患者:孫某 48歳 女性
初診年月日:2003年2月5日
主訴:乏力3年余、悪心一ヶ月余。
病歴:
尿路感染病歴が十余年、三年前乏力症状が出現、ハルピン市中医病院で検査、Cre386μmol/L(4.36mg/dL)、ヘモグロビン10g/dL、慢性腎不全の診断を受け、対症治療にて症状緩解、継続治療となった。一ヶ月前悪心症状出現、ハルピン医科大学付属第二病院にてCre786μmol/L(8.88mg/dL)、氏を受診。
初診時所見:
患者面色皓白で頭昏、心煩悪心、倦怠乏力、腰酸膝軟、大便秘結、口中尿素臭、舌淡、苔厚膩、脈沈滑。Cre786μmol/L(8.88mg/dL)、BUN29.4mmol/L(176.4mg/dL)。
中医弁証:脾腎両虚 湿濁瘀血内停
西医診断:慢性腎盂腎炎 慢性腎不全(尿毒症期)
治法:補脾腎、化湿濁、解毒活血
方薬:
紅参15g 白朮15g 茯苓15g 草果仁(温中燥湿散寒)15g 莵絲子20g 熟地黄20g 黄連10g 大黄7g 草果仁10g 半夏15g 桃仁15g 紅花15g 赤芍15g
14剤、水煎服用、1日1剤。
(付記:草果仁が2箇所に重複して記載されています。氏は甘草を15g使用することが多いことと、四君子湯の組成から最初の草果仁15gは甘草15gあるいは砂仁15gの誤植ではないかと思います。氏の常として、甘草は処方の後で記載されることが多いことと、過去の医案でも砂仁 草果仁が併用されることが多いので、砂仁(化湿行気和中)ではないかと思います。しかし、炙甘草の可能性も大なので、困りました)
二診
上薬を服用後、漸次有力になり、大便は毎日1回、依然として乾燥、心煩悪心、口中異味、舌淡、苔厚膩、脈沈滑。Cre679μmol/L(7.67mg/dL)、BUN29.4mmol/L(176.4mg/dL)。
方薬:
紅参15g 白朮15g 茯苓15g 草果仁15g 莵絲子20g 熟地黄20g 黄連10g 大黄7→10g 草果仁10g 半夏15g 桃仁15g 紅花15g 赤芍15g 丹参20g 枳実(破気消積、化痰除痞)15g 厚朴15g 紫蘇15g
28剤、水煎服用、1日1剤。
(付記:大黄が増量されました。涼血活血祛瘀の丹参が加味され、枳実、厚朴、大黄の組み合わせは小承気湯になります。紫蘇は氏の愛用する生薬です。おそらく止嘔目的ではないかと思います。半夏は化痰燥湿止嘔に作用し、桃仁15g 紅花15g 赤芍15g 丹参20gの群は氏の愛用する活血祛瘀剤です。
三診
上薬服用後患者の大便は通暢となり、1日1~2回、悪心無く、次第に有力、納可、舌淡紅、苔白、脈沈滑。Cre578μmol/L(6.53mg/dL)、BUN19.4mmol/L(116.4mg/dL)。
経過:
病情は好転し、上方加減治療3ヶ月、再検値Cre438μmol/L(4.95mg/dL)。症状は以前に比べ明らかに好転、なお継続服用にて治療効果を固めているところである。
ドクター康仁の印象
現代日本では、すぐに透析に導入されてもおかしくない臨床症状と検査データです。自覚症状の改善とCre値の改善が共に実現されたのですから、立派な仕事です。
ひとつ思いついたことがあるのです。草果仁 半夏 大黄 黄連は化濁瀉熱解毒と繋げて覚える方法です。莵絲子 熟地黄は補腎益精養血という具合にです。過去に紹介した医案では嘔気がある場合には何首烏を先ず処方し、嘔気が無くなってから熟地黄を加味するということが多かったような気がしますが、本案では最初に滋膩の熟地黄が配伍されています。それで可なりと氏が「踏んだ」のです。そういう臨床家の勘は理屈抜きで素晴らしいものです。丹参を後で加味したのも、最初に加味すると、あるいは悪心を悪化させるのではないかと氏が自然に会得した「勘」なのではないかと思います。私の「勘違い」かも知れません。
2014年1月2日(木)