたパロス島は、予想外に猛烈に寒く、大荒れの天候が続き、室内での原稿書きに専念していたこともあって、屋外での撮影自体をほとんどやってません。唯一撮影した蝶が、自室の目の前に広がるお花畑の隅っこにいたベニシジミ一頭だけです。



本来の目的地のサモス島には、3月23日から4月5日まで2週間(14日)滞在。それまでとは打って変わって好天に恵まれました。やっと春がスタートですね。目的のモエギチョウは非常に多くの個体を撮影できたのですが、それ以外はわずかな種にしか出会っていません(島滞在の最終日になって多くの種が出現し始めた模様)。



4月6日から、この後帰国日の5月5日までの一か月(30日)間は、アテネに滞在予定。安宿に泊まって、再びインターネットを使ってデスクワークです。天気が良い日は、近所の丘に撮影に行きます。



資金がないため、遠出は出来ません。山間部の蝶は次回回しで、今回は「ギリシャ・アテネ、近所の丘の蝶」ということにしておきます。幸いゲストハウスが鉄道中央駅のすぐ近くです。アテネ近郊区間路線の北端駅「ハルキダChalkida」行きの列車(ほぼ2時間に一本運行)に乗り、窓から蝶のいそうな環境を適当にチェックします。30分後、運賃2.5ユーロのアフィドネスAfidnes駅で下車。ここで、4月8日~10日の3日間撮影しました。









な~んもないところです。ぽつんと駅舎があって、向かいにレストランが一軒(写真)。あとは概ね原っぱ(菜の花畑)です。







とりあえず、線路上をひたすら歩きます。周りには野の花が咲き乱れて、最高の環境です。快晴無風、最高の天気です。でも蝶がいません。1時間ほど歩いて、適当に山腹を登ります。さらに素晴らしいお花畑が続くのですが、蝶はいないときはいないものです(山火事後で木々が黒焦げになってしまっていることも原因の一つかも知れませんが)。















2日目(4月9日)3日目(4月10日)は、駅のすぐそばで撮影しました。野の花が咲き乱れる広い草原よりも、むしろ路傍の草叢のほうに、蝶が多いような気がします。





今のところ、この後も同じ場所で観察を続ける予定(随時ブログで報告していきます)ですが、とりあえずここまでに撮影した蝶のまとめ。パロス島でのベニシジミ、サモス島でのモエギチョウ(およびシロタイスアゲハ)以外の数種、それにアテネ近郊(Afidnes)を合わせて、以下が現時点で撮影した種です。 

ベニシジミ

モンシロチョウ&オオモンシロチョウPieris brassicae

クモマツマキチョウ

モンキチョウ(ミナミモンキチョウColias australis)

ヤマキチョウ(クレオパトラヤマキチョウGonepteryx cleopatra)

キアゲハ

アカタテハ(アトランタアカタテハVanessa atalanta)



いずれも、世界的にごくポピュラーな蝶。日本にも同一種または近縁種が棲んでいます。



あと出来れば帰国日までに写しておきたい春の蝶は、

ミナミモンシロチョウPieris manniiとエゾスジグロチョウ

黄色いクモマツマキチョウAnthocharis damoe or gruneri

コツバメ(近縁種Callophrys rubi)とミヤマセセリ(近縁種Erynnis tages)

ルリシジミとツバメシジミ(ミナミツバメシジミCupido alcetasを含む)

パルナッシウス(クロホシウスバシロチョウParnassius mnemosyne)

越冬タテハ(ヨーロッパヒオドシNymphalis polychlorus、ミナミシータテハNymphalis egeaなど)

および、タイスアゲハZerynthia polyxena。

イピクリデス(アオスジアゲハの仲間)は3年前の夏にどっさり写した(未回収の修復HDD内に保存)ので、特に必要なし。



最後の2種以外は、日本との共通分布種(または近縁種)です。



ちなみに今日(午前中数時間だけ訪れた)は、全く日本に共通グループの蝶がいない種を撮影しました。セセリチョウ科チャマダラセセリ亜科のCarcharodus lavatherae。同亜科のチャマダラセセリともミヤマセセリともダイミョウセセリとも、族Tribe単位で異なる、別のグループに所属します。和名は「ボロギセセリ」とでもしておきましょう。ちょっと可哀そうかな?





