テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

“たった”一日で、すべてが。

2012-03-29 23:29:40 | ブックス
 こんにちは、ネーさです。
 春は名のもの、夜風の冷たさよ……
 今宵は金星ちゃんも見えず、ちょいっと残念です。

「こんにちわッ、テディちゃでス!
 ネーさッ! いまァ、わだいィなのはァ、きんせいィよりもッ!」
「がるる!ぐるがるがるるー!」(←訳:虎です!金環食ですよー!)

 あら、そうね!
 ネットショップでは日食を見よう!グッズがた~くさん販売されているようです!
 ン百年に一度の天体ショー、
 お天気が良いことを祈願いたしましょう!

「はれまスようにィ!」
「がるぐるぐるーがるるるー!」(←訳:雲はノーサンキュー!)

 たった一日のお天気に大勢の人が浮き浮きしたり、心配したり。
 たかが《たった》、されど《たった》。
 本日ご紹介いたしますのも
 《たった》一日がいかに巨大なうねりの起点と成り得るのか、を
 突き詰め、追いかけた作品です。
 さあ、こちらを、どうぞ~!

  


 
         ―― マリー・アントワネット 運命の24時間 ――


 
 著者は中野京子さん、2012年2月に発行されました。
 『知られざるフランス革命、ヴァレンヌ逃亡』と副題が付されています。

「うむッ! テディちゃ、しッてるでスよゥ!」
「がるる!ぐるるがるるるー!」(←訳:ボクも!漫画で読んだよー!)
「おうさまのォ、だいだッそうゥ!」

 ええ、そうなんですよね。
 日本人にとっていちばん親しみあるフランス革命の物語といえば、
 池田理代子さん著『ベルサイユのばら』。
 作品中に、王さま一家が国外逃亡を試み、
 あえなく失敗に終わるエピソードが描かれていたのを
 御記憶の方々もおられるでしょう。

 この御本が主題としているのは、まさにその、
 『ヴァレンヌ逃亡』事件です。

 1791年6月20日。
 月曜日でした。
 フランス国王ルイ16世と、
 王妃マリー・アントワネットは
 パリを脱出しました。
 国王は貴族夫人に雇われた執事を装い、
 王妃は子どもたちの養育係に扮して、
 目指すはオーストリア領ベルギーに近い要塞モンメディ。

「ぱりィからァ、ひがしへッ!」
「がるぐるるる!」(←訳:馬車は走る!)

 著者・中野さんは克明に、そして詳細に、
 逃亡事件ドキュメントを作成してゆきます。
 ルート、馬車の不具合が起きた場所、
 のんびり休憩した村――

「のんびりィはァ、だめでスよゥ!」
「ぐるるがる!」(←訳:急がないと!)

 そう、急がなければ!
 休憩なんてしていられません!
 早く! 急いで!

 ……ですが、私たちは既に知っています。
 この逃亡劇が成功しないことを。
 モンメディまであと少し、
 ヴァレンヌの町で、短い旅は終わりを迎えることを。
 刻々と、破滅のときが迫っていることを……。

 読み始めて、すぐに気付かされるのは、
 これは王一家の行動を追うドキュメントでありながら、
 また同時に、
 貴族フェルゼンのものがたりであることです。

「ふぇるぜんさんはァ、おうひさまのォこいびとッ!」
「がるるぐる!」(←訳:なんだよね!)

 スウェーデン貴族、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン。
 王妃の恋人、愛人、というよりは、
 まるで、魂の同盟者を想わせる存在。
 或いは、志を同じくする共闘者――

 どこまでも共鳴する二人は、
 しかし、その生涯でひとときも、ほんの一瞬も、
 ともに魂を共鳴させ得る“誰か”を持たなかった国王の誤謬によって
 再生の道を絶たれました。
 
 一日のはての、朝。
 ヴァレンヌの空に王妃が見出したのは、
 これで終わった、という絶望だったのでしょうか。
 それとも、
 いつかは、きっとまだ、という希望だったのでしょうか――

  《フェルゼンもアントワネットも負けるべくして負けた》

 と、著者・中野さんは記します。
 ええ、その通り、
 勝ち目のない負けいくさだったかもしれません。
 危険な賭け、だったかもしれません。
 そうと解っていても、
 やらずにはおれなかった乾坤の一戦、でした。

「おうひさまのォ、うんめいはァ」
「ぐるがる!」(←訳:彼の運命!)

 思い入れ深く描かれる、
 たった24時間の、
 長い長い24時間の物語。
 すべての活字マニアさんに、おすすめです!
 
コメント
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