野生アジサイ探索記(下2e)1伊平屋島【トカラアジサイ】2011.4.26~5.1
以下、今回の取材行(伊平屋島→石垣島→西表島→沖縄本島→沖永良部島→徳之島)をリアルタイムで報告して行きます。
栽培アジサイの原種(ガクアジサイやヤマアジサイ)に近縁のもう一つの一群、ガクウツギ・カラコンテリギの仲間は、分布や分類について未解明の問題点が数多く残されています。文献もほとんどなく、自分の足で調べるよりありません。それでもって、この10年間ほど、日本本土のガクウツギ・コガクウツギ、南西諸島のトカラアジサイ(ヤクシマコンテリギ・ヤエヤマコンテリギを含む)、台湾・中国大陸のカラコンテリギ(ユンナンアジサイを含む)の実態を知るべく、各地を調べ歩いてきました。
ほとんどの産地を訪ねてはいますが、花の季節では無かったりして充分な観察が出来ないでいるところも、かなりあります。それでも、大抵の場合は、近隣地域産との関連や、他の人が写した写真をチェックするなどして、おおよその判断は出来るのです。しかし他の産地から孤立して分布し、ほとんど全く情報のない沖縄県伊平屋島産については、正体が謎のままとなっていました。
この一群の大雑把な分布様式は、本州・四国・九州(ガクウツギ)、屋久島(ヤクシマコンテリギ)、三島列島・口永良部島・トカラ列島の後、奄美大島に欠如して、徳之島、沖永良部で現れ(以上トカラアジサイ)、沖縄本島で再び欠如、石垣島・西表島に再び現れ(ヤエヤマコンテリギ)、台湾・ルソン・中国大陸(カラコンテリギ)と続きます。ただし、2つの注約が必要です。沖縄本島と隣接する伊平屋島に、トカラアジサイが分布すること。沖縄本島(北部のヤンバル地区)には、この一群とやや類縁の離れたリュウキュウコンテリギが固有分布すること。
沖縄本島北部の国頭半島(ヤンバル地域)と伊平屋島は、目と鼻の先の距離の位置にありますが、その生物相は、かなりの相違点が見られます(ちょうど屋久島と口永良部島の関係と良く似ています)。伊平屋島へは、昨年年末から今年正月にかけて、ヘツカリンドウ(アズキヒメリンドウ、イヘヤヒメリンドウ)の調査に訪れていました。詳しくはブログで紹介しているので、そちらのほうを(途中で中断中)ご覧下さい。
沖縄県伊平屋村。
沖縄本島周辺の離島では、久米島に次いで大きい。
人口約1300人。
県内の主な離島中、唯一飛行場がない。
県内の主な離島中、唯一大きなホテルがない。
県内の主な離島中、ふるさと交付税が最も少ない(県外における知名度に比例)。
県内の主な離島中、観光客(なかんづく若いキャピキャピした女の子)が最も少ない。
沖縄県の島の中では、最も山が多く、多様な地形を持つ島のひとつ。
最高峰は賀陽山294m、沖縄県で、「山(サン)」の語尾を持つ唯一の山(大抵は「岳」) 。
北緯27°以北が鹿児島県で、沖縄県は北緯27°以南、というのが常識ですが、この島は27°線よりも北に位置し(鹿児島県与論島の真西で島の北部は与論島よりも北)、島の南端に27°線が横切っています(テントを張っている場所は、ほぼそのライン上)。
要するに、沖縄らしくないイメージの沖縄の島、ということが出来るかも知れません。
(ただしサンゴ礁の海は、他のどの島にも負けぬほど素晴らしい)
用意して頂いたテントと、差し入れの弁当。
役場から無料で提供された宿舎は、前回(昨年末~今年正月)は屋内の大ホールを独占して使っていたのだけれど、海開きの季節の今回は、さすがにそうもいきません。というわけで、7~8人は寝泊まりの出来そうな大テント。電気も使用出来き快適ではあったのだけれど、暴風雨に見舞われた2日目の夜は、物凄い音が一晩中テントを揺るがし、一睡も出来ませんでした(雨は漏って来なかったです)。
自炊をするのは面倒だったので、スーパーで調達した弁当を3つほど購入しておいたのだけれど、テントに戻ったら役場の方々からの差し入れも2つ3つあって、とても食べ切れません(写真上右、モズク入り餃子など)。
テントの回りの海辺は、最高の景色です。でも、それでなくとも少ない観光客が、東日本大震災の影響からか今年は特に少ないようで、ゴールデンウイークに突入したというのに、人一人っ子いない。僕が一人で独占、というわけですが、嬉しくもないし、何の感慨もありません。なっちゃんと一緒になら、もっと素直に堪能出来たことでしょうけれど。
