これまた先日取り上げたケースと似た性質の事件ですね。環境汚染にキレた農民が立ち上がるという、当ブログがいうところの「21世紀型農民暴動」です。
前回は電池工場でしたが、今回は製薬工場。某巨大掲示板風に、
ま た 浙 江 省 か 。
と表現して差し支えありません。前回は煤山鎮(2005/06/26)、今回は新昌県(2005/07/17)、さらに実は前々回がありまして、これは画水鎮(2005/04/10)。3カ月余りで3回ですから。しかもいずれも「21世紀型」、つまり環境汚染に憤激した農民による暴動です。
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浙江省当局ないしは中国政府にとって不幸だったのは、今回の事件をすっぱ抜いたのが米紙『ニューヨーク・タイムス』。いわば世界中に知られてしまったということです。
それを反体制系ニュースサイト「大紀元」が転載し、反共系ラジオ局VOA(美国之音)が後追い報道。さらに今朝の香港紙『蘋果日報』(2005/07/20)が村民へのインタビューなどを交えたより詳細なルポで追い撃ちをかけています。……あ、「大紀元」も詳しい内容の続報を出していますね。
それにしても、こういう公害騒動は規模の大小こそあれ、恐らく中国のかなりの地域で発生していると思われるのですが、なぜか浙江省のニュースばかりが拾い上げられ、大きく扱われてしまっているのはどうしたことでしょう。
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さて今回の「21世紀型農民暴動」、怒りの鉾先を向けられたのは浙江省新昌県に位置する製薬工場「京新薬業」です。同社は中国国内で上場していますので大手薬品メーカーなのでしょうか。この工場が近くを流れる新昌江の水質を著しく汚染している、ということで日曜日(7月17日)に新昌県の農民1万5000名が工場に押し寄せ、工場の操業停止と移転を要求したのです。
数を恃んだ農民は騒ぎに駆け付けた防暴警察(機動隊)数百名とも衝突し、機動隊に投石する一方で警察車両をひっくり返すといった農民暴動お約束の展開。機動隊は催涙弾を放って農民たちを追い払ったものの、昨日(7月19日)の時点で事件は未だ解決しておらず、事態は現在進行形とのことです。
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現場の地理をやや具体的にしておきますと、京新薬業の工場は新昌県と●州市(●=山へんに乗)の間を流れる新昌江の河畔に位置しています。この川に京新薬業が長期間にわたって悪臭の漂う汚水を垂れ流していたことで、新昌県及び下流地域の農民たちは以前から不満を募らせていたようです。
工場側は「工業廃水は国の基準を満たしている」と強調するものの、新昌江の水質悪化とその周辺の環境汚染は覆うべくもありません。周辺住民の皮膚にアレルギー症状が出たりしているほか、新昌江から引いた水を使うこの一帯の畑でとれる農作物は「俺たちも(危なくて)食べられないよ」(農民)とのこと。
暴動を引き起こす直接のきっかけとなったのは、7月初めに工場で発生した爆発事故でした。化学原料を扱う際に起きたもので、従業員1名が死亡。深夜に轟いた凄まじい爆発音に周辺住民の多くが眠りを破られましたが、
●その化学原料は致死量を超えるものだった。
●事故により化学原料の一部が新昌江に流出した。
……などといった事故の詳細が伝わるにつれ、以前からの汚水問題への不満も手伝って農民たちが立ち上がることになった訳です。
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ただ、農民たちはいきなり暴動に出た訳ではありませんでした。環境汚染が命にかかわるほど深刻であることを認識したことで、代表チームを結成して工場側と交渉しようとしたのです。農民たちの要求は、
●工場側は周辺住民に対する無料での健康診断を実施すること。
●工場側は周辺住民への医療保障を約束すること。
といったものでした。
ところが7月4日、交渉のため工場を訪れた村民代表たちは、話し合いをするどころか、工場の警備員によって行く手を阻まれ、さらに殴られるなどの暴行を受けたのです。
農民たちがこれに憤激しない訳がありません。事件の知らせが村内を走り、ほどなく農民数百名が集合して工場に押しかけ、工場を取り巻く外壁を押し倒すなどした上、警備員の詰所を襲撃、村民代表を殴った警備員をとっ捕まえました。
工場側の責任者によると、工場は事態の拡大を避けるため、地元当局の指示によってその夜から操業を停止したそうです。
「奴ら(村民)は工場の設備とかには手を出さなかったから、直接的な損失は実はそれほどでもない。ただ生産計画には影響が出た」
とは責任者の弁ですが、その操業再開をめぐる対立がより大きな衝突を呼ぶことになるのです。
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先週木曜、とのことですから7月14日。それまで工場の操業をストップさせていた京新薬業が農民側に対し、「翌日(15日)から操業を開始する」という通告を発してきました。この通告も貼り紙によるもので、話し合いなどをすっ飛ばした一方的なものです。
これに怒った農民たちはその夜、大挙して工場の外に集まり、抗議のデモ行進を行いました。『ニューヨーク・タイムス』(2005/07/19)の報道によれば、村民たちは三日三晩にわたってデモを実施した後、「もはや工場を手ひどく破壊する以外に方法はない」という結論に至ったようです。
7月17日夜、村民1万5000名が山あいの獣道や田の畦道なども伝い、四方八方から工場の正門前へと集結してきました。
