医療マーケティングの片隅から

医療ライター・医療系定性調査インタビューアーとして活動しています。独立30年を機に改題しました。

がんと闘う人とのつきあい方

2014年05月29日 | 「がん」について



以前、このブログで「がんと闘う人への励まし方」「がんと闘う人への励まし方・NG篇」を書き、この細々続けているブログとしては、比較的長い間多くの方に読んでいただきました。というわけで、今回はその続編です。


先日、国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援研究部主催の「公民館カフェ」に参加しました。事前申し込みは必要ですが、がん患者さん、元気な人、医療者、メディア関係者、誰でも参加できます。つまり、がんをテーマにした市民の勉強会なのです。

昨日のテーマは「がんの外見ケア」。国立がん研究センター中央病院 アピアランスセンター長 野澤桂子さんのお話でした。ウィッグの試着タイムがあり、男女ともに大盛り上がりで、いささか収拾不能に(笑)。化学療法中の方は、自分のウィッグをえいっと外して他のを試す方も。おしゃれ好き、変身好きは皆、共通です。病気があろうとなかろうと関係ありません。

このウィッグについて、これまで、どこか一線をひいて、触れてはいけないことだと思っていなかったでしょうか。家族ならとにかく、治療中の友人がウィッグを着けていることに気づいたとき、似合っていても、言わずにだまってあげていた方がよいのではないかと…。私自身、いつもためらいがありました。(休暇のあとに出社したら急に髪の量が増えてるオジサンに対しては、まず声をかけないほうがいい、と確信しているのですが)

でも、野澤さんによれば、むしろ、ちゃんと似合うと言ってあげた方がよいそうです。人からどう見えるかがわかれば、患者さん本人もポジティブな気持ちになり、外出も楽しめるようになるとのこと。野澤さん曰く、「髪型を変えたのに誰にも何にも言われないなんて、そんな悲しいことはない。それと同じ」。患者さんからも、「ウィッグだとわかっていても、『その髪型似合うね』と言われれば安心。触れないのがいちばんイヤ」という意見が出ました。

臨床心理士である野澤さんのお話でもう一つ心に残ったのが、「日本では病気になると必要以上に病人らしくいようとする。精神的な健康のためには、できるだけそれまでと同じ生活をするのがよい。ご家族は、本人ができることを奪わないで」

平たく言えば「むやみに病人扱いするな」ということですよね。

がんであろうとなかろうと、わたしたちは生きて食べて行かなくてはなりません。
ましてやがんは慢性疾患。手術直後ならともかく、通院でがん治療中の方に「治療に専念してください」などとは軽々に言うべきではないのかもしれないな、と思いました。治療に専念するということは、病人らしさMaxにしろ、ということです。もちろん、言う方は善意なのですが、「病人であること」を必要以上に意識させるのは、患者さん本人の精神的健康にマイナスになることもあるんですね。

いろいろ考えさせられる、実りの多い時間でした。

 

 

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幹細胞再生医療への過剰な期待はやめよう

2014年05月19日 | 医療・健康



前回に続きMMB勉強会での話から。
聖マリアンナ医科大学の形成外科学教授で幹細胞再生治療学の特認教授である井上大先生の講演でした。幹細胞治療の現状と問題点を、私たち素人にも非常にわかりやすく話してくださいました。

印象的なメッセージとしては、

現在のところ成功している再生医療技術はコラーゲンやヒアルロン酸、臓器の細胞の1部、遺伝子や医薬品などを用いてもともとその人が持っている体性幹細胞を騙し、目覚めさせ、ムチで叩き、働かせて組織の再生を促しているに過ぎない。いわば「貴方任せ」方式。
それなのに、「夢の治療」だの「若返り」だの、マスコミは過剰に報道しすぎ。

ということでした。
マスコミ過剰報道の件は、マスコミだけではなく、渦中の研究者も「若返りで社会に貢献したい」とかなんとか、近いことを述べていたように思いますが・・・。

