「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

境界性パーソナリティ障害の 弁証法的行動療法 (1)

2008年07月15日 21時59分25秒 | BPDの治療について
 
 「パーソナリティ障害」 福島章 (日本評論社) という本から、

 「 弁証法的行動療法 (DBT) 」 について記します。

 弁証法的行動療法は 認知行動療法の一種で、

 1987年に 米国の行動心理学者 マーシャ・リネハンによって 開発されました。

 自殺行動や リストカット,ODなどの 自傷行為に対して、

 多くの有効性が 実証されています。

 抑鬱,不安、解離などにも 治療効果が大きく、

 対人関係の改善などが 長期的に維持されるといいます。

 BPDだけでなく、摂食障害やPTSDなどにも 適用が広げられています。

 
 DBTは 弁証法が基本原理になっています。

 弁証法とは哲学用語で、

 ひとつの命題 (テーゼ) には 必ずそれに反する命題 (アンチテーゼ) があり、

 その矛盾を解決するためには、

 両者をひとつ上の次元で 統合 (止揚/アウフヘーベ ン) するという考え方です。

 「正」 → 「反」 → 「合」 で表されます。

 そうして新たにできた 上の次元の命題には、また再び その反対の命題が存在し、

 さらにそれらを 高い次元で統合していきます。

 それを繰り返して、認識は変化し 進んでいくというものです。

 このように弁証法は、

 現実を 「相互関係」 「統合」 「変化」 の 3つの軸で説明しますが、

 これは BPDを理解する 手がかりになります。

 例えば BPD患者は、自分のアイデンティティに 混乱と不安定性を抱えており、

 これは 人との 「相互関係」 を 実感できていないことによります。

 弁証法の最初の段階の 失敗と言えるでしょう。

 また、極端な二分思考を持っていて、現実の複雑さや矛盾を 理解することが困難です。

 BPD患者は、テーゼまたはアンチテーゼの どちらかに捕らわれ、

 統合ができないと考えられます。

 一方、弁証法は 治療にも組み込まれています。

 治療者は、患者の 「変化」 を促しながら、同時に、

 そのときの ありのままの自分を 「受容」 することを 患者に求めます。

 実際には、治療者は患者に対して、不適切な言動の 原因を説明し、

 そういう行動を取ってしまうのは 致し方ないことだと是認します。

 そうすることによって、患者の現状を 「受容」 し、

 その上で 問題行動の解決策を話し合い、「変化」 させていくことを支援するのです。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/55160230.html

