渡来宏明

2010-05-09 17:12:57 | Music Life
渡来宏明 秘密のメロディー


渡来宏明氏「秘密のメロディー」のライヴ映像。この曲は彼の最初のソロアルバム「シークレット・メロディーズ」のタイトル・チューン。

この映像でベースの人が弾いているのが昨日記事にしたダンエレクトロの Danoblaster RUMOR かと思うのだが、モズライトかもしれない。RUMORベースを使用したとすればなかなかマニアックだなと思うけれど、いずれにせよ今回の記事ではきっかけに過ぎないので。

マニアックといえば渡来氏本人もギターに関してはかなりマニアックで、最初のソロアルバムを作成中はSilvertone(主にハーモニーメイド)のギターを多数所有していて、収録曲のほとんどでSilvertoneを使用したとのこと。その一つ「俺のソウルカー」において、Silvertoneから生み出された素晴らしいギターソロを聴くことができる。



「シークレット・メロディーズ」を聴いて、私が最初に抱いた印象は「いわゆるナイアガラ的なるものを総括し、新たな地平を目指そうとする」というもので、それまでTreeberrysとして英語で歌ってきた渡来氏が「日本語のポップ・ミュージック」に取り組むにあたり、ナイアガラ・ファミリーとの対峙は避けられないところであり、優秀なミュージシャンと高度なスタジオ・ワークによって生み出されたナイアガラのフォール・オブ・サウンドをたった一人で、宅録機材で挑むことで乗り越えようとしたのではないかと思った次第。そしてそのアプローチは、ナイアガラのオモテ面としてのフィル・スペクター的な方法ではなく、ウラ面としてのロイ・ウッド的な方法に依拠したのではないか、とかなんとか。
かねてより渡来氏はザ・ムーヴ、そしてロイ・ウッドをリスペクトしているので、そもそもナイアガラ云々などといったことは単なる私の思い込みにすぎないかもしれないけど。



思い込みついでにさらに続けるならば、こうしてナイアガラを総括したことにより、新たな地平を獲得すべく、渡来氏はセカンドアルバムをレコーディングした。このアルバムは「How to Rock」とタイトルがつけられた。これはロック自体を問い直すことでもあり、それはグルーヴの追求による身体性の獲得によって、幾重にも重ねられたギターサウンドとハーモニーが織り成す複雑なテクスチュアをあくまでポップに一気に疾走させることである。

過去のポップ・ミュージックの遺産を引用し編集する桎梏からビートによって外に出ること。そうすることで何を目指したかといえば、渡来氏曰く、ロックという世俗的な音楽に「祈り」としか呼びようのないものを宿らせる、ということ。
そのことは歌詞にも反映されている。今までに歌詞として使われたことはなかったであろう言葉やフレーズを散りばめ、母国語にいわば外国語を刻んでいくような歌詞は、音韻や語感が配慮されているので、聴いている分にはスムーズに流れるが、歌詞を改めて読んでみると、一見、無秩序な言葉の羅列に見えてしまうくらい、音声と文字の間にギャップがある。とはいえ、それらは決して無意味ではなく、例えば不倫であったり、初めて人を好きになったときであったり、恋愛のしんどさであったり、そうした下世話ともいえる男女の様々な局面を描きつつ、自分が生まれる以前のパパやママも、ひいては遥か古来から人類は同じことを繰り返してきたということに思い当たり、大きな存在を垣間見るといったトータルなコンセプトを備えている。歌詞の刷新という点もこのアルバムの特筆するべきところだろうと思う。

要するに「How to Rock」は誰でも気軽に楽しめるポップでキャッチーなアルバムであると同時に重箱の隅をつつくようなオタク的な聴き方をすれば聴くごとに新しい側面を見せるアルバムとなっているというわけ。

このアルバムのエンジニアによる楽曲解説

このようなアルバムをつくってしまった渡来氏であるが、Treeberrys時代からそのソングライティング能力やグルーヴィーでよいラインを弾くベーシストとして、また一筋縄ではいかない「悪さ」をするギタリストとして天才と呼ばれている。だがそれだけでなく、原盤マニアの生態を描いたマンガ「原盤くん」や独自の視点による音盤レビュー「ロック黄金伝説」などでも非凡な才能を示している。

渡来宏明氏のブログ(リンク集からmyapaceや「ロック黄金伝説」へ「原盤くん」はBBSに掲載)
http://yaplog.jp/wattack/
コメント
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