一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『国家の罠』と『自壊する帝国』

2006-09-02 | 乱読日記
鈴木宗男議員の事件に関連して逮捕・起訴された(裁判は控訴中)「外務省のラスプーチン」こと佐藤優氏の著書です。

『国家の罠』は事件そのものについての本です。
大きく言えば
① ロシア外交における鈴木宗男議員の役割と佐藤氏との関係
② 起訴されるきっかけになったイスラエルの学者とのつながりのロシア情報収集における重要性などの背景
③ 外務省の人間模様
④ 逮捕・拘留中の検察官とのやりとり
が書かれています。

『自壊する帝国』は、著者が外務省にはいり、ロシア大使館に赴任していた1985年から1995年にかけて、ちょうどゴルバチョフ政権からソ連が崩壊しエリツィンがロシアの大統領になるまでの記録です。


外交機密には触れられない、と注意書きはありますが、『国家の罠』は検察官とのやり取りをここまで冷静に書いた拘留記(?)は初めて読んだこと、『自壊する帝国』は、もともとほとんど知識のなかったバルト三国を始めとするロシア共和国から独立した諸国の事情や、旧ソ連の政治家の実像がリアルに描かれていることから十分に楽しめました。


読んでいくと、情報収集・分析を職業としていたためか、本来の性格もあってか、著者は非常に頭の整理された人だという印象を受けます。

それが『国家の罠』では自ら刑事被告人になっているので仕方ないのですが、首尾一貫して論理的に破綻のない書きぶりが少し我田引水風に感じられるところもあります(そりゃ当然ですが)。
それだけに取り調べにあたった検察官との応酬は読み応えがあります。

それに比べて『自壊する帝国』はソ連邦の崩壊をモスクワ大使館でリアルタイムで目撃した筆者が年代記風に書いているので、前書のような緊張感は漂ってきません。
逆に、これこれの政治家・活動家と話をしたときにどこで何を食べた、ウオッカを何本飲んだということが必ずセットで出てくるあたりが、当時のロシアの実情や外交官の実態が伝わってきます。
また、国家の崩壊・体制の転換局面での人間の身の処し方(政治的スタンスや金の稼ぎ方)、現在のロシアやCISについても考えさせらます。


逆に筆者の情報収集のスタイル、人脈の広げ方は大使館内でも独特(でかつ優秀)だったために、出る杭は打たれやすい状況にはあったんだろうな、とも想像されます。


文章の書きぶりは上述のように「ぶれなすぎ」で著者のロジックで緻密に展開される(特に前書)ので、読者としてそこにひっかかってしてしまうと批判的なスタンスを取りたくなってしまうかもしれませんが、歴史書とはそういうもんだくらいの気持ちで読むと楽しめたり参考になったりする部分の多い本だと思います。

















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