ボロギセセリ Carcharodus lavatherae




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第5のギフチョウは、ここにいた! エーゲ海の「春の女神」モエギチョウ 【その5】

2022-04-06 07:44:29 | 里山の自然、蝶、ギフチョウ




モエギチョウ(旧名・シリアアゲハ)Archon apollinusは、一見した姿こそギフチョウ属とは全く異なりますが、実は遺伝的に最も近い血縁にある“姉妹種”です。

萌え始める樹々の薫りと光と風の物語【その5】

The story of early spring, budding of trees, fragrant, light and wind,,,,,





サモス島滞在の最終日。クモマツマキチョウも沢山出現しだした。2022.4.4‐10:36





2022.4.4‐10:38





2022.4.4‐10:38





なぜかこの日のモエギチョウは、タンポポ連の花で吸蜜中の個体に多く出会った。2022.4.4‐11:25





2022.4.4‐11:23





2022.4.4‐11:26





2022.4.4‐11:42





2022.4.4‐11:36





2022.4.4‐11:32





突然シロタイスアゲハが出現。一見、ある種の我を大きくしたようなイメージ。2022.4.4‐12:14





シロタイスアゲハAllancastria cerisyi。ギフチョウやモエギチョウ同様にウスバシロチョウ亜科の一種。ただし

別グループのタイスアゲハ族Zerynthiiniに所属する。2022.4.4‐12:14





飛翔時はモエギチョウと紛らわしいが、その飛翔スタイルは、モエギチョウやギフチョウに比べて、明らかにダイナミックだ。2022.4.4‐12:15





2022.4.4‐12:33





2022.4.4‐12:33





2022.4.4‐12:32





2022.4.4‐13:17





2022.4.4‐12:33





なんと、これまで一度も訪花を確認できなかった白いキク族の花でも吸蜜。2022.4.4‐13:18





これは雌。最終日になって、なんとなく雌雄の区別がつくようになった気がする。2022.4.4‐13:52





オリーブ畑の林床のあちこちにも、ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属Aristolochia spp.が生えていることが分かった。

それにしても、この特異な花姿。まさに“馬の鈴草”。2022.4.4‐13:46





手掴みで採った雄。ゲニタリアをチェックした後、逃がしてやった。2022.4.2‐15:33





雌。“原始アゲハ”としては例外的に、スフラギス(sphragis交尾嚢)らしきものが形成されない。腹部をかなり

強く押さえつけてチェックしたのだが、手を離すと何事もなかったように飛んでいった。2022.4.4‐13:54








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

出版物のお知らせ

2022-04-04 08:55:33 | 雑記 報告




























以上(おそらくその他にも多数)僕の本がネット上で発売中のようです。しかし僕(青山)自身はその状況を正確に把握していません。改めて整理し直し、「青山潤三写真事務所」からの販売準備を再開いたします。



なお、著者への援助基金は、次の口座に振り込んで頂きたく、お願い致します。



三井住友銀行 大船支店 普通口座 7012686 アオヤマ ジュンゾウ








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第5のギフチョウは、ここにいた! エーゲ海の「春の女神」モエギチョウ 【外伝】

2022-04-03 07:45:14 | 里山の自然、蝶、ギフチョウ




昨日のブログに、「萌葱Books新刊:明日発売予定!」と紹介しましたが、印刷期間の関係もあるため、1週間前後遅れての刊行となります。正確な日にちが決まり次第、追ってお知らせいたします。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



年に一度、早春にだけ姿を現すギフチョウは、日本の自然愛好家にダントツの人気のある蝶だ。



本来は、日本を含む東アジア独自の植生である「中間温帯林(クリ・コナラ林)」に結びついた、遺存的な生物。その環境が、人間の手によって「里山」として置き換えられて、そこで繁栄していった。



昔は東京の近郊にも数多くいたが、「里山」の衰退に伴って、今はほとんどの産地で絶滅した。



日本の本州固有種。



永らくの間、同属種は日本の北部と日本海の対岸地域に分布するヒメギフチョウ、中国の長江流域に分布するチュウゴクギフチョウの3種とされてきたが、1980年代になって、中国の陝西省から湖北省にかけての山地帯で、第4の種オナガギフチョウが発見された。



*2人の中国人老教授による“新種記載の先陣争い”は、滑稽でもあり、それ自体が一つの物語(悲喜劇)にもなる。



*数年後、僕はその探索に向かった(スパイ容疑で監禁されたりもした)。



第5のギフチョウ(あるいはギフチョウの祖先種)は、存在するのだろうか?



