とりあえず一所懸命

鉄道の旅や季節の花、古い街並みなどを紹介するブログに変更しました。今までの映画や障害児教育にも触れられたらと思います。

居場所があるということ(ある子の変化の秘密)

2012-10-16 00:03:59 | 障害児教育

特別支援教育コーディネーターをしてあちこちの学校や幼稚園、保育園を廻っていると辛いことだらけです。

時には自分が押しつぶれそうになることもあります。

でも、とても嬉しいことにも出会うことがあります。

Pくんの事例はそういう事例の1つになりました。

Pくんは、小学校4年生です。通常学級に在籍しています。Pくんの様子を見てほしいという依頼を受けて小学校に出かけました。

学校から見せてもらった資料には、難しい状況がたくさん書かれてありました。

2年2学期…授業妨害、他害行為があり、校長、教頭、教務 空き時間教師がクラスに入り、見守る。

2年3学期…友達を暴力で傷つけたことにより、本人と母親を呼び、校長室にて指導。

3年6月…Sが無記名のまま出した宿題プリントを宿題係がPに名前を書かせた。S母からP母へ電話で苦情

3年1学期…他とのトラブルがある時は、学校から母へ電話連絡。学校での様子も親に見てもらう。

3年2学期…他とのトラブルが増える。被害妄想が強く、けんかの際の対応も難しい。→荒れがひどいときには、教頭、教務で対応

3年10月…暴力やもの隠し、持ち物壊しがひどくなり、被害を受けた親が直接Pくんの家に電話で苦情を訴えるケースが増える。

→「障害があるから少しは我慢してほしい」とか逆ギレされることもあり、周囲の保護者は怒りが増す。

→「子どもが学校に行きたくないと言っている」目に見える形で対処してほしいとの要望あり。

P母は、直接教育委員会に電話にて要望→市教委とも相談し、生活指導員がクラスに入るようになる。

3年3学期…反抗的態度、他害行為がひどくなる。→母親に連絡すると、学校を休ませるようになる。

3年3月…臨床心理士と面談するようになる。

4年 他害行為、授業妨害、盗癖、自殺しようとするふり。5月2日までの授業参加状況は芳しくない。

資料を読むだけで、本人が一番苦しいと思っているのではないかと思いました。

この日は2時間目の授業から授業参観することにしました。

Pくんが在籍しているこのクラスは授業が始まっても私語が多く、集中せず、あいさつをかけても落ち着きがない状態でした。

社会の勉強をしていて、みんな地図を出していました。

地図の導入もあって、「○○はどこにある?」というような問いかけを教師がしてして、子どもたちは地図で探していました。

Pくんはと言うと一番前の机のさらに前の給食を配膳するときに使う大きめの机で迷路を作っていました。

図工の時に作ったものを改造していました。

教師の問いかけで「一度は行きたいパリはどこ?」という問いかけに対して、「東京スカイツリー」と口だけで反応していました。

それでも、地図帳が終わった頃には自席に戻っていました。

「事故のしらせはどのように伝わるでしょう?」の問いかけに対して、事故で反応して「先生!」と聞いて「もしも自転車にのっていて事故にあったらお金を請求できる?」

次に自分が目撃した事故の話をずっと始めます。それでも、担任は辛抱強く関わっていました。

2時間目と3時間目の間には業間休みとして少し長い時間の休みがあります。

3時間目のチャイムが鳴ってもPくんは帰ってきません。

担任は気にせず理科の授業を展開しています。支援員が危険がない程度に付いているからだと思います。

やっと帰ってくると、中間休みで虫を捕ってきたらしく、ビニール袋のふたをしています。

蜘蛛をとってきて、蟻のケースに入れて観察をしています。

友だちがすでに理科教材(太陽電池の車)をやっていることを理解していますが、全く興味のない風を装っています。

やっと教材を手に取って自分勝手に外で実験をし始めます。教室の窓の外が小さなポーチになっていて、そこで太陽を捕まえようとしています。

でも、簡単に太陽電池は充電できるはずもなく、うまくいかなかったら、再び蟻に向かういます。

友だちの前川くんが砂糖を持ってきていることを知っているので「前川!砂糖!」と強く言いいます。前川くんはすぐに従います。

Pくんが無表情で命令するから従わざるを得なくなるのかもしれません。

「蟻を見つけた」で大騒ぎになります。「前川お前ん家に大きい虫かごある?」と聞きます。

前川くんも「父さんに聞いたら買ってもらえるかもしれない」力関係がはっきりしています。まるでジャイアンです。

教室では回路図の説明が展開しています。その間もPくんは廊下で蓋で遊んでいます。

教室に戻ったPくんは、友だちにハンカチを貸せと要求します。「蟻が死んでいた蓋をハンカチでふいたよ」と言ってそのハンカチを友だちに返します。

そのうち、ほうきを持ち出して教室を掃き始めます。どうやら蟻を集める作戦に出るようです。

でも、教室には蟻を飼育している子が別にいて、その子と蟻の奪い合いが始まります。

そのうち、ほうきで友だちを攻撃してしまいます。友だちの「やめろ!」という言い方で切れてしまいます。

さすがに教師が止めに入ります。止めた教師に対してさらに攻撃を展開します。

その場は何とか折り合いはつけますが、教師の持ち物を教室の外に投げ始めます。教科書、ギターのストラップなどです。

教師に対しても「関係ない」と主張します。そのうち教室から飛び出します。

探しに行くと図書室でクールダウンしています。見えないように観ていたのですが、めざとく見つけて「関係ない!こっちくるな!」と攻撃してきます。さらにドアに鍵をかけてしまいました。

協議の中では、別室で個別の支援の時間が必要なのではないか?事件が起きてからのクールダウンではなく、毎日1時間程度が望ましいのではないかと提案しました。

①別室に行って納得するかどうか。

②具体的に誰が指導するか。

③彼が心許せる人がいるか。

できそうにないと思ったら違う方向に行く。あの子に対する接し方。アプローチの仕方がわからない。などの意見が出されました。

他の機関からの情報によると、「2歳から3歳の頃 お尻がつかなかった。落ち着きのない子 迷路はできた。パズルはできた。」だそうです。

就学の段階では情緒学級の判定医だったのですが、親の意思で通常学級に入ったそうです。

後日、関係者が集まってケース会議を持ちました。そこでの私の立場は前回と同様です。

会議の出席者の中には児童相談所の支援を受けて、親と話して別の機関で一定期間生活訓練が必要なのではないかという意見も出されていました。

今回、またその学校を訪問する機会がありました。

数ヶ月を経て今回訪問して、驚きました。見事に着席して学習に参加しているPくんの姿を見つけました。

国語の順番読みも友だちの読むのを聞いていて、自分の番になったらちゃんと読んで着席していました。ただ、板書をノートに書くことはしませんでした。

目が合ったので「ノートは取らないの?」と聞くと「いやなことを言われた」と言わんばかりに机につっぷすなどのリアクションを見せました。

以前だったら敵意に満ちた目を向けて「関係ない!あっち行け!」と言ってくるに違いありません。

友だちがノートを取っている間、教科書を見ていたのですが、だんだん手持ち無沙汰になったようで、手を目の前にかざしたり、手を組んでみたりしてやり過ごしていました。

こんな折り合いの付け方ができるなんて素晴らしい変化です。

後の協議の中で校長は「何が彼を変えたのかよくわからない」と言われていましたが、第一は居場所の確保だと思います。

一日1時間は個別の時間を保障してもらっていたようです。教室でも怒られることなく、自分で参加できる活動をしている。

それを認めてもらえている。ノートを取らなくても責めてくる友だちもいない。

そういう中で安心して過ごせる環境になっているのだと思います。

「いてもいい自分」をしっかり感じているのではないかと思います。

その中で、無理しなくてもよくなっているのかもしれません。

私は担任の労をしっかりねぎらいながらたっぷり評価してきました。

こういう事例を見るととってもうれしくなってきます。

コメント
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