それなりにボリュームもあるし、テーマの重さもあってある種の読みにくさはあるが、印象的な本だった。
冒頭には日本の精神病院史の汚点が記されている。
患者の人権を無視した、病院都合による暴力的な「管理」。それがWHOの調査で指摘されるという恥辱を経てようやく表沙汰になり、消滅するまでの過程。
かつては同じ状況だったイタリアの都市で、精神障害者を退院させ、地域で社会生活を送れるようにし、結果的に精神病院というものを事実上消滅させたのが、精神科医フランコ・バザーリアだ。
「多くの精神科医が、重い統合失調症の患者を病院に入れて、完治していないといっては入れっぱなしにする。ところが、病院の外で生活するには、何も完治する必要はない。患者は専門家の支援のもとで自分の狂気と共存できるのだ。」
(フランコ・バザーリア)
重要なのは「専門家の支援のもとで」という部分。
単に退院させ地域に戻すだけではだめで、24時間体制で患者が飛びこめる精神保健センターや訪問リハビリ、街ごとにつくられた小さなクリニックなど、精神保健サービスのインフラがあって成立している。
法的にも「180号法」(通称「バザーリア法」)が作られ、統合失調症の患者が社会生活を送れるサポート体制を整えた。
“180号法”第六条 第一項
「精神病に関する予防、治療、リハビリテーションという措置は、通常、病院以外の居住地区の精神医療拠点機関とその事業によって実施される」
これを実施した街の精神医療にかかる医療費は、入院中心の時代に比べなんと6割だそうだ。
廃止された元・大型精神病院は、改築されて豪華な5つ星ホテルに変わっているところもある。泊らなくてもいいから(高そうなので)行ってみたい。
精神保健サービスの中心が「精神保健センター」だ。
以下、サルデーニャ島の精神保健センターの人のコメントを引用;
「人間は複雑な関係性の中で生きています。だから私たちも利用者の生活上の複雑さに正面から向き合って解決の道を見つけます。
病気の兆候を観察するのではなくて、病気の背後にある人間関係だの、労働環境だの、住環境だのを理解して対処する。それが精神保健センターです。」
精神保健センター自体は日本にもあるのだが、イタリアのそれとどう仕事内容は違うのだろうか。
胸のすくエピソードをひとつ。
いざ地域に戻った患者たちが賃貸住宅を断られ、公営住宅への居住も断られて住む場所を失ったとき、バザーリアの部下たちはゲリラとなり、工事作業員に扮装して公営住宅の空き家を“占拠”し、患者たちを住まわせた。それをまた市民も支持したという。
バザーリアも強い信念とリーダーシップと行動力を併せ持った人のようだが、その部下たちもなかなかやんちゃな精神科医たちなのだ。
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