実は、一時期、存在が確実視されていたことがあった。



ギフチョウ属の分布圏の西(中国西南部からヒマラヤ東部にかけて)に4種が分布するシボリアゲハ属の1種で、外観がギフチョウにそっくりな、「ユンナンシボリアゲハ」が、それにあたる(いわばギフチョウの祖先)と考えられていた。



しかし、超希少種で、標本は大英博物館に所蔵される雌一頭だけしかなかった(従って系統分類に不可欠な雄交尾器のチェックは叶わなかった)。



ギフチョウ研究の第一人者である大阪自然史博物館の日浦勇氏は、その唯一の標本から得られた諸形質を詳しく分析して、この蝶が、シボリアゲハ属よりも、むしろギフチョウ属に類縁が近い、非常に原始的な種であると喝破した。そして、1種で独立属を形成する「ユンナノパピリオ属」を設立した。



前述した「第4のギフチョウ(オナガギフチョウ)」が発見されたのは、そのすぐあとのことである。オナガギフチョウと(唯一標本が存在する)ユンナンシボリアゲハはとてもよく似ていて、この蝶が「ギフチョウの祖先」である可能性は、いやがおうにも高まった。



しかし皮肉なことに、オナガギフチョウ発見から間もなくして、それまで一頭の雌標本しか存在しなかったユンナンシボリアゲハが、四川省最高峰ミニャコンガの氷河の袂で、12人のクライマーの命と引き換えに、大量に採集されたのである。



日浦氏の愛弟子でもある九州大学の三枝豊平教授が、その全貌(特に雄交尾器の構造)を調べることになった。その結果は、予想に反して、、、、見かけがギフチョウそっくりであるにも関わらず、雄交尾器をはじめとした体各部の形質は、(見かけが大きく異なる)ほかのシボリアゲハ属の種と、ほぼ全く変わらないことが判明した。ギフチョウとの著しい類似は「他人の空似」に過ぎなかったのである。



三枝教授は、苦悩した。ある意味、日浦氏の研究を補佐するつもりで任に当たったのに、期せずして恩師日浦勇氏の一世一代の業績を抹殺してしまうことになったのである。しかし研究者としては、個人の情に囚われることは出来ない。心を鬼にして、論文を書き上げた。脱稿を成したその夜、九州から遠く離れた奈良県の研究室で、稀代の天才蝶研究者・日浦勇は、急性心筋梗塞に襲われ、蝶の標本を手に持ったまま、50歳の生涯を閉じたのである(その前後の僕との交流は別の機会に記す)。



天才、ということで言えば、三枝教授も天才である。この時の「ユンナンシボリアゲハ」の研究論文は、単にギフチョウ属とシボリアゲハ属の比較に留まらず、両属を含む近縁各属、すなわち、「タイスアゲハ族」を構成する、東アジアのギフチョウ属、シボリアゲハ属、ホソオチョウ属、ヨーロッパのタイスアゲハ属、シロタイスアゲハ属(いずれも狭い地域に分布する1~数種から成る)の比較を、徹底して行った。また、同じ“原始アゲハ”の一員である、西アジアのイランアゲハ(一族一種)と、北半球の寒冷地に多数の種が繁栄するウスバシロチョウ属との比較も、詳しく行った。いやもう、この上もなく詳細な、完璧ともいえる、素晴らしい論文である。



結論はこうである。ギフチョウ属は、(以前からの知見通り)シボリアゲハ属やホソオチョウ属やタイスアゲハ属ともども、タイスアゲハ族の一員で、なおかつそれらの属とは直接的な血縁上の繋がりを持たない、孤立したグループ(従って、ギフチョウ属の4種だけで独立のギフチョウ属を設置する海外の研究者もいた)。



