陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

以「幇」治国:A・チャン氏の論説

2006-09-09 13:54:30 | 台湾関係
 杉本信行著「大地の咆哮」(PHP、2006)を読んでいる。杉本氏は、元上海総領事、2004年5月6日、A電信官が自殺した時の上司だ。例の外務省チャイナスクールの一人と思いながら読んでいたが、中共の現実を日本の立場から忌憚なく述べている事を知り、その重さに圧倒されている。

 今年8月3日、杉本氏はガンで逝去。享年57才。前掲書は、言わば杉本氏の遺書なのだ。余命幾許も無い中を、末期ガン治療に耐えながら誰にも遠慮せず書いた。<団塊の世代>にこんなすごい人が、しかも外務省に・・・との印象。その内容については、いずれ読後感を述べたい。

 この本には、阿南惟茂前中国大使と言う名前が全く出て来ない。瀋陽領事館事件で、杉本氏が阿南前大使にどんな印象を持っていたのか、それを知りたかった。もう一つ、シナの暗部である「洪幇」=洪門会(ほんめんかい)が、経済発展の中でどのような形で存在するかとの情報に期待したが、それも無かった。

 そんな風に考えていた時、アンディ・チャン氏の「幇」(はん)に関する論説が目に止まり、「幇」の実態に少し理解が出来た。以下少し長いが、興味深い内容である故、全文紹介する。読み易くするため、改行を加えてある。

-------------------(引用開始)
◆ [AC論説]No. 183 以「幇」治国
                  アンディ・チャン

 中国人はこれから百年たっても民主国家を作れない。理由は簡単、「唯我独尊、排除異己」だからである。中華思想とは異民族を征服し同化する、同化できなければ滅ぼす。だから中華思想の根底は「野獣の集団攻撃」で反対者を抹殺することにある。国民は専制統治の対象で「臣下」であるから、自由を与える必要がない。

 チベット、新疆、台湾における中国人の制圧と掠奪を見ればわかるように、漢民族は異民族を同化または滅亡させる。世界中に分布した中国人は各地でチャイナタウンを作り、雑草が蔓延るように中華文化を広めていく。中華文化とは漢民族の幇派を作ることだ。

 法輪功が組織化して幇派を作るのは同じ原理である。法輪功(大紀元)グループは短期間で世界中に蔓延した。中国政権が法輪功を恐れ、弾圧するのは法輪功の組織が中国政権と同じ幇派の組織で蔓延し、共産政権を脅かすからだ。

●「中華コイン」の裏表
 中華思想はコインのように裏と表がある。コインの表は「幇」の表現で、指導者の胸像を使って人民を尊敬させる。コインの表の指導者は蒋介石でも毛沢東でも法輪功の李功志でも構わない。ジャッカルの群れが団体行動をとるためには指導者とその下の団員が必要である。自国民は奴隷、外国人は敵なのだ。

 ジャッカル集団はリーダーの命令に従って獲物を攻撃、掠奪する。中国の共産政権が大陸制覇を達成したあと、アジア覇権を目指して台湾を併呑し、次に日本「親中派」を育成するのが目的である。つまり中華コインには「中華派閥」の代表者があり、相手を従属させることで民主国家である必要はない。

 コインの裏は制覇の原則である。ジャッカルの集団行動に必要なのは一致した行動で敵を撃滅することで、それには次のような策略がある。

(1)徹底したリーダー崇拝と独裁政治
(2)情報網で監視体制を確立
(3)宣伝による思想監督、教育による民心操作
(4)黒道(ヤクザ)の手先を使って暗黒政治を徹底させる
(5)金銭で人民を腐蝕させ、腐敗官僚体制を確立

 法輪功の李功志もこれを援用しているし、台湾の妖僧・星雲も世界中に150の中国人情報ステーション作った。外国は中国人の集団指導と宣伝集団を重視することにあまりにも無知である。その逆にモルモン教徒が中国で教会を作ろうとしたが許可が出ない。教会のような信者を集める集団は法輪功と同じく敵視するのだ。

