今朝はどうしたというのか、嘘のように美味しいネタがどんどん飛び込んできました。疫病に関しても興味深い続報が入っていますし、中国政治や社会の分野でも面白い動きが出てきました。
量でいえば題材選びに一週間くらい困らないほどですが、まあネタにも鮮度がありますから、そう引き延ばす訳にもいきません。といって、私の気力体力にも限りがあります(笑)。
で、やっぱり「とりあえず暴動」ということで。
いや「暴動」ではなく、正確には「土地収用」に起因する典型的パターンの官民衝突が2件、内蒙古自治区と広東省で起きています。
……いやいや、これも正確には「少なくとも2件起きたことが報じられています」と言うべきでしょう。最近思うのですが、内外のメディアやタレ込み情報のある反体制系サイトなどに拾い上げてもらえるケースは誠に幸運で、実際には私たちの可視圏外でも無数の事件が起きている筈なのです。
「1件の官民衝突記事の裏には、実は伝わらない10件の事件があると思え」
てなところでしょうか。
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前置きが長くなりましたが、まずは内蒙古の事件から。ロイター通信が報じたものを昨夜(7月27日)「明報即時新聞」が掲載したのが第一報です。今朝の香港紙(2005/07/28)ですと『蘋果日報』『成報』が報道。前日に先んじていたので詳しい記事が載るか、と期待していた『明報』はなぜかスルーでした。
さてその事件の内容ですが、典型的パターンだけに経緯と展開はお察しの通りです。
内蒙古自治区・通遼市で先週の木曜(7月21日)、道路建設のため土地の強制収用を行おうとした市当局に地元の農民2000名が反発、これを阻む挙に出たため市当局は警官隊を現場へと派遣。村民と睨み合いになった末に衝突が発生し、数十名の負傷者が出た。
……というものです。以前から地上げ話で揉めていたのでしょうから、いざ強制収用となれば、警官隊は当然最初から現場にいたものと思われます。それどころか匿名を条件にAFP通信の取材に応じた農民は、
「警官の中には銃を手にした奴らもいた。発砲はしなかったけどね」
と語っています。武装警察でしょうか。
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やや典型的でないのはこの事件、睨み合いから農民による抗議デモ、そして衝突へと展開して事態が終息するまでに6時間も要したことです。
この間、農民たちは2000名という多勢を恃んで警官隊と格闘し、道路建設工事のためやってきたブルドーザーをも奪取。その上で、数十名の負傷者を出しつつも何と警官隊を撃退しているのです。
「地元政府筋は『村が無政府状態になった』と語った」
とロイター通信が報じています。何やら農民たちの勝鬨を上げる声が聞こえてきそうです。一方の警官隊には増援もあったそうですが、銃器を所持していながらよく我慢して発砲しなかったものだと感心してしまいます。
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ところでこの事件、土地をめぐるトラブルですから、典型に沿うとすれば、お上が取り上げる土地の補償額をめぐって農民との話がまとまらない、ということになります。
ところが今回はそれと違って、農民2000名は「嫌だ嫌だ」の一点張りなのです。売りたくない、土地から離れたくない、というのです。それが補償額アップのための駆け引きなのか本音なのかはわかりませんが、
「おれたちは何も惜しくはない。ただこの場所を守るだけだ。この場所を汚職のタネにはさせない」
と農民は語っています。「嫌だ嫌だ」が駆け引きではないのなら、土地から引き剥がされて「失地農民」(※1)になるのはゴメンだ、そうなれば先が見えている、という思いなのかも知れません。
●「明報即時新聞」(2005/07/27)
http://hk.news.yahoo.com/050727/12/1eyla.html
●『成報』(2005/07/28)
http://www.singpao.com/20050728/international/741153.html
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さてもう一方のトラブル、こちらは広東省は仏山市・南海区が舞台です。これまた土地収用をめぐる典型的な官民衝突ですが、ここは結構前から衝突が繰り返されている激戦地です。ブルドーザーなどを持ち込んで農地を無理やり造成地にしてしまおうという当局を、その都度村民(三山港村)が団結して阻止してきました。
ただ『蘋果日報』(2005/07/28)は村民支援者の話として、ここ数カ月、村民は阻止はするものの当局側に殴られても殴り返さないというスタイルに徹してきた、としています。ところが、ついにその我慢も限界を超えてしまいました。今週月曜(7月25日)のことです。
この日は当局側がセメント車を持ち込み、護衛の警官400名は警棒と防盾を手にした完全装備(防暴警察=機動隊かと思われます)。村民数千名と機動隊が長時間にわたって対峙した挙げ句、業を煮やした機動隊が手を出して村民4名に怪我を負わせ、1名が拘束されました。
村民もこれでとうとうキレて、反撃に出ました。肉弾戦もあり、投石もありました。こうなると丸腰とはいえ、数が物を言います。機動隊は形成不利とみて急ぎ撤退。村民側が再び農地防衛に成功した訳ですが、それだけでは収まりません。拘束された村民1名を返せと公安局(警察署)を数千名で包囲。本格的な暴動に発展しかねないとみたのか、同日午後11時、捕えられていた村民は無事解放されました。