ところが、110年前に、それに異を唱えた研究者がドイツにいた。イタリアの古第三期の地層から見つかっている化石種が、実はギフチョウ属だというのである。この化石種の外観は、ウスバシロチョウ族の一員で、地中海島南部から中東にかけて1(~数)種が現存するArchonシリアアゲハ(改称モエギチョウ)

属とそっくりである。化石種がギフチョウ属ならば、ギフチョウ属とは似ても似つかないシリアアゲハもギフチョウ属に含まれてしまうことになりかねないではないか、そんなことがあるわけがない、と一笑に付され、その説は無視されてしまった。



でも、僕はどこか引っかかっていたんですね。そういえば、日浦勇氏も、三枝豊平教授も、その詳細極まりない論文の中で、(僕が勝手にそう感じているだけなのかも知れないけれど)どこかこのシリアアゲハの存在を気にしていた節がある。その形質の一部に於いてのギフチョウ属との類似性に一瞬触れかかりながら、そこから先には入り込まない。シリアアゲハ属は紛いなきウスバシロチョウ族の一員なので、タイスアゲハ属の一員のギフチョウ属との比較は無意味、と(当然のことのように)思い込んでいたのではないだろうか。



それは僕にしても同じである、英国のヒギンズのヨーロッパの蝶の雄交尾器の手引書に、ごくごくラフなシリアアゲハ雄交尾器のスケッチがあって、それを見る限り、ウスバシロチョウ属との相同性は皆無であり、(きわめて消極的ではあるけれど)特徴の方向性がギフチョウ属と軌を一にするように思われて仕方がなかった。しかし僕もまた、「シリアアゲハは当然ウスバシロチョウ族の一員」と信じ込んでいたので、そこから先に思いを巡らせることはなかった。



ごく最近になって、ミトコンドリアDNA解析による、アゲハチョウ科の系統関係に対する複数の論文が発表された。(それらの複数の論文で)原始アゲハは、ウスバシロチョウ族、タイスアゲハ族、ギフチョウ族に3分割され、なんと、シリアアゲハは、ウスバシロチョウ族でもタイスアゲハ族でもなく、ギフチョウ属の4種とともに、ギフチョウ属の分枝に置かれているのである。



110年前“一笑に付されていた”見解はここに復活し、僕が言い出せないでいた、ギフチョウ属との雄交尾器の類似性の指摘も、改めて成すことが可能になったという次第である。



しかし、研究者・アマチュアマニアこぞっての、異常なほどのギフチョウ熱の高まりが続く日本に於いて、そのことは、全く無視されたままである。



日浦勇氏にも、もう一人のギフチョウ研究の第一人者であった、僕の恩人でもある原聖樹氏にも、「幻」の原型「萌葱蝶」が確かに現生に存在していることを、見てもらいたかった、と思っている。



「青山君、本当にギフチョウだね」という声が聞こえてくる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



















突然現れる。目で追うのだが、前後左右に不規則に飛ぶので、進行方向が読めない。





いったん止まると、どこに止まったか全くわからなくなってしまう。目の前にいても、一度目を外らせてしまうと、どこにいるのか見つけられなくなる。













この時期この一帯で最も多い花はキク科キク属の白い花と、キンポウゲ科アネモネ属の濃ピンクの花。しかしモエギチョウがそれらの花を訪れることは滅多にない。









そこで、花での吸蜜時ではなく、花の近くの草上にとまった時、周りの花ともども蝶を写し込もうと、花の近くでカメラを構えて待っていた。来た!と思ってシャッターを押したら、止まっていたのはクモマツマキチョウだった。日本では高山蝶の一つに数えられるが、中国やヨーロッパでは里山の蝶。モエギチョウとともに、早春最も早くに出現する蝶。























・・・・・・・・・・・・・



(協力基金の振り込み先)

三井住友銀行 大船支店 普通口座 7012686 アオヤマジュンゾウ





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第5のギフチョウは、ここにいた! エーゲ海の「春の女神」モエギチョウ 【その4】

2022-04-02 07:53:16 | 里山の自然、蝶、ギフチョウ




モエギチョウ(旧名・シリアアゲハ)Archon apollinusは、一見した姿こそギフチョウ属とは全く異なりますが、実は遺伝的に最も近い血縁にある“姉妹種”です。



