患者:趙某 28歳 女性
初診年月日:1984年5月6日。
主訴:反復性浮腫1年余。
病歴:患者はネフローゼ症候群1年余、副腎皮質ステロイド治療の効果不十分。
初診時所見:
全身浮腫、頭部から顔面頚部に比較的甚だしい、24時間尿量300ml程度、面色蒼白無華、形寒肢冷、全身酸痛。尿蛋白3+、顆粒円柱1~2個/LP、血清蛋白4.2g/dL、アルブミン2.3g/dL、総コレステロール10.1mmol/L(390.9mg/dL)。脈沈、舌潤苔滑。
中医弁証:属肺腎陽虚、肺失通調、腎失開合
西医診断:ネフローゼ症候群
治法:宣肺温腎利水法
方薬:麻辛附子桂甘姜棗湯:
麻黄15g 附子15g 細辛5g 桂枝15g 甘草10g 生姜15g 益母草50g 川椒15g 紅棗3個
三剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
(付記:原方に活血利水消腫の益母草と温裏散寒の川椒が配伍されています。少し観念的表現ですが、水瘀互阻という感覚から益母草が配伍されたものと思います。川椒には温中燥湿の効能があるために、寒証の利水効果が期待できますね。)
二診 1984年5月9日。
服薬3剤で尿量増多、24時間尿量約1500ml。前方を継続。
方薬:麻辛附子桂甘姜棗湯:
麻黄15g 附子15g 細辛5g 桂枝15g 甘草10g 生姜15g 益母草50g 川椒15g 紅棗3個
5剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
三診 1984年5月14日。
継続服用5剤で水腫は全消、形寒肢冷減軽、全身酸痛消失、尿蛋白2+、顆粒円柱(-)、ただし全身乏力、腹張納呆、腰酸腰痛、脈沈緩。
益気健脾利湿を以って治療する。
張氏経験法 方薬:
生黄耆30g 白朮20g 茯苓20g 澤瀉15g 猪苓15g 紫蘇15g 砂仁(化湿行気和中)10g 檳榔(行気利水消積殺虫)15g 大腹皮(下気寛中、行水消腫、止瀉)15g 木香(行気止痛、健脾消食、止瀉)7g 木瓜(酸/温 行気止痛、健脾消食、止瀉、平肝舒筋、和中袪湿)15g
30剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
四診 1984年6月14日
患者連続服用上方30余剤、尿蛋白±、血清総蛋白6.8g/dL、アルブミン3.4g/dL、総コレステロール4.8mmol/L(185.8mg/dL)。患者は快癒し、退院後は益気健脾補腎の法による方薬を継続服用した。現在に至るまで8年間の追跡調査でネフローゼ症候群の再発は無く、治療効果が固められた。
ドクター康仁の印象
初診から8剤の宣肺温腎利水法の麻辛附子桂甘姜棗湯加味方で寒証は除かれ、利尿がつき、陽虚症が減軽し、浮腫も消失しました。乏尿の急場を凌いだわけです。
肺失通調とは肺の通調水道作用が失われたことを意味します。
再度、肺の中医学的生理論をご覧下さい。
http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat12325512/
ところが、三診では、全身乏力、腹張納呆、腰酸腰痛、脈沈緩などの脾腎の気虚症状が表面に現れてきました。気虚になれば水湿の運化は低下し、湿邪はさらに脾を困らせ、結果さらに気虚が悪化するという悪循環になります。気滞水停に陥ります。そこで、益気健脾利湿法を氏が採用したわけですね。檳榔、大腹皮などは行気利水の効能があります。四診からは補腎法を加え治療効果を固めたわけです。見事な治療結果でした。
2014年1月24日(金)