青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-38

2021-03-15 20:36:09 | コロナ 差別問題と民主化運動 中国の花



Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑰ (四川省康定県~雅江県) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑱ (四川省康定県~雅江県) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕




1月18日掲載の写真の再紹介。
四川省康定県‐雅江県県境(臥龍峠)alt.4500m付近 2009.7.20 (以下全て同じ)

やっと、2021年1月18日のブログで紹介した、“青花と白花の高山性小型リンドウの雄蕊の話題”に戻ってきた。

この、両者の雄蕊の状態の著しい相違は、どのような意味を持っているのか。

3か月かけて分かったこと。

青花も白花も、リンドウ属の同じsection(小竜胆組)の一員で、しかし別のseries(青=流苏系Ser. Fimbriatae系/白
=卵萼系Ser.Orbiclatae系)に所属する種であること。

リンドウの仲間全体の性質である「雌雄異熟(雄性先熟)」の、白花種は初期段階の個体、青花種は後期段階の個体であること。

同じリンドウ属でも、「多枝組(=ヤクシマリンドウ節)」の種は、雌蕊の発達後の雄蕊は雌蕊に寄り添ったまま衰退(下方に後退)し、「小竜胆組(=ハルリンドウ節)」の種では、雌蕊から離れて花冠内壁にへばり付くこと。
*それぞれ「雄蕊衰退型」「雄蕊待避型」と仮称しておく。“退避”と記してきたのは間違いで正しくは“待避”。

その他のグループについては未検証。「小竜胆組」の全てのseriesや種に於いて、青花種と同じように顕著な“雄蕊待避”様式を採るのかどうか、という検証も行っていない。例えば、(第29回ブログに述べたように)ハルリンドウは待避し、フデリンドウは待避しないという通説も、再検討を行う必要がある。また、同じ種の中でも、個体によっては待避の是非や程度に差がある可能性も考えられるが、そのことも検証課題と思う。

青花種は、おそらく弯叶龙胆 Gentiana curviphylla=プライベート・ネーム「ベニヤクアオヒメリンドウ/紅葯青姫竜胆」。「中国植物志」に因ると、分布域は“四川西部の標高2890~4270m”と、えらく細かく(笑)、撮影地は少なくとも4400mは越えているのでちょっと外れるが、まあ許容範囲と考えて良いだろう。

日本を含む東アジアに広く分布するコケリンドウ/鳞叶龙胆 Gentiana squarrosa(前回紹介した南西諸島産リュウキュウGentiana crassuloidesを含む)、第28回で紹介したモモバガクリンドウ&アオバガクリンドウ(おそらく卵萼龙胆 Gentiana bryoidesまたは景天叶龙胆 Gentiana crassulaに相当)、このあと紹介予定の肾叶龙胆 Gentiana crassuloides、さらに日本の高山植物ミヤマリンドウ(変種イイデリンドウとも通常は日本固有種とされるが「中国植物志」では中国大陸東北部産の長白山竜胆Gentiana jamesiiに一括抱合している)、そのいずれもが、萼裂片が反り返る特徴を持つことなどから、同じ「卵萼系Ser.Orbiclatae」に置かれている(ただし、それ以外の形質の比較から見た限りでは、必ずしも類縁的に単系統上に置かれる決定的な根拠はないようにも思われる)。

白花種は、おそらくGentiana epichysantha歯褶竜胆、プライベート・ネーム「タマゴシロヒメリンドウ/卵白姫竜胆」としておく。

上記したミヤマリンドウほかコケリンドウの一群(卵萼系Ser.Orbiclatae)とも、ハルカゼリンドウ/中甸龙胆 Gentiana chungtienensis(线叶系Ser. Linearifoliae)とも、フデリンドウ/笔龙胆 Gentiana zollingeriやアオムラサキリンドウ/亚麻状龙胆 Gentiana linoidesやセセラギリンドウ/大理龙胆 Gentiana taliensis(帚枝系Ser. Fastigiatae)とも、ハルリンドウ/丛生龙胆 Gentiana thunbergiiやヒナリンドウ/水生龙胆 Gentiana aquatica(小竜胆系Ser.Humiles)とも異なる、「流苏系Ser. Fimbriatae」に所属する。

同じ緩やかな丘陵の反対側の斜面には、第4回で取り上げた草丈の高い高山竜胆組(Sect.Frigida)の大型種が生える。通常、この小型リンドウ2種は、姿のよく似た、しかし一回り大きめのキキョウ科Cyananthus蓝钟花属の種とセットで生えていて、また、タンポポの仲間の2つのタイプ(通常の頭花を持つタンポポ属Taraxacum と花序が頭花状にならない绢毛苣属Soroseri=プライベート・ネーム“ムカシタンポポ”)の種も同じところに生えていることが多い。

この草原には、高山蝶パルナッシウス各種や小型ヒョウモン類が飛びかっていて、前者は主にムカシタンポポ(绢毛苣)に、後者は主に小型リンドウに吸蜜に訪れる。

ある不思議なことに気が付いた。

それ以前に、元から気になっていたことがある(むろん僕に基礎知識がないのでよく把握できていないだけなのかも知れないが)。まずその話から始める。

昆虫(鱗翅目、双翅目、膜翅目、鞘翅目など)が花を訪れ、葯の花粉を体に付着し、その後別の個体の花を訪れた際、体に付着した花粉が雌蕊の柱頭に受け渡される、というのが基本的な授粉/受粉の仕組みだと思う。

