陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

揺れる米国の対北朝鮮方針と踏張る日本政府

2007-02-14 07:05:25 | 朝鮮半島
 六ヶ国協議が米朝ベルリン会談のシナリオ通りに進んだのは、開催1日目(2月8日)だけ、翌日から始まった北朝鮮の見返り要求が過大なために協議は紛糾、4日目の2月12日になっても共同声明案はまとまらない。このままでは、中共による議長声明だけで休会になることも危ぶまれた。日本としては、その方が良かったと思う。だが、2月13日午後に急遽共同声明案がまとまり、代表者が署名した。内容は大凡次の通り。

(1)「初期段階措置」として、60日以内に寧辺(ニョンビョン)付近の核施設を閉鎖・封印。
(2) 北朝鮮は、閉鎖に関しIAEAの査察を受ける。
(3) 最初5万トンの重油を5ヶ国が提供(日本を除く)。閉鎖状況を見て、95万トンの重油を5ヶ国が追加支援する。
(4) 米朝国交正常化、日朝国交正常化、その他3件の作業部会を設けて、個別案件を継続協議。

 協議の始めに、北朝鮮は核施設の停止と所在を明らかにする事を前提に、1年間に200万トンの重油と200万キロワットの電力供給を図々しく要求してきた。当然、5ヶ国はそれに反発した。加えて、国連経済制裁の解除、米国が敵対視を止める事など、北朝鮮の言う事はエスカレート。

 私は、先月末から流れていた情報、つまり50万トンの重油要求を値切って半分以下にして、韓国が負担すれば良いと思っていたが、そんな甘い話にはならなかった。ヤクザ国家の面目躍如と言う感じだ。共同声明では、合計で重油100万トンを供与するとの事。北朝鮮としては、大成功。核施設は10ケ所位あるが、今回は寧辺のみか。結局、拉致問題の進展は何も無いが、佐々江局長にサインさせた安倍首相には何か手立てがあるのだろう。だが、正直なところ、やはりしてやられたかと言う侘しい気持がする。

 米国は、昨年7月のミサイル試射、10月の核実験で北朝鮮の長距離ミサイル技術が未完成であり、核兵器技術も未熟と読んだ。それで、米国本土への直接的な核威嚇は遠のいたと判断している。更に、昨年11月上旬の中間選挙で民主党に敗北して以来、ブッシュ政権の対北朝鮮方針は対話重視に大きく変更された。

 加えて、次期大統領選のため、短期間で何らかの外交成果を求めるようになった。米国にしてみれば、今回の共同声明で核施設を潰せるのだから、米国民への説明にはなるだろう。金融制裁も、30日以内には解決させるらしいし、2年前よりもブッシュ政権ははるかに後退した印象だ。

 ネオコンの判断ミスで、イラク戦略に大きな齟齬を来した結果、ライス国務長官は只今は東アジアより中東問題折衝で身動き出来ない。イランとの緊張も高まっているし、米国軍事力はホルムズ海峡周辺に集中されつつある。今の所、彼女は北朝鮮へ飴玉をしゃぶらせておけと言う判断のように見える。もともと、ライスは北朝鮮問題に深い関心を持っていたとは思えないのだが。

 方針変更が明らかになると、武力攻撃も否定しないボルトン国連大使ら対北朝鮮強硬派は、昨年暮れから今年にかけて次々に辞任させられた。その上で、今年1月16日、突然ベルリンで米朝二国間打ち合わせを行い、1月下旬には北京で金融担当者の打ち合せをさせて、六ヶ国協議の準備をした。

 核施設閉鎖と核物質の管理強化を北朝鮮へやらせた上で、その見返りに米国独自の金融制裁一部解除、何らかのエネルギー供給を行うと米国側は提案した。その打ち合せの場で、クリストファー・ヒル国務次官補は交渉内容に曖昧さを残し、結果的に六ヶ国協議で北朝鮮へ調子付かせる結果を招いたのではないか。どうやら、ヒル氏の当事者能力に問題がありそうだ。

 さて、只今の成り行きでは、見返り負担額のみがクローズアップされ、拉致問題への対処が霞んでいる。新たに設置される日朝作業部会で拉致問題を話し合っても、全く進展は期待出来ない。共同声明に佐々江局長が署名をしたのだから、重油代金あるいはエネルギー援助費用など、応分の負担は日本にも要求される。そうなると、援助額に係わらず我が国国論は分裂するかもしれぬ。

 それで提案だが、日朝作業部会の議論が進まぬ事を理由にして、安倍首相は北朝鮮にびた一文出せないと今後も言い続けて欲しい。それで日本が孤立化しても良いでは無いか。日本が拉致問題をたてにして土壇場で負担を渋れば、米国も中共もようやく拉致問題に本腰を入れて考えるようになるだろう。

 繰り返し二国間拉致問題協議をやっても、北朝鮮に言いたいだけ言われて、無駄な労力を費やすのみだ。何度も言うが、まずは<平壌宣言>を破棄し、この際六ヶ国協議からも離脱して、我が国独自の経済制裁実施に専念した方が良いと思う。米国の方針変更に関しては、もはや信用出来ない事がはっきりした。ライスーヒル路線については、今後は要注意だ。米国は、「サージカル・ストライク」など全然やる気は無いと見て間違い無い。

 まったく別な観点から米国の豹変を見ているブログがある
 http://money.mag2.com/invest/kokusai/

 この話、何処まで本当かは分らないが、気になる。確かに1月上旬、偽ドル札は米国自身が作ったと独紙<フランクフルターアルゲマイネ>が報道していたのを思い出す。

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