一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『史観 宰相論』

2012-12-25 | 乱読日記

文庫版解説の北岡伸一の言葉を借りると  

昭和の政治史については、清張の代表作は『昭和史発掘』であり、専門家から見ても、いまだに教えられることの多い傑作である。本書における昭和の宰相論は、この『昭和史発掘』を裏側から見るような観がある。

松本清張は推理小説、サスペンスのほかにも、歴史、特に近現代の政治・社会運動についての著作でも有名で、 特に『昭和史発掘』はそこで取り上げられている事件自体がすでに取り上げられることが少なくなっている中では貴重な本だと思います。  


松本清張は反権力、政治家・財界などの「巨悪を暴く」姿勢を一貫してきましたが、同時に小説で人間の欲、情念、コンプレックスなどを描いてきました。  

本書では大久保利通以後の明治の元勲から戦後の吉田茂までの宰相について触れられていますが、やはり清張流のメリハリをつけ、業績だけでなく、個人としてのアクの強さ、複雑な人格と人格形成に至る背景を持っている人により焦点をあてています。
そして随所にちりばめられている人物評が本書の魅力です。  
たとえば  

西郷は倒幕までは素晴らしかったが、維新となりその体制や組織が整うにつれあたかも痴呆症の如くになった。かれは破壊には強かったが、建設された組織の運用には弱かった。それもひっきょうは西郷が近代化についてゆけなかったからである。その点、西郷と毛沢東とは似ていると思う。--西郷隆盛論をするつもりはないが、「大久保宰相」論を云うためには、どうしても西郷を引き合いに出さねばならない。敢えて西郷鑽仰者流の美化に反することにする。  

当時の新聞・雑誌記事に加え、本人や関係者の日記などを丹念にあたり、意思決定プロセスだけでなく人間像を描き出す手法は、最後の評価の部分について清張の目が入ったとしても、説得力のあるものになっています。  


橋下市長についての週刊朝日記事などを思うと、こういう丁寧な仕事をする人が少なくなったなという別の感慨も持ってしまいます。
(佐野眞一氏も、人格形成に迫る手法は同じにしても、ダイエーの中内功を描いた『カリスマ』などの頃は良かったと思うのですが、どうしてしまったのでしょうね。)



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