陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著)の読後感

2010-07-22 02:58:14 | 読書・映画・音楽
 表題の青春小説を読んでみた。高校野球部の選手は、毎日のように激しい打撃練習や守備技を磨き、監督とコーチにしごかれるもの、そして女子マネージャーは、球拾いをしたり、スコアブックをつけたりするアイドル的存在と思っていた。だから、彼女が経営「マネジメントの父」と言われたピーター・F・ドラッカーの著作と、どのように係わるのかと好奇心が湧いた。

 これは、中々面白い本である。主人公の女子高校生・川島みなみ(17)は、ちょっとした理由で都立普通高校・野球部のマネージャーを引き受ける。彼女の望みは、翌年甲子園へ出場すること。その気負いから、彼女はマネージャーの意味を知りたくなり、あるいはマネジメントの本質を理解するため、本でも読もうかと思って本屋へ出掛けた。本屋の店員は、マネジメント関係の図書と聞かれて、ドラッカーの「マネジメント 基本と原則 エッセンシャル版」(ダイヤモンド社、2001)を紹介した。

 それは、経営学のコンセプトやテクニカル・タームに満ちた本である。みなみは「マネジャーに求められる資質は、真摯さ(=真面目さ)である」とドラッカーが述べていることに感激する。その言葉は、彼女にこの本と真剣に取り組んでみようと言う気にさせた。

 それを読み進めながら、野球部を経営組織に置き換え、自分なりに経営目的や組織のあり方などに独自解釈を行い、野球部運営を行動で変えようとする。

例えば

野球部の定義:顧客に感動を与える組織
顧客:野球部員自身、親、先生、東京都、高野連、全国の野球ファン
部内マーケティング:部員が野球部に求めるものは何かと言う情報収集
働きがい:練習内容の充実と自己目標管理導入。部員に責任を持たせる。
野球部のイノベーション:陳腐化した「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」の禁止
組織規模の最適化:野球部員数を余り増やさず、入部希望者と真剣に話し合う。


 大学受験の準備を忘れてまで、野球部を良くしようとする、こんな意欲に溢れた女子高生がいたら、どの大学も悦んで迎え入れるだろう。だが、この小説、殆ど受験問題に関しては触れていない。

 さて、みなみの意図は、最初監督を始め部員一同に違和感を持たれたが、彼女の熱意は次第に共感を集めて、野球部は徐々に一体化した組織に変貌して行く。随所に上記「マネジメント」の重要な部分を引用し、それを分かり易く説明しているのが興味深い。著者の岩崎氏は、相当に上掲ドラッカー「マネジメント」を読み込んでいると感じた。

 一つ疑問、みなみと宮田友紀(同級女子高生)の間にある深い友情は、女性同士の間に本当に生じ得るものなのだろうか?その強烈な交流の姿は、みなみの男勝りの個性もあって、米映画「フライド・グリーン・トマト」(1991)を何となく思い出した。
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD7840/story.html

 少し少女小説的な感傷も織り交ぜながら、話の内容は緩急自在、著者の岩崎氏は中々のストーリー・テラーと思う。岩崎氏が師と仰ぐ作詞家・秋元康氏からの影響を大きく受けている作品だ。そして、何と言ってもドラッカー経営学のポイントをやさしく紹介している点に注目したい。

 組織マネジメントの本質理解が、全く欠落している民主党幹部に是非読ませたい著書である。この本、現在ベストセラーになっているとのこと。


「もしドラ」100万部へ ダイヤモンド社、初のミリオン
2010.7.20 22:29

 「もしドラ」の略称で社会現象を巻き起こした小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著)の発行部数が、22日に100万部を達成することが20日分かった。このうち4万部は電子書籍販売分で、発行元のダイヤモンド社は大正2年の創業以来初のミリオンセラーとなる。

 昨年12月3日に刊行。アメリカの経営学者、ピーター・F・ドラッカーの名著「マネジメント」を間違って買った公立高野球部の女子マネジャーが、ドラッカーの組織論をチーム作りに応用して甲子園を目指す青春小説。“現代経営哲学の父”の教えをわかりやすく解説した本として人気を集め、今年6月には90万部に到達していた。

 ネタ本の「マネジメント」などドラッカーの著書や関連書籍の増刷が相次いだほか、「もしドラ」を活用する野球部や企業も出るなど、ドラッカー・ブームの牽引役になっている。

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/100720/acd1007202230004-n1.htm
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