ボイシー日記

手がふさがっていては、新しいものは掴めない。

そんな人だった?堀辰雄。

2009-09-13 12:20:47 | 
しつこいけど、またまた堀辰雄ネタ。
川村湊の「物語の娘」のなかで紹介されていた
江藤淳の「昭和の文人」を読んだ。
江藤淳が堀辰雄に対してすごい嫌悪感をもって
書いている本ということだったが、なるほど、すごい怒りぶり。

江藤淳は、いろんな点について、怒っている。
堀辰雄は、文学的な嘘をついて、世間を欺いていた。
文学者の風上にもおけない不逞の輩・・・みたいな鼻息だ。
どんどん、堀辰雄のイメージが崩れてくる。

「聖家族」についていえば、あれはフィクション=小説なのだが、
主人公が筆者、堀辰雄であるようなニュアンスで書かれている。
堀辰雄自身の複雑な出自を隠して、
するりと、小説の中に自分をすべりこませた、と言っている。

堀辰雄は、エリートで才女な片山夫人や芥川龍之介と
関係をつくっておきたかった。
それで、「聖家族」の主人公が、
一見、堀辰雄自身であるような虚構の世界をつくった。

堀辰雄の実父は裁判所の書記で
養父は彫金師というごく普通の家柄なのに
小説のなかで既成事実をつくりあげて
自分もいかにも一流の出自であるような錯覚を
読者にもたせようとしていたというのだ。


また、芥川龍之介や片山夫人たちと過ごした軽井沢から
養父に対して、送金してくれという手紙を出しているが、
その内容も横柄な感じだ。

「この際、80円なければ、東京へは戻れない。
すこし贅沢し過ぎたようだが、勘弁してください。
なにしろ一流の生活を、みんなとしていたんだから。
そうして、この80円のお蔭で、
僕もだいぶ一流の人々に可愛いがられたんだから。
堀辰雄もいくらか有名になったんだ。
但し、80円は最低の予算をいったのでそのつもりで。」

もらった養父にしてみれば、ムカッとするような手紙だ。
そのしばらく後にも、
「あれから10円以上はつるや旅館で食べたので、
送金を80円から90円にあげておいた。~」 などとある。


堀辰雄は、「聖家族」をフィクションとしながらも
誇大妄想的な自分の夢を、実在の人を借りて書いてしまった。
周りの人は、はた迷惑だ。

「聖家族」が発表されて、
堀辰雄と片山總子(宗瑛)との仲が噂になったとき、
片山夫人は周囲の関係者に、
堀辰雄と娘とは何の関係もないと説明して歩いたという。
片山總子も、縁談を邪魔されたみたいなことを書いている。

それで堀辰雄は凹んだのだろうか、反省したのだろうか。
その後に発表された小説「美しい村」では、
最後のほうで、散歩している途中で細木夫人(片山夫人)の
別荘がでてくるが、そこを避けて通りたいと書かれている。
別荘に近づくと、心臓をしめつけられるような息苦しさを覚えるとある。

最初読んだときは、なんでだろう?と思っていたが
このいきさつを知って、
なるほど、そういうことだったのかと納得した。
「聖家族」で周りを苦しめたことに対する自責の念、
後ろめたさがあったんだと理解した。

秋の一日/下成佐登子
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=yVgzA3FC1lc

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