ところが、三日三晩も断続的にデモが行われたことで地元政府にも緊張が走っており、事態の沈静化を図るべく治安当局が動き出していました。とは、バス30~40両に詰め込んだ機動隊を工場へと緊急投入し、農民たちに一歩先んじる形で工場に通じる道路の一切を封鎖させたのです。……ええ、沈静化といっても調停ではなく鎮圧です。
ヘルメットに防盾、警棒という完全武装の機動隊数百名。これと農民1万5000人が睨み合いとなり、ついには上述したように、機動隊に投石したり警察車両をひっくり返したりといった官民衝突へと発展することになります。
衝突自体は農民の一部による小規模なもので、機動隊による催涙弾使用によって収まりましたが、翌日である月曜(昨夜=7月18日)も雨のなか、人数は減ったものの村民たちはなお工場前に詰めたままで夜を迎えました。
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工場移転。……村民たちたちの意思は揺らぐことなくその一点で固まっています。工場正門から100m近い場所で機動隊との対峙を続けている22歳の農民は、
「こうすることが、俺たちにとってこういう問題を解決する唯一の方法なんだ。市長だの役人だのに陳情したって、向こうは袖の下ばかり要求して、何もしてくれやしない」
と荒い語気でまくし立てます。工場側は通告の中で「化学原料を投入した機器は一週間運転させないと爆発する可能性がある」と警告していますが、それについて別の村民は、
「そんなこと誰が信じるかい。今までだって何回も俺たちに嘘ばかりついて、まともに取り合ったことなんか一度もないんだから」
とコメント。また「警察はどうして庶民を助けないんだ?俺たちが生きようが死のうが構わないのか?」という声もあれば、
「この件は解決できないと思うよ。奴ら(工場側)は22日の午前8時になったら操業を停止すると言っているけど、俺たちは誰もそんなこと信じない。こんなに汚染しておいてまだ操業を続けるなんてことは、俺たち庶民が許さない。省に訴えて、それから中央にも訴える。そうやって騒ぎが大きくなれば、省や中央が介入してきて、操業を止めることができるだろうよ」
という意見も。
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さらに20歳そこそこの若い農民は、
「東陽(画水鎮)の騒乱みたいだろ?いまは誰もがこの事件を知っている。俺たちだって人間として扱われなきゃだめだ」
と小躍りせんばかり。事態が深刻となり、騒ぎが大きくなってようやく人として扱ってもらえる。……というのは、当人の明るい語気とは裏腹に重い言葉ではないかと思います。さすがは中国、人民は中国共産党に生殺与奪の権を握られた畜類同然という訳ですね。
「あの工場は外国人のためにあんな有毒薬品を造っているんだよ。外国人が自分の国ではとても生産できないようなものをね」
なんて声もありました。なーんだ、よくわかってるじゃないですか(笑)。それが中国に振られた役なんですから、頑張って最後までその役をこなして下さい。
ま、仕方ないですね。
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大気汚染、河川・地下水の水質悪化などによる環境汚染の影響はすでに目に見える形で出ています。前述した皮膚アレルギーもそのひとつですが、新昌県と●州市では瘤のような腫瘍を患うといった奇病で入院する住民が少なからずおり、人口比でいえば、その比率は浙江省内における他の市・県に抜きん出て高いということです。
なお、海外メディアに事件をスクープされたためか、この一件は「新華網」(2005/07/14)など中国国内でも報道されているようです。「バレちゃあしょうがねーなー」ということでしょう。ただし工場に押し寄せた農民の人数や機動隊との衝突といった具体的な情報は伏せられているようです。
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【参考】『蘋果日報』(2005/07/20)
http://www.epochtimes.com/gb/5/7/20/n991926.htm(大紀元)
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http://www.epochtimes.com/b5/5/7/20/n991775.htm
これは香港紙『蘋果日報』(2005/07/20)に掲載されたコラムをそのまま転載したものですね(多少端折ってはいますけど)。
興味深い内容なので頭の隅にとどめておけば、いつか役に立つことがあるかも知れません。
>環境問題に取り組まない国には、工業化する権利はないと考えます。
同感です。中共お決まりの「特殊な国情だから」云々を通用させてはならないと思います。大気汚染とか黄砂とか酸性雨とか、日本にも関係してくるでしょうからね。
そういう基準をきっちり満たした上で、苦力としての立場に励んでもらいたいものです。
他の奴らがこれ食って何かあっても知らないけど、自分達まで害が及ぶようだと問題だと聞こえてしまって………。
原文のニュアンスがどうなのかは分かりませんが。
一見同情させられそうになる農民側にも、油断なりませんねえ。
この言葉、原文は「~我們都不敢吃」です。直訳すれば、「おれたちも敢えて食べないんだ」というところでしょうか。
この一言からの御洞察、すごいですね!なるほど言われてみれば、いみじくも「油断なりませんねえ」の一端が表現されています。
私は、工場の警備員が村民に捕まったあと、どうなったかも知りたいです。例によって「村のことは村で裁く」という伝統的な村落自治の雰囲気がうかがえます。
>相手の事情を無視しての一方的な非難もどうかと。
環境破壊を非難しているのは農民ですよ。
それとも工場側や地元当局側の事情も察してやれ、という農民へのお言葉ですか?
