図書館で書棚を眺めていたら、面白いものにぶつかり借りてきました。大江戸復元図鑑<武士編>というものです。見開きで一項目あって右ページに解説、左ページが著者自身のイラスト画があります。庶民編もあって、どちらを借りるか迷ったのですが、先に武士編を借りました。1冊6800円もしますから図書館様様です。著者は2005年に89歳で亡くなっていますが、学者ではなく甲冑の研究を主にしていた在野の方ですが、文学博士ももっています。著作は多く図鑑類も何冊かあり、知られた方だったのでしょうね。味のあるイラストです。
東京湾は閉鎖海域で元々水質は良くなくヘドロが溜まりやすいのです。大正昭和の沿岸の工業化で一気に悪化しました。しかし、公害対策が進み江戸前の魚も美味しく食べられるようになりましたが、閉鎖海域では凄いことなのだそうです。さて家康がずぶずぶの南関東の水を抜いて田畑を増やそうと、利根川の東遷事業を行い、それは実現し東京湾から銚子に出口を変えています。表層はそうなのですが、実は地下水脈の利根川(+渡良瀬川)が東京湾に注いでいて、この水のおかげで水質の改善が早く進んだのだそうです。見方を変えると東京の地下は水が豊富で地盤が悪いということです。こういう地下水脈が閉鎖海域に注いでいるのは伊勢湾とか有明海とかがそうだそうです。浮世絵から色々なことがわかっていくのですねえ。面白い本でした。
「江戸の秘密 歌川広重の浮世絵と地形で読み解く」竹村公太郎 集英社
日本は国土の7割が山であり、そこには豊かな森林資源がありましたが、エネルギーも木材しか頼るものがないので、古代から山の資源はどんどん切り取られてきました。関西は古代から日本の中心だったこともあって気が切り出され、周囲の山々は禿山だったそうです。戦国時代は頂点を迎え、今は新幹線が緑の野を駆け抜ける関ヶ原も、あの合戦の時は禿山だったそうです。小早川秀秋の裏切りも全軍からよーく見えたということで戦況が一変したのです。江戸時代末期は本当に日本の森林資源は限界を迎えていたそうです。自然破壊という言葉は存在していない時代でした。黒船がやってきて木材に変わるエネルギーとして石炭が登場したのは僥倖でした。明治の頃の奥多摩や叡山ケーブルは木立一つない状況の写真があります。それから100年が経ち、植林が進んでそれが育ったおかげで現在の山々があるのだそうです。安藤広重の浮世絵には背景の山は禿山がいっぱい描がかれています。よく目にする東海道五十三次の浮世絵もそういう目で見たことは無かったですねえ。
地形が作った日本史という観点でベストセラーを出している著者は、国交省で本省局長(めちゃめちゃ偉い)まで勤めた方で、河川のプロであり、神奈川の宮ケ瀬ダムを作った人でもあります。退官後は歴史にまつわる本をだしていますが、今回の本は江戸の秘密というもので、浮世絵を読み解きながら歴史を探るというものです。家康は秀吉に関東移封をされましたが、その頃の江戸(関東)は荒川、利根川の氾濫平野でほとんどが湿地帯。ですから、西からやってくる人は横須賀から房総半島に渡り北上していたのです。関東は宝の山だと秀吉におだてられていましたが、体よく湿地帯に囲まれたところに追い込まれたというのが実際でした。その家康が江戸で最初にやったのが小名木川という隅田川から江戸川(利根川)への運河を作ったことでした。兵員輸送のため海岸から内側を一直線に開削したものです。そして利根川の東遷事業にも着手します。これは関が原以前でのことで、北の伊達政宗の脅威があったので軍事的な意味で行ったことでした。歌川広重の浮世絵を見ながら江戸のことを学んでいく本です。
元素の教科書を読み終えました。地球上には天然の元素としては原子番号94番のプルトニウムまでがあり、95番から118番までは人工元素です。アジアで初めて新元素を作った日本は113番のニホニウムがあります。人工元素を作るのは相当な費用(施設)と時間が必要です。ニホニウムは30番の亜鉛と83番のビスマスを衝突させ核融合で作られました。一口に衝突といっても加速器を使って亜鉛の原子核を光速の10%まで加速してビスマスの原子核ぶつけるのですが、原子核の大きさは1兆分の1㎝で衝突して融合する確率も100兆分の1ときわめて小さく当てづらいのですね。そのため大量の原子核をビームして当て続けるという地道な作業となりました。1秒間に2.4兆個照射しますが、2003年9月に実験を開始し、24時間体制で翌年7月にようやく「1個」の113個の陽子を持つ元素を確認できたのだそうです。その後9年かけて400兆回の照射が行われ、2012年に満足な結果が得られましたが、検出されたニホニウムはわずかに3個で、寿命はたったの1000分の2秒だそうです。2004年に認定、命名されましたが、イタリアとの競争を勝ち抜いたものでした。今は世界中で119番目の元素作成が行われているようです。
「元素の教科書」佐巻健男 ナツメ社
元素の教科書を読んでいます。ブルーバックスに元素の話があるのを買って持っているのですが、図書館でより一般的な元素の話があったので借りてきました。恒星から水素とヘリウム以外の元素が作られるのですが、鉄までの話でそれ以降の元素は超新星などが作ります。そして宇宙に散った元素がまた太陽系のような恒星系につかまって惑星となり、そこから生物が生まれるわけで、生物が元素をどう利用するのかをしるためにもこういう話は面白いです。
