医療マーケティングの片隅から

医療ライター・医療系定性調査インタビューアーとして活動しています。独立30年を機に改題しました。

「伝え上手な患者になる!」

2012年05月18日 | レビュー

山形県米沢市の眼科医、平松類さんの著書、「伝え上手な患者になる!」を読みました。

 

伝え上手な患者になる

 

著者は、「聞き下手」な医師だった自分への反省から、「聞き上手」になるべく努力したところ、「話し下手だった患者さんまで話し上手になってきて、お互いに治療がうまくいくようになった」という経験を持つ医師です。
その経験から、患者が忙しそうな医師に、体調や自分の気持ちを的確に伝えるか、そのコツを述べています。

要点を整理することに役立つ、3つの「気持ち伝達シート」 つき。
このシートは、症状の改善度合いや、治療に対する不安など、医師から見ても的確な診断に役立つだろうと思います。

なぜ、いま、患者の方が「話し上手」にならなければいけないのか。
著者は次のように述べています。

 

「医者は『聞き上手』になろうと努力をしていますが、すべての医者がそうなるのはまだまだ先の話でしょう。となると、あなたが話し上手になることが大切です。」 


いざ、診察室で医師と向き合うと、緊張してしまってうまく話せないのはよくあることだし、ましてやいまは、パソコンのモニタの方を向いている医師が多いので、昔より一層、コミュニケーションのハードルが高くなっています。
取材でお会いしたある看護師さんが、「看護師である私たちでさえ、いざ患者の立場になるとうまく話せなかった」と話してくれたのを思い出します。プロの医療従事者でさえ、そうなんですから。

それに、いくら聞き上手な医師がいたところで、現在の医療制度では、患者一人にさける診療時間には限りがあります。 限られた時間のなかで、臆せずに要点よく自分の意思を伝えることは、患者にとってもメリットが大きいと思います。
著者は 

 

「シートを利用し、話し上手になるだけで、『治らないと思っていた病気が治った』『受けなくていい治療を受けなくてすんだ』ということが起こるのです」

 

 と述べています。なんとまあ、エライことじゃありませんか・・・。

 

「気持ち伝達シート」には、「症状以外に困っていること」という項目があります。


「例えば、症状としては痛いのだけれども、実際は、傷はたいしたことなくて、本当に心配なのが、『自分の父がこんな感じの痛みで心筋梗塞だったことがあるから、心筋梗塞じゃないか不安だ』というのが「症状以外に困っていること』 。

 

がん医療でいえば、経済的な問題などがこの代表的なもの。
300~400万円かかる粒子線治療などは別格としても、新しい分子標的薬なども高額です。
医師にすすめられても、「家族にすまない」という思いから受けるふんぎりがつかず、治療を中断して病院に来なくなってしまう患者さんも少なくない、という話を聞きます。
平松医師は、がん治療の専門家ではないのですが、「経済的な心配を医師に伝えてくれれば、他の代案をすすめることもできるのに」と述べています。

 

これとは逆に、医師が、患者の年齢や経済力を推し量って、勝手に思いこみで治療をすることがある、という指摘もありました。
「この人はお金がないかもしれない」「この人は手術嫌いだろう」「高齢だから手術をしなくてもいいだろう」・・といった思いこみをする場合があるというのです。 やっぱり「人は見た目が9割」なんだな~。
そこで、シートには「多少危険性があり、費用がかかってもいいので積極的な治療法があるでしょうか」という質問もあり(すべての人が利用する項目ではないかもしれませんが) 、こんなエピソードが紹介されていました。

 

私は、 100歳代の方の白内障手術をしたことがあります。その方は非常にしっかりとされていましたが、 100歳を超えるその年齢からして、「もう年齢的に手術はしなくても良いだろう」と考えていました。
しかし、ご本人は本当にしっかりされていて、またメモを書いて、内容を私に伝えてくれます。それは、 「ぜひ手術を受けて、見えるようにしたい」というものでした。手術の結果、見えるようになって喜ばれていました。聞くと、水彩画をなさっているということで作品を拝見させていただきました。非常に力強く、しっかりとした絵画でした。

 

医療のむずかしさは、病気を治すだけでなく、その治療が患者の気持ちや事情に沿うものでなければ、満足度は得られないところにあります。
相互の理解が、満足度の高い治療を受けられるための第一歩。
この本には、医師自身の過去の失敗談が率直に語られています。
眼科医が書いた本だけあって(?)字も大きくて読みやすいです。

巻末のシートはじゃんじゃんコピーして、病院に持っていきましょう。(著者もオッケーされていますので♪)

 

 


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