それから、どんな「事情」があろうと、現在使われているモノサシから外れる行い(環境破壊とか)は批判されて然るべきだと思います。中国に限っていえば、ODAなど海外から経済援助を受けている分際で外国に援助を行ったり、軍事費に莫大なカネを注ぎ込んでいる。
そういうことをしている国が、事情だの国情がどうだなどと言う資格はないと私は思います。
別に中国を擁護する気などさらさらありませんが
私の住む福岡県北九州市はかつて科学技術の発展の象徴として幸せを呼ぶ七色の煙なんて言葉がありました
当時の人々は空前の好景気に沸き、大気に毒を撒き散らし、河に毒を流し山を切り崩して海を埋め立ててその経済の発展を享受してました
反対意見を押しつぶしながらです。
日本に限らずこうやって発展してきた先進国を見てそれを追おうとする国々が先進国から自然破壊は駄目だとか言われても
先進国が何かと理由をつけて後続が発展への道を通れないよう塞いでるようにしか見えないのは仕方が無いのではないでしょうか?
彼らが今通ってる道は嘗て私達が通ってきた道でもあります。
私達には積み上げてきた歴史と経験がありますが不幸にも彼らにはありません(まぁあっても握り潰す文化の持ち主だとは思いますが)
>環境問題に取り組まない国には、工業化する権利はないと考えます。
という言葉はそういった時代を通って「持てる者」になった我々だからこそ感じられる言葉ではありますが
それを押し付けるのは傲慢ではないでしょうか?
しかしながら指をくわえて見てる訳にも行きません
当然警告はするべきだと思いますし、なるべくそうならないよう協力(中国相手には絶対したくないものだが)もすべきだとも思ってます
我々は「持てる者」であり中国は「持てない者」であるその視点の違いが真っ当な意見に隠れて私達を傲慢にしてないでしょうか?
少なくとも工業化する資格、権利云々を語る資格が我々には無いと思ってます。
以上推敲もしない駄文ですが失礼します
目障りなら消してください
「七色の煙」もそうなんでしょうけど、高度成長時代、日本にも公害問題を二の次とする風潮がありました。欧米だってそのころは環境保護を優先するなんて考えはなかったと思います。
それがその時代のモノサシだったからですです。
ところが現在はそうではない。別のモノサシに変わっています。時代のモノサシを無視することが許されるなら、植民地を持つことに何ら躊躇がなかったアヘン戦争当時の時代と同じことをやっても、国際社会で何ら批判されないことになります。
現在のモノサシのもとで工業化を図るなら、やはり現在のモノサシに従わなければなりません。こと公害・環境汚染といった問題は国境を超えて他国に迷惑を及ぼすこともある訳ですし。そのためのノウハウが必要なら、「持てる者」の力を借りればいいでしょう。ただ、上のレスで書いたように、中国のような国は、まず分際をわきまえることから始める必要があると思います。頭を下げろというのではなく、行いを正せということです。
それから、地理的特性や民族的性質の適不適も関係しているので一概には言えないでしょうけど、「持てる者」は「持てる者」になるべく必死に自己研鑽し、立ち回ってきた経験を過去に持っていることを忘れてはならないと思います。決して幸運により天から恵まれた地位、という訳ではありません。
最後に、まだお若いのでしょうから老婆心として申し上げますが、「怒りの琴線」というような言葉をこういう場で使わない方がいいと思いますよ。それ自体が揶揄と見なされたり、売り言葉になってしまうかも知れないからです。
お知らせ頂ければ、私もそちらへ出向くことにします。何分多忙ゆえ、私にその時間的余裕と意思(ヤル気)があれば、のことですが。……私は勤労者でして、いまは記事漁り、チナヲチそしてこのブログの更新で余暇は手一杯の状態なのです。この点御了承下さい。
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