皆様、明けましておめでとうございます。今年も読んでも面白くもない、四文字熟語が並ぶ漢方の世界を紹介していくつもりです。一般の市民講座としては難度の高い内容です。読んでも分からなくて当然ですので、なんとなく「そんなものか」と感じていただければ、市民講座の目的は達せられたと言えます。
漢方に興味のある医学者にとっては、内容が充実していなくてはならないと自覚しながら稿を進めたいと思います。
さて、
慢性腎不全に伴う高血圧症の治療では、Ca拮抗剤とARB製剤が現代日本での主流です。勿論、現代中国でも西洋薬の併用は行われていますが、お国柄の違いがあり、漢方薬で高血圧を治療するということも多いのです。その実際の医案を紹介いたします。
患者:梁某 45歳 男性
初診年月日:2000年2月16日
主訴:張痛を伴う眩暈発作5年、加重5日。
病歴:
5年前疲労蓄積後に眩暈、頭張出現、近所の診療所で血圧160/100mmHg、北京降圧0号を服用後に症状緩解、薬物の継続服用はしなかった。平時頭痛時には降圧薬を服用し、症状が無くなると服用を停止し、再診しなかった。5日前。頭痛が加重し、180/100mmHg、ハルピン医科大学付属第一病院受診、腎シンチグラム検査も受け、双腎機能軽度受損、排泄遅延が認められた。心電図ではST-T変化あり、Cre264μmol/L(2.98mg/dL)、BUN15mmol/L(90mg/dL)、氏を受診した。
初診時所見:
眩暈、張痛、鼻衄を伴う、乏力、腰痛。舌紅、脈弦。Cre264μmol/L(2.98mg/dL)、BUN15mmol/L(90mg/dL)。尿ルーチン検査正常。
中医弁証:眩暈(陰虚火旺)
西医診断:高血圧腎病、慢性腎不全(失代償期)
治法:滋陰潜陽、活血補腎
方薬:
代赭石(平肝潜陽、降逆止血)40g
生竜骨(平肝潜陽、重鎮安神、収斂固渋)20g
生牡蠣(平肝潜陽、軟堅散結、収斂固渋)20g
石决明(平肝潜陽 退翳明目)30g
懐牛膝(補肝腎 強筋骨 引血下降)20g
珍珠母(平肝潜陽、清肝明目)30g
菊花(疏風清熱 清肝明目)20g
益母草(涼血活血 利水消腫)30g
水蛭(破血逐瘀)10g
杜仲(補肝腎 強筋骨 安胎)20g
枸杞子(養陰潤肺 滋補肝腎 明目)20g
女貞子(補益肝腎 養陰清熱 明目)20g
莵絲子(補腎助陽 固精縮尿 明目止瀉)20g
玉竹(滋陰潤肺、生津養胃)20g
桃仁(活血祛瘀 潤腸通便)15g
赤芍(清熱涼血 祛瘀止痛)15g
牡丹皮(清熱涼血 活血祛瘀)15g
釣藤鈎(熄風止痙 清熱平肝)15g
草决明(决明子に同じ、清肝明目、潤腸通便)30g
甘草15g 葛根20g
14剤、水煎服用、1日1剤。「一般市民の皆様へ:生竜骨(なまりゅうこつ)といっても、勿論、竜は想像上の動物で存在しませんので竜骨は古代の何らかの動物の化石であり、生肉の生ではありません。熱処理を加えたものが煅竜骨(たんりゅうこつ)で、化石そのものが生竜骨です。生牡蠣(なまぼれい)も「酢牡蠣」「牡蠣フライ」の身の方の牡蠣(かき)ではなく、牡蠣の貝殻を熱処理しないで、そのまま乾燥させたものを生牡蠣といいます。熱処理したものを煅牡蠣(たんぼれい)と言います。煅竜骨、煅牡蠣は生に比べ収斂固渋の作用が強くなります。」以前の記事に牡蠣の写真を載せましたのでご覧下さい。
自律神経失調症の漢方治療 ④
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20070121
二診
眩暈減軽、鼻衄再出現無し、脈弦の勢い減。血圧150/90mmHg、Cre218μmol/L(2.46mg/dL)、BUN7.5mmol/L(45mg/dL)。前方加減治療を続ける。
方薬
上方に生地黄(養陰清熱)15g 玄参(清熱解毒養陰)15g 麦門冬(養陰潤肺 益胃生津 清心除煩)15gを加味する。
28剤、水煎服用、1日1剤。
三診
上方服用し臨床症状は消失。血圧は140~150/80~85mmHgの間に維持、継続服用3ヶ月余で、Cre、BUNは次第に穏定下降し正常を回復した。
ドクター康仁の印象
牛膝と代赭石の配合となれば、鎮肝熄風湯(ちんがんそくふうとう)(医学衷中参西録: 平肝熄風 滋陰潜陽)が高血圧症の方剤として有名です。
以前に紹介した医案中に詳しく説明していますので、興味のある方は御一見下さい。
慢性腎炎の漢方治療 第87報 紫斑病性腎炎の漢方治療 医案8
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130401
本案は腎機能の低下もありますので、活血祛瘀剤が腎機能回復目的で使用されました。氏が愛用する葛根の成分には血管拡張作用、血小板凝集抑制作用が報告されていることを付記します。
2014年1月1日(元旦)。 謹賀新年