続けて「ガイジン本」
古美術品や書そして古民家再生や景観コンサルティングなど幅広く行っている「日本文化研究家」アレックス・カー氏(Websiteは
こちら)が日本の都市・観光地・公共工事が景観をいかに藝術的なまでに損なっているかを豊富な写真を交えながら訴えた本。
数年前に同氏の講演を聞いたがその内容を発展させた感じ。
観光地の無遠慮な看板や禁止サイン、景観をあえて破壊するような無骨な土木工事、どこも同じな地方中核都市の駅前(特に新幹線停車駅のペデストリアンデッキとか)などはまったく同感。
観光地についてはインバウンド観光客が今年は1300万人に達しようという勢いの割には現地が追い付いてきていないところも多い。
本書でも取り上げられている白川郷は、世界遺産効果もあり年間約140万人にものぼるが、平均滞在時間は40分に過ぎない。これは大型観光バスによる観光ツアーに特化してしまった弊害だと著者は指摘する。
実際白川郷は高速道路のインターチェンジが近いため、高山から富山・能登半島に抜ける「ドラゴンルート」の通過点になってしまっている。
これが一般の白川郷のイメージだと思うが
車で来ると村の入り口に巨大な駐車場ができていて、バスが頻繁に出入りしている。
しかも、なぜか駐車場の外側のアプローチ道路沿いに1件だけ合掌造りの家が残っていて、そこが蕎麦屋を営業している。そして、駐車場に行く車をいちいち止めては「食事をしたら駐車料金無料にするよ」と個別に客引きをしている。
日本人の自家用車客対象だろうが出だしから気持ちがくじかれる。
世界遺産になると難しいのかもしれないが、駐車場を作るときに移設などは出来なかったのだろうか?
さらに、集落の中も土産物屋はどこも同じようなものを売っていて商品も個性がないし、重要文化財の建物は個別に入場料を取っていて煩雑。
どうも住民同士が共同して盛り上げようというよりは世界遺産に指定されたのがゴールになってしまっている感じがした。
リピーターはあまり期待できないのではないか。
対照的に近く高山市は観光地として歴史があるにもかかわらず、「昭和の観光地」にとどまらず真っ当である。
言ってしまえばもともと高山市は古い町並みと祭りくらいしかコンテンツがないのだが、そこをきっちりと磨き上げている。
町並みは非常にきれいで整備されているだけでなく、商店もそれぞれ個性のある品物を扱っている。
もともと江戸時代は材木の産地で天領として産業・文化が栄えたこともあるのであろうが、スイーツもオリジナルの店も多く、数ある酒蔵ではそれぞれ試飲コーナーが用意されている。
日本の観光地だってやればできるのであり、また、きっちり魅力を磨いているところも増えている。
著者も四国の山奥の古民家再生などでそれを実証しているし、観光業は21世紀の基幹産業になると唱えている。
本書は日本の観光業や街づくりへのエールととらえたい。
(ウエブサイトを見ると、カー氏の活動拠点が最近タイに移っているのが気になりますがw)