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白鳥の湖@プラハ国民劇場






プラハ国民劇場(Národní Divadlo)では、タイミングよくチェコ国立バレエの『白鳥の湖』を鑑賞できた。

早々に完売になっていたのであきらめていたのだが、最終的にいい席が2席だけ取れて小躍り。

ちょうど一年前、同じ劇場で同じバレエ団によるフレデリック・アシュトン版の『リーズの結婚』を鑑賞して、その完成度の高さと、この劇場の愛らしさに感激し、ぜひとも娘にもこのセッティングでバレエを見てほしいと思っていたのだ。


チェコ国立バレエの『白鳥の湖』はロイヤル・バレエでも活躍したジョン・クランコJohn Cranko(『オネーギン』が最も有名か)版で、初めて見る。

チャイコフスキーの音楽の使い方がおなじみの版(たとえばロイヤル・バレエやスカラ座、ボリショイ、マリインスキーの使っている版)とは全然違ってい、いちいち新鮮味と驚きと違和感があって楽しめた。

どちらがいいかと問われたら、そりゃお馴染み版の方が上演回数に比例して洗練され続けているため断然いいが、わたしはかなり楽しかった。


この版で一番いいと思ったのは、1幕目でジーグフリード王子の母である女王が、王子に結婚相手を選ぶよう諭す時に、各国大使がかつて実際にそうであったように姫の肖像画を携えて見せに来るという伏線や、3幕目の舞踏会で、省かれていることが多い花嫁候補としてのロシアの姫の登場、そして何よりも最終的に悲劇で終わること。

つまり、誓いを破った王子は湖で溺れて死に、オデットは白鳥のまま飛び去るという悲劇的な筋である。

昨今では、愛が勝ってロットバルトが滅び、人間の姿に戻ったオデットと王子が結ばれたり、そうでなくても死んだ二人があの世で結ばれたりというディズニー風の筋が多いが、わたしはそういうのは近現代特有の甘さ、アメリカの価値観にずぎず、この話は悲劇で終わって「美」が完成すると思っている。

クランコ版はシロウト目から見ても、もう少し手を入れたらとてもいい版になるのになあ、もったいないなあと感じる。


上演そのものに関しては、舞台が狭さのせいだろうか、踊りの構成のバランスが悪いところが目立った。
オーケストラも小編成のためだろうか、他のパートをカバーする時や、独奏のボリュームにバランスが悪いところが目立った。
王子様が普通の人すぎたのもバランスが悪いと思った点だ。

一方で主役オデット・オディール役のプラハ出身ダンサーNikola Márováはわたしはとても好みだった。
ブルージュでは白鳥を見慣れているため感じるのだが、白鳥は強い。首で攻撃されたら人間なんか吹っ飛ぶくらい。この点に注目した振付家マシュー・ボーンはあの『白鳥の湖』(白鳥が全員男性)を考案したという。彼女も強く悲しい鳥のようでほんとうに美しかった。


どのバレエ団もロイヤル・バレエやボリショイになる必要は全くなく、わたしにはこのバレエ界の深さと厚みがとても好ましい。

プラハに行く機会があったら、バレエは必ず日程に入れるつもりだ。
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