合気道ひとりごと

合気道に関するあれこれを勝手に書き連ねています。
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126≫ 世界標準 ④

2010-04-10 13:13:57 | インポート

 大先生によれば3000を越えるといわれる合気道の技の中で、ちゃんと名前のついているものは10種前後でしょうか。現代剣道のように、面、胴、小手、突きの4種しかないのは別格として、武道流儀の技法名が10種というのはいささか少ないと感じられます。

 ただ、仮に3000の技にそれぞれ名前がついていたとして、それによってもたらされる混乱や得失を考えると、本当に大事なものにだけ名前をつけておくというのは案外賢い判断なのかもしれません。

 そういうわけで、さすがに基本の技とされるものには一教、四方投げ、入身投げと名前がありますし、それに準ずる技とされるものにもなんとか名前がつけられています。

 今回はそれら(基本に準ずる技)について、その技法上のポイントを示しておこうと思いますが、それを説くにあたっては『遣おうと思えば遣える』ということを前提に話を進めます。つまり、予定調和的に受けが勝手に倒れてくれるというようなものではなく、取りが積極的に受けを倒しにいくことを踏まえた技法を提示します。

 それでは天地投げからまいりましょう。この技はわたしが大いに気に入っているものです。なぜかというと、崩しの理にぴったりはまると面白いように受けが倒れること、そして≪虚と実≫の稽古の意味をはっきり認識できる技だからです。

 その一番のポイントは【天地】投げでなければならないということです。あえてこんなことをいうのも、多くが≪左右≫投げになっているからです。天地ですから、両手は正中線上を上下に開くのであって横に広がってはいけません。きちんと上下に分かれないと崩れません。わざわざこのような名前をつけてあることを認識すべきです。要点としては、下の手は自分の重さを乗せられるように重心の真下にもってくる、上の手は手を上げるというよりも肘を受けの水月あたりに押し出すようにすること、以上の二点です。これで間違いなく受けは崩れます。

 以上が一般的な虚の技法ですが、それと同じ動きを自分から相手の手を取りにいって施せば、それが実の技になります。

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 次は小手返し。これのポイントはなんといっても低いところで返す、これに尽きます。このことは大先生がおっしゃていたことだと黒岩先生から伺いました。その理由を推察するに、小手返しは、返す瞬間に相手と対面するかたちになることと関係すると思います。このかたちは相手の反撃を許しかねない危険な位置取りです。そのため、転換の時点で腰を沈めて捕った手を低い位置にもっていくと、受けは肘が伸びつつ自然に前かがみになりながら回り込んでくることで一定の間合いがとれます。ここで返せば頭の位置も低くなっていて地面が目の前にあるので、受けとしては反撃よりも自分の受け身を優先せざるを得ません。合気道の投げ技はすべて脳天逆落としだということがここでも当てはまります。

 腕を大きく回して返す方もいらっしゃいますが、それはどちらかというと呼吸投げの感覚ですので、小手返しとは区別されたほうがよろしいのではないかと思います。

 その次は天秤投げです。これは受けの肘逆を攻めて投げるというように考えられています。それはそれで間違いではありませんが、その前に一旦受けの肩を突き上げて上方への崩しをかけることが大切です。下に向かって投げるために上に崩すのです。この際、取りは受けの腕に添わせた腕の先の指でのど元を突くことができます。これはまあ、あくまでもオマケですが、そのくらいの構え、位置取りだということです。

 なお、天秤投げという名前から察するに、本来は受けの腕を肩にかついで肘逆を攻める技であったのであろうと考えています。これを反対の肩にかつげば柔術の逆一本背負いになります。いずれもかなり危険な技ですので試す場合は十分に気をつけてください。

 もうひとつ、腰投げをあげておきたいところですが、こればかりはわたしの文章力ではいかんともし難い、やっかいものです。ただ、名前の通り腰投げなのであって、肩や背中に乗せるのではありませんから、そのためには取りは受けの目の前に腰を差し出せばよいのです。そして受けが、鉄棒で回るように取りの腰を軸に回って落ちれば成功です。けっして力技で右から左に担ぎ投げるのではありませんのでご注意下さい。

 ちなみに≪腰投げの黒岩≫と呼ばれた先生の腰投げは、正面から相手の股ぐらに前回り受け身のように頭を落として入っていき、後ろの足を一歩進めてひょいと起き上がるようにして後ろに落とす投げ方でした。わたしはもともと腰投げが得意ではありませんでしたが、この技法を身に付けてからは普通の腰投げも難なくこなせるようになりました。

 以上、基本の技に準ずるものとして、とりあえずこれくらいをあげておこうと思います。ここで気付くことは、名前というのはその技の勘所をきちんと表現しているものだということです。古流武術の技法名などに比べれば少々味気ないと思われる名前ではあるのですが、後進のためにそのように表そうとされた先人の苦労や工夫にわたしたちは感謝すべきであろうと思います。