空の果てへの探求はかなり進んでいます。天文衛星のおかげで宇宙創成期に近い星々まで見ることができるようになりました。しかし、おひざ元の地球は地下もそうですが、海面下の事情もひょっとすると空よりもわかっていません。特に海底の探査は点ではなされていますが、面ではほとんど手つかずです。その海底の解説をした本が、見えない絶景 深海底巨大地形というブルーバックスです。しんかい6500という日本が誇る深海潜水艇にもっとも多く乗船した藤岡換太郎さんの本です。
昔の体育の日ですね。1回目の東京オリンピック開催を記念して制定された祝日ですが、東京でオリンピックをやるならまさに今頃が最適だと思うのです。が、先の東京オリンピックは欧米のプロスポーツ事情で無理やり彼らの端境期に設定されてしまったわけで、なんか情けない。
ブルーバックスシリーズは2つの粒子で世界がわかるを読みました。ミクロの世界の粒子は(砂粒ではありませんよ)、フェルミ粒子とボーズ粒子の2種類しかないということだそうです。物を構成するフェルミ粒子、力を伝える(質量をもたない)ボーズ粒子ということですが、量子力学の世界の話で、いきなりこの本を読んでも理解は進まないでしょう。何冊もこの手の本を読んでいるうちに刷り込まれるというか、著者も量子力学の一般的啓蒙書を作るのは難しいと言っていますし。でもわかりやすい部類の本でした。量子は波でもあり粒子でもあるという理解を超えた存在ですが、かつて日立の研究所が行った実験の話が合って、これはわかりやすかったです。電子を電子銃で1個ずつスリットに向けて撃つと、スリットの向こう側の壁には最初はランダムに電子の跡がつくのですが、いっぱい打つと縞模様になっていくというのです。波がスリットを抜けたということで縞模様ができるのですが、壁の後は粒子そのもので、これはどう説明するかというと、電子(量子)は普段は波の状態であり、観察した時に粒子になるのです。ということは壁にある電子の跡はまさに観察したからできた跡であり、ランダムなようで縞模様を作るということが波である証拠ということだそうです。ああそうかと思い、ふむとも思い・・・。
「2つの粒子で世界がわかる」森弘之 講談社ブルーバックス
冷たい雨の降るスポーツの日、驚異的なマラソン新記録のニュースを聞きました。シカゴマラソンでケニア選手による2時間30秒台がでましたね。30キロから40キロをなんと27分52秒ということで、日本人の10000mトラックの記録より40秒遅いに過ぎず、川内優輝もあっけにとられていました。走り終わってからも余裕しゃくしゃくで沿道の応援者と交歓していました。あの余裕はあと2時間切りがもうすぐなのを予感させます。
連続して読み続けているブルーバックス、次は量子力学の本、2つの粒子で世界がわかるを読んでいます。
著者は東北大学に研究室を持ち、ポスドクとか院生を指導してきたが、そこを抜けていった人たちを持ってきて進化を研究することの流れを紹介している。是非若い人にこういう研究をしてもらいたいということを言っているかのようだ。プレートテクトニクスもそうだったが、進化の学問も80年代までは旧態依然とした学者たちが牛耳っていたそうで、それは共産主義にかぶれた学者たちであり、ソ連の学者の言うことはそれは正しいという姿勢だったようだ。ようやくそこから抜けて90年代は日本の進化生物学の黄金時代だったという。では今は何が問題なのかについては語っていない。この本では著者の専門である陸貝(カタツムリ)を通して進化のことを解説している。かつて小笠原に空港を作るという話が具体化した時に、小笠原がいかに貴重かを陸貝を通じて資料を出したそうだ。世界遺産となった今は信じられない話。空港などできなくて良かった。一週間かけて船で行ってこその小笠原だ。日本にそういうところがあっていい。
「進化のからくり」千葉聡 講談社ブルーバックス
またまたブルーバックスですが、今度は進化のからくりというタイトルです。生物の進化についてのものですが、この著者は北斗の拳とかラテン音楽のはなしとかを挿話していて、脱線している感じで脱線していないという微妙に面白い文章を書いています。
