合気道ひとりごと

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92≫ 入り身投げ

2009-01-30 14:35:35 | インポート

 今回は、天地投げ関連のコメント欄でお約束いたしました《入り身投げ》について、わたしの考え方を述べてみます(クラシックスタイルの、いわゆる表技は今回の考察に含みません)。入り身投げについてはバックナンバー39や43その他でも触れていますが、今回は特に崩しに留意して論を進めます。

 具体的な取り方に触れる前に、言わずもがなのことを申しあげます。それは、きちんと入り身ができていないと、それに続く動きはまったく意味をなさないということです。極論すれば、正しく入り身ができていれば九分かた勝負がついているのです。その後の投げはオマケみたいなもの(今回述べるのはそのことなのですが)と考えて、大きく間違ってはいないといえるでしょう。

 ただ、そう言いきってしまうと、入り身投げには価値がないと受け取られてしまいかねませんし、それは本意ではありません。要は、入り身投げというものは(他の技も同じことなのですが)、入り身という体捌きを学ぶための手段の一つであるとともに、相手をコントロールするための合理的な体遣いを学ぶためのものだということを確認しておきたいと思います。決して投げることが目的ではありません。

 さて本題です。入り身投げは受けの入り(正面打ちだとか片手取りだとか)によって、こちらの応じ方が変わります。

 まずは代表的な正面打ち入り身投げです。これは、受けが打ち下ろしてくる手刀に応じる際、これを受け止めるのではなく、その腕に乗って(右相半身の場合、受けの右手に取りの右手を乗せる)前下方に崩しをかけることはおわかりだと思います。もちろん、受けは空振りをしたくらいで崩れるようでは話になりませんが、取りとしては、受けの体重が前足にかかるように打ち手に乗るわけです。足に体重が乗るということは、その足は出にくい(居つく)ということで、これは崩しを仕掛ける際には重要なポイントです。

 そこから、受けのほとんど真後ろまで入り身をし、左手を首にかけ、左の肘を受けの右肩甲骨のあたりに置くつもりで脇を締めるようなかたちをとります。同時に、右手は受けの右腕に乗せたまま制します(このとき、受けの右腕を自分のほうに引き込んだりすると胴を巻かれて後方に投げ飛ばされます)。

 そのまま受けの頭を自分の右肩口に寄せながら重心を落とすと、受けは、首(につながる左肩)が左回りに引き寄せられているのに右手は動きを止められていますから体軸がねじれ、右前下方に背後から落ちるように崩れます。先のコメントで、入り身投げにおいて下の手が重要というのは、この場合の左手の働きを意味します。

 そのまますっかり崩れたら、それはそれで技としては終わりますが、ここから体勢を持ち直してきたとき、いわゆる入り身《投げ》に移ります。右腕を下(受けの視界の外)から顎にかけ上に突き上げていきます。ここで左手は掌底を受けの第7頚椎(首の付け根で他より隆起している骨)付近に当て、前方に押し出すようにすると顎が上がり、腰、足が前に流れるように出ていって、背からストンと落ちるような感じになります。

 なお、このとき相手の右胸と自分の右胸が対面するようなかたちで倒そうとする人をよく見かけますが、それでは押しくらまんじゅうになってしまいます。相手の真後ろまで入り身をするという前提ですので、自分の右胸は受けの右肩甲骨を制するような位置にあるのが理想で、したがって顎にかける右腕は受けの後ろから肩越しに伸びていっているのです。

 ところで、正面打ち以外の入り身投げで、ここまでの(下方への)崩しをかけることはあまりありません。ということは、入り身投げの代表であるかのように考えられている正面打ちは、むしろ特殊な入りだと言えるかもしれません。

 例えば、横面打ちで正面打ちと同じ事をしようとすると、打ってきた手を一旦下で止め、そこから上に回してまた下に崩し、立ち上がってきたところを下に落とす、ということになり、これはとてもくどいものになります。また、相半身片手取りを想定すると(転換や転身などの動きを伴うときは別です)、受けの体勢は別に前掛かりになっているわけではありませんから、そこから前下方に崩すのは理にかないません。

 ですから、これらの場合は、下への崩しをあまり意識せず、入り身と同時に顎を前上方に突き上げるような応じ方になります。これは正面打ちで下への崩しから立ち上がってきた場合の対応と同じで、上への崩し(浮き)をかけることになります。

 コメントで例にあげた入り身投げを応用した刀取り(どちらかというと、あまり回らない表技に近い)においては、取った柄頭を受けの顔面に突き当てて意識をそちらに向けさせ、のけ反らせながら、首または襟をとった左手を引きつけつつ下に落とすようにします。ここでも動きの派手な右手と比べて、地味ながら左手が影の主役であるということが言えると思います。

 話向きをかえて、ちょっと付け加えておきたいことがあります。それは、入り身投げにおいて、受けを振り回すような取り方は武術的合理性に欠け、なおかつ精神的に不健康あるいは幼稚である、そのようにわたしは考えているということです。高名な先生方のうちにも少なからざる方々がそのような演武をされていますので、わたしの意見などは蟷螂の斧というべきものかもしれません。

 百歩譲って、演武用だというならばそれで結構ですが、演武会においてそのような断りを聞いたことはありませんし、指導的立場にある方がそのような技を披露すれば下位の者たちはそれが正しい方法だと信じてしまいます。秘技を守るために部外の者にウソを見せるということは古流武術ではありうる話ですが、合気道においては、部外どころか真面目な修行者にまでウソを教えようということなのでしょうか。

 入り身投げを考えるとき、いつもこのことを思い出してしまいます。合気道のさらなる発展を願うならば、このあたりから皆で考え直していく必要があるのではないでしょうか。