「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

三審、 それぞれの苦悩 -- 選択の重さ (7)

2009年06月05日 21時57分06秒 | 死刑制度と癒し
 
 91年、 広島地裁の田川雄三裁判長 (74) は、

 「 明日の判決は、 最後まで自分で読み上げたい 」 と語りました。

 喉頭がんを患い、 結審後に入院。

 明日の判決言い渡しが 終われば、 また病院に戻ります。

 初公判から被告と相対してきた 自分が言い渡すことが、

 被告に判決を 納得させることにつながると 信じたのです。

 飲食店経営者ら 一家3人を殺害した 禹 (う) 起宗被告に、

 田川裁判長は 判決理由から朗読を始めました。

 最後に  「被告人を死刑に処する」 と 主文を告げた後、 語りかけました。

「 控訴できますから、 弁護人とよく相談しなさい 」



 名古屋市内で 姉妹が拉致され、

 ドラム缶の中で 生きたまま焼き殺された事件。

 名古屋高裁の川原誠裁判長 (68) は、

「 『事実認定は高裁が最終審』 という 責任を持たなくてはならない 」

 と肝に銘じてきました。

 犯人グループは6人。

 川原裁判長は 主犯格の野村哲也, 準主犯格の川村幸也両被告に、

 一審と同じ 死刑判決を言い渡しました。



 04年秋、 最高裁の滝井繁男判事 (72) は、

 持田孝被告の上告を棄却する 判決文に署名しながら、

 背筋が伸びる思いがしました。

「 もう後戻りできない。

 これで本当に 死刑が確定する 」

 婦女暴行事件の被害者が 警察に届けたことを恨み、

 出所後に 被害者を刺殺した事件。

 一審は無期懲役、 二審は死刑でした。

「 死刑以外の選択肢はないのか 」と 考え始めると、

 いくら時間があっても 足りません。

「 被告はこれ以上、 上訴できない。

 われわれには 最終審としての苦しさがあった 」



 病が癒えて 退官した田川氏は 明かしました。

「 あの時、 控訴の手続きを説明したのは、

 高裁の判断を仰いでほしいと 本気で思ったからです。

 審理を尽くしたという 自信はあった。

 それでも、 自分たちの判断だけで

 被告の命が 絶たれてしまうというのは、 あまりに重圧が大きかった 」

〔 読売新聞より 〕