共産主義思想家の「人間社会の最高段階として共産主義社会が初めてロシアで生まれた」などという主張が、彼らの脳内だけの創作物であるということがすぐにわかる(以上後書き)本でありました。ロシア革命はチャーチルの策動に始まり、ドイツ、アメリカ、フランス、ロシアのいくつもの錯誤の連鎖によってレーニンにとってまったくラッキーに起こすことができたのです。歴史にIFは禁物とはよくいわれますが、著者はIFをすることによって歴史から学ぶことができるというスタンスです。20世紀初頭のヨーロッパを巡る各国の駆け引きを日本は冷静に分析できていたのでしょうか。そうではなかったのでしょう。一部にリベラルな人がいたのかもしれませんが、石橋湛山の書籍を読んでいてもこのあたりを深く考察できていたかどうか。21世紀の今、ようやく解析できているのでしょう。もし当時に当事者として現場を理解していれば、アメリカの共産主義への甘さを認識して(ウィルソン大統領は共産主義を民主主義の亜種程度にしか考えていなかった。それは次のルーズベルト大統領に引き継がれ、ソ連に操られてしまいます)、太平洋戦争も無かったのではと思ったりします。ちなみに、レーニンによってロシアが単独停戦に踏み切った代償で、(民族自決で)ウクライナを手放すことになります。このあたりから今のウクライナ戦争の下地が生まれた気がします。
「虚像のロシア革命 後付け理論で繕った唯物史観の正体 電子版」渡辺惣樹 徳間書店
虚像のロシア革命は75%まで進みました。教科書歴史ではロシアの3月革命でロマノフ王朝が廃されメンシェビキの臨時政府ができたあと、ボルシェビキのレーニンが主導権を握り共産革命へと進んだということになります。そのレーニンはスイスを中心に活動を行っていましたが、帰国のチャンスは巡ってこず、一時はすっかり諦めていました。が、ドイツの革命商人がレーニンを帰国させて戦争継続をする臨時政府から露独講和へもっていくことを画策、独政府に提案し認められ、密かにスイスから列車を使ってドイツ・スウェーデン経由で帰国させます。しかし、なかなかロシア国民には受け入れられなかったところ、英国がトロツキーを(判断ミスで)ロシアに帰国させてしまいます。これでボルシェビキが一気に優勢になっていったということで、ロシア革命はレーニン自身の力ではなく、英独の判断ミスでなされたということになるのですね。トロツキーの帰国がなければ世界史は全く違った展開になったと言えるそうで、それは英国諜報部MI5(007のMI6は対外諜報)の判断ミスだったのです。
英国はどうして良好関係だった独を悪の専制国家として(自分は善の民主国家)第一次大戦を戦ったのでしょうか。戦前は英国内では大陸のことには関与しないという空気でした。ところが北アイルランド問題が起きてしまいます。これは現代にも尾を引いている問題ですが、これが平和裏な解決がつかず、内戦にもなりかねない状況になってしまいました。国内がごたごたしているときに為政者がすることは国外に国民の目をそらすことです。チャーチルはまさにこの手を使い、対独参戦をするのです。
そして世界一の海軍力でドイツの港湾封鎖と商船の破壊をおこない、ドイツへの食糧などの物流を止めます(明らかなルール違反です)。一方でドイツはいかにひどい国かを世界に喧伝し、米国の参戦を促し、中立国とされていたベルギーの中立も反故にします。さらにドイツの暗号の解読に成功し(これは第二次大戦でも成功し勝利に貢献します)、Uボートの動きは筒抜けになりました。さらにさらに、ロシアのニコライ皇帝夫妻に取り入っていた怪僧ラスプーチンは実は平和主義者で、露独の単独講和をニコライに勧めようとしていましたが、寸前でMI6に暗殺されます。この結果やがてロシア革命が起き、共産主義が世界に広まってしまうのです(レーニンをロシア革命に使ったのは独ですが)。英国のこのかき回し政策がなければ、ヒトラーは出てこなかったし、スターリンも毛沢東も共産主義者として世に出ることは無かった可能性がとても高いのです。
高校の世界史では西欧側の民主的正義だけを教わるようになって、もっともっと事実を学ばなくてはなりませんな。ここまでで虚像のロシア革命を半分終わりました。
最近は歴史の見直しが進んでいます。学校の教科書に書かれていたことも、昭和の時代のものと比べるとだいぶ変わっています。現代史においては米英ソによる歴史が教科書の主流でしたが、20世紀後半から新たな文書の発見とか公文書の公開とかで、歴史観を変える必要が出ていると思います。日本人は英国というと紳士の国というイメージを長年もってきましたが、実は英国こそが世界をグダグダにかき回してきたと言えます。紳士のイメージとして「チャーチル神話」があり、日本人はチャーチルが好きで、彼の本はよく読まれています。このチャーチルが20世紀前半の世界をかき回してきた張本人であったという検証がなされています。第一次世界大戦はセルビアで起きた小さな戦争で終わるべきものであったものが、露仏の思惑とチャーチルの冷酷、狡猾、出世欲で世界大戦になってしまい、日本も日独戦を行っていい気になってしまいました。ベルサイユ条約でドイツをとことん追い詰め、その結果ヒトラーを生み出します。大戦前は英独は実にいい関係だったのに、無理やり戦争を行ったのはチャーチルです。チャーチルは首相になりたいがために全てをそこに注いだのです。虚像のロシア革命を読んでいます。