青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

第5のギフチョウは、ここにいた! エーゲ海の「春の女神」モエギチョウ 【その4】

2022-04-02 07:53:16 | 里山の自然、蝶、ギフチョウ




モエギチョウ(旧名・シリアアゲハ)Archon apollinusは、一見した姿こそギフチョウ属とは全く異なりますが、実は遺伝的に最も近い血縁にある“姉妹種”です。



「萌葱Books」新刊書。

(明日刊行予定)




萌え始める樹々の薫りと光と風の物語【その4】

The story of early spring, budding of trees, fragrant, light and wind,,,,,





【永劫の時を経て、遥かなる地に】



大昔、ギフチョウ属とArchon属の共通祖先種は、ユーラシア大陸の東西に渡って、広く分布していました。しかし、ヒマラヤの造山運動などで、その中央(チベット高原などの所謂“地球の屋根”)が標高6000mを越す氷雪の世界となり、棲めなくなってしまった(代わりにウスバシロチョウ類が繁栄)。共通の祖先集団は、遥か離れたユーラシア大陸の東と西の温暖な里山樹林で、(それぞれ姿や生活様式を大きく変えながら)細々と生き続けました。そして現在も、大昔に生き別れた姉妹が、東と西に、(姿を変えて)絶滅寸前の状態で生き残っている!



或る意味「第5のギフチョウ」ともいえる、“もうひとつの春の女神”が、思ってもみなかった、実に意外なところにいたのです。



けれど、親蝶の外観(翅形や色彩斑紋)が全く異なることと、何よりも分布圏が東と西に遠く離れていることから、せっかくDNAの解析結果や基本的形質の共通性が指摘されているにも関わらず、今現在も(少なくとも日本に於いては)Archon属が “ギフチョウの仲間”であることに誰も気が付いていず(というよりもそのことに対して注目しようとせず)、“ウスバシロチョウの仲間”と認識されたままでいるのです。



Archon属に対する日本名は、これまで「シリアアゲハ」「ニセアポロ」「ムカシウスバシロチョウ(ムカシウスバアゲハ)」と言った名前で呼ばれてきました。学名と違って(それが一般に認知されるかどうかは別問題として)自由に付けることが出来る和名(ローカル・ネーム)ですが、今まで普及している名前を変えるのは好ましいことではない、と思っています。しかし、本種の場合は(一部の蝶愛好家は別として)特定の日本名が一般に普及しているとは思えません。「シリアアゲハ*」「ニセアポロ」「ムカシウスバシロチョウ」といった無個性の名を当てることは、勿体ない気がします。*シリアはごく一部の地域にしか分布していない。



ということでArchon属の日本語名を、「シリアアゲハ」や「ニセアポロ」から「モエギチョウ(萌葱蝶)」に変える提唱をします。春一番、樹々の芽が吹き出す頃だけに出現する蝶。「萌葱」は、落葉樹林が芽生えだす瞬間の、ボヤッとした夢のような、曖昧な色です。



“モエギチョウ”の棲む植生環境は、ギフチョウの棲む東アジアの「夏緑落葉樹林」とは違って、石灰岩を基盤とした岩だらけの乾燥地に形成される「地中海性硬葉樹林」(主体は東アジア同様にブナ科植物)ですが、春早く芽吹き始める新芽の色は、同じ“萌葱色”ですね。



ギフチョウの棲息地は、人里近くであることが多いのですが、モエギチョウも同じみたいですね。ギフチョウが、分布空白地を隔てて飛び離れて棲んでいるのと同様、モエギチョウも(ことに分布西限となるギリシャでは)限られた幾つかの(トルコ寄りの)島にしか分布していません(バルカン半島側にも何か所か分布しているようですが、その実態は良く分かっていません)。



どの産地も、人里近くの、何の変哲もない環境のようですから、人知れぬまま絶滅してしまう恐れも有り得ます。



ネットで検索(日本語)をしても、ギフチョウとモエギチョウ(Archon)の関連を指摘する情報は皆無です(意外なことに中国では上記した“Luehdorfia bosniackii”の紹介がある)。



日本人の蝶マニアや自然愛好家は、ギフチョウに関しては、異様とも言えるほどの愛着を持っているようなのに、そのルーツに繋がるはずの、遥かな国の姉妹たちには、何の関心も持っていないようなのです。なんだかな~、、、という想いがあります。





【記憶を辿る旅】



そんなわけで「第5のギフチョウ」ともいえる、萌葱色の春の女神の姉妹に逢いに、エーゲ海の島を訪れたのです。自分の眼で“記憶”を確かめるために。



ギフチョウに限らず、どの生物たちも(蝶で言えば翅の形や模様や色などの)外観と血縁的な繋がりは必ずしも一致しません。全く同じに見えても、血縁上は遠く離れていたり、外観が全く異なっていても、実は極めて近縁だったりと、一見意外に思われることがむしろ普通だったりします。



写真で示すよりも、文章で説明するよりも、科学的な解析を行うよりも、、、記憶の中にあるギフチョウとの比較を再確認する。



日本のクリ畑、エーゲ海のオリーブ畑、、、萌葱色の林床に早春の柔らかな陽の光が差し込んだ時、突然どこからか転がるように彼女たちは現れます。一瞬の間、目を逸らすと、地面に溶け込んで姿が消えてしまいます。



光と風の中のたたずまい、、、、それは、まさにギフチョウそのもの。「(ある面から見れば)これだけ違う」のに 「(別の視点から見れば)実は全く同じ」でもあるのです。



信じない人は信じなくて良いですよ。でも、いつかぜひ自分の眼で確かめてください。この蝶が、ギフチョウの姉妹、もう一つの“春の女神”であることが、きっと分かるはずです。



























産卵行動Ⅰ 2022.3.25 14:10-14:20


写真⑬‐㉔
























産卵行動Ⅱ 2022.3.30 11:00-11:10










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