再生医療技術というと、幹細胞と臓器の細胞をシャーレの中で組み合わせて培養し、新しい臓器を体の中に移植するといった医療を想像しますが、現実はそこまでではないようです。実際、いま成功しているのは臓器の培養まで。それを体内に移植した段階で、栄養補給路がないため細胞が死んでしまうそうです。「仏つくって魂入れず」ではありませんが、臓器というブツはできても、それをしかるべきところで機能させることまでは至っていません。「耳の軟骨ですら実現していない」とのこと。

しかも、幹細胞が何かのエラーを起こしてがん化しないとも限りません。その検証には長期間かかります。

「移植した細胞ががん化することなく、患者さんが人生を全うすることが再生医療のゴール。評価が定まるのは20年先」

だそうです。

しかしながら、研究費の公費助成には単年度の研究成果が求められます。いきおい、本質的な意味づけを度外視して、短いマイルストーンで得られた結果が一人歩きする→それをマスコミがもてはやす…の悪循環に。

さらには、再生医療を目指す若い医師が「一発狙い」になっているとの批判もありました。まだ「脆弱」であり、冷静に「一歩ずつ足下を照らして進めることが必要」な幹細胞再生医学であるべきなのに、

「できるか?できないか?に心を奪われ、すべきか?すべきでないか?の判断ができなくなっている」

と井上教授はおっしゃいます。科学者も、将来的なビジョンをもつのはいいけれど、軽々に実用化の見通しやメリットを語るべきではないのだろうと思います。

それにしても、企業もそうですが、短期的な成果主義は何かと弊害がありますねえ。国の研究支援のあり方はこれでいいのだろうか?とかねてより疑問に思っていたので、わが意を得たり、の講演会でした。

さて、とりあえず、わたくし、「幹細胞コスメ」なるものは当面使わないことにしました。
幹細胞コスメも自分の幹細胞を騙して、揺り動かして…の類。おそらく、ほとんどの製品で長期毒性はまだ検証されていないからです。それ以前にこの手のコスメは価格が異様に高くて手が出ない、というのもありますが…。


酩酊カメラマン ラクーン関根さん

 

 

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美容外科の選び方

2014年05月14日 | 医療・健康



新緑の表参道で、ジャーナリストの海野由利子さんたちが主宰されているプレス向け勉強会に参加しました。

形成外科医の山下理絵先生のお話によると、シミやホクロのレーザー治療を受けようとする人に、じつは前がん症状が混じっていることが少なくないようです。1人の人に混在していて、顔にシミがいくつかあるとしたら、シロもあればグレー、へたすればクロもある、というわけです。

症例写真を見せてもらいましたが、ホクロはまあまあ素人目にもわかります(悪性のものは巨大化しつつ内側から崩れてくる感じ)。しかし、シミはまったく見分けがつきません。山下先生は形成外科専門医ですが、これらをどうして見分けているのか、まったくもって職人芸としかいいようがない、という感じでした。

となると、患者さんはまさかがんとは思わないので、「シミをとりたい」の一心だけで美容外科を受診します。できれば、即レーザーでも照射してもらって、1回で済ませる気まんまんでやってくるわけです。問題は、そのクリニックなり医師が、ちゃんとそれがただのシミか、前がん症状なのかをその診断できるかどうか。美容外科医といっても、経験も熟練度もさまざまだと山下先生は指摘します。

その診たてをきちんとできる医師かどうかを判断するボイントとして、山下先生が挙げたポイントは次の通りです。

1.メークもちゃんと落として、スッピンの状態で診察するかどうか

2.患者が気にしているシミだけでなく、少なくとも顔全体をチェックするかどうか
( 全身を診て初めてAIDSとわかる吹き出物もあるとのこと。)

3.「その大きいシミだけとにかくとって欲しい」などという患者の言いなりにならず、検査の必要性や医療としての流れをきちんと提示するかどうか

このようなステップを飛ばして、「はい、シミですね。うちならレーザーを今日にでも受けられますよ」と即治療に持ち込もうとするクリニックは疑うべき、とのことでした。

 

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