●幇とは中国人の小帝国DNA
 つまり中国人の国家は「幇が作った帝国」であり、指導者とそのグループが主導する一党体制という「幇」を作って国民を統治することである。毛沢東が死んだ後、後継者の闘争で「四人幇」の裁判があったことは中国人国家の典型である。幇とは国家体制のDNAであり、病原菌である。

 幇は小さな帝国であり、国のDNA、または逆に国を倒すこともできる病原菌である。中国人にとって国が滅びても幇(DNA)は残る。洪幇(洪門会)は明の時代に作られた満州族に抵抗する集団だった。明が滅び、清が滅んでも洪門会は生き残り、中華民国、中華人民共和国になっても洪門会は世界中に分布している。これを理解すれば台湾人が中国人と共存する民主国家を目指す陳水扁が根本から間違っていることがわかる。

●コインの表は「指導者崇拝」
 幇の指導者は昔の皇帝と同じく絶大な権力を持つ。蒋介石は台湾で2・28事件が起きた時、十数万人を虐殺し、息子の蒋経国が白色恐怖と呼ばれる弾圧政治を行った。台湾人を同化し、反抗者を征服するために徹底した恐怖心を植えつけたのである。

 また、毛沢東は7千万人を虐殺したと言うように、異分子を徹底的に排除した。毛沢東は独裁を通したが、毛沢東の後継者たちも同様、もしも指導者たちが民主国家の真似をすればジャッカルのリーダーでなくなることを意味する。闘争でリーダーにのし上がり、地位を確保する中国の独裁政治は易姓革命と同じ、変っていない。

 毛沢東と林彪の闘争はいうまでもなく、毛の死後も華国鋒の後継者指名、四人幇裁判、!)小平の自由経済導入、江沢民の軍政掌握体制、中国のリーダーはいずれも陰湿な闘争で指導者になった。指導者は残忍で陰険な素質を持つ必要がある。

●「以幇治国」:台湾の現状
 中華思想とは幇の特定グループが人民をコントロールする、あらゆる方法を使って反対者を消滅させる。国民党は政権を失ったが、相変わらず幇(DNA)を使って台湾を陰で統治している。台湾は在台中国人(外省人)の統治から逃れることが出来ないから苦悶している。

 国民党(泛藍集団、清幇)が政権奪回を目指して国政を麻痺させる。国民党が政権を取り戻せば中国に征服されるけれども幇は残る。泛藍集団に国家観念はなく、利権さえ保持できれば中国に征服されても、三民主義が共産主義になっても構わない。「外省幇」は台湾が滅亡しても外国に逃亡して生き残る。

 外国人にとって理解できないことは、中国人の「国が滅びても幇が存在する」という観念だ。世界各地のチャイナタウンには幇が存在する。中国が人民共和国でも中華民国でも幇のDNAは各地で繁栄している。

 国民党は幇組織で台湾を統治してきた。半世紀以上も続いた国民党メディア、警察、司法、立法委員を使って政府攻撃を繰り返し、予算カット、軍備予算を拒否して国政を麻痺させている。今の台湾は完全な無政府状態で、泛藍は泛緑撃滅で得意になっている。金で施明徳を買収して陳水扁の辞職を呼びかけるデモをやる。竹聯幇が陰でヤクザを動員して支持する、国民党の青幇主体の軍部や警察は治安維持と称して民間の反抗を阻止する。

●情報網による人民の監視体制
 蒋介石が毛沢東に敗北したのは情報と洗脳で負けたからだった。これに教訓を得た蒋介石は台湾で強固な情報網を作って人民の制御をした。この組織は国民党が政権を失った後でも存在している。司法官、検察官、警察などはヤクザの暴挙を見逃し、その反面で民間運動は情報網が探知して取り締まる。

 民進党内部にも国民党のスパイが多数存在して動きを見張り、党の意見を攪乱する。最も顕著なのは民進党の新潮流派グループで、元は国民党員だったのが多く、誰がスパイかさえもハッキリしない。民進党は中国人の監視網を撤去できない。