SFは色々なテーマを取り上げますが、一番ワクワクするのは時間ものですね。時間の流れに逆らう話は大好きです。バックトゥザフューチャーはわかりやすい映画でしたが、TENETはなかなか深遠な映画でした。時間ものは落ちがあるのでどう終わるかに期待感が高まります。実世界で時間は逆行するのかを物理的に考察すると、宇宙の始まりから終焉をどういう理論で解明できるのかにつながります。現代宇宙論ではビッグバンの前、無の点のインフレーションから宇宙が始まったとされますが、時間に始まりがあるというのが物理学者にはしっくりと来ないそうです。サイクリック宇宙といって、宇宙は始まりと終わりを繰り返しているという考え、ホーキングが唱えた虚時間の考え、ループ量子宇宙というそもそも時間はないのだという考えなど色々な理論を分かりやすく説明してくれました。もし時間が逆行するなら、エントロピー増大という熱力学第二法則という絶対曲げられない物理を破ることになり、これを回避しつつ時間の逆行の可能性を説明できるかが難しいところです。実は量子世界では逆行したということを確認したそうですけど・・。
「時間は逆戻りするのか」高水裕一 講談社ブルーバックス
時間がもし戻るならと考えたことが何度もありますね。あの時右と言ったものを左と言っていたらどうだったのだろうとね。時間というのは物理的な時間、心理的な時間といくつかあるようですが、今言っているのは物理的な時間の話。タイムマシンで戻る過去の話です。TENETという映画が時間の逆行を扱っていて、とても面白かったのですが、逆行しなくてもいいからタイムマシンで過去の自分にアドバイスするというのも有りですね。今度のブルーバックスはまさに時間は逆戻りするのかです。
地球は特別な惑星か?を読了。系外惑星を探査する2019年時点の話。多くの恒星は赤色矮星だそうで、ただでさえ見つられにくい赤色矮星を見つけて惑星の存在を確認する作業が黙々と続けられています。赤色矮星は表面温度が太陽の6000℃に比べて3500℃前後と低いので明るく輝かないのですね。ただ、酸素があるとか水があるとかがわかっても、そこで生命を見つけたわけではないので、どんな場合でも状況証拠ということになりますね。物理が宇宙の果てまで同じであるなら、おそらく人類は太陽系以外の生命に接することはないでしょうね。
「地球は特別な惑星か?」成田憲保 講談社ブルーバックス
次のブルーバックスは、系外惑星の話です。観測精度が上がって、太陽系以外の恒星での惑星が続々と発見されています。地球から望遠鏡で調べるだけではなく、専門の衛星で続々と系外惑星が判明しているのです。恒星があればほぼ惑星があると思ってもいいくらいのようです。ただ、生命が存在するかは不明です。液体の水が存在すること、つまりハビタブルゾーンが存在することが必要なのですが、木星の衛星エウロパは表面は氷におおわれているにもかかわらず、その下に水がありそうで、そうであれば生命の誕生がかなりの確率を持っていると言われているように、見た目の判断は難しい可能性があります。自分の意見としては生命はありふれて存在すると思っています。ただ、高度に知能が発達しているかというとどうでしょうか。まれな気がします。地球はたまたま類人猿からヒトが進化を遂げましたが(それもかなりの幸運で)、恐竜時代が続いているとしたら、それは知的文明ではないものの、生命あふれる星になると思います。この宇宙には2兆以上の銀河系があるそうですから、知的文明もどこかにいるのは確実と思いますが・・・。
鉄までの元素は超新星で作られるのですが、それより重い元素はそこで作られず、ほかの場所で作られるそうです。その候補がⅠa型超新星と中性子星の合体と言われています。それぞれ作られる元素は違っていて、金やプラチナなどは中性子星連星の合体でないと作られないとされています。これは1銀河で10万年に1回と言われているレアなことなので、なかなか遭遇することはできません。アメリカのLIGO重力波望遠鏡ではこれを捉えましたが、まだ数が少なく確証を得ていません。ヨーロッパのVirgoと日本の(スーパーカミオカンデの近くにある)KAGRAとの3共同観測体制でのぞみたいところですが、KAGURAは2015年にできて調整後感度が上がらず、まだその態勢に参加できていないそうです。2027年までにはなんとかということですが、なかなか感度アップ(ノイズの除去)が難しいのだそうです。頑張ってもらいたいものです。
「マルチメッセンジャー天文学が捉えた新しい宇宙の姿」田中雅臣 講談社ブルーバックス