「萌葱Books」新刊書。

(明日刊行予定)




萌え始める樹々の薫りと光と風の物語【その4】

The story of early spring, budding of trees, fragrant, light and wind,,,,,





【永劫の時を経て、遥かなる地に】



大昔、ギフチョウ属とArchon属の共通祖先種は、ユーラシア大陸の東西に渡って、広く分布していました。しかし、ヒマラヤの造山運動などで、その中央(チベット高原などの所謂“地球の屋根”)が標高6000mを越す氷雪の世界となり、棲めなくなってしまった(代わりにウスバシロチョウ類が繁栄)。共通の祖先集団は、遥か離れたユーラシア大陸の東と西の温暖な里山樹林で、(それぞれ姿や生活様式を大きく変えながら)細々と生き続けました。そして現在も、大昔に生き別れた姉妹が、東と西に、(姿を変えて)絶滅寸前の状態で生き残っている!



或る意味「第5のギフチョウ」ともいえる、“もうひとつの春の女神”が、思ってもみなかった、実に意外なところにいたのです。



けれど、親蝶の外観(翅形や色彩斑紋)が全く異なることと、何よりも分布圏が東と西に遠く離れていることから、せっかくDNAの解析結果や基本的形質の共通性が指摘されているにも関わらず、今現在も(少なくとも日本に於いては)Archon属が “ギフチョウの仲間”であることに誰も気が付いていず(というよりもそのことに対して注目しようとせず)、“ウスバシロチョウの仲間”と認識されたままでいるのです。



Archon属に対する日本名は、これまで「シリアアゲハ」「ニセアポロ」「ムカシウスバシロチョウ(ムカシウスバアゲハ)」と言った名前で呼ばれてきました。学名と違って(それが一般に認知されるかどうかは別問題として)自由に付けることが出来る和名(ローカル・ネーム)ですが、今まで普及している名前を変えるのは好ましいことではない、と思っています。しかし、本種の場合は(一部の蝶愛好家は別として)特定の日本名が一般に普及しているとは思えません。「シリアアゲハ*」「ニセアポロ」「ムカシウスバシロチョウ」といった無個性の名を当てることは、勿体ない気がします。*シリアはごく一部の地域にしか分布していない。



ということでArchon属の日本語名を、「シリアアゲハ」や「ニセアポロ」から「モエギチョウ(萌葱蝶)」に変える提唱をします。春一番、樹々の芽が吹き出す頃だけに出現する蝶。「萌葱」は、落葉樹林が芽生えだす瞬間の、ボヤッとした夢のような、曖昧な色です。



“モエギチョウ”の棲む植生環境は、ギフチョウの棲む東アジアの「夏緑落葉樹林」とは違って、石灰岩を基盤とした岩だらけの乾燥地に形成される「地中海性硬葉樹林」(主体は東アジア同様にブナ科植物)ですが、春早く芽吹き始める新芽の色は、同じ“萌葱色”ですね。



ギフチョウの棲息地は、人里近くであることが多いのですが、モエギチョウも同じみたいですね。ギフチョウが、分布空白地を隔てて飛び離れて棲んでいるのと同様、モエギチョウも(ことに分布西限となるギリシャでは)限られた幾つかの(トルコ寄りの)島にしか分布していません(バルカン半島側にも何か所か分布しているようですが、その実態は良く分かっていません)。



どの産地も、人里近くの、何の変哲もない環境のようですから、人知れぬまま絶滅してしまう恐れも有り得ます。



ネットで検索(日本語)をしても、ギフチョウとモエギチョウ(Archon)の関連を指摘する情報は皆無です(意外なことに中国では上記した“Luehdorfia bosniackii”の紹介がある)。



日本人の蝶マニアや自然愛好家は、ギフチョウに関しては、異様とも言えるほどの愛着を持っているようなのに、そのルーツに繋がるはずの、遥かな国の姉妹たちには、何の関心も持っていないようなのです。なんだかな~、、、という想いがあります。