雄はなぜ花を訪れるのか?求めるのは蜜腺なのか花粉なのか?リンドウ科の多くの種の場合、密腺は雌蕊の基部付近にあるようなので、蜜腺そのものを目指して昆虫が来るのではないと思う(ただし蜜腺が花被片の内側に露出したヘツカリンドウではしばしば大量の蟻がそこに群がる)。だがしかし、雄が花を訪れるのは蜜腺だけでなく雄蕊(葯の花粉)にも誘因される、ということなら問題ないので、一応そう考えて話を進めよう。

同じ株でも花は咲く時期はバラバラである。幾つもの段階の花があることで、昆虫による別個体への授粉(受粉)が成される。深く考えなければ、単純な図式で済む。

ヤクシマリンドウ組の種(殊に多くの個体をチェックしたナナツバリンドウ)の場合は、開花初期に雄蕊の葯が中央部に集結、その後下方から雌蕊が出現すると、雄蕊は葯の花粉を解き放って衰退して(鄙びて下方に沈んで)行く。同じ花に於いては、ポリネイターの昆虫は雄蕊の葯から花粉を受け取るか、雌蕊の柱頭に花粉を渡すか、どちらか一つしか行えないわけである。

しかし、小竜胆組の多くの種にあっては、そう単純な仕組みでは事が運ばないのではないか、と思える節がある。雄蕊の葯は、雌蕊が現れる前の中央集結時も、初期の雌蕊からさほど離れず付近をうろうろしているときも、雌蕊の柱頭が二分した後花冠内壁にへばりついて「避難」を完了してからも、変わることなく衰退せずに(たぶんまだ花粉を葯に内包して)存在しているように思われる。

そこに昆虫がやってきたら、他の花の花粉を柱頭に授粉するよりも先に、やってきたときにくっついた雄蕊の花粉を 同じ花の雌蕊に渡すことに成りはしないか。そのことを考えると、「待避型」は、必ずしも「雌雄異熟」「雄性先熟」の 機能を有してはいない、とみることが出来るのではないか?

そのような疑問を持っていた。

で、もしかすると、以下に述べる例が、そのことに何らかの関与を示している? 

僕としては、「偶然」「不思議」で良いと思う。でも「偶然」のすべてが「単なる偶然」というわけでもなかろう(前に挙げたモンキチョウの例など)。

といって、僕の基本姿勢としては、物事の因果関係を(いわば科学的に)理路整然と説明していくことは、好きじゃない。むろん“スピチュアル”にも興味はない。どちらも肯定したうえで、俯瞰的に捉えることが出来ればよいのである。

というわけで、(リアルタイムで調査が目的ではなくたまたま撮影した)写真に収めてある開花個体を、改めてチェック。分かり易いほうの青花種(ベニヤクアオヒメリンドウ)について、大雑把に雄蕊を「中心終結」「分離途上」「待避完了」に分け、36個花をカウントした。

13花が「中心終結」、6花が「分離途上」、4花が「(花冠内壁にへばりついて)待避完了」。どの花も正常な個体で、昆虫などが訪れている状態ではなく、葯が鮮やかな紅色をしている(白花種は、それぞれ12、3、3、ただし葯は花糸と同じ淡黄白色)。

青花種では、上記のパターン以外の、13花があった。発達した雌蕊だけで葯(雄蕊全体)が見あたらない個体である。その内訳は、4花が小型ヒョウモンチョウの一種(雌)&ハナアブの一種訪花中、1花がハエの一種訪花中、2花がセンチコガネ到来中、3花が小型ヒョウモンチョウの一種(雄)訪花接近中、2花は発育不全個体。

この「偶然」を、どう捉えれば良いのだろうか?

待避前待避後(雌蕊の開出前開出後)に関わらず、雄蕊は常に鮮紅色の葯を付けている。昆虫が訪れれば、その体に花粉が付着し、雌蕊に授粉する役割を果たす。もし、雌蕊が開出し、かつ待避中の雄蕊の葯が花粉を持っていれば、上記の懸念が現実になり、同じ花の間で授粉を行われることになる。

ところが、昆虫が訪れた花には、雄蕊の赤い葯(あるいは雄蕊そのもの)がない!

単に一例ではなく、4つの異なる昆虫で、同じようなパターンが為されている。それ以外の正常に開いた花には、全て鮮やかな紅色の葯があるというのに、、、。





小さな肌色の丸ぽっちに注目(写真22とも)。




左はナデシコ科の一種。
















以上6枚:キキョウ科Cyananthus蓝钟花属の種と。


赤はシオガマギクの一種。


黄はムカシタンポポ。






右はナデシコ科の一種。










小さな紅色の丸ぽっちに注目(写真3も)。














両種の萼片の違いが分かる。




センチコガネの一種。以下の写真には赤い葯が見あたらない。




小型ヒョウモンチョウの一種(メス)。


小型ヒョウモンチョウの一種(オス)。








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