小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

ゴキブリ

2009-06-19 05:47:41 | Weblog


ゴキブリが出てくるようになった。
「うざったいなー」
太郎はゴキブリホイホイを買って台所の隅に置いておいた。



「あっ。いい匂いがする。やったー。何か美味いもんがあるんだろう」
ゴキ男は匂いのする方につられて行った。
「ああ。いい匂いだ」
ゴキ男は匂いにつられて箱の中に入っていった。
入った途端、足が粘着テープにくっついた。
「ああっ。しまった。これは僕達を罠にはめるゴキブリホイホイというものなんだ」
ゴキ男は必死にもがいた。だが、もがけばもがくほど逆に粘着テープに体がくっついてしまった。
「ああ。もう、僕はだめだ」
ゴキ男は観念した。
その時、ゴキ子がやってきた。
「あっ。ゴキ男さん。しゃれた家を見つけたのね。いい匂いがするわ。美味しい物があるのね」
ゴキ子はホイホイに入ろうとした。
「あっ。ゴキ子ちゃん。入っちゃダメだ」
「どうして。美味しそうな匂いがするじゃない。何か美味しい食べ物があるんでしょ」
「違う。これは罠なんだ」
「ずるいわ。ゴキ男さん。自分だけ美味しい物を独り占めする気なんでしょう」
ゴキ子はゴキ男の忠告も聞かずホイホイに入っていった。
「ああっ」
入った途端、手足が粘着テープにくっついてしまった。
「ああっ。ゴキ男さん。助けて」
ゴキ子はもがいた。だが、もがけばもがくほど手足が絡まってしまった。
「ゴキ子ちゃん。この罠にかかったら、もう逃れられないよ。諦めよう」
ゴキ子は諦めて項垂れた。
「ゴキ男さん。御免なさい。せっかくゴキ男さんが忠告してくれたのに、ゴキ男さんを疑ってしまって。優しいゴキ男さんの忠告を疑ってしまった天の罰なのね」
「そんな事ないよ。ゴキ子ちゃんは悪くないよ」
「じゃあ、何がわるいの?」
「僕達がゴキブリに生まれてしまった事が悪いのさ」
「私達の人生も、もうおしまいなのね」
ゴキ子は涙を流した。
「ゴキ子ちゃん。泣かないで。ゴキ子ちゃんと死ねるんなら僕は幸せだよ」
「ありがとう。ゴキ男さん。私、もう泣かないわ」
「ゴキ子ちゃん。賛美歌320を歌おう」
「そうね。そうしましょう」
ゴキ男とゴキ子は賛美歌320を歌い出した。
「主よ みもとに近づかん のぼるみちは 十字架に ありともなど 悲しむべき 主よ みもとに 近づかん」
夜は深々とふけていった。



翌日、太郎は目を擦りながら起きた。ゴキブリホイホイを見ると二匹のゴキブリがかかっていた。
「やったー。さっそく、かかったー」
太郎は、ざまあみやがれ、ウシシと笑いながら庭にゴキブリホイホイを持っていって火をつけて焼き殺した。

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