医療マーケティングの片隅から

医療ライター・医療系定性調査インタビューアーとして活動しています。独立30年を機に改題しました。

抗がん剤の「やめどき」

2015年08月28日 | 「がん」について

「腫瘍マーカーが下がらなくても、抗がん剤ができなくなるまで続けましょう」だと?
そんなの、主治医が決めることではないだろう。患者さん本人が決めることだ。
「下がらないけど、できなくなるまで続けましょう」ではなくて、「下がらないけど、どうしますか?」と訊いてこその医療だろう。
抗がん剤ができなくなるまで、とはつまり、できなくなるほど副作用が激しく現れるまで、という意味でもあるのだから。 

-長尾和宏「「抗がん剤10の『やめどき』」(ブックマン社)→Amazon

この本の著者、長尾和宏医師にはお会いしたことはありませんが、地域の開業医として700人の看取りを経験され、これまでも「平穏死」や「胃ろう」についての著書を出し、看取りのありかたに積極的な発言をされてきた方です。がんの専門医ではありませんが、がんセンターなどの外来で抗がん剤治療をしている患者さんを継続的に診察し、心身両面のサポートをされています。たとえば、治療に疲れ果てた患者さんへの精神的ケアから、副作用の緩和まで。

上記の引用は、その長尾医師が患者から腫瘍マーカーの数値を聞き、「Aがんセンターのがん専門医の先生」から「マーカーの数値があまり下がらなくても、抗がん剤治療ができなくなるまで続けましょうと」言われたと聞いたときの、「若干腹立たしい」心のうちです。

痛いところついてる、と思いました。

これまでたびたび書いているように、わたしは現代のがん医療については肯定する立場です。
取材をすればするほど、「むしろこれだけ進んだ医療を否定するなんて、もったいない」としか思えません。何度も言ってますが全がんで治癒率はもう50%以上になっているんですよ。それは医学の進歩のおかげでなくてなんだというのか。

ただ、それでも万能ではありません。
抗がん剤が効きにくいタイプのがんもあり、効いたとしてもいつか耐性ができて、効かなくなる時がくるのも事実です。

たしかに医学、医療技術は格段の進歩を遂げています。ですが、回復がのぞめないときの医療のありかたや、看取りのありかたについては、まだまだ疑問も多いし、満足いくものではないと感じています。どこかの首相がいう「積極的平和」ではありませんが、先制攻撃だけが是ではないのです。やるべきことはもうやり終えたと感じ、「もうあとは自然に任せて、好きなように残りの人生を楽しみたい」という決断をした患者に対しても寄り添うことも必要です。(もちろん、がん専門病院や大学病院には、積極的攻撃を担ってほしいと思いますが)。

長尾医師のこの著書には強烈なメッセージがいくつもありました。
印象に残ったところをこれから紹介していきたいと思います。 

 

【追記】

昨今は副作用が出にくく改良された抗がん剤や、そもそもあまりきつい副作用がない分子標的薬などもあります。
腫瘍マーカーが顕著に下がらなくても、副作用があまりきつくなければ、維持のために化学療法を続けるというのはひとつの選択肢であり、長尾医師もそれを否定しているわけではありません。
きつい副作用が続けば体力を失い、むしろ縮命になることもありますが、そうでなければ続けるのもあり、ということです。
実際、この本にも「やめどき10」として「死ぬときまで」が挙げられています。切ないですが・・・。

 

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