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10年前、9月




秋晴れの9月の火曜日。
この天気だと今夜は中秋の名月がクリアに見えそうなベルギー・ブルージュだ。


ちょうど10年前のこの時分、夫の仕事の都合でベルギーから英国へ引越しした。

わたしは13年間ブルージュに住んだ。
落ち着いてのんびりした街(ベルギーは中間層が厚いことが、その余裕の理由だと思う)で、初めての子育てを経験したのは幸運だった。

ベルギーと英国の社会の何が違うかを考えると、英国は少数のエリートが社会を牽引していく社会、ベルギーは個人の能力によって公平に社会に参画していく社会だと思う。
そこそこの人がどちらの社会で幸福か、と問われたら断然ベルギーだと思う。




10年前、娘は12歳でブルージュ地元の小学校を卒業したばかり。

のびのびした、想像力豊かな子供時代をすごしたブルージュと別れ、彼女の中学校進学に合わせて9月中に英国へ完全移動。

英国ではあわてて探してもらったわりには、競争率の高い(<この初っ端からしてベルギーとは様子が違う英国なのだった。しかもなにかと競争を煽り、序列化するのを好むのが英国だ)、幼稚園から高等学校まである有名私立女子校に進学が決まった。
この女子校では勉強と音楽が両立でき、先生方に注目されて何かと頼りにされた点で、彼女の性格には合っていたようだ。




今年娘は大学4年生になった。
最近は産婦人科に興味を持っているらしい。理由の一つが、産婦人科では外科手術が科内で施術される点にあるという。
あの頃とは人が入れ替わったのでは、と思うほど成長した。


しかしブルージュには来るたびに思うのである。

12年間、もっと真剣にとりあってやればよかったのに、と。

あのころのわたしは彼女が一日でも早く自立することを願っていて、子供らしい世界をそのままで理解してやろうとしなかったのではないかと思う。
大人の考え方を押し付けすぎたのではないか、と。

やり直しできるものならぜひやり直したいと思うのだが、娘は困ったような優しい顔で肯定してくれる。まあ子供というのは親がどうであろうと全力で肯定してくれるものなのだろう。切ないなあ。




この美しい街角から、小学校の紺色の制服姿の娘が満面の笑みを浮かべて駆け出してきそうで、胸がしめつけられる。
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