〔 「パーソナリティ障害」 福島章 (日本評論社) より 〕
 
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境界性パーソナリティ障害と 解離性同一性障害

2008年07月12日 20時59分23秒 | BPD,パーソナリティ障害の書籍から
 
 境界性パーソナリティ障害と 解離性同一性障害 (DID) は、

 深い関連性があると 言われています。

 DIDがBPDを 合併する比率は 23~70%とされており、

 心子も広義のDIDであると 解釈されました。

 DIDでは、防衛機制としての解離 〔*注〕 と、

 BPDの 「分裂機制」 (スプリッティング) 〔*注〕 とが、

 様々なレベルで 作用しています。

 両者は 別の全く概念ですが、

 解離と分裂の間には 連続性があると指摘されています。

〔*注: 防衛機制としての解離というのは、耐えがたい苦痛から 逃れるために、

 その苦痛から 意識を切り離してしまい、別の意識 (人格) が作られることです。

 分裂 (スプリッティング) は、100か0か、白か黒かしかない、

 中間がないという BPDの極端な二分思考です。〕

 BPDでも、DIDに類似した現象として、

 「かのような人格」 (As if personality) が記されています。

 その場に合わせて 様々な人格を 無意識に演じわける、BPDの特徴です。

 DIDとBPDは、ともに 人格の統合性に 問題がある病態ですから、

 両者の間に 近縁性があるのは 当然といえるかもしれません。

 
 解離状態の治療は、抑圧された記憶を 回復することが主眼です。

 そのために、外傷体験を意識化する精神療法,

 抑圧を解除して 記憶を呼び戻す催眠療法,睡眠薬や抗不安薬などが 行なわれます。

 その次に、蘇った記憶や外傷体験を 人格に再統合し、

 外傷体験にまつわる 感情の反応を 受け止める作業が必要となります。

 心子も 主治医の森本先生から、同様の治療が必要だと 言われていました。

 例えば、以下のようなモデルがあります。

1.交代人格と それぞれよい関係を結び、安全感を育む

2.外傷体験を回想し、それに対する 悲哀の作業を進める

3.交代人格に代表される 人格の様々な側面を 統合する

 自分の心の状態を把握し、自分自身のあり方を 見つめるという、

 BPDに準じた治療を することができます。

〔 「パーソナリティ障害とむきあう」 林直樹 (日本評論社) より 〕
 
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再出版の原稿 仕上がり

2008年07月10日 22時44分03秒 | 新風舎から星和書店へ、新たな歩み
 
 「境界に生きた心子」 を 星和書店から再出版するための、

 改定稿・第一稿が やっとできました。

 なかなか時間が取れなかったのと、細かい所に拘るために、

 すっかり遅くなってしまいました。

 編集部の意見を聞いて、また修正することに なるかもしれません。

 改定稿は基本的に 新風舎のときと同じです。

 心子との事実は 変えられませんからね。

 ただ今回は、巻末に書いた ボーダーについての 解説の部分は、

 割愛することになりました。

 星和書店は 心理学や精神医療の分野を 専門に出している会社なので、

 精神医学的な情報に関しては 厳格です。

 素人の立場である僕が 解説を書くのは、適当ではないというスタンスです。

 「境界に生きた心子」 はあくまでも 体験者による物語であり、

 物語に解説はいらないだろう ということでした。

 星和書店は、専門家による 境界性パーソナリティ障害の本を

 数多く発行しているため、ボーダーの知識については 他の本に譲る考えでしょう。

 ただし、解説部分を 丸々削除してしまうと、説明不足になったり、

 筋が通らなくなったりすることが 出てくるので、それを補うことはしました。

 解説を部分的に 本文内に持ってくるなどしました。

 また、新風舎版では 「境界例」 「境界性人格障害」 という表記をしていましたが、

 これは今は 使われなくなってきているので、

 「ボーダー」 「境界性パーソナリティ障害」 に書き直しました。

 あとは、ごく細かい直しです。

 ゲラができるまで しばらくかかるでしょうが、

 その後は校正など また煩多な作業になります。

 それにしても 新風舎での執筆作業のときから、

 恐らくもう百数十回 「境界に生きた心子」 を 読み返しているだろうと思います。

 本当にわずかな語句や 表現に拘ったり、ない頭を絞ったりするので。

 それでも、新たな不備が 色々見つかるから難儀なものです。

 星和書店から生まれる 新たな 「境界に生きた心子」 はどのようになるか、

 楽しみにしながら 作業に励んでいきたいと思います。
 
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予後と、これからの研究の方向性 (2)

2008年07月07日 21時06分21秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54989981.html からの続き)
 
・「生まれ」 と「育ち」 の境界線

 BPDも 遺伝的要素があるのは、ほぼ確かだと言われます。

 複数の遺伝子が BPDに関係していて、

 深刻な環境のストレスによって 発症する思われます。

 例えば、「高報酬依存」 (誉められたいという強い願望) や

 「危険性回避の低さ」 (危険を犯し続ける) という 生まれつきの特徴は、

 特定の染色体に関係しており、多くのBPDの人の行動に 影響しています。

 気分,攻撃性,衝動性といった 遺伝的な不安定さも、

 BPDの発症に 結びつくかも知れません。

 人格的特徴は 環境によって形成されると、広く認識されています。

 早期の見捨てられ体験や 性的虐待が、BPDの発症に 関係していると思われます。

 フラストレーションや、人間関係・心の拠り所の欠如も、

 生まれつきの弱さと重なったとき、BPDを生み出すでしょう。

 将来、気質的な脆弱さを示す 遺伝的マーカーが見つかれば、

 BPD発症の前に 予防することが可能になるかもしれません。

 家や学校で 注意することよって、不幸を防ぐことができるようになるのです。
 

・治療モデルの構想

 理想的な治療施設には、次のような条件が必要です。

1.患者一人一人の ニーズに合わせた、継続的で個別的な 治療が施される。

  入院,部分入院,外来施設などがある。

2.治療者は訓練を受け、経験豊富で 意欲を持っている。

3.個人療法,集団療法,家族療法がそろっている。

4.絵画・芸術療法,音楽療法,ダンス療法,サイコドラマ,運動・栄養の相談など。

5.新しい薬物療法が可能で、精神療法と組み合わされる。

6.専門家間で 定期的なミーティングを設け、協力体制が整っている。

7.スタッフの研修とスーパーヴィジョンが 継続的に行なわれる。

  研修や情報交換があり、テクニックを向上させる。

8.患者のための 研究活動が行なわれ、雑誌や本が刊行される。

9.BPDの人のサポートグループが 地域社会で育てられる。

  患者と家族,パートナーの教育がなされる。

10.早期治療の経済効果を認識し、社会的な協力体制を取る。

11.精神医療,BPDに対する 社会の理解を広める。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より〕