浜辺をそぞろ歩きながら様々な海岸性植物を撮影しました。殊に数多かったのがシマアザミ。屋久島周辺の近縁種オイランアザミは紅花ですが、こちらは白花です。以前、三島列島黒島の海岸でも撮影した覚えがあるので、その辺りが分布北限だと思います。ノアサガオ(下左)とハマヒルガオ(下右)も砂浜一帯で良く見かける花。前者は内陸の路傍などでも普通に咲いていますが、後者は砂浜の中だけに生育します。
上2枚:野生のクチナシ。この季節が開花盛期の純白の花のクチナシとコンロンカ(共にあかね科)は、遠目には野生アジサイに良く似ています。甘い香りが素晴らしく、風に乗って遠くまで漂ってきます。初恋の人に最初に贈る花、だそうです。2段目右:ホウロクイチゴ。リュウキュウバライチゴやリュウキュウイチゴの多い屋久島などでは余り美味とは感じないのですが、それらの少ないこの島では、とっても美味しく感じます。2段目左2枚と3段目左:シロオビアゲハ。♀には♂同様の白帯型と、♂にない白紋型がありますが、今まで見たところでは、この島のメスはどれも♂タイプ(白帯型)のような気がします。3段目右:クロアゲハ、4段目左:ジャコウアゲハ、4段目右:リュウキュウベニイトトンボ。
伊平屋島にトカラアジサイが分布することは、古い文献記録があります。しかし、具体的な記述や図の載った報文を見つけ出すことは出来ず、あるいは誤報告の可能性もあるかもと、5年前の晩夏、自分の目で確かめようとこの島を訪ねました。非常に稀な植物らしく、あちこちを探し歩いた末に、最高峰の賀陽山の登山口付近で見付けることが出来ました。すでに花の季節は終えていて、枯れ残りの葉をチェックしただけですが、間違いなくカラコンテリギやガクウツギの一群、
ただし、トカラ列島などのトカラアジサイとは、かなり趣が異なるようにも思えました。正確なことを確かめるには、花期に訪れて枯れる前の葉をチェックしなくてはなりません。
次に来る時のために、植物に詳しい村役場の伊礼清課長(現副村長)に、他の生育場所を調べておいて貰うように頼んでおいたところ、ダムの一角の林で見かけたとのこと、今回、まずはそこに向かうことにしました。
左がいつもお世話になっている伊礼清さん。4年前や、今年1月に来た時には、みな「清さん」と呼んでいたのですが、今回は「副村長」と呼んでいました。慣れるまで僕も暫く時間がかかりました。右のおばさん(お姉さん?)は、薬膳料理などに造詣の深い、伊平屋村商工会の大見謝るみ子さん。トカラアジサイの生育場所は、彼女のほうが副村長より詳しかったです。写真右は案内して頂いたダムの堰堤近くのトカラアジサイが生える林。
その大見謝さんに、港の待合室で、ニガナ(ホソバワダン)の様々な料理を即席で作って貰いました。左はサラダ、右は和え物。ともに苦味が抜け、と言ってもほのかに残ってもいて、えもいえぬ美味しさです。
写真左:登山口に生えていたホソバワダン(左、地元名ニガナ)とヘツカリンドウ(右=イヘヤヒメリンドウ)の若い葉。ホソバワダンの葉もヘツカリンドウと同程度の大きさ・形になります。写真右:1月に写したホソバワダンの花。
写真左:上左写真の右隣に生えていたアキノノゲシの葉。葉が切れ込むタイプと、切れ込まないタイプがあります。この島では食用とする習慣はないようです。写真右:1月に写したアキノノゲシの花。
以前にブログで紹介済みの、深センのスーパーで購入した、右から生菜(レタス)、苦麦菜&油麦菜(栽培アキノノゲシ?)。
次の日は、来島時に同じ船に乗り合わせた若い女性(京都の阿地さん32才)と、彼女と同じ宿に宿泊しているもう一人の若い女性(横浜の河野さん30才、、、、早い話、純粋な観光客はこの2人だけ?)を伴って、賀陽山登山と相成りました。途中、キノボリトカゲが出現。
賀陽山山頂に辿り着く(霧の中で展望なし)。写真左は、山頂に生える野生ミカンのシークァーシャーの木を背に。賀陽山は標高300m弱だけれど、相当にハードな登山を強いられます。青い服の女の子(河野さん、)は、完全にへばってます。
でも食事タイムで笑顔が(横浜から来た河野さん)。右のカッコいい女の子は、なっちゃんと同業者(京都から来た阿地さん)、フードや飲食店のPR雑誌などの編集を経て、現在はフリーの編集者(平たく言えば失業中?)よし。