以前コメントを寄せて頂いた「仔仔」さんなら御存知かと思いますが、もうすぐ香港で年間最大規模を誇るイベントが開催されます。
私には直接関係ないのですが、そこは義理人情などのしがらみもあって色々とお手伝いする破目になって。……あ、そういえば「香港チーム」(私の仕事仲間)がもしかしたらブースを出すかも知れないとかいう話だったような。まあ東京にいる私には関係ないのですが。
加うるに左目が飛蚊症になりまして鬱陶しいったらありゃしません。黒い糸くずのようなものが左目の視界をフワフワと動いています。仕事で結構忙しいのに反日電波浴なんかしているから、当人は自覚していなくてもストレス過剰になったのでしょうか(ブログの更新圧力もありますしw)。連休明けに眼科医へ朝駆けする予定です。
……こう書いてみるとやっぱりどうみても見苦しい言い訳ですね(笑)。ともあれこれを書き終えたら久しぶりに爆睡して、夕方に九段へ行ってきます。配偶者(香港人)が「みたままつり」をどうしても見たいそうなのです(お正月のときのように出店と猿回しがあると勘違いしている模様)。私も初めてなので楽しみです。
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さて今回は打ち続く騒乱ないしは暴動に対する中共当局の方針が明らかになりましたので、それをお知らせする次第です。
その前にまず4月の反日デモ以降に発生している事件を拾ってみました。これは当ブログで紹介したものだけなので、実際には当ブログでは扱っていないものの報道された事件、またメディアやネットユーザーの可視圏外で発生したために知られていない事件もあるかと思います。労働争議を含めればもっとあるでしょう。要するに以下は氷山の一角、ごく一部でしかありません。
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2005/05/05 河南省・商丘事件(再開発事業による立ち退きを拒む住民を暴徒約100名が襲撃)
2005/05/21 江西省・井岡山事件(土地収用に伴う補償内容を不服とした農民数百名が京九線・井岡山駅内に乱入、破壊活動などにより京九線の運行を6時間ストップさせた)
2005/05/22 広西チワン族自治区・北海事件(難癖をつけて多額の罰金をとる警官に抗議し、トラックの運転手たち約500名が集団ストライキ)
2005/06/11 河北省・定州事件(土地収用を拒む農民を暴徒300名が襲撃、6死48傷)
2005/06/16 北京市・石景山事件(再開発事業による立ち退きを拒む住民を暴徒約30名が襲撃)
2005/06/25 重慶事件(再開発事業による立ち退きを拒む住民を暴徒約20名が襲撃)
2005/06/25 江西省・九江学院事件(何かと費用を大学当局に怒った学生が構内の一部を破壊)
2005/06/26 安徽省・池州事件(成金の横暴とカネで転ぶ警察に怒った市民が警察署を襲撃)
2005/06/26 浙江省・煤山事件(長年にわたる大気汚染に堪忍袋の緒が切れた農民600名が電池工場を襲撃)
2005/06/27 山東省・山東理工大学事件(ウイグル族vs漢族、流血の学生衝突)
2005/06/29 湖南省・衡山事件(警官が妊婦を殺害、怒りの農民が遺体を掲げて警察署を襲撃)
2005/06/29 吉林省・長春事件(佩刀の是非をめぐりチベット族と警官が衝突)
2005/07/02 広東省・仏山事件(土地収用を拒む農民と警官隊が衝突)
ちなみに定州事件は暴徒襲撃の一部始終を捉えた映像が全世界へと流出、定州市の党・政府それぞれのトップ(市党委員会書記と市長)が更迭され、市党委書記の方は警察に拘留されています(容疑者か重要参考人なのかは不明)。それから仏山事件は3月ごろから土地収用をめぐって「官」と「民」の反目があり、5月31日にも警官約1000名と重機を投入して強制執行を試みた当局と農民が衝突しています。事件は未だに現在進行形です。
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で、当局の反応となる訳ですが、7月7日に行われた国務院(中央政府)新聞弁公室主催による記者会見で、中央組織部の李景田・副部長が質疑応答を行っています。記者はロイター通信の中の人です。
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/07/content_3190434.htm
記者「ここ数カ月、中国の農村では一連の騒乱的状況が出現しているが、中国共産党はいかなる手法で騒乱事件の処理にあたるのか?先進性教育活動は中国当局によるこうした問題への対処を改善するためにどういう役割を果たすのか?」
先進性教育活動というのは昨年から展開されている新手の政治教育活動のようなもので、要するに中国共産党員は人民の模範(先進性)にならなきゃ駄目なのだ、という胡錦涛の現状認識による危機感(こんなことやっていたら中共は倒れる)を反映した活動です。「雷鋒に学べ」とどう違うのか私にはよくわかりません。
言うなれば往復ビンタを喰らわして、党員に活を入れ直すようなものでしょうか。一党独裁制だと権力の暴走をチェックしたり制御したりするメカニズムがありませんから、独裁者たる共産党員の自覚を促すしか方法がないのです。
「雷鋒に学べ」は毛沢東時代に生まれたものですが、どうも胡錦涛はこういう古臭いというかダサいやり方が好きなようで、他にも人民のためによく働き、ついには病に倒れた模範的な党員の実話をミュージカル化したりしています。携帯電話にインターネット、そういう時代に革命バレエとは恐れ入りますが、そういう趣味なんでしょうから仕方ありませんねえ。