【記憶を辿る旅】



そんなわけで「第5のギフチョウ」ともいえる、萌葱色の春の女神の姉妹に逢いに、エーゲ海の島を訪れたのです。自分の眼で“記憶”を確かめるために。



ギフチョウに限らず、どの生物たちも(蝶で言えば翅の形や模様や色などの)外観と血縁的な繋がりは必ずしも一致しません。全く同じに見えても、血縁上は遠く離れていたり、外観が全く異なっていても、実は極めて近縁だったりと、一見意外に思われることがむしろ普通だったりします。



写真で示すよりも、文章で説明するよりも、科学的な解析を行うよりも、、、記憶の中にあるギフチョウとの比較を再確認する。



日本のクリ畑、エーゲ海のオリーブ畑、、、萌葱色の林床に早春の柔らかな陽の光が差し込んだ時、突然どこからか転がるように彼女たちは現れます。一瞬の間、目を逸らすと、地面に溶け込んで姿が消えてしまいます。



光と風の中のたたずまい、、、、それは、まさにギフチョウそのもの。「(ある面から見れば)これだけ違う」のに 「(別の視点から見れば)実は全く同じ」でもあるのです。



信じない人は信じなくて良いですよ。でも、いつかぜひ自分の眼で確かめてください。この蝶が、ギフチョウの姉妹、もう一つの“春の女神”であることが、きっと分かるはずです。



























産卵行動Ⅰ 2022.3.25 14:10-14:20


写真⑬‐㉔
























産卵行動Ⅱ 2022.3.30 11:00-11:10










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第5のギフチョウは、ここにいた! エーゲ海の「春の女神」モエギチョウ 【その3】

2022-04-01 08:11:40 | 里山の自然、蝶、ギフチョウ






モエギチョウ(旧名・シリアアゲハ/ニセアポロ/ムカシウスバ)Archon apollinusは、一見した姿こそギフチョウ属とは全く異なりますが、実は遺伝的に最も近い血縁にある“姉妹種”です。ギリシャ・サモス島にて 2022.3.30 13:30





「萌葱Books」新刊書の内容の一部を先行紹介していきます。

*近日中に刊行予定。



萌え始める樹々の薫りと光と風の物語【その3】

The story of early spring, budding of trees, fragrant, light and wind,,,,,





【“第5のギフチョウ”はどこに?】



時折思うのですが、ギフチョウ属は、この4種だけで構成されているのだろうか?と。日本はともかく、広い中国のことです。これまでに知られていない別のギフチョウ属の種が、どこかに人知れず棲息しているかも知れません。ということで、その後、研究者や蝶マニアを中心に「第5」のギフチョウ探しが始まりました。しかし、現時点における結論を言えば、第5のギフチョウ属の種は、まだ発見されていません。断言するわけにはいかないのですが、おそらく今知られている4種が、現存するギフチョウ属の全ての種である可能性が強いと思います。



実は、一時はギフチョウ属の祖先種ではないか、と目された蝶があったのです。それ以前からも、ギフチョウ属によく似た色彩・斑紋を持つシボリアゲハ属が、ギフチョウ属の姉妹群とされていました。なかでも四川省西南部や雲南省西北部に稀産するユンナンシボリアゲハは、ギフチョウに生き写しで、この蝶こそ、ギフチョウの祖先なのではないか、と考えられてきたのです。しかし、原記載の図があるだけで、標本が無かった。



それが、上記のオナガギフチョウの発見と相前後して、多くの標本が採集されました。それを解析したところ、見かけはギフチョウにそっくりでも、基本的な形質は他のシボリアゲハ属の種と変わらず、ギフチョウとの直接的な血縁上の繋がりはないことが判明したのです。



結局、ギフチョウ属は、東アジアに孤立して分布する4種が全てで、他に姉妹群として位置づけされる集団は、何処にもいない、という結論になりました。それと共に、ギフチョウと外観のよく似た、シボリアゲハ属(東アジアに数種)、ホソオチョウ属(東アジアに一種)、タイスアゲハ属(ヨーロッパ~中東に数種)の各属は、ギフチョウ属と直接の関連性は薄いとしても、互いに比較的近縁な原始的アゲハチョウ科の一群である、ということで、ギフチョウ属ともどもタイスアゲハ族として纏められることになりました。



