合気道ひとりごと

合気道に関するあれこれを勝手に書き連ねています。
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35≫ 試合考

2007-09-02 15:24:58 | インポート

 毎日毎日稽古して、さてどれくらいの腕前になったかなと、だれしも思うことでしょう。普通のスポーツでは試合でそれを確かめることができます。でもわたしたちの合気道では試合がありませんから、そのような形で力を試すことはできません。それに代わるものとして演武がありますが、これは強い弱いではなく、見た目がきれいかどうか、上手か下手かを計るものでしかありません。ですから、一部の流派のように試合形式を取り入れて、客観的に実力を評価しようという試みに対して、個人的にはある程度理解できます。

 こんなふうに、いろんな人、団体が様々な工夫をすることは、合気道の可能性を探るためには意味のあることと思います。なにも本家風を吹かせて、わたしたちだけが正しいなんて力まなくてもいいでしょう。人間は工夫することで進歩してきたのですから。ただ、試合というものの理論的限界があることも確かで、合気道ではありませんが現代格闘技団体では試合のつどルールを改変するというようなことをやっていて、かえってご都合主義になってしまっているような印象を受けることもあります。黎明期としては致し方のないことかもしれませんが、やり方を間違えると終末期にもなりかねませんから要注意です。

 合気道にご自分の理想の武道像を垣間見た柔道創始者 嘉納治五郎氏の逸話はよく知られていますが、苦心惨澹の末に確立した講道館柔道が、必ずしも嘉納氏の理想通りのものにはならなかったように、武道の競技化は本当に難しいと思います。試合のためのルールが、逆にその種目のありようを決めてしまうことになるからです。嘉納氏は教育者の立場から、柔道の各種の技をいろいろ行使することによって青年の体の均等な発育を促そうとしたのです。しかし、試合というものがあると、勝つためには得意技に限定して稽古するということが合理的であるということになります。さらにオリンピック種目となったことで、ますます武道の本質から遠ざかってしまいました。しかも本家といえども最近はなかなか勝てなくなっています。武道の色合いが薄められ、さらに勝てないのでは、なんのための競技化だったのかと思わざるを得ません。嘉納氏はそのような柔道を広めたかったわけではないでしょう。

 いまひとつの例としては空手道の試合があげられます。空手には優れた鍛錬法として、美しいカタがありますが、これをそのまま組手試合に持ち込むことはできません。それでは勝てないからです。カタ稽古と組手試合を見比べると、とても同じ武道とは思えないほど様子が違い過ぎます。それに対応するために二本立ての稽古を続けて精神がバラバラにならないのだろうかと、余計な心配をしてしまいます。それもつまりはルールのせいです。ルールが武道を変えているのです。

 したがって、日常の基本的な稽古によって作り上げられる体と体遣いが有効に生かされる仕組みを生み出さないことには、武道は一般の競技スポーツと変わらないことになります。もちろんそれでいいのだという考え方もあるでしょうが、それでは先人が苦労して編み出した武道文化というべきものが、現代武道に関しては消えうせてしまうと思うのです。

 天才的な武道家が出現してこれらの矛盾を解決してくれることを祈るばかりですが、たまに現れる優秀な柔道家も空手家も、事実はその差を広げる方向に役立っているようで、ますます勝敗のみが重視される風潮は軽視できないものがあります。しかも強くないと発言、意見が取り上げられにくいということもあり、勝者による勝つための方法論ばかり喧伝されるのが現実です。一部の武術格闘技実践家がカタの実戦的応用について研究しておられることはわずかな希望ではありますが。

 ルールは競技に公平さをもたらすもので、最大限尊重されねばなりませんが、もともとノールールの武術から進化(進歩ではありません)した現代武道において、競技化に潜む困難な課題が解決されずにいることを忘れてはいけません。また、競技化したために2、30歳代くらいで現役引退に追い込まれる武道が、本当に武道の本道といえるのかどうか、あえて試合のない合気道の立場から考えてみてもよいのではないでしょうか。

 余談ですが、競技武道における審判制度にもいくつかの問題点があります。人間が携わる以上、完璧ということはありませんが、いわゆるホームタウンデシジョン(簡単にいうとえこひいきです。この場合は師弟の系列のようなもの)があることは公然の秘密ですし、かつての王ボール(巨人軍の王選手が打ちにいかなかった球で、ストライクかボールか微妙な時はボールと判定されがちだった)のように実績のある選手に甘くなる傾向があります。そのいずれもが武道家として恥ずべき行為ですが、前回ブログのように心の教育がなされないまま大きくなった選手や審判が取り仕切っている武道界の、これが現状です。合気道はその渦に巻き込まれないよう注意しましょうね。