(以上)
 
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予後と、これからの研究の方向性 (1)

2008年07月04日 20時27分33秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 欧米でBPDの予後は、以前よりずっと 期待が持たれています。

 40代までには、治療の有無に関わらず、BPDの人は改善していきます。

 もちろん治療は その過程を早くします。

 B群のパーソナリティ障害 (BPD,自己愛性,演技性,反社会性) は、

 A群 (エキセントリックなグループ) やC群 (不安なグループ) の

 パーソナリティ障害より、改善する傾向があります。

・短期治療の成績

 最初の1年間で 症状の著しい改善は あまりなく、

 この間に ドロップアウトしてしまう人が 少なくありません。

 2年間で 目に見える改善があっても、BPD的な言動は残ります。

 重度の機能障害と 激しい衝動性は、短期間の治療では 改善が見られにくいものです。

・長期治療の成績

 入院治療を受けたBPD患者は、その後の治療がなくても、

 10年後には 66%が中程度の回復をしています。

 約40%の人が、BPDの診断基準を満たさなくなります。

 通常、仕事の上でも 安定することが多い一方、

 人間関係や家族に 満足できるのは少ないようです。

・治療の役割

 様々な形態を組み合わせた 積極的な治療を行なうと、寛解率は7倍にもなります。

 定期的な治療を受けた患者の 50%以上が、

 治療開始15ヶ月後には 完全に回復したと言います。

 未治療の患者は、50%が回復するのに 10年半以上かかりました。

 衝動性は 一番早く消失し、次に 認知のゆがみと対人関係が 改善されました。

 気分の不安定さは より慢性的で、完全に改善するまでに 長い期間が必要でした。

・ジェンダー格差

 女性は結婚,子育てなど、人生の 様々なできごとに対して、

 気分が落ち込んだり 押しつぶされそうになりやすいと言われます。

 女性は 恋愛に慰めを求めることが 良くあります。

 その関係が悪化すると、症状も悪化してしまいます。

 一方 男性は、法に触れる 問題を起こしたり、物質乱用の傾向があります。

 女性に比べて、仕事に拠り所を求め、

 AA (アルコール依存症の治療プログラム) のような 組織に属することも、

 改善に繋がります。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/55030697.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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治療方法 (7) (SET/UP)(2)

2008年07月02日 21時33分46秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54935234.html からの続き)

 支援,共感,真実 (SET) は、どれも同じ比率で 表現されるべきです。

 真実が 支援や共感に勝ると、歪んだ愛の鞭になり、

 逆に真実がなくて 支援と共感だけだと、馴れ合いになってしまいます。

 BPDの人に 気持ちが伝わらなければ、支援のメッセージを繰り返すべきです。

 でも 水掛け論になってはいけません。

 そういう時は、BPDの人の不信感を 受け止めた上で、共感の言葉を送ってみます。

「あなたは今まで 辛い経験をしてきたから、

 人の誠意を信じることは 難しいかもしれないけれど」 などと。

 BPDの人が 「私の気持ちなんか分かってない」 と言ったら、

 BPDの人の痛みや苦しみを 受け止めていると伝えましょう。

 波風を立てまいと、BPDの人の要求に 同意してしまうと、

 BPDの人の責任転化を 後押ししてしまいます。

 BPDの人の認知を 更に歪めないよう、

 真実に直面し、限界を守りながら、お互いの責任を担いましょう。
 

 SETは 基本的な枠組みに過ぎません。

 個々人の性格や状況に 合わせていけば良いものです。

 建設的なコミュニケーションを保ちつつ、感情をコントロールするための 骨組みです。

 腹が立ったら、支援的で共感的な言葉で、

 フラストレーションのバランスを取りましょう。

 失敗しながら、次に何が必要かを 考えていけばいいのです。

 理解と根気強さが コミュニケーションの源です。

 これらを理解していけば、前向きで、腫れ物に触るような振る舞いは 避けられます。

 粘り強くやっていくことが 必要不可欠です。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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