●思想コントロール
 陳水扁の失敗はメディア暴走をコントロール出来なかったこと、台湾人アイデンティティを推進できなかったことである。メディア制御に失敗し、国民教育に失敗した。陳水扁は中華民国を維持して国民党と共に二党政治を考えている。中国人が幇の統治で台湾人を抹殺するというのに中台の民族共存を理想とするのは愚劣である。

 多くの人が陳水扁にメディア制御の必要性を勧告したが、陳水扁は「国が潰れても媒体(メディア)の自由を守る」と公言した。だから私は「国破媒体在?」と言う記事で彼を厳しく批判したのだ。陳水扁がメディアの誹謗で七苦八苦しているのは自業自得である。

 台湾の教育方針が中国の文化歴史を重視して台湾歴史を教育方針に入れないこと、台湾人の祖先が中国から渡来したことなどを強調して台湾人の独立精神を矯めるのは待合である。許信良、施明徳などの売国行為は台湾精神の欠如に由来している。

 大部分の台湾人は台湾の国際的地位は未決である事を知らない。これが人民自決で台湾独立を推進する運動を阻んでいるのだ。教育の間違いを正さない民進党政権にも責任がある。陳水扁を始めとする民進党員ですら台湾人アイデンティティを持たず、己を中国人と思っている党員が多い。これだから独立建国はできない。

●金による腐蝕と幇の恐怖統治
 選挙になると金で票を買う。投票には身分証明が必要だが、その身分証を金で買う、そして投票所の身分検査の役員が国民党員だから管理が出来ない。管理が厳しいところでは「黒衣の中国人」、一見して暴力団員とわかる人が投票所の内外に立って投票者を脅す。

 金で買われる台湾人も情けないが、役所や職場で賄賂文化を作り出し、反対者はヤクザの恫喝で抑える。政府官僚の腐敗を論じるのは正当に聞こえるが、国民党が作った汚職環境を改善するには国民党を掃討しなければできない。国民党を掃討するには中国人の幇派を解消させねばならない。

 陳水扁は民主国家を目指すと喝破したが、彼自身が汚職嫌疑の汚名を着せられる羽目になったのは皮肉というよりも、中国人の陰険さが明白になったのである。台湾人民が「以幇治国」の暴力に目覚め、これに対抗できる体制を作るのが台湾存亡の指標となるだろう。■

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---------------------(引用終り)

 シナは人治の国、皇帝のいた頃も、中共になってからも、それは本質的に変わらない。一国二制度どころか、最近は「プロレタリア独裁」を放棄して、「三つの代表理論」(江沢民)に宗旨変えし、益々人治度(?)を高めているようだが。江沢民は、上海付近を支配する青幇会に多分関係があるのだろう。

 孫文は、幇の一つ、洪門会(白道)の出身である。ヤクザ=チャイナ・マフィアは、洪門会(黒道)に所属する。それが頭にあって、現在の中共支配層と幇との関係を知りたかった。明末から存在する幇と現在の中共支配層との関係は濃厚と聞く。

 華北から流れて来て、南部の広東省周辺に住み着いた移民グループ「客家」(はっか)は、幇とは少し異なる。有名な宋一族は客家出身であり、孫文は一族の娘・宋慶齢と結ばれて客家と深い関係がある。それで、彼は洪門会と客家両方に支持されたのだ。

 孫文の後継者蒋介石の妻は、宋慶齢の妹・宋美齢である。英語が巧みで愛嬌のある宋美齢の米国での活躍、あるいはカイロ会談への参加は御承知の通り。従って、中華民国支配層は客家出身者と密接な関係がある。客家グループは古くから台湾にも住み着いており、李登輝氏も客家出身と言われる。そして、いわゆる華僑の3分の1は客家出身で、シンガポール、マレーシアの政界を牛耳る。

 中国共産党の大御所朱徳元帥、トウ小平、葉剣英も「客家」(はっか)の出身だが、現在の中共権力者達は客家とは関係が薄いようだ。中共の対外政策を見る時に、幇や客家グループとの関係を考えておく必要があると思う。戦前の日本人は、幇や客家の事に詳しかったと言うが、只今はどうなのであろうか。
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