“原始アゲハ”には、もうひとつのグループがあります。ウスバシロチョウ族です。その中心を成すウスバシロチョウ属(蝶愛好家は“パル”と呼びます)は、ヨーロッパから東アジアを経て北米大陸に至る寒冷地や高山に50種近くが分布しています(日本にも3種)。やや横長の丸味を帯びた翅は、名の通り透明な白色で、種によっては赤や青の斑紋を配しています(一般的に最も有名なのはギリシャなどに分布するアポロチョウ)。コレクターに非常に人気があり、チベットやヒマラヤ周辺に棲む希少種は、とんでもない高額で標本の売買が行われていたりします。



ウスバシロチョウ族には、ウスバシロチョウ属のほかに、それぞれ1属1 (~数)種が中東から地中海東南岸にかけて分布する、イランアゲハとシリアアゲハ(ニセアポロチョウ、ムカシウスバシロチョウ)が含まれるとされています。



タイスアゲハ族とウスバシロチョウ族を併せてウスバシロチョウ亜科(いわゆる“原始アゲハ”には、ほかに中南米産の1属1種で成るメキシコアゲハ亜科がある)としますが、ギフチョウ属はタイスアゲハ族の他の3属とは、幼虫の形態や雄交尾器の形態に大きな差があるため、独立のギフチョウ族とする見解もあります。



いずれにせよギフチョウ属は、日本を含む東アジアの一角だけに大昔から細々と生き続けている典型的な遺存生物群、唯一無二の存在なのです。





【意外な答えがあった】



ところが、、、、余りにも予想外なので、、、、誰もが見落としていることがあります。ギフチョウの仲間(ギフチョウ族Luehdorfiini)は、東アジアに遺存分布する4種だけではなかった!



近年、海外の複数の研究者グループによって相次いで為されたアゲハチョウ科のDNAの解析*では、上記した「ウスバシロチョウ族Parnassiiniの一員とされる2属」のうちのひとつが「ギフチョウの系統分枝」の中に示されている。

*Nazari, V., Zakharov, E. V., and Sperling, F. A.H. (2007) Phylogeny, historical biogeography, and taxonomic ranking of Parnassiinae (Lepidoptera, Papilionidae) based on morphology and seven genes. Mol. Phylogenet. Evol. 42, 131-156. ほか。



その蝶はArchon属。通常「シリアアゲハ」とか「ニセアポロ」とか「ムカシウスバシロチョウ」とか呼ばれています。中東の一部からギリシャにかけて分布し、1種のみから成る(3種前後に分割されることもある)マイナーな属です。



ギフチョウ属の系統的な位置づけに関しては、1959年に日浦勇氏(大阪自然史博物館)、1973年に三枝豊平教授(九大)の詳しい考察があります。共に素晴らしい内容なのですが、Archon属に関しては、僅かな情報しか述べられていません。ギフチョウ属とは余りにも外観が異なり、当然のことながらウスバシロチョウ属に近縁と思われていたでしょうから、仕方ないことだと思います(それぞれそれとなく示唆はしているのですが結局は見逃していた)。



実は筆者もそれ(雄交尾器などの相似に基づくArchon属とギフチョウ属の近縁性)を気付いていたのだけれど、あまりに突拍子もないと思って、結論を出すに至りませんでした。



しかし、DNAの解析結果に基づけば、ギフチョウ属がシボリアゲハ属やタイスアゲハ属との直接的な繋がりが全くないことが判明したことと軌を一にするように、Archon属もまたウスバシロチョウ属との直接的な繋がりは全くなく、そして、なんと、外観が全く異なるギフチョウ属とArchon属が単系統上に示されたのです。



改めて整理をすると、このようになります。



>ウスバシロチョウ属Parnassius≪全≫とイランアゲハ属Hypermnestra≪西≫が、ウスバシロチョウ族Parnassiini。



>シボリアゲハ属Bhutanitis≪東≫、ホソオチョウ属Sericinus≪東≫、タイスアゲハ属Zerynthia≪西≫、シロタイスアゲハ属Allancastria≪西≫が、タイスアゲハ族Zerynthiini。