……ああそうでした。このロイターの記者の質問に「先進性教育活動」が出てくるのは、この記者会見の主要テーマがそれであるためで、李景田副部長はこの活動の指導チームで副組長を兼任しているからです。つまりロイターの記者は、「先進性教育活動」にかこつけて「騒乱事件」への当局の見方を引き出そうとしている訳で、なかなかのパワープレイであります(笑)。
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そして李景田副部長の応答となるのですが、なかなか率直ではあります。まず、
「最近中国農村部で発生しているああした出来事を、我々は「集団的事件」と呼んでおり、騒乱とは呼んでいない」
と記者の発言をガツンと訂正した上で、
「皆さん御存知のように、中国の改革と近代化建設は正念場を迎えています。一人当たり国民収入が現在の1000米ドルから3000米ドルへと飛躍する時期です」
と、まずは大風呂敷を広げます(笑)。
「この段階は『黄金発展期』であり、『矛盾突出期』でもあります。ですから、改革が絶えず深まっていくために、発展していくために、一部の矛盾(対立軸)が集中的にまとめて出現する可能性があります。中央が『以人為本』(人民第一の政治)、科学的発展観(規模の大小より効率の高低を重視)、社会主義調和社会の構築を提起しているのも、改革と発展の過程では、社会における矛盾を絶えず融和し、社会をより調和のとれたものにする必要があるからです」
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そして話題は焦点である騒乱、じゃなかった「集団的事件」へ。
「もちろん、末端幹部にはレベルの低い者もあり、矛盾を緩和させる能力が不足している者もあり、さらに他の原因が加わることで、集団的事件が引き起こされます。ですが、各クラスの党委員会や政府の努力を通じて、こうした事件は全てとてもよく処理されているというべきです。」
実直な発言だと思いますが、上述したように一党独裁制ですから、「集団的事件」が群発するのは悟りの足りない幹部がいるからだ、と制度ではなく人に原因を求めているのが印象的です。それにしても、
「こうした事件は全てとてもよく処理されている」
ということは、武装した暴徒による市民・農民襲撃、ああいうのも「全て」に含まれる「とてもよい処理の仕方」なのでしょうか?……て突っ込むところだろロイター。
「今回の先進性教育活動では、我々は広範な党員と末端幹部を教育しました。それによって、公の精神を有する党、民のための政治、全身全霊で人民に服務するという観念がより一歩深まり、党員たちの能力が高まりました。ああした事件も、この先進性教育を通じて大々的に減少するものと確信しています。もちろん、全く発生しなくなるということはあり得ないでしょうけど」
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……以上です。最後の最後に垣間見せた不安げな表情がいいですね。外交部報道官だとこういう弱気を見せるような可愛げがないのです。孔泉は自分に酔っているヒョットコ、劉建超は正にチナブタ、そして秦剛は発声がなっていない上にぼそぼそと早口ですから。
冗談はさておき、騒乱事件が「先進性教育を通じて大々的に減少するものと確信しています」とのことですが、李景田さん上の事件一覧を見て下さい。確信するのはあなたの勝手ですが、先進性教育活動も第一段階を終了し、第二段階へ進もうというこの時期に、「集団的事件」が群がり起きているではありませんか。
これはやっぱり、李景田さんの総括とは裏腹に、党員どもの悟りがまだまだ足りないということではないでしょうか。ええ、もちろん末端幹部だけでなく。
しかしですよ。そもそも広範な末端幹部に「悟らせる」こと自体が無理ではないかと思うのです。つまりは土地転がしで得られる莫大な利鞘やお決まりの賄賂、それに勝手にでっち上げた名目による徴税や料金徴収といった「既得権益」を手放せ、ということなんですから。
各地で続発する騒乱事件に対し、「人民内部の矛盾を緩和させる」といった御託を並べるか、「先進性教育活動」のように念仏を唱えるしかないのであれば、中共政権としては打つ手なし、ということなのでしょう。念仏唱えても事件は解決されませんからねえ。
もちろん武警(武装警察)や防暴警察(機動隊)を大挙投入して力づくで「解決」してみても、問題の根っこは残ったまま、「官」への怨嗟がいよいよ募ることになるでしょう。
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李景田さん、お言葉の通り、中国の改革と近代化建設はまさに正念場を迎えているのです。……わかります?
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【追記】お早うございます。起きて香港紙をチェックしていたらまた似たような騒ぎが2件発生。立ち退き拒否にまつわるトラブルです。
●ブルドーザー炎上・警官火だるま――立ち退き拒む火炎瓶男
http://hk.news.yahoo.com/050715/12/1ekkx.html
●病院建設に抵抗、住民多数が衛生局を包囲
http://hk.news.yahoo.com/050715/12/1ekkl.html
火炎瓶男(遼寧省瀋陽市)はなかなかの素材です。こちらはその元ネタ(画像あり)
http://www.huash.com/gb/hscb/2005-07/15/content_2047095.htm
病院建設反対運動(山東省日照市)の記事末尾には、上で紹介した李景田・中央組織部副部長のコメントがそのまま引用されています。頑張って念仏唱えて下さいね李景田さん(笑)。それにしても都市部の土地収用をめぐる騒動でとうとう火炎瓶が登場しましたね。いよいよ盛り上がって参りました。(2005/07/16/16:24)
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