 


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2 コメント

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管理人さま、おひさしぶりでございます。 (とどねこ)
2007-09-09 08:36:21
管理人さま、おひさしぶりでございます。
いつも楽しみにして記事を拝見させていただいております。
たまに管理人さまの記事のなかで「これは!」と思う内容がありますと、現在私の所属する合気道団体のホームページの掲示板に貼り付けて紹介させていただいちゃっております・・(^^;
お許しくださいませm(_ _)m

実は私は思うところがありまして今年の6月より合気道団体を「移籍」いたしました。
移籍した団体は小規模ではありますが、道場の雰囲気が黒岩先生がご指導されている「立教大学合気道会」に若干似ているような気がします。
「足裁き」を重視し、究極は「実戦」に応用できることをめざしているように思います。
ご指導くださる方は四段の方で空手八段でもあります。空手から合気道にいらした方です。実戦経験が数多く?おありで、ドスや拳銃相手に命を落としかけたご経験を何回かお持ちのようです・・。
でも道場では体に無理のない稽古をしています。
年配者、女性、子供も多いですし、和気あいあいの雰囲気です。

管理人さまの「試合考」を興味深く拝見させていただきました。
「永遠の課題」だと思います。
私が何のために合気道を続けているかをお聞き頂ければ幸いです。
①公共の場における不当な暴力等を沈静化し、警察等に引き渡すまで持ちこたえるスキルを身につけるため。
②合気道団体の会員さんたちとのコミュニケーションを楽しむため。
③健康維持のため。
・・です(^^;

究極的には①が「試合」だと思います。あって欲しくない「試合」ですが・・。
でも①ができない私は「卑怯」だと私は思います。
あくまで「私自身」に関しての話です。
もしかしたら「怪我」や「命を落とす」こともあるかもしれません。
生命保険には入っています。
①は中学生のころからの課題です。事実、高1のときに他校のツッパリ(死語?)に傘のとんがった先でお腹をさされたこともありましたし・・他にも怖い経験を何回かいたしました。
当時の私は不良ではなく、おとなしい一般の高校生だったのですよ。そんなんでも気に入らないと脅したり暴力をふるう馬鹿がいるのですから世の中には!
ましてやここ最近、自分より弱い立場の者をいじめたり暴力をふるったりセクハラをしたりストーカーしたり強姦したりする馬鹿な男がなんと多いことか!
しかも警察官、教職関係者、公務員等のなかにそのような行為をする不届き者がいる事実に驚かされます。
わたしも男ですから「スケベ」には違いありません(--;
ただ「スケベ心」をコントロールできない馬鹿男が多いのには怒り心頭です!

私が知っている合気道の指導者のなかにも、自分のスケベをコントロールできない馬鹿男がいます!恥を知れ!です!

感情的になってしまい不適切な言動をしてしまいました。
大変申し訳ございません。
削除等していただいて結構でございます。

管理人さま。お体大事になさってくださいませ。
失礼致します。
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とどねこ様、いつもご覧いただき、またいろいろお... (agasan(管理人))
2007-09-09 18:05:18
とどねこ様、いつもご覧いただき、またいろいろお気遣いいただきありがとうございます。
おっしゃる通り、このごろとても物騒な世の中になってきて、これが世界一礼儀正しい文化を作り上げた日本人の今の姿かと思うと残念でなりません。原因は心の教育が欠落しているからではないかと思っていますが、最近のニュースで今後中学校で武道教育を取り入れると聞いて、それもどうも短絡的だなと感じています。
教える、教わるという営みは優れて人間関係に左右されるものです。武道だから人間教育に適しているなんて安易にきめるべきものではありません。どのような指導者を確保できるかにかかっています。
そういう意味では現在とどねこ様が稽古に励んでおられる道場は人に優しく温かい空気が満ちているようで、素晴らしいと思います。おそらくご指導の先生はそのようにしましょうとは口ではおっしゃらないでしょうが、その方の普段の品行、言動によって自然に道場生の皆さんに伝わっているのでしょう。
世の中には個人の力で解決できることと、社会がひとまとまりになって解決すべきものとあります。それぞれ対処法が違いますが、正義を愛し卑怯を憎む心は同じです。とどねこ様の文章から強く感じたその心を大切にして、今後ともご精進ください。

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