>そして、ギフチョウ属Luehdorfia≪東≫とモエギチョウ(シリアアゲハから改称)属Archon≪西≫が、ギフチョウ族Luehdorfiini。



*≪東≫ は東アジア、≪西≫は中東~ヨーロッパ、≪全≫は全北区。



改めて(重要な分類指標形質である)雄交尾器の形態に注目すると、ギフチョウ属とArchon属のそれは、基本的な部分でよく共通するのですね。



*Dorusam(第8腹節に接続するringの背方、tegumen+uncus)の部分が強靭でよく発達していること。それに反し、雌の腹部を挟みつける一対のvalvaeの把握力が弱い(Archonでは退化または未発達)こと。Tegumen腹縁とvalva基背縁の間にepicostaが生じることなど。



そして、成蝶の外観に於いても、細部ではなく全体を俯瞰的に見つめると、実はギフチョウと瓜二つであることが分かります。



また、幼生期(卵・幼虫・蛹)の形状も、両者はとてもよく似ています。生活のサイクルや、棲息環境も、共通します。両者とも、蛹で越冬し、成虫は春一番(3~4月)に一度だけ現れます。





【“荒唐無稽”と無視され続けてきた、ある解釈】



ここに、もうひとつ、非情に興味深いことが加わります。

 

イタリアの新第三紀中新世(500万年~2300万年前)の地層から、Archon属に似た蝶の化石が見つかっています。Doritites bosniackii (Rrebel, H. 1898)と名付けられた、絶滅種です。通常は、Archon属にごく近縁な、その祖型種と考えられています。



少し前の行に、“ギフチョウ属とArchon属の類縁性の近さが、21世紀になってDNA解析で証明されるまで見逃されていて、長い間Archon属はウスバシロチョウの仲間と認識され続けてきた”、ということを記しました。



しかし、DNA解析によるギフチョウ属とArchon属の近縁性の検証が為されるよりも100年以上前の1912年に、そのこと(ギフチョウ属とArchon属の近縁性)を示唆した研究者(ドイツのFelix Bryk)がいたのです。



彼は、(通常はArchon属に近縁の絶滅属Dorititesを設置される)化石種bosniaskiiを、ギフチョウ属の種(Luehdorfia bosniackii=一字異なる)として組み入れました。後に、NazaraiらのDNA解析や、雄交尾器の基本形態に基づく検証(青山:未発表)で確認された、ギフチョウ属とArchon属の関係性を考えると、当たらずとも遠からずと言ってよい処置だと思います。しかし、ほとんどの研究者は、「荒唐無稽」と無視してきたのです。 





【タイスアゲハ族Zerynthiini】 チュウゴクシボリアゲハBhutanitis thaidina

四川省峨眉山1990.6.1



【ギフチョウ族Luehdorfiini】 オナガギフチョウ Luehdorfia taibai

陝西省秦嶺 2010.4.26



【ギフチョウ族Luehdorfiini】 化石種 Doritites bosniackii 

Rebel, H. (1898) の原記載図より



【ギフチョウ族Luehdorfiini】 モエギチョウ(シリアアゲハから改称) Archon apollinus

ギリシャ・サモス島2022.3.27



【ウスバシロチョウ族Parnassiini】 ウスバシロチョウ Parnassius glacialis

東京都青梅市2021.5.1



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



以下は、2022.3.30撮影のモエギチョウの写真です。午前10時から午後2時15分の間に同じ場所で撮影した写真15枚を取り上げました。実は撮影の最中には、同じ(せいぜい3~4頭の)個体が何度も繰り返し姿を現し、それを撮影したものと思い込んでいました(同時に姿を見せたのは2頭まで)。改めてチェックしなおすと、大半は別個体(9頭)なんですね(13:23-13:29の3枚、14:04の2枚、14:15の2枚はそれぞれ同一個体、10:03/11:52/13:36の3枚もその可能性が強いが不確実)。



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 10:03



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 10:53



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 11:09



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 11:52



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 13:13



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 13:17



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 13:23



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 13:29



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 13:29



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 13:36



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 14:04



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 14:04



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 14:09



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 14:15



モエギチョウArchon apollinus ギリシャ・サモス島 2022.3.30 14:15








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする