とりあえず一所懸命

鉄道の旅や季節の花、古い街並みなどを紹介するブログに変更しました。今までの映画や障害児教育にも触れられたらと思います。

「自閉症裁判」を読んで

2008-11-17 21:54:44 | Book
「自閉症裁判」を読んで

数年前にレッサーパンダの帽子をかぶった青年が女子大生を殺害するという事件がありました。
その青年は高等養護学校の卒業生という報道があった時にはショックを受けたことを覚えています。

その事件の裁判記録と、被害者、加害者の周辺の状況を調べて書いてある本です。
作者は20年くらい養護学校に勤務した後、著述業をしているという佐藤幹夫さんです。

ニュースだけを聞いていると、高機能自閉症の人の犯罪なんだろうな程度の感想でしたが、この本を読んでいろんな感想を持ちました。
レッサーパンダの男についても詳しく述べてありますが、被害者の周辺も詳しく語られています。

特に両親の思いについては身に迫るものがありました。
男は、人一人を殺害しているのだからそれ相応の罪に問われて仕方ないという気もします。

ただ、障害について何の理解もない警察が、事情聴取をしてまとめた供述調書については問題があるような気がしました。自分の意見がまとめられない人のえん罪は過去にもたくさんあったのではないかと思います。

男は、自分は「障害者ではない」と主張しているということも心に残る事実です。養護学校卒業という事実を隠し通していたといいます。

この本を通じて強調されていることは
①彼ら、知的障害や発達障害をもつ人たちが、どうすればこのような傷ましい事件の当事者となることを避けることができるか。
②もし、障害をもつ人が何らかの形で加害の側に立つことになった時、法の裁きをしっかり受けてほしい。自己を守ることに弱い、障害のある人々を司法はどのような裁くのか。
③レッサーパンダ帽子の男が、なぜ殺人まで追い込まれたのか。彼が生きてきた30年から何が見えてくるのか。
④なぜ凶行に及んだのか。彼の持つ発達障害の関係からひもときたい。
⑤彼がみずからのなしたことを振り返り、省みるということがどのくらいできるのか。
などです。

この本のすぐれている点は、自閉症の特性に基づく、事件の解明です。

今学校の教室の中でも、発達障害の子が引き起こす事件がいろいろと問題になっています。
世間の常識から判断すると、いけないことだし、批判されるべき事柄が多いと思います。
でも、このことも障害特性からひもといていくと別の側面も見えてくるのではないかと思います。
教室の中で加害者、被害者の関係にならないためにも教育的な働きかけが重要になります。

また、養護学校の卒業生のその後の生活というのも考えていかなければいけないのではないかと思います。
教育と福祉の連携も重要になると思います。

この本はいろんなことを考えさせられる一冊でした。
コメント
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