「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「無意識の彷徨」 (7)

2007年04月19日 23時21分02秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46897458.html からの続き)
 

○警察署・心理課

  なつみ、裕司の書類を読んでいる。
なつみ・『伯父夫婦の話では、過去にも2回
 意識をなくして記憶を失ったことがある…
 …時間が経つと元の記憶は戻るけど、無意
 識の間の記憶はないまま、か……(ペンを
 噛む)』
  ドアをノックする音。
なつみ「どうぞ」
  友辺が裕司を連れて入ってくる。
友辺「西脇裕司だ」
  不安そうな裕司、ぺこりと会釈する。
なつみ「(立ち上がり笑顔で)こんにちわ、
 麻生なつみです。心理課の仕事をしていま
 す」
裕司「………(なつみを見る)」
友辺「取り調べじゃない、安心しろ。優しい
 お姉さんだ」
  優しく微笑むなつみ。

   × × × × ×
  
  なつみと友辺、テーブルを挟んで裕司と
  向かい合って座っている。
裕司「………(緊張している様子)」
なつみ「(優しく)自分が誰か、分かります
 か?」
裕司「………(なつみを信用できるかどうか
 顔色を窺う)」
  なつみ、裕司を受け入れる態度。
裕司「(おもむろに)……僕は……西脇、裕
 司です……」
友辺「え!? 思い出したのか?」
裕司「……伯父と伯母に話を聞いて、自分の
 こと、少し思い出しました……」
なつみ「そう、よかった(笑む)記憶が戻り
 はじめたんですね」
友辺「(気負って)事件のとき何をしたか分
 かるか?」
なつみ「友辺さん、あせらないで」
友辺「ん……」
なつみ「(和やかな雰囲気で裕司に)ここの
 留置場で気がついたんですね? その前の
 ことで何か頭に浮かぶことはありますか?
 どんな小さいことでもいいから話してみて
 くれます?」
裕司「………」
なつみ「つじつまが合わなくても、意味が分
 からなくてもいいんですよ」
裕司「(しばらく考え込んで)………光……
 光が、見えたような……」
なつみ「光?」
裕司「(少しずつ思い出そうとしながら)…
 …急に目の前がまぶしくなって……赤い光
 が、ぴかぴか点滅して……」
なつみ「刑事さんに捕まったときですね?
 パトカーのライト。そのときどんな気持ち
 がしたか、覚えてますか?」
友辺「………(見入っている)」
裕司「……何だか、とても恐かった気がしま
 す……わけが分からなくなって……無我夢
 中で……」
なつみ「(頷き)それで暴れたのかしら?
 どうしてそこにいたのかは分かりますか
 ?」
裕司「(ゆっくり思い出しながら)……どこ
 かから、逃げてきたみたいな……誰かを、
 置いて……」
なつみ「誰かを置いて? 何か悪いことをし
 たっていう感じがする?」
  友辺、身を乗り出して裕司の答を期待す
  る。
裕司「………そんな、感じもします……でも、
 恐かった……」
なつみ「逃げだしたい、忘れたいことがあっ
 たのかな?」
裕司「(一生懸命思い出そうと)……何かが
 あったことは分かるんです……でも、それ
 が何だったのかが思い出せなくて……(は
 がゆい)」
  友辺、残念そうに舌打ちする。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46947072.html
 
コメント
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