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官民衝突とは直接関係がないのですが、最近ちょっといい感じの文章を目にしたので、精度不確実ながらも以下に訳しておきます。
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●郭松民氏:失業は「発展の結果」なのか?(『江南時報』2005/07/26)
http://opinion.people.com.cn/GB/40604/3569173.html
「私たちみんなが、生活が数年前より良くなったと感じている。だがなぜ仕事がなかなか見つからないのか?それは社会が今まさに発展していて、人口も増えつつあり、一方でハイテクの時代のため、人間の仕事を機械やコンピュータが代わりにやってしまうからだ。そして仕事に就けない者たちが騒ぐことになるが、これは社会発展が一定の段階に達したことによる必然的な結果だ」
これは秦皇島市の宋長瑞・市党委員会書記が「住民に形勢を語り、報告を行い、難題を解いてみせる」という場で語ったものだ。「生活が数年前より良くなった」というその「感じ」は宋書記自身の感覚なのか、それとも我々全体の感覚なのか。この点は研究に値すると思うがひとまず措くとして、失業の原因に関する宋書記の解釈について考えてみよう。もし宋書記の言うように失業が発展の結果に過ぎないのなら、その帰結は「ヒマになる」だけであり、それなら失業は悪いことではないばかりか、喜ぶべきことになる。ヒマな時間が増えるというのは、まさしく生活レベルの向上を示すものだ。「ヒマになる」一方で、寒さや飢えや教育、医療、老後、住宅といった心配事も消えるのなら、我々は「調和社会」の段階に入ったということになる。
時間をどう使うかについては、悩む必要などない。釣りに行ってもいいし、日光浴をしてもいいし、社交ダンスに時間を費やしてもいい。だが残念なことに、経験が我々に教えてくれている。現実の生活は、そういう素晴らしい暮らしから遥かにかけ離れたものである、ということをだ。
それがなぜかについて、数字で例を挙げてみたい。統計によれば、1996年から2003年までの間に、中国の耕地面積はまるまる1億ムー(1ムー=6.67アール)も減少している。そのうち地上げ活動、つまり政府によって収用された土地は約6600万ムーほどになる。これによって生まれた「失地農民」は約1億人だ。こうした土地が「市場」に出されるころには、その平均価格は1ムー当たり10万元前後にもなる。然るに農民の移転のために使われる費用は、平均2万元にも達しない。要するに、総計5兆元近くにもなる利鞘という「ケーキ」が、各地方政府とデベロッパーの胃袋に収まるのだ。土地を失って、しかも生活のための創業資金もない農民は、失業者の大軍に加わるしかない。それと引き換えに得られるものは、不動産業界の「高速発展」だ。――もちろん、こうした発展のカタチは「少数の人たちの発展」でしかない。
また統計によれば、国有企業は1997年から2002年の間に、企業総数が47%減少し、就業人数が39%ダウンしている。総計4145万人の従業員が職を失ったということだ。同じ期間に、集団所有制企業の就業人数も1000万人減っている。つまり1997年から2003年にかけて、合計6000万名近くもが職場を失っているのだ。その中で私営企業に吸収される人はほんのわずかで、残りの大半は自らの力で再就職先を見つけるか、いっそ失業するかだ。(中略)
秦皇島市の失業はそうした原因によるものでは全くなくて、単に「社会が今まさに発展していて、人口も増えつつあり、一方でハイテクの時代のため、人間の仕事を機械やコンピュータが代わりにやってしまう」ことに起因するものなのか?私は調べたことがないので、軽はずみな発言は控えることにしておこう。(後略)
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『成報』が引用した「公式統計」によると、汚職や職権乱用、土地をめぐるトラブルや貧富の格差などを原因とする抗議行動や衝突事件は、1994年時点だと、
「年間合計1万件、参加者総数73万名」
だったそうです。ところが、それから十年を経た昨年(2004年)は驚くなかれ、
「年間合計7万4000件、参加者総数376万名」
……にも達したとのこと。この十年の間に飛躍的な経済成長を遂げたとされる中国ですが、この数字が示す通り、それは非常に歪んだ形での経済発展(少数の人の発展)であり、中共当局は正にいま、そのツケを払わなければならなくなっているのだと思います。
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【※1】土地を収用され指定された移転先に引っ越す農民。移転先の土地が農業に適していないケースが多く、支給された補償金がわずかなため転業資金にもならない。いきおい移転前の生活レベルを維持できず、日雇い労働のようなその日暮らしの生活に堕ちてしまうことが多い。中国の歴代王朝が滅亡する前兆として発生する流民に等しい存在、といえなくもない。ちなみに「失地農民」という言葉は昨年の十大流行語